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EP4 闇に溶ける懺悔3 手よ届け
終局
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シイナだったものが泥の濁流となって崩れていく。
レイの目の前で、触れることなく崩れていく。
泥は氾濫し、街を、世界を飲み込んでいく。
それを阻止したのは、夏輝だった。
限界までイオを練り上げ絞り出し、顔を土気色にしながら泥を押しとどめ、浄化しきったのだ。
気づけば泥は透き通った雨となっていた。
雨に混ざり、黒く煌めく雫もまた降ってくる。
「ぁ……」
手を伸ばし、触れる。
温かくて、冷たい。触れた瞬間視界が明滅し、酷い立ち眩みを起こす。
同時に流れ込んでくる温かく冷たい記憶。
生まれた瞬間から勅使河原に疎まれ、孤独で寂しい時間を送った。
レイと出会い、手を差し伸べられ初めて知った人の温かさ。
例えそれがレイにとって同情だったとしても、シイナにとってはかけがえのないものだった。
記憶が流れ込んでくるのと共に、黒い雫は俺の中、魂へと沈んで消えていく。
『シイナさんの……魂の残滓ですわ』
「そう、か」
魂すらもバラバラになり、消えていった。
元々実験で生み出された疑似的な魂を持つシイナは魂の海に還り、輪廻転生の流れには乗ることが出来なかっただろう。
そんな魂の残滓が沈みゆく中、最後に俺が感じたのはシイナのレイに対する愛だった。
『レイは幸せになって』
親愛、友情、恋……様々な、シイナ自身理解できない感情が入り混じった複雑な心。
そして、それが間違いなく遺されたもの……レイにとって祝福ではなく呪いになることを幼いシイナは理解していないのだろう。
空を見上げる。そこには茫然自失で宙を見たまま動かないレイの姿があった。
「……やったのか?」
「泥、事態は……消え、た?消せた……?」
カタマヴロスの呟きに夏輝が答える。
空は先程までの曇天ではなく、憎々しいまでに晴れていた。
「よか、った……」
「夏輝っ!?」
空が目に入った瞬間、夏輝の身体からフっと力が抜ける。
そのまま竜の背に倒れ込みそうになるのを俺が慌てて受け止めた。
夏輝の目や口から血が伝い落ちていた。
限界の限界まで浄化し続けたのだということが伝わってくる。
「い、生きてるよな?」
脈を確認し、問題なく正常に動いていることを確認し、やっと胸をなでおろす。
「でも……」
夏輝の声には抑えきれない苦みと悔悟が滲んでいた。
シイナは助けることが出来なかった。
それが現実だった。
レイの目の前で、触れることなく崩れていく。
泥は氾濫し、街を、世界を飲み込んでいく。
それを阻止したのは、夏輝だった。
限界までイオを練り上げ絞り出し、顔を土気色にしながら泥を押しとどめ、浄化しきったのだ。
気づけば泥は透き通った雨となっていた。
雨に混ざり、黒く煌めく雫もまた降ってくる。
「ぁ……」
手を伸ばし、触れる。
温かくて、冷たい。触れた瞬間視界が明滅し、酷い立ち眩みを起こす。
同時に流れ込んでくる温かく冷たい記憶。
生まれた瞬間から勅使河原に疎まれ、孤独で寂しい時間を送った。
レイと出会い、手を差し伸べられ初めて知った人の温かさ。
例えそれがレイにとって同情だったとしても、シイナにとってはかけがえのないものだった。
記憶が流れ込んでくるのと共に、黒い雫は俺の中、魂へと沈んで消えていく。
『シイナさんの……魂の残滓ですわ』
「そう、か」
魂すらもバラバラになり、消えていった。
元々実験で生み出された疑似的な魂を持つシイナは魂の海に還り、輪廻転生の流れには乗ることが出来なかっただろう。
そんな魂の残滓が沈みゆく中、最後に俺が感じたのはシイナのレイに対する愛だった。
『レイは幸せになって』
親愛、友情、恋……様々な、シイナ自身理解できない感情が入り混じった複雑な心。
そして、それが間違いなく遺されたもの……レイにとって祝福ではなく呪いになることを幼いシイナは理解していないのだろう。
空を見上げる。そこには茫然自失で宙を見たまま動かないレイの姿があった。
「……やったのか?」
「泥、事態は……消え、た?消せた……?」
カタマヴロスの呟きに夏輝が答える。
空は先程までの曇天ではなく、憎々しいまでに晴れていた。
「よか、った……」
「夏輝っ!?」
空が目に入った瞬間、夏輝の身体からフっと力が抜ける。
そのまま竜の背に倒れ込みそうになるのを俺が慌てて受け止めた。
夏輝の目や口から血が伝い落ちていた。
限界の限界まで浄化し続けたのだということが伝わってくる。
「い、生きてるよな?」
脈を確認し、問題なく正常に動いていることを確認し、やっと胸をなでおろす。
「でも……」
夏輝の声には抑えきれない苦みと悔悟が滲んでいた。
シイナは助けることが出来なかった。
それが現実だった。
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