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EP3 復讐の黄金比9 汚染
狂乱
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「まったく、使いっぱしりにしてくれちゃってさ。やんなっちゃうよ」
「まあまあ兄さん、そう言わずに」
無限に沸いてくる悍ましい魔物たち。
そのどれもが全て元地球人であることは容易に想像できた。
だからと言って容赦も、憐憫も抱くつもりはなく、朝陽は猟犬達に命じて無慈悲に魔物たちを蹴散らし続けていた。
月夜もそんな兄と猟犬達のサポートへと回り、順調に戦い続ける。
病院内という限られた空間であっても、徒手空拳で堅実な戦い方をする月夜と、狭い場所でもパフォーマンスをフルで発揮できる猟犬を選べばいい朝陽であれば問題なく対処できる。
窓から見える街の光景は限られたもので、街が今どうなっているのかはスマホを通しての状況報告のみだ。
ただし、街の守護を担当している遠呂はまめに連絡を行わないタイプであり、現状何の連絡もない。
故に街の様子はわからない。
ただ、遠呂に限って滅多なことは怒らないだろうという信頼が双子にはあった。
現在、双子は夏輝からの連絡を受け、勅使河原の確保に動いていた。
「それにしても地下から爆音がしてたし、地響きがすごかったね」
「病院ごと崩れるかと思ったってえの」
勅使河原が無力化されたということは、もうこの仕事も残るは後始末というわけだ。
地下へと遠呂から知らされていたエレベーター……の、穴を使って降りる。
通路も適当にぶち抜いて進み、勅使河原のいる部屋を目指す。
ちらほらと魔物がいたりはしたが、障害にもならない程度。
「ん?兄さん、何か聞こえない?」
「聞こえるって、何が?」
「話し声」
不意に月夜が立ち止まり、耳を澄ませる。
月夜の言葉に朝陽も同じくすると、少し先から確かに声が聞こえてきた。
「のむ、な、しいなっ……!のんじゃ、だめだ。おまえが、おまえが」
「レイを、助けてね」
聞き覚えのある声に、朝陽の眉間に皺が寄る。
「勅使河原を回収に来た……?急ぐよ月夜!」
朝陽が言葉と共に駆け出す。
月夜も頷き、それに続く。
程なくして扉が破壊された部屋の前へとたどり着く。
部屋の中は扉がないため当然よく見える。
まず、見えるのは部屋を埋め尽くさんばかりの黒いどろどろとした液体。
次に、液体に縋りつこうとするレイ。
そして。
「何故、何故、なぜなぜなぜ!?こんな、まさか、どうして?わしはこんなものを作ったんじゃなぁ”」
違う違うと、聞き分けのない幼子のように頭を振り乱す勅使河原。
液体に飲み込まれていくのもお構いなしに、違う違うと言い続けていた。
明らかに正気を失っていた。
「兄さん、これは……いったい何が」
泥はどんどん体積を増しているように思える。
思わず立ち尽くす月夜。
「チッ……このままじゃ多分ここも飲まれるのか?わっかんないな……!情報源……お前ら、勅使河原とあの子供を確保しろっ!」
朝陽が叫び、タクトを振り下ろす。
瞬間、朝陽の影から二匹の獣が姿を現した。
俊敏に駆け、今もなお膨張し続ける汚泥へと突進していく。
『れ、い、ヲ、タス、け』
ぐわんぐわんと、空洞で反響するがごとく声が響く。
「ちがう、ちがう、ちがう、ちがうっ!」
「しい、な、しいな……やだ、しいな、シイナっ!」
叫ぶ勅使河原、泣きわめき縋るレイ。
レイの指先が液体に触れる。
触れた箇所は腐食し、その場で腐り落ちていく。
「……反対の効果になったって、そういえば」
「そうだろうね、あれがそうなんだろう!俺達も触ったら腐る!あいつらを回収して一旦引くよ」
猟犬達はあとほんの数秒でたどり着く。
しかし。
『ウソ、つ、キ』
汚泥がぽつりと呟く。
『ウソツキィイぃいィいっ!』
轟音。汚泥が飛び散り、触腕を伸ばし、勅使河原を上からたたき潰した。
肉が潰れる音はしない。
ただ、ぐずぐずと肉が解けて崩れ去った。
勅使河原を確保するはずだった方の猟犬も巻き込まれ、悲鳴すらなく消え去った。
幸いにも、レイは無事であり、生き残った方の猟犬はレイの首根っこを咥えて戻ってくる。
『れい、れい、レイっ!あ、ァあ”ぁ”あ”』
「シイナ、シイナっ!っがほ、げほ、はな、せっ!」
汚泥の絶叫と共に質量が爆発。
濁流となって朝陽と月夜を襲う。
「いいから、大人しくしろっ!あれに巻き込まれたら絶対に死ぬんだぞ!」
「死んでもいい、おれのせい、で、シイナはああなったんだっ!俺が、俺が、弱くて、あいつを、巻き込んだから……ァア、あ……」
あまりにも煩いので、朝陽は思い切り後頭部をぶっ叩く。
がくんっと身体が痙攣をおこし、そのまま動かなくなる。
「どうしてこんなことになったんだよっ!なんなんだよ、あの薬はっ!治療しつつ追従しろ」
影から現れる美しい小鳥の姿をした猟犬。
流石にやりすぎてほぼ死に体だったため、猟犬に治療を命じる。
とにかく地上まで逃げ延びなければ。
「……わからない。ただ、そもそも生物を進化させる薬だったんだから逆なら退化させるか、死ぬ薬なんじゃないのかな」
