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EP4 闇に溶ける懺悔1 狂乱の夜明け
対抗手段
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「皆さんお疲れ様です。他の方々も到着しましたので、これからどうするかの話をしましょう」
秋雨の後から遠呂、そして他の傭兵たちが続々と部屋の中へと入ってくる。
ベルナルド、冬真、夜一だ。
何でこいつらまでここに……と思わなくもないが。
「おお、狐のガキ。無事救出されたんだな~」
今までの敵対的なスタンスはどこへやら、冬真はへらへらと、ニヤつきながら俺に話しかけてきた。
夜一はレイの方を見ている。
ベルナルドが入ってくると、エヴァンがややバツの悪そうな顔をした。
「誰のせいで捕まったと……!」
「俺のせいだな。うん。仕事だししゃーねえだろ。今はそこの吸血鬼サンに雇ってもらえたから味方だけど。傭兵なんてそんなもんだ」
悪びれもせず、肩をすくめる冬真。
まあ、敵対していないのならもうなんでもいいや。今はそれよりも目の前の事態に対する対処だ。
アレウと遠呂は何故か互いの顔をまじまじと見てから、アレウが嫌そうに目を逸らした。
知り合いなんだろうか?
それぞれ適当に、部屋の中に用意されたパイプ椅子に腰かける。
秋雨はそれを一瞥してから、口を開いた。
「皆さん、まずはお疲れ様です。組織の人間も、それ以外も、元敵対者であっても今は歓迎いたしましょう」
その一言で、場がしんと静まり返った。
「今は、あの化け物を何とかする方が先決ですからね」
秋雨の言葉に誰も異論を唱えなかった。
皆、そこに関しては同意見なのだろう。
「それで、結局あれはなんなんだ?そこの吸血鬼がなにか知っているようだが、い……恋人に聞かれても教えてくれるつもりはないようだ。何かわからなければ対処にも困るのに」
淫魔、と言いかけて止める瑞雪。治療してもらった恩を感じているのかもしれない。
一方、アレウに対しては辛らつだ。何かあったに違いないが、聞ける雰囲気ではない。
ロセは気まずそうに、長い艶やかな髪を指先で弄んでいる。
レイはシイナがどうなってしまったのか知りたいのだろう。
息をひそめ、成り行きを見守っていた。
「言葉にするのはとても難しいですね。まず、投与された薬品に関してですが……データに関してはどうでしたか?瑞雪君」
これに関しては以前の会議の時に瑞雪が話していた通りだろう。
混ぜ物をされたという報告があり、その報告を色々あってまだ俺は聞いていない。
この様子だと、全員誰も聞いていないのかもしれない。
「そうだな、色々あって報告が出来ていなかったな……」
瑞雪は一つ頷き、俺の方をなぜかちらりと見てから説明し始める。
「元の薬品は様々な生物の魂の破片から構成されていると以前に判明しているが、混ぜられた結果正反対の効能を持つ。摂取した個体が死ぬそうだ」
「でも、シイナは生きてる……少なくとも動いてた」
俺の突っ込みに、瑞雪は暫し考え込むようなしぐさを見せた。
目を伏せ、長い睫毛が月夜色の瞳を隠す。
しばしの沈黙。誰も一言も言葉を発さない。
「……わからないな。何故、シイナが死んでいないのか」
それ以上は何も言わなかった。慎重に言葉を選んだ末に、その言葉を紡いだように見えた。
「なるほど、ありがとうございます瑞雪君。であれば……」
顎に手を当て、秋雨もまた思考の海に沈む。
「確かに、どろどろに触れた勅使河原は跡形もなく一瞬で腐って崩れ去ったように見えたかな。ああいう死に方は……流石にちょっと嫌だね」
秋雨が考え込んでいる間に、実際に間近であの化け物を見た月夜が思いだしたようで、眉を八の字に曲げてなんとも言えない表情をする。
月夜が言葉を濁そうと嫌、というくらいだから相当悲惨な死に方だったのだろう。
「はっきりと時間をかけて調べた訳でもないですから、確実なことは一つも言えませんが……死ぬ、という作用が何らかの理由でシイナ君には効かず、変異してしまったのかもしれませんね。結果、薬品の効果を変異した彼自身が持ってしまった。故に勅使河原氏は触れた瞬間腐って崩れて死んだのではないかと推測できます」
一呼吸置く。
遠呂がいつになく苦い顔をしているのが妙に引っかかる。
「で、具体的な討伐方法は?何がどうしてああなったのかもそりゃ気になるが、一番必要なのはそれだろ?」
秋雨が一呼吸置いたところで、ベルナルドが茶々を入れる。
いや、その場にいた全員が具体的にあれをどうにかする方法を求めていたことは確かだ。
皆の内心を代弁したに過ぎないだろう。
「そうですね。この薬品に混ぜられたものはなんであるかは、瑞雪君は聞いていますか?」
「ああ。……まあ、正直気分のいいものではないが。負の感情に染まった魂の破片を混ぜ込まれたと言っていた」
「それで正反対の事象を引き起こしたと」
材料の時点で不快で仕方がない。
人を殺して、その魂を利用しているなんて。
勅使河原も、御絡流の会も変わらないのだ。
反吐が出るが、ここで喚き散らしたところで何の意味もない。
グっと堪えて、続きを待つ。
「ええ。一般的に、そういった邪念、怨念と言ったものは穢れていると評されることが多いでしょう。であれば……強力な破邪の力があれば、浄化することが出来るでしょう」
秋雨の後から遠呂、そして他の傭兵たちが続々と部屋の中へと入ってくる。
ベルナルド、冬真、夜一だ。
何でこいつらまでここに……と思わなくもないが。
「おお、狐のガキ。無事救出されたんだな~」
今までの敵対的なスタンスはどこへやら、冬真はへらへらと、ニヤつきながら俺に話しかけてきた。
夜一はレイの方を見ている。
ベルナルドが入ってくると、エヴァンがややバツの悪そうな顔をした。
「誰のせいで捕まったと……!」
「俺のせいだな。うん。仕事だししゃーねえだろ。今はそこの吸血鬼サンに雇ってもらえたから味方だけど。傭兵なんてそんなもんだ」
悪びれもせず、肩をすくめる冬真。
まあ、敵対していないのならもうなんでもいいや。今はそれよりも目の前の事態に対する対処だ。
アレウと遠呂は何故か互いの顔をまじまじと見てから、アレウが嫌そうに目を逸らした。
知り合いなんだろうか?
