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EP4 闇に溶ける懺悔1 狂乱の夜明け
借りは返すべし
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「はぁ……?」
俺の言葉にレイは訝し気な、警戒するような顔つきで俺を見た。
人に何度も裏切られた野良犬みたいな顔だ。
一時期の俺も、こんな顔をしていたのかもしれない。
夏輝達には一言も許可を取っていないけど、多分大丈夫だろう。
夏輝は間違いなくレイを助けたがるだろうし、瑞雪は子供に甘い。色々と怒りも憤りもあるだろうけれど、それでも子供に対しては庇護という態度を一貫している。
俺がレイを助ける理由は、勿論勅使河原に対しての憤りもある。
だが、一番の理由はこいつに借りがあるから。
(病院でこいつには助けて貰ったし……。たとえそれが、利用するためであっても。あそこで助けられたのは事実だ)
それはイースターの一件での事だ。
病院内でトロンと逃げ場を探していた時に偶然―今思えばわざとなんだろうが、出会い、逃がしてくれた。
「病院で助けて貰った借りを返してないからな。俺としては、可能な範囲で助けようと試みる、手伝うことはいいと思うんだ。どうせ、目的地は一緒なんだし」
レイではなく、夏輝達に向けて俺は顔を向け、真っすぐ見据えて言葉を発する。
このままシイナを化け物として処理するのは、勅使河原の思い通りになっているようで気に食わないというのもある。
命の価値に貴賤はないと思う。少なくとも、俺はそう思いたい。
さっきまで捕まってて迷惑をかけまくった俺には、言う資格はないのかもしれない。
でも、声をあげなければ何もかも、世界は変わらない。
「俺は勿論!」
夏輝は俺の話に食いついた。
「……ラテアをさらったこととか、卵とか、色々あるけど。でも……このままにしておくのは違うんじゃないかなって、そう思う」
新緑を思わせる美しい瞳には、確固たる意志が宿っていた。
俺の好きな色、目。
夏輝はいつだって夏輝だ。悩んだり、苦しんだりすることはあるけど絶対に輝きを失わない。
それが俺は好きだったし、支えてやりたいと思う。曇ってほしくなかった。
俺と夏輝の言葉に、レイは声を失っていた。
そして瑞雪は目を瞑り、大きくため息をつき肩を落とした。
「はぁ……」
寝台の上で胡坐をかき、肘をつき、夏輝と俺を睨んでいる。
そこに普段のお行儀のよさは一切ない。
やけ酒でも煽ったかのようだ。
「お前らなあ……。そう言ってくる可能性があるとは思っていたが」
言葉にならない呻き声をあげている。
ただでさえ夏輝に負担が大きいことに対して渋っていたのだから、なおのことかもしれない。
「俺は瑞雪に従おう」
トツカは瑞雪へと決定権を託す。
瑞雪は俺達からレイへと視線を移す。
レイは目を伏せ、相変わらず今にも死にそうな顔をしていた。
それから大きく息を吸い、吐いて、何度か言葉を口にしようとしては飲み込む。
瑞雪は別に、ロセやアレウみたいに口の立つ方ではない。
必要だから喋るってタイプだ。
「……どうせここで俺が渋って拒否しても、お前たちだけで行きかねない。なら、俺とトツカもついていた方がマシだ」
レイが顔を上げる。
「だが、俺達も、何よりお前も限界だ。秋雨さんの言った通り六時間は待て。治療を受けて休め。それが最低条件だ。それすら飲めないならお前ら全員をここから絶対に出さん」
はっきりと、これ以上は譲る気はないと瑞雪は言い切った。
レイはと言えば、戸惑うような、驚くような、そんな顔だ。
まさか俺達が手を貸すだなんて思っていなかったのだろう。
俺達に頼み込んでも、心の中では聞き入れるはずがないと、そう思っていたんだ。
「お前も、いい子に言うことを聞けるか?聞けないならこの話はナシだ」
そこに怒りや憎しみはなく、ただ幼子に言い聞かせるような、諭すような静かな声音だった。
レイはぎょろぎょろと目玉を動かし、脂汗をかきながらやはり焦った様子だった。
しかし、暫く考えた後、こくんと小さく首を縦に振った。
「……いい子だ。俵、権田、そこの子供のことも治療してやってくれ」
「わかりましたぞ……!とにかく皆さん、しっかり身体を休めてください。そうすることが……助ける事への最も確実な近道だと思いますからな」
俵、権田双方が頷く。
