青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

文字の大きさ
上 下
278 / 334
EP4 闇に溶ける懺悔1 狂乱の夜明け

対抗手段

しおりを挟む
「皆さんお疲れ様です。他の方々も到着しましたので、これからどうするかの話をしましょう」

 秋雨の後から遠呂、そして他の傭兵たちが続々と部屋の中へと入ってくる。
 ベルナルド、冬真、夜一だ。
 何でこいつらまでここに……と思わなくもないが。

「おお、狐のガキ。無事救出されたんだな~」

 今までの敵対的なスタンスはどこへやら、冬真はへらへらと、ニヤつきながら俺に話しかけてきた。
 夜一はレイの方を見ている。
 ベルナルドが入ってくると、エヴァンがややバツの悪そうな顔をした。
 
「誰のせいで捕まったと……!」

「俺のせいだな。うん。仕事だししゃーねえだろ。今はそこの吸血鬼サンに雇ってもらえたから味方だけど。傭兵なんてそんなもんだ」

 悪びれもせず、肩をすくめる冬真。
 まあ、敵対していないのならもうなんでもいいや。今はそれよりも目の前の事態に対する対処だ。
 アレウと遠呂は何故か互いの顔をまじまじと見てから、アレウが嫌そうに目を逸らした。
 知り合いなんだろうか?
 それぞれ適当に、部屋の中に用意されたパイプ椅子に腰かける。
 
 秋雨はそれを一瞥してから、口を開いた。

「皆さん、まずはお疲れ様です。組織の人間も、それ以外も、元敵対者であっても今は歓迎いたしましょう」

 その一言で、場がしんと静まり返った。
 
「今は、あの化け物を何とかする方が先決ですからね」

 秋雨の言葉に誰も異論を唱えなかった。
 皆、そこに関しては同意見なのだろう。
 
「それで、結局あれはなんなんだ?そこの吸血鬼がなにか知っているようだが、い……恋人に聞かれても教えてくれるつもりはないようだ。何かわからなければ対処にも困るのに」

 淫魔、と言いかけて止める瑞雪。治療してもらった恩を感じているのかもしれない。
 一方、アレウに対しては辛らつだ。何かあったに違いないが、聞ける雰囲気ではない。
 ロセは気まずそうに、長い艶やかな髪を指先で弄んでいる。
 レイはシイナがどうなってしまったのか知りたいのだろう。
 息をひそめ、成り行きを見守っていた。

「言葉にするのはとても難しいですね。まず、投与された薬品に関してですが……データに関してはどうでしたか?瑞雪君」

 これに関しては以前の会議の時に瑞雪が話していた通りだろう。
 混ぜ物をされたという報告があり、その報告を色々あってまだ俺は聞いていない。
 この様子だと、全員誰も聞いていないのかもしれない。

「そうだな、色々あって報告が出来ていなかったな……」

 瑞雪は一つ頷き、俺の方をなぜかちらりと見てから説明し始める。

「元の薬品は様々な生物の魂の破片から構成されていると以前に判明しているが、混ぜられた結果正反対の効能を持つ。摂取した個体が死ぬそうだ」

「でも、シイナは生きてる……少なくとも動いてた」

 俺の突っ込みに、瑞雪は暫し考え込むようなしぐさを見せた。
 目を伏せ、長い睫毛が月夜色の瞳を隠す。
 しばしの沈黙。誰も一言も言葉を発さない。

「……わからないな。何故、シイナが死んでいないのか」

 それ以上は何も言わなかった。慎重に言葉を選んだ末に、その言葉を紡いだように見えた。
 
「なるほど、ありがとうございます瑞雪君。であれば……」

 顎に手を当て、秋雨もまた思考の海に沈む。
 
「確かに、どろどろに触れた勅使河原は跡形もなく一瞬で腐って崩れ去ったように見えたかな。ああいう死に方は……流石にちょっと嫌だね」

 秋雨が考え込んでいる間に、実際に間近であの化け物を見た月夜が思いだしたようで、眉を八の字に曲げてなんとも言えない表情をする。
 月夜が言葉を濁そうと嫌、というくらいだから相当悲惨な死に方だったのだろう。
 
「はっきりと時間をかけて調べた訳でもないですから、確実なことは一つも言えませんが……死ぬ、という作用が何らかの理由でシイナ君には効かず、変異してしまったのかもしれませんね。結果、薬品の効果を変異した彼自身が持ってしまった。故に勅使河原氏は触れた瞬間腐って崩れて死んだのではないかと推測できます」

 一呼吸置く。
 遠呂がいつになく苦い顔をしているのが妙に引っかかる。
 
「で、具体的な討伐方法は?何がどうしてああなったのかもそりゃ気になるが、一番必要なのはそれだろ?」

 秋雨が一呼吸置いたところで、ベルナルドが茶々を入れる。
 いや、その場にいた全員が具体的にあれをどうにかする方法を求めていたことは確かだ。
 皆の内心を代弁したに過ぎないだろう。

「そうですね。この薬品に混ぜられたものはなんであるかは、瑞雪君は聞いていますか?」

「ああ。……まあ、正直気分のいいものではないが。負の感情に染まった魂の破片を混ぜ込まれたと言っていた」

「それで正反対の事象を引き起こしたと」

 材料の時点で不快で仕方がない。
 人を殺して、その魂を利用しているなんて。
 勅使河原も、御絡流の会も変わらないのだ。
 反吐が出るが、ここで喚き散らしたところで何の意味もない。
 グっと堪えて、続きを待つ。

「ええ。一般的に、そういった邪念、怨念と言ったものは穢れていると評されることが多いでしょう。であれば……強力な破邪の力があれば、浄化することが出来るでしょう」




 

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

オムツの取れない兄は妹に

rei
大衆娯楽
おねしょをしてしまった主人公の小倉莉緒が妹の瑞希におむつを当てられ、幼稚園に再入園させられてしまう恥辱作品。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

処理中です...