青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

文字の大きさ
上 下
249 / 334
EP3 復讐の黄金比7 決死隊

向き不向き

しおりを挟む
「地球人相手の方が、小賢しいことが多いな……っ!」

 咄嗟に瑞雪は紡いでいた魔法をすべて解放。
 轟音と共に巨大な落雷が地を穿ち、雷の槍が四方八方に飛び跳ね焦がす。
 銃弾が曲射されるなんてことはなく、愚直に真っすぐ飛んでくるがゆえに全て雷によって消失する。

「ヒュー。火力だけは一丁前だな。やろうと思えば俺ごとビルやらなにやら全部消し飛ばせそうだが」

「そんなことをして何になる。一般人を巻き込むことになるだろう。お前だって、自分以外全部重力の範囲に巻き込めば終わる話だ」

 紡いでいた魔法全てを放出し、瑞雪は冬真の逃げた方とは反対側の建物の影へと走り込む。
 勿論対処しなければならなかった羊飼いの中には銃を持ち込み魔法と共にぶっ放してくる輩もいる。事実、瑞雪も何度か國雪によって命じられ対処をしなければならなかった時だってあった。
 
(……大体が刺し違える一歩手前で死にかけだったが)

 K県支部に来てからは、思えば随分と優しい仕事ばかりが回された。祖父の命じる仕事は、ほぼ全てが死にかけなければ達成できないようなものだったから。

「あっはは!そりゃあ俺だって好き好んで巻き込まねえさ。それしか生きる道がないならまた別だがね。俺は別に夜一と違って戦うのが好きってわけじゃないし。それよりかは仕事なんてしないでのんびり酒でも飲んで、腹が減ったら好きなもん作って食べていたいよ」

「大体の羊飼いがっ……そうだろう!……大体は嘘だな。まあ基本的にはだ、っぐ」

 今度はアサルトライフルではなく、ロケット弾が撃ち込まれる。
 プラズマの魔法はやはり不安定で、対人戦で使うものではないと瑞雪は考える。雷魔法で何とか撃ち落とす。
 轟音と共に衝撃波が生まれ、周囲の建物の窓ガラスが吹き飛び、飛び散った破片が瑞雪の頬や手の甲を切り裂いていく。

(……ここまでポンポン銃やら何やらを出してくるのはおかしい。十中八九魔法だが……どこかに空間をつなげてそこから取り出している?確認しようにも確認に行ったらハチの巣だな)

 こちらは攻めなければ勝てない。僅かな情報では、金のために動いていると言っていた。
 そんなこの男が弾薬代がバカスカかかるような戦術をわざわざとるわけはない……と、思いたい。

(そういえば、夏輝の遭遇した夜一も銃を使っていたんだっけか。……まさか、創ってる?)

 アレウから攻撃を壁を創って咄嗟に防いだという報告があった。だとしたら、重力魔法のほかに土魔法である可能性が高い。
 その土魔法で銃などを創ることは可能なのか?わからない。

(どちらにせよ、これ以上つきあわされてたまるか。詠唱して創造するまでのタイムラグがいくらかあるはず……なら、ぶち込むだけだ)

 必要があれば殺す。その言葉の重みは恐らく、聞いている限り……瑞雪と冬真で異なる。
 それすなわち、この周囲の建物はともかくとして中に倒れている何の罪もない人々が人質と言っても過言ではないということだ。
 重力に捉えられないよう場所を目まぐるしく変えつつ魔法を詠唱し続ける。これだけ距離を取れば氷魔法も混ぜて問題ない。いざという時の防御手段として常に氷の盾は発動できるようにしておくべきだった。

(器用なことが出来ればよかったんだがな)

 しかし、人には向き不向きというものがある。瑞雪は結局攻撃魔法をぶっぱなすのが一番強く適している。
 才能というものは、人の心に則しているとは限らないのだ。
 理性がなければヒトたりえないが、理性が人を縛り弱くする。けれど、それは決して手放してはならないものだと、瑞雪は強く自分を戒める。
 武器を換装し、電霊を手にしてからはなおさらだ。瑞雪の攻撃は本気で詠唱し撃ち、まともに受ければたとえ上位種族だろうと恐らく跡形も残さない。
 周囲一帯プラズマで消滅させれば目の前の男がいかな物を創造しようと死ぬのだ。
 制御が出来ないから使えない。否、制御をしきる自信がない。
 それもあり、デリケートな病院内よりも外での戦いを選んだのだ。

「人と建物がよほど邪魔らしいな。駄目だろ、そんなバ火力の魔法で制御が下手糞じゃ。もしくは周辺被害を顧みないタイプならもっと楽だったかもな」

 ケタケタと冬真が耳障りな声で笑う。全くその通りで、ぐうの音も出ない。
 結局安全圏からの打ち合いなんてシミュレーター内でもなければ不利でしかない。なら。
 
「結局この手に限る、か」

 小さく呟く。冬真の耳には届かないほどの呟きだ。結局自分はどこまでも単独戦闘を行うには適さない。

(トツカには悪いが)
「瞬き 引き寄せよ(ブリーク トライルミ)」

 魔法を複数並列詠唱しつつ、瑞雪は建物の影から踊り出る。
 当然待ち構えていた冬真が銃口を瑞雪へと向ける。しかし。

「ッ……」
「落ちてるぅ~」

 上空から気の抜けた声。
 瑞雪が詠唱した魔法はトツカを手元に引き寄せる魔法。トツカだけを引き寄せるはずが、なぜか上から大型バイクと夜一が落ちてくる。

「は!?」
「最悪じゃんお前何してるんだよッッッ!?」

 今まで聞いた中で一番の大声で心の底から冬真が叫ぶ。
 トツカと夜一だけではない。コンクリートの瓦礫やらガードレールやらも上空から落ちてくる。このままでは瓦礫に押しつぶされて死ぬ。
 二人は全力で走り、瓦礫の振ってくる範囲から逃れる。

