青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP4 闇に溶ける懺悔3 手よ届け

それぞれの力をもって

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 ヴェルデの元に土のマナが集まる。
 集められたマナは芽吹き、コンクリートに根を張り、巨大な樹木へと変貌する。
 土の派生魔法、樹の魔法。
 巨木は枝葉を伸ばし、泥蔦を絡めとり動きを抑える。
 しかし、それと同時に進行方向が塞がれてしまう。

「前方は俺がぶち抜く。夏輝とラテアは風と土魔法を使って車内に泥が入り込むのを防いでくれ!夜一はこのまま運転を続けろ!ヴェルデはそれが使えるなら俺が前方は確保するから好きなだけ生やして止めてくれ!トツカは泥相手に武器攻撃は不利だ、先程言った通りに。これから先何があるかわからない。血を使うのは現状最小限に抑えてくれ」

 瑞雪の凛とした号令が響く。
 全員が無言で、ただ頷き魔法を詠唱する。
 雷の槍が弓から放たれ、前方を塞いでいた泥と樹を貫き焼き切った。
 俺と夏輝も同時に魔法を展開、隙間から侵入を試みる泥や、焼け落ちた断面から新たに生えた泥蔦など個性豊かな面々をシャットアウトする。
 夜一がアクセルを踏み込み、さらに速度を上げる。
 うっかり気を抜けば、車から振り落とされて終わりだ。
 各々氷や土、樹の蔦で固定しある程度の安定感を得ている。
 
「どんどん、攻撃がキツくなってますね……っ!」

 進めば進むほど、当然泥の量は多くなる。
 夏輝が言葉と共に風の障壁を展開、サイドから襲い来る汚泥の波をシャットアウトする。
 打てども打てども泥がカーテンのように覆いかぶさってきて、前がすぐに見えなくなる。
 それだというのに、夜一はさして問題はないとでもいうように一切焦ることなく運転し続けていた。
 ただし、その運転がやたらと荒っぽく、上下左右に揺れまくる。というか、まるで生き物のように揺れやがる。
 乗り物酔いしやすい人間であれば、あっという間にゲロを吐いて動けなくなるだろう。
 少しずつ少しずつ、泥の元へと近づいていく。
 触れたらアウトなんて、まるでゲームのようだが残念ながら現実なのだ。
 
「レイをあの泥の元に届けるために、場合によっては途中で離脱する可能性もあると思うんだよね」

 唐突に、空間の裂け目を作り泥を中へと流し込みながら夜一が口を開いた。
 大きな裂け目を作れれば、それだけで泥を完封出来るかもしれない夜一の魔法。
 けれど、そんな力は当然のようになく、人間一人が通れるくらいしかないという。
 全力で頑張ればトラックが通れる程度の穴は広げられるが、それでもあの高層ビルよりなお巨大な泥を受け止められるほどの亀裂は生み出せないのだと。
 夜一の空間魔法然り、冬真の重力魔法然り、根っこの部分が複雑で強力な魔法であればあるほど制御は難しくなり、規模は小さな単位でしか展開できないものだ。
 それこそ、無限とも思しきマナを保有しているような上位種族でもない限りは。

「保有魔法や身体能力の関係で安全に逃れられるやつと、そうでないやつがいる。それぞれ可能な範囲でカバーを忘れないでくれ」

 互いに確認していると、今度は先程の比ではないほどの大きな揺れが車体を襲った。
 下からズドンっと突き上げられるような感覚。

「あ、まずいかも~」

 先程離脱の話をしたばかりだというのに!
 夜一のこんな時に似つかわしくない腑抜けた声音にその場にいた全員の顔が引きつった。
 もっとも、原因はそれだけではない。

『れ、い……』

 地の底から響く様に、シイナと思しき声がとどろいたからだ。

 
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