青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比8 錆びついた復讐

走れ走れ

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「エレベーターはこっちです!」

「OK。エヴァンが派手にやって引き付けてくれてるね。敵が全然こっちに来ないや」

 ロセを伴い、夏輝はただただ疾走する。
 と言っても既に病院内だ。夏輝が光魔法で追従する光を生み出し、何とか視界を確保しているくらいにはとにかく暗い。

(あの人だけじゃなくって、病院の上の方でも戦闘音とイオ、マナが感知されてる。月夜さんたちが戦ってくれてるんだ)

 皆が自分とラテアの為に危険を犯してでも戦ってくれている。
 勿論、それだけではないことは重々承知だが。
 街の方にも獣が放たれたようだったが、遠呂が対応するはず。
 
(遠呂さんなら……街の人たちを守ってくれるよね)

 いくら広いと言っても所詮建物の中。
 全力疾走すればそう遠い距離ではない。
 加えて夏輝は方向音痴ではなく、トロンのナビもあるから迷いようがなかった。
 途中、開かない扉は全て乱暴に破壊してきた。
 備品がどうなろうと知ったことではない。
 命を奪うよりずっと軽い。

「……それにしても、全てが停電みたいに止められてるってことは生命維持装置なんかも止められてる可能性があるかもしれないね」

 隠したところで後で知るだけだと判断したのか、ロセが話しかけてくる。
 ここは総合病院で、生命維持装置がなければ生きられない重篤な患者も大勢いる。
 悩んだところで最早どうにもならないし、どうにかしようと奮闘するのは夏輝ではなく双子に与えられた役割だった。
 
「そう、ですね……。エレベーターの電力は通ってます。動きそうです」

「何か装置でも動かしているのかな。そっちに電力を回しているのかも。……ってパネルがついてるね。当然か、認証が必要みたいだ」

 エレベーターにたどり着き、確認すると当然関係者以外は使用できないようにセキュリティロックがかけられていた。
 ロセが何やらパネルを弄る。ぴかぴかとパネルが光り、続いてエラー音。状況は芳しくない様子だった。

「網膜認証が必要だね。準備もしていないしどうしようもないから別の手段を考えないと」

「迷っている時間も別の方法を探している時間もありません。扉を壊して直接おりましょう」

 即座に夏輝はそう判断し、扉を刀で切り裂く。
 普通の扉よりは耐久力が段違いに高く、風の刃では斬り捨てられない。

「光の刃よ……」

 先程のエヴァンが使っていた魔法を思い浮かべ、夏輝は刀に光を宿す。
 再び一閃、今度こそ扉を切り伏せた。
 扉の中には当然操作不能であるため地下まで送ってくれる箱はなく、タールのような漆黒が広がっている。

「どこまで地下があるんだろうね」

「わかりません……でも降りなくちゃ。ロープか何かあればいいんだけど」

 流石に運動神経がいかにいい、身体強化も使える夏輝と言えど、底の見えない穴に飛び込むのは無謀だった。
 そんな道具を持ってもいない。
 悩んだその時、ロセが口を開いた。

「夏輝君、風でクッション作れる?私一人なら飛べるけど、君を抱えてだと多分重すぎて落ちるから」

「いけます!」

「じゃあ暴れないでね」

 そう言ってロセは腰から一対の蝙蝠のような翼を出す。
 そして夏輝の両脇に腕を差し入れ、ゆっくりと浮かび上がった。

「大丈夫です?重くないです?」

「重量オーバーではあるけど、アレウよりはずっと軽いから大丈夫かな。力尽きて墜落とかはないと思う、多分」

 ゆっくりゆっくり、多少なりの時間をかけてロセは夏輝を抱えたままエレベーターの中を降りていく。
 夏輝が照らす光によって、底に近づけばわかるはず。

「ん?」

 順調に降りているとがごん、と頭上から音。
 嫌な予感がして上を照らす。見えない。
 ただ、音はごうんごうんと継続的にしており、しかも段々と大きくなっているように思えた。
 ようするに、ここから導き出される結論はたった一つだ。エレベーターが上から迫ってきているのだ。

 
 
 
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