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EP3 復讐の黄金比8 錆びついた復讐
犠牲者の屍を乗り越えて
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一方その頃、夏輝と瑞雪は入り組んだ迷路のような通路を走っていた。
かつかつと皆の靴音しか聞こえない。
通路の脇には扉がいくつもあり、乱暴にトツカや夏輝が扉を壊し、中を確認していく。
どの部屋も全て薬品棚や様々な器具が置かれており、血や異形が巨大なガラス管の中で保育されていた。
それぞれの部屋で異なる実験をしているようで、それぞれ異なる機器が設置されている。
ただ、一つ共通点があるとすればガラス管の中の異形たちは皆一様にうらめしげにガラス管の外でゆうゆうと過ごす夏輝達を睨んでいたことだろう。
「グギャ、ギャ」
そして、ガラス管の中の異形とは別に床を別の異形たちが這いまわっていた。
四つ足で床を舐めるように這う悍ましいなにか。
それらは全て、白衣と思しきものを纏ったり、引っ掻けていた。
夏輝と瑞雪はそれに気づき、眉根を寄せる。
「……これは」
「研究員まで化け物にしたらしいな」
異形たちはそれぞれてんでばらばらに襲い掛かってくるものの、障害にすらならずトツカに切り捨てられた。
斬りごたえが一切ないとでもいうように、トツカはつまらなそうにしている。
「なんで、こんなことを」
震える声で夏輝が呟く。
「用済みになったんだろうか。研究員まで切り捨てるとはな。大した時間稼ぎにもなりはしないのに」
夏輝の言葉に瑞雪もため息を漏らし、部屋を一つ一つ潰していく。
入り組んだ通路のせいで方向感覚は完全に狂ってはいたが、トロンとフクのナビのおかげで何とか前へ前へと進んでいた。
「……わかりません。何もかもわかりません。あいつの目的だって、聞いたところで全く理解できませんでした。多分、あの人以外は理解できないことなんだと思います。傍から見ればただの狂人です。ただわかるのは、何かに取りつかれたようってことだけです」
「理解する必要なんざねえだろう。狂人の考えなんて理解しようとするだけ無駄だ」
「斬ればわかる」
トツカはいつも通り斬る事以外は考えていないようだった。相変わらずのマイペースさで安堵する。……かもしれない。
そんなことを宣いつつ扉を切り捨てたところ、とうとう通路ではなく広い部屋へとたどり着いた。
機器類が所狭しと並んでいたらしいが、全て壊され脇に寄せられている。
何もない部屋。ただ、だだっ広い部屋。
そんな部屋の中心には一人の長身の女が立っていた。
「お前らだな」
黒い短髪の女。赤いメッシュに立派な角、翼、そして尾。
一目でわかる。あれはアレウと同じ上位種族、『竜』であると。
「待ちくたびれたよ」
その瞳には赤々と燃える殺意。
しかし、すぐには襲ってこないようだった。
「レイの野郎ここから出るな、ここに居れば絶対に来るって言われたけど全然来ないからいい加減こっちから出向いてやろうかと思ってたぜ。妙なモンばっか置いてて邪魔だし、ったくやってらんねえぜ。まあいい、お前たちが来たんだから。全部水に流してやるよ。この間は吸血鬼なんぞの邪魔が入ったが、今回も来るなら吸血鬼ごとぶっ殺してやる」
それは、彼女の絶対的な自信と余裕からだった。
どう出るべきか。瑞雪は苦い顔をしつつ考えあぐねる。
夏輝も緊張から、あるいは焦りからか何か言おうとしては唇を閉じるを繰り返していた。
「……言い訳は何かあるか?あってもなくても殺すけどよ」
ご丁寧に、目の前の竜は遺言を聞いてくれるようだった。
全く笑えない。
「言い訳……ではありません、が」
しばしの沈黙の後、夏輝がとうとう口を開く。
瑞雪はと言えば、どうにかして彼女の奥にある扉に夏輝を行かせなければならないと策を巡らせていた。
「確かに、俺達がグリーゾスを殺しました。でも、彼女は勅使河原……この病院の院長に実験体にされておかしくされました。俺達が仇であることは間違いないです。ただ、もう一人その男がいて、間接的に彼を手助けしています。それに……グリーゾスはラテアの中にまだ存在して、話も出来ます」
