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EP3 復讐の黄金比7 決死隊
さらなる障害
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瑞雪に後を託し、夏輝達は病院へとひた走る。
涼しいはずの夜風は全力疾走で火照った身体を心地よく冷やしてくれる。
もう病院までは一キロもないだろう。
「瑞雪ちゃんのこと、気になる?」
「気にならないわけない……ロセさんも、レイの事気にならないんですか?」
ロセの問いに答えつつも、夏輝も思っていたことをロセに対して返す。
夏輝の言葉にロセはまっすぐ前を見据え、決して彼の顔を見ない。
「気にする資格もないしね。それに……ラテア君を助けるためにレイが立ちはだかって殺すしかないなら殺すでしょう?」
「ごほん。なんにせよ今話す話題じゃねえな?それよかほら。そんなこと言ってると」
アレウが話題を変えるように、あるいは咎めるように咳ばらいを一つする。
それとほぼ同時に空から雨が降り始める。
空は美しい雲一つない月夜だというのにだ。
「通り雨……じゃないですよね」
「だろうね」
夏輝の言葉にロセは頷く。
雨粒はどんどん激しく、大粒になっていく。
やがてうねりを上げ、巨大な水竜の姿を取り走り去ろうとする夏輝達を後ろから追いかけてくる。
「双子が抜けるとどう考えてもこっちの数が足りないんだよ、なっ!」
アレウが足を止め、夏輝達に背を向け魔法を詠唱。
親指を噛み切り、血で宙に魔法陣を描く。
「現れろ、炎の獅子」
魔法陣の中から現れたのは巨大な炎の獅子だった。
まるで生きているかのように力強く地面を燃え上がらせ、飛び上がる。
水竜が大きく口を開き牙を剥き、獅子に相対し巨大な蛇腹で押しつぶさんとするが、獅子は水竜後と燃え上がらせんと真正面からぶつかっていった。
二体のぶつかり合いはまるで小さなころにノアと見た怪獣映画みたいで。
圧巻の一言に尽きる。
「ッ」
そんな二体の影から銃弾が寸分の狂いもなくアレウの脳天に向けて発射される。
弾倉全てを撃ち尽くす激しい銃撃にアレウは咄嗟に反応。
右手ですべての弾丸を受け止める。
「アレウさんっ!」
突然の銃撃に夏輝が叫ぶ。
今までは魔法での殴り合いはあっても銃撃戦なんていう地球人らしい戦いは起こりやしなかった。
それが余計に夏輝を焦らせていた。
「大丈夫だ、脳みそが飛ばされなきゃ即死はないし動ける!……吸血鬼の弱点を狙ってきやがって。こいつは……」
ぼとぼととアレウの手から銃弾が落ちる。
それと同じく、血と肉片も。
水竜と炎獅子がぶつかり合い、じゅうじゅうと音を立てて蒸発する。
高熱の水煙が濛々と周辺に立ち込め、夏輝が風を操り慌てて自分たちを巻き込まないようにと吹き飛ばした。
アレウはともかくとして、夏輝やロセが水煙に包まれれば軽い火傷では済まないだろう。
「そりゃそうだ。化け物の相手するのに真正面から殴り合う間抜けは普通はいないだろうよ。それこそ同じクラスの相手じゃなきゃなあ」
水煙が晴れ、現れたのは壮年の外国人の男だった。
背も高く、肩幅も広い。筋骨隆々の男である。身の丈ほどもある大剣を背負い、両手にはそれぞれ銃。
普通に打てば反動で手が折れるだろうが、魔法を使えばその限りではないのだろう。
「そっちの黒髪の少年は初めましてだな?俺はベルナルド。そいつらとはまあ……こいつらの年齢で考えれば大した付き合いでもないだろうがイギリス時代の腐れ縁さ。主にエヴァンのせいで巻き込まれてるだけだが」
余裕たっぷりに、ベルナルドは夏輝にウインクをしてみせる。
「……竜はまだ襲ってきていないし、エヴァンもいやがるし。ここは全員でこいつをタコ殴りにするのが一番か」
「おいおい。おっそろしいことを言うな、アレウ。おっさんだってただやられるだけじゃないぜ?お前たち三人を足止めして死なないことくらいなら出来るかもしれないだろ?」
アレウの言葉にベルナルドが肩をすくめる。
焦りや恐れは一切ない。
「今回の依頼人からの依頼は足止めだからな」
どうするべきか。このベルナルドという男の事をろくに知らない自分より、知り合いらしいアレウの判断を仰いだほうが賢明だろう。
そう夏輝は考え、アレウを横目で見る。
「……」
眉間にしわを寄せ暫し沈