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EP3 復讐の黄金比7 決死隊
羊飼いの戦い
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「てめえええ!死ぬだろうが!何しやがった!」
冬真が叫ぶ。文句たらたらにガンガン吠える。
「手が滑った」
瑞雪は全身打ち付けつつもよろめきながら何とか立ち上がり体制を整える。
この場合、どちらかというと適切な表現は手が滑ったのではなくイオが滑ったというべきか。単に制御し損ねて周囲のもの全てをこちらへと引き寄せてしまったのだ。
冬真は故意にやったと思っているだろうが、本当はトツカだけを引き寄せる予定だった。あまりにも瑞雪が攻撃魔法以外苦手とする弊害だった。
「びっくりしたけど~。これで二対二かぁ」
「そのようだなっ」
夜一の鎌がトツカの首を狙い構わずに振り下ろされる。しかし、バイクと分離され上空から落下しているがゆえに刃の先がズレた。
トツカはそのブレを見逃さず、刀で鎌を振り払う。瓦礫を足場にし、強靭な脚での蹴りを夜一の腹に入れる。
「っぐぅ!?あ、も、ちょっとぉ~」
瓦礫に背中を強かに打ち付けられ、そのままバイクの巨大な質量と共に落下する。地面にたたきつけられる夜一の上にバイクが降るかと思いきや、バイクはふわりとまるで重さもないように着地。
「あっぶねえな……!バイクが壊れるだろうが!ついでに夜一!」
それを阻止したのはどうやら冬真のようだった。だらだらと冷や汗をかき歯を食いしばっている。
重力魔法は制御が難しい分、冬真とてただ悠々と使っているわけではないのだろう。口では何と言おうと、冬真も冬真で鬱陶しい理性に縛られている。
「随分とバイクなんかを大事にするんだな」
「こいつがやたらと金をかけてるからだよ!ぶっ壊れたら修理にいくらかかると思ってるんだ」
吐き捨てる冬真。バイクは一人でに、夜一もまたぶるぶると頭を左右に振りながら起き上がった。
何故無機物が……と思うが、今それを考えても無駄だ。猟犬は夜一のほかにあのバイクもそうなのかもしれない。
何にせよ、待つ必要はない。瑞雪はすぐさま雷の槍を紡ぎ直す。
「トツカ、前を張れ!俺が吹き飛ばす!」
一対一で千日手なら、トツカを読んでの二対二に持ち込むべきだった。冬真はどうか知らないが、瑞雪の真価は真っ当な前衛がいてこそなのだから。
先程までは速度重視で紡いでいた魔法を、建物の影に隠れつつ威力重視の大規模な魔法へと変化させる。
「わかった、瑞雪」
「まあこっちのが本来の羊飼いの戦い方か。夜一、馬鹿正直に真正面から戦わずにあっちのポニテを狙え!」
冬真は一切迷うことなく瑞雪を先に狙えと夜一に指示を出す。
夜一は再び身軽にバイクに飛び乗り、巨大な質量をもってこちらへと突っ込んでくる。トツカは即座に反応、刀を構え突進、受け止めるどころか一思いに叩き切ろうと瑞雪とバイクの間に割って入った。
しかし、当然のようにそれを予測していた夜一は華麗に空間魔法を使い、トツカをすり抜けそのまま瑞雪の首に鎌を振り下ろした。
「っぐ、ぅ……!」
瑞雪は何とか致命傷は避けたものの、ばっさりと肩口から胸にかけてを切り裂かれる。
避けたというより氷の盾で無理やり切っ先の軌道をずらしただけだが。
ぼたぼたと血を流し、歯を食いしばりつつ溜めていた雷の槍をそのまま夜一の心臓へとぶち込む。
「やるね、ふへへ」
夜一の心臓には届かず、下側に突き刺さる。けれど、夜一は止まらない。氷の盾を砕き、片手を瑞雪の喉に伸ばす。
そのまま絞められる、と思うが夜一が真横にぶっ飛ぶ。
「瑞雪、無事か?」
「ああ。この程度、大した問題じゃない。動ける」
冬真の判断は極めて正しい。瑞雪はただの地球人で、前衛適正もなく脆いだけの生き物だ。
転がりつつ再び立ち上がり、弓を構える。
しかし、今度は。
「しっかり防げよ夜一ッ!」