一息に言い切る。
彼女は少し驚いた顔をしてから、眉根を潜め、それから額に青筋を浮かべた。
かつかつと皆の靴音しか聞こえない。
通路の脇には扉がいくつもあり、乱暴にトツカや夏輝が扉を壊し、中を確認していく。
どの部屋も全て薬品棚や様々な器具が置かれており、血や異形が巨大なガラス管の中で保育されていた。
それぞれの部屋で異なる実験をしているようで、それぞれ異なる機器が設置されている。
ただ、一つ共通点があるとすればガラス管の中の異形たちは皆一様にうらめしげにガラス管の外でゆうゆうと過ごす夏輝達を睨んでいたことだろう。
「グギャ、ギャ」
そして、ガラス管の中の異形とは別に床を別の異形たちが這いまわっていた。
四つ足で床を舐めるように這う悍ましいなにか。
それらは全て、白衣と思しきものを纏ったり、引っ掻けていた。
夏輝と瑞雪はそれに気づき、眉根を寄せる。
「……これは」
「研究員まで化け物にしたらしいな」
異形たちはそれぞれてんでばらばらに襲い掛かってくるものの、障害にすらならずトツカに切り捨てられた。
斬りごたえが一切ないとでもいうように、トツカはつまらなそうにしている。
「なんで、こんなことを」
震える声で夏輝が呟く。
「用済みになったんだろうか。研究員まで切り捨てるとはな。大した時間稼ぎにもなりはしないのに」
夏輝の言葉に瑞雪もため息を漏らし、部屋を一つ一つ潰していく。
入り組んだ通路のせいで方向感覚は完全に狂ってはいたが、トロンとフクのナビのおかげで何とか前へ前へと進んでいた。
「……わかりません。何もかもわかりません。あいつの目的だって、聞いたところで全く理解できませんでした。多分、あの人以外は理解できないことなんだと思います。傍から見ればただの狂人です。ただわかるのは、何かに取りつかれたようってことだけです」
「理解する必要なんざねえだろう。狂人の考えなんて理解しようとするだけ無駄だ」
「斬ればわかる」
トツカはいつも通り斬る事以外は考えていないようだった。相変わらずのマイペースさで安堵する。……かもしれない。
そんなことを宣いつつ扉を切り捨てたところ、とうとう通路ではなく広い部屋へとたどり着いた。
機器類が所狭しと並んでいたらしいが、全て壊され脇に寄せられている。
何もない部屋。ただ、だだっ広い部屋。
そんな部屋の中心には一人の長身の女が立っていた。
「お前らだな」
黒い短髪の女。赤いメッシュに立派な角、翼、そして尾。
一目でわかる。あれはアレウと同じ上位種族、『竜』であると。
「待ちくたびれたよ」
その瞳には赤々と燃える殺意。
しかし、すぐには襲ってこないようだった。
「レイの野郎ここから出るな、ここに居れば絶対に来るって言われたけど全然来ないからいい加減こっちから出向いてやろうかと思ってたぜ。妙なモンばっか置いてて邪魔だし、ったくやってらんねえぜ。まあいい、お前たちが来たんだから。全部水に流してやるよ。この間は吸血鬼なんぞの邪魔が入ったが、今回も来るなら吸血鬼ごとぶっ殺してやる」
それは、彼女の絶対的な自信と余裕からだった。
どう出るべきか。瑞雪は苦い顔をしつつ考えあぐねる。
夏輝も緊張から、あるいは焦りからか何か言おうとしては唇を閉じるを繰り返していた。
「……言い訳は何かあるか?あってもなくても殺すけどよ」
ご丁寧に、目の前の竜は遺言を聞いてくれるようだった。
全く笑えない。
「言い訳……ではありません、が」
しばしの沈黙の後、夏輝がとうとう口を開く。
瑞雪はと言えば、どうにかして彼女の奥にある扉に夏輝を行かせなければならないと策を巡らせていた。
「確かに、俺達がグリーゾスを殺しました。でも、彼女は勅使河原……この病院の院長に実験体にされておかしくされました。俺達が仇であることは間違いないです。ただ、もう一人その男がいて、間接的に彼を手助けしています。それに……グリーゾスはラテアの中にまだ存在して、話も出来ます」
一息に言い切る。
彼女は少し驚いた顔をしてから、眉根を潜め、それから額に青筋を浮かべた。
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