「死ぬどころかなんか進化してるよ……!くそっ、なんだってんだ」
ただ無心に走り続ける。それが最善だった。
「まあまあ兄さん、そう言わずに」
無限に沸いてくる悍ましい魔物たち。
そのどれもが全て元地球人であることは容易に想像できた。
だからと言って容赦も、憐憫も抱くつもりはなく、朝陽は猟犬達に命じて無慈悲に魔物たちを蹴散らし続けていた。
月夜もそんな兄と猟犬達のサポートへと回り、順調に戦い続ける。
病院内という限られた空間であっても、徒手空拳で堅実な戦い方をする月夜と、狭い場所でもパフォーマンスをフルで発揮できる猟犬を選べばいい朝陽であれば問題なく対処できる。
窓から見える街の光景は限られたもので、街が今どうなっているのかはスマホを通しての状況報告のみだ。
ただし、街の守護を担当している遠呂はまめに連絡を行わないタイプであり、現状何の連絡もない。
故に街の様子はわからない。
ただ、遠呂に限って滅多なことは怒らないだろうという信頼が双子にはあった。
現在、双子は夏輝からの連絡を受け、勅使河原の確保に動いていた。
「それにしても地下から爆音がしてたし、地響きがすごかったね」
「病院ごと崩れるかと思ったってえの」
勅使河原が無力化されたということは、もうこの仕事も残るは後始末というわけだ。
地下へと遠呂から知らされていたエレベーター……の、穴を使って降りる。
通路も適当にぶち抜いて進み、勅使河原のいる部屋を目指す。
ちらほらと魔物がいたりはしたが、障害にもならない程度。
「ん?兄さん、何か聞こえない?」
「聞こえるって、何が?」
「話し声」
不意に月夜が立ち止まり、耳を澄ませる。
月夜の言葉に朝陽も同じくすると、少し先から確かに声が聞こえてきた。
「のむ、な、しいなっ……!のんじゃ、だめだ。おまえが、おまえが」
「レイを、助けてね」
聞き覚えのある声に、朝陽の眉間に皺が寄る。
「勅使河原を回収に来た……?急ぐよ月夜!」
朝陽が言葉と共に駆け出す。
月夜も頷き、それに続く。
程なくして扉が破壊された部屋の前へとたどり着く。
部屋の中は扉がないため当然よく見える。
まず、見えるのは部屋を埋め尽くさんばかりの黒いどろどろとした液体。
次に、液体に縋りつこうとするレイ。
そして。
「何故、何故、なぜなぜなぜ!?こんな、まさか、どうして?わしはこんなものを作ったんじゃなぁ”」
違う違うと、聞き分けのない幼子のように頭を振り乱す勅使河原。
液体に飲み込まれていくのもお構いなしに、違う違うと言い続けていた。
明らかに正気を失っていた。
「兄さん、これは……いったい何が」
泥はどんどん体積を増しているように思える。
思わず立ち尽くす月夜。
「チッ……このままじゃ多分ここも飲まれるのか?わっかんないな……!情報源……お前ら、勅使河原とあの子供を確保しろっ!」
朝陽が叫び、タクトを振り下ろす。
瞬間、朝陽の影から二匹の獣が姿を現した。
俊敏に駆け、今もなお膨張し続ける汚泥へと突進していく。
『れ、い、ヲ、タス、け』
ぐわんぐわんと、空洞で反響するがごとく声が響く。
「ちがう、ちがう、ちがう、ちがうっ!」
「しい、な、しいな……やだ、しいな、シイナっ!」
叫ぶ勅使河原、泣きわめき縋るレイ。
レイの指先が液体に触れる。
触れた箇所は腐食し、その場で腐り落ちていく。
「……反対の効果になったって、そういえば」
「そうだろうね、あれがそうなんだろう!俺達も触ったら腐る!あいつらを回収して一旦引くよ」
猟犬達はあとほんの数秒でたどり着く。
しかし。
『ウソ、つ、キ』
汚泥がぽつりと呟く。
『ウソツキィイぃいィいっ!』
轟音。汚泥が飛び散り、触腕を伸ばし、勅使河原を上からたたき潰した。
肉が潰れる音はしない。
ただ、ぐずぐずと肉が解けて崩れ去った。
勅使河原を確保するはずだった方の猟犬も巻き込まれ、悲鳴すらなく消え去った。
幸いにも、レイは無事であり、生き残った方の猟犬はレイの首根っこを咥えて戻ってくる。
『れい、れい、レイっ!あ、ァあ”ぁ”あ”』
「シイナ、シイナっ!っがほ、げほ、はな、せっ!」
汚泥の絶叫と共に質量が爆発。
濁流となって朝陽と月夜を襲う。
「いいから、大人しくしろっ!あれに巻き込まれたら絶対に死ぬんだぞ!」
「死んでもいい、おれのせい、で、シイナはああなったんだっ!俺が、俺が、弱くて、あいつを、巻き込んだから……ァア、あ……」
あまりにも煩いので、朝陽は思い切り後頭部をぶっ叩く。
がくんっと身体が痙攣をおこし、そのまま動かなくなる。
「どうしてこんなことになったんだよっ!なんなんだよ、あの薬はっ!治療しつつ追従しろ」
影から現れる美しい小鳥の姿をした猟犬。
流石にやりすぎてほぼ死に体だったため、猟犬に治療を命じる。
とにかく地上まで逃げ延びなければ。
「……わからない。ただ、そもそも生物を進化させる薬だったんだから逆なら退化させるか、死ぬ薬なんじゃないのかな」
「死ぬどころかなんか進化してるよ……!くそっ、なんだってんだ」
ただ無心に走り続ける。それが最善だった。
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