それぞれ適当に、部屋の中に用意されたパイプ椅子に腰かける。
秋雨はそれを一瞥してから、口を開いた。
「皆さん、まずはお疲れ様です。組織の人間も、それ以外も、元敵対者であっても今は歓迎いたしましょう」
その一言で、場がしんと静まり返った。
「今は、あの化け物を何とかする方が先決ですからね」
秋雨の言葉に誰も異論を唱えなかった。
皆、そこに関しては同意見なのだろう。
「それで、結局あれはなんなんだ?そこの吸血鬼がなにか知っているようだが、い……恋人に聞かれても教えてくれるつもりはないようだ。何かわからなければ対処にも困るのに」
淫魔、と言いかけて止める瑞雪。治療してもらった恩を感じているのかもしれない。
一方、アレウに対しては辛らつだ。何かあったに違いないが、聞ける雰囲気ではない。
ロセは気まずそうに、長い艶やかな髪を指先で弄んでいる。
レイはシイナがどうなってしまったのか知りたいのだろう。
息をひそめ、成り行きを見守っていた。
「言葉にするのはとても難しいですね。まず、投与された薬品に関してですが……データに関してはどうでしたか?瑞雪君」
これに関しては以前の会議の時に瑞雪が話していた通りだろう。
混ぜ物をされたという報告があり、その報告を色々あってまだ俺は聞いていない。
この様子だと、全員誰も聞いていないのかもしれない。
「そうだな、色々あって報告が出来ていなかったな……」
瑞雪は一つ頷き、俺の方をなぜかちらりと見てから説明し始める。
「元の薬品は様々な生物の魂の破片から構成されていると以前に判明しているが、混ぜられた結果正反対の効能を持つ。摂取した個体が死ぬそうだ」
「でも、シイナは生きてる……少なくとも動いてた」
俺の突っ込みに、瑞雪は暫し考え込むようなしぐさを見せた。
目を伏せ、長い睫毛が月夜色の瞳を隠す。
しばしの沈黙。誰も一言も言葉を発さない。
「……わからないな。何故、シイナが死んでいないのか」
それ以上は何も言わなかった。慎重に言葉を選んだ末に、その言葉を紡いだように見えた。
「なるほど、ありがとうございます瑞雪君。であれば……」
顎に手を当て、秋雨もまた思考の海に沈む。
「確かに、どろどろに触れた勅使河原は跡形もなく一瞬で腐って崩れ去ったように見えたかな。ああいう死に方は……流石にちょっと嫌だね」
秋雨が考え込んでいる間に、実際に間近であの化け物を見た月夜が思いだしたようで、眉を八の字に曲げてなんとも言えない表情をする。
月夜が言葉を濁そうと嫌、というくらいだから相当悲惨な死に方だったのだろう。
「はっきりと時間をかけて調べた訳でもないですから、確実なことは一つも言えませんが……死ぬ、という作用が何らかの理由でシイナ君には効かず、変異してしまったのかもしれませんね。結果、薬品の効果を変異した彼自身が持ってしまった。故に勅使河原氏は触れた瞬間腐って崩れて死んだのではないかと推測できます」
一呼吸置く。
遠呂がいつになく苦い顔をしているのが妙に引っかかる。
「で、具体的な討伐方法は?何がどうしてああなったのかもそりゃ気になるが、一番必要なのはそれだろ?」
秋雨が一呼吸置いたところで、ベルナルドが茶々を入れる。
いや、その場にいた全員が具体的にあれをどうにかする方法を求めていたことは確かだ。
皆の内心を代弁したに過ぎないだろう。
「そうですね。この薬品に混ぜられたものはなんであるかは、瑞雪君は聞いていますか?」
「ああ。……まあ、正直気分のいいものではないが。負の感情に染まった魂の破片を混ぜ込まれたと言っていた」
「それで正反対の事象を引き起こしたと」
材料の時点で不快で仕方がない。
人を殺して、その魂を利用しているなんて。
勅使河原も、御絡流の会も変わらないのだ。
反吐が出るが、ここで喚き散らしたところで何の意味もない。
グっと堪えて、続きを待つ。
「ええ。一般的に、そういった邪念、怨念と言ったものは穢れていると評されることが多いでしょう。であれば……強力な破邪の力があれば、浄化することが出来るでしょう」
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