トーマがロケット弾を打ち込んでくる。ほぼ同時に夜一とバイクがフっと消える。空間を渡り、被害を逃れられる場所に抜けたのだ。
冬真が叫ぶ。文句たらたらにガンガン吠える。
「手が滑った」
瑞雪は全身打ち付けつつもよろめきながら何とか立ち上がり体制を整える。
この場合、どちらかというと適切な表現は手が滑ったのではなくイオが滑ったというべきか。単に制御し損ねて周囲のもの全てをこちらへと引き寄せてしまったのだ。
冬真は故意にやったと思っているだろうが、本当はトツカだけを引き寄せる予定だった。あまりにも瑞雪が攻撃魔法以外苦手とする弊害だった。
「びっくりしたけど~。これで二対二かぁ」
「そのようだなっ」
夜一の鎌がトツカの首を狙い構わずに振り下ろされる。しかし、バイクと分離され上空から落下しているがゆえに刃の先がズレた。
トツカはそのブレを見逃さず、刀で鎌を振り払う。瓦礫を足場にし、強靭な脚での蹴りを夜一の腹に入れる。
「っぐぅ!?あ、も、ちょっとぉ~」
瓦礫に背中を強かに打ち付けられ、そのままバイクの巨大な質量と共に落下する。地面にたたきつけられる夜一の上にバイクが降るかと思いきや、バイクはふわりとまるで重さもないように着地。
「あっぶねえな……!バイクが壊れるだろうが!ついでに夜一!」
それを阻止したのはどうやら冬真のようだった。だらだらと冷や汗をかき歯を食いしばっている。
重力魔法は制御が難しい分、冬真とてただ悠々と使っているわけではないのだろう。口では何と言おうと、冬真も冬真で鬱陶しい理性に縛られている。
「随分とバイクなんかを大事にするんだな」
「こいつがやたらと金をかけてるからだよ!ぶっ壊れたら修理にいくらかかると思ってるんだ」
吐き捨てる冬真。バイクは一人でに、夜一もまたぶるぶると頭を左右に振りながら起き上がった。
何故無機物が……と思うが、今それを考えても無駄だ。猟犬は夜一のほかにあのバイクもそうなのかもしれない。
何にせよ、待つ必要はない。瑞雪はすぐさま雷の槍を紡ぎ直す。
「トツカ、前を張れ!俺が吹き飛ばす!」
一対一で千日手なら、トツカを読んでの二対二に持ち込むべきだった。冬真はどうか知らないが、瑞雪の真価は真っ当な前衛がいてこそなのだから。
先程までは速度重視で紡いでいた魔法を、建物の影に隠れつつ威力重視の大規模な魔法へと変化させる。
「わかった、瑞雪」
「まあこっちのが本来の羊飼いの戦い方か。夜一、馬鹿正直に真正面から戦わずにあっちのポニテを狙え!」
冬真は一切迷うことなく瑞雪を先に狙えと夜一に指示を出す。
夜一は再び身軽にバイクに飛び乗り、巨大な質量をもってこちらへと突っ込んでくる。トツカは即座に反応、刀を構え突進、受け止めるどころか一思いに叩き切ろうと瑞雪とバイクの間に割って入った。
しかし、当然のようにそれを予測していた夜一は華麗に空間魔法を使い、トツカをすり抜けそのまま瑞雪の首に鎌を振り下ろした。
「っぐ、ぅ……!」
瑞雪は何とか致命傷は避けたものの、ばっさりと肩口から胸にかけてを切り裂かれる。
避けたというより氷の盾で無理やり切っ先の軌道をずらしただけだが。
ぼたぼたと血を流し、歯を食いしばりつつ溜めていた雷の槍をそのまま夜一の心臓へとぶち込む。
「やるね、ふへへ」
夜一の心臓には届かず、下側に突き刺さる。けれど、夜一は止まらない。氷の盾を砕き、片手を瑞雪の喉に伸ばす。
そのまま絞められる、と思うが夜一が真横にぶっ飛ぶ。
「瑞雪、無事か?」
「ああ。この程度、大した問題じゃない。動ける」
冬真の判断は極めて正しい。瑞雪はただの地球人で、前衛適正もなく脆いだけの生き物だ。
転がりつつ再び立ち上がり、弓を構える。
しかし、今度は。
「しっかり防げよ夜一ッ!」
トーマがロケット弾を打ち込んでくる。ほぼ同時に夜一とバイクがフっと消える。空間を渡り、被害を逃れられる場所に抜けたのだ。
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