決戦は六時間後だ。きっと大丈夫だろうけど……六時間後まで何事もないことを俺は祈るしかなかった。
俺の言葉にレイは訝し気な、警戒するような顔つきで俺を見た。
人に何度も裏切られた野良犬みたいな顔だ。
一時期の俺も、こんな顔をしていたのかもしれない。
夏輝達には一言も許可を取っていないけど、多分大丈夫だろう。
夏輝は間違いなくレイを助けたがるだろうし、瑞雪は子供に甘い。色々と怒りも憤りもあるだろうけれど、それでも子供に対しては庇護という態度を一貫している。
俺がレイを助ける理由は、勿論勅使河原に対しての憤りもある。
だが、一番の理由はこいつに借りがあるから。
(病院でこいつには助けて貰ったし……。たとえそれが、利用するためであっても。あそこで助けられたのは事実だ)
それはイースターの一件での事だ。
病院内でトロンと逃げ場を探していた時に偶然―今思えばわざとなんだろうが、出会い、逃がしてくれた。
「病院で助けて貰った借りを返してないからな。俺としては、可能な範囲で助けようと試みる、手伝うことはいいと思うんだ。どうせ、目的地は一緒なんだし」
レイではなく、夏輝達に向けて俺は顔を向け、真っすぐ見据えて言葉を発する。
このままシイナを化け物として処理するのは、勅使河原の思い通りになっているようで気に食わないというのもある。
命の価値に貴賤はないと思う。少なくとも、俺はそう思いたい。
さっきまで捕まってて迷惑をかけまくった俺には、言う資格はないのかもしれない。
でも、声をあげなければ何もかも、世界は変わらない。
「俺は勿論!」
夏輝は俺の話に食いついた。
「……ラテアをさらったこととか、卵とか、色々あるけど。でも……このままにしておくのは違うんじゃないかなって、そう思う」
新緑を思わせる美しい瞳には、確固たる意志が宿っていた。
俺の好きな色、目。
夏輝はいつだって夏輝だ。悩んだり、苦しんだりすることはあるけど絶対に輝きを失わない。
それが俺は好きだったし、支えてやりたいと思う。曇ってほしくなかった。
俺と夏輝の言葉に、レイは声を失っていた。
そして瑞雪は目を瞑り、大きくため息をつき肩を落とした。
「はぁ……」
寝台の上で胡坐をかき、肘をつき、夏輝と俺を睨んでいる。
そこに普段のお行儀のよさは一切ない。
やけ酒でも煽ったかのようだ。
「お前らなあ……。そう言ってくる可能性があるとは思っていたが」
言葉にならない呻き声をあげている。
ただでさえ夏輝に負担が大きいことに対して渋っていたのだから、なおのことかもしれない。
「俺は瑞雪に従おう」
トツカは瑞雪へと決定権を託す。
瑞雪は俺達からレイへと視線を移す。
レイは目を伏せ、相変わらず今にも死にそうな顔をしていた。
それから大きく息を吸い、吐いて、何度か言葉を口にしようとしては飲み込む。
瑞雪は別に、ロセやアレウみたいに口の立つ方ではない。
必要だから喋るってタイプだ。
「……どうせここで俺が渋って拒否しても、お前たちだけで行きかねない。なら、俺とトツカもついていた方がマシだ」
レイが顔を上げる。
「だが、俺達も、何よりお前も限界だ。秋雨さんの言った通り六時間は待て。治療を受けて休め。それが最低条件だ。それすら飲めないならお前ら全員をここから絶対に出さん」
はっきりと、これ以上は譲る気はないと瑞雪は言い切った。
レイはと言えば、戸惑うような、驚くような、そんな顔だ。
まさか俺達が手を貸すだなんて思っていなかったのだろう。
俺達に頼み込んでも、心の中では聞き入れるはずがないと、そう思っていたんだ。
「お前も、いい子に言うことを聞けるか?聞けないならこの話はナシだ」
そこに怒りや憎しみはなく、ただ幼子に言い聞かせるような、諭すような静かな声音だった。
レイはぎょろぎょろと目玉を動かし、脂汗をかきながらやはり焦った様子だった。
しかし、暫く考えた後、こくんと小さく首を縦に振った。
「……いい子だ。俵、権田、そこの子供のことも治療してやってくれ」
「わかりましたぞ……!とにかく皆さん、しっかり身体を休めてください。そうすることが……助ける事への最も確実な近道だと思いますからな」
俵、権田双方が頷く。
決戦は六時間後だ。きっと大丈夫だろうけど……六時間後まで何事もないことを俺は祈るしかなかった。
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