 
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いつも余裕そうな先輩をグズグズに啼かせてみたい

作者
BL
2個上の余裕たっぷりの裾野先輩をぐちゃぐちゃに犯したい山井という雄味たっぷり後輩くんの話です。所構わず喘ぎまくってます。 BLなので注意!! 初投稿なので拙いです

星に牙、魔に祈り

種田遠雷
BL
角と牙のある悪党(攻め)×生真面目エルフ騎士(受け) ちょっと古風なファンタジー物語×エロBL クリッペンヴァルト国の端、境の森にある国境守備の砦には、エルフ国としてはごく珍しく、エルフ以外の種族(主に人間と獣人)が暮らし、守備に務めている。 ごく最近築かれたこの砦を指揮するアギレオは元野盗、これを雇い入れた形で唯一のエルフとして身を置く騎士のハルカレンディアは、かつて敵同士だった。 砦と同じく、心を通わせ始めてからまだ浅い二人は、その立場や考えの違いから噛み合わないこともまだ多く、試行錯誤を繰り返す――。 若干バトルが多めの物語です。 行為のために洗浄が必要な世界観ですので(毎回洗浄の描写があるわけではありません)、苦手でなければぜひどうぞ。 毎週金曜日に更新予定。 前日譚に当たる同シリーズ「この奇妙なる虜」は、陵辱(無理矢理、複数、暴力)などが少なからず出てきますので、苦手でなければこちらもぜひどうぞ。 ※この作品は「ムーンライトノベルズ」「エブリスタ」にも掲載しています

幼馴染カップルが浴室で初中出しえっちするお話

🍑ハンバーグ・ウワテナゲ🍑
BL
攻め→望月レオ(17)    183cm    帰宅部    ハーフ    クールだけどゆうの前だと表情豊か 受け→日下部ゆう(17)    173cm    バレー部    姫ポジ    表情豊か ストーリー性はあまりないです。ただヤッてるだけ。最初からクライマックス。🍑

いつまでも、いつまでも

シエル
BL
平凡な高校生が異世界トリップ!? 気づいたら、緑あふれる森の中これから先どうやって生きていくのか、、

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

救い

ken
BL
花森玲はホスト狂いの母親の借金を返すため、性奴隷として毎日男達に陵辱される。絶望的な日々の中で唯一の救いは、元いじめられっ子の転校生、吉田たかしが作る爆弾で、世界を粉々にしてくれる事。 少年たちの真っ直ぐな恋がやがて悲劇を招いて…

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

【BL】キミと交わした桜色の約束

樺純
BL
これはそう遠くない近未来のお話し。 20××年。地球は人間型ロボットであるアンドロイドと人間が共存する世界となった。誰しも成人すれば希望のアンドロイドを作る事ができる世の中。そんな世の中に違和感を覚えていたカイルは成人しているが自身のアンドロイドを持ってはいない。当たり前のように人間の横にはアンドロイドがいて、アンドロイドを大切に扱う人間もいれば奴隷のように扱う人間もいる。そんな世の中が嫌になるとカイルは大好きな桜の木を眺める。そうすれば騒つく胸がすぅっとおさまり、まるで初恋をしたような気持ちになるから。そんなある日、カイルの知人であるジノがカイルに自身のアンドロイドを紹介する。ジノも反アンドロイド派だったが、ついにアンドロイドを購入してしまいアンドロイドの魅力にハマってしまっていた。そんなジノを見てカイルは呆れるがジノから大企業purple社のアンドロイド紹介割引券をもらい、アンドロイドと向き合ったこともないのに反対派でいるのもと考えたカイルはアンドロイド購入に踏む切る。そうして出会ったアンドロイドから不思議なことにどこか懐かしさを感じたカイル。一瞬にしてカイルの心を虜にし、夢中にさせるほど魅力的なアンドロイド。カイルはそのアンドロイドの名前をオンと名づける。アンドロイドとの生活にも慣れはじめたカイルはとあるスーパーで買い物をしていると自身のアンドロイド・オンにそっくりなテオンと出会ってしまう。自分のアンドロイドにそっくりなテオンと出会い驚くカイルと同時にテオンもこの時驚いていた。なぜならばカイルがテオンをオンだと見間違えて呼んだはずのオンという名前はテオンが幼い頃の初恋の相手であるイルから呼ばれていたあだ名だったから。2人は互いに何かを感じるもののその場を後にしてしまう。そして数日後、突然カイルのアンドロイド・オンはpurple社により自主回収され廃棄されてしまう。悲しみのどん底に落ちるカイル。なぜ自分のアンドロイドが回収されたのか?そう思っているとpurple社の社員がカイルを訪れ回収された原因を伝えようとするとpurple社によって埋め込まれたチップによりその社員は毒殺されてしまう。社員の残した言葉が気になるカイル。 日に日にアンドロイド・オンを失ったカイルの心には闇を落とし、始め極端な選択をしようとするが偶然…アンドロイド・オンと同じ顔を持つテオンと再会してしまい、カイルはテオンに惹かれていく。しかし、過去に沢山の心の傷を負ったテオンはカイルにキツく当たり、全く心を開こうとしないものの、カイルは諦めることなくテオンにアプローチし続けるが……?なぜカイルのアンドロイド・オンは回収され廃棄されたのか?テオンの心の傷とは?purple社とは……一体?すれ違いながらも心惹かれていく2人の結末はどうなるのか?

処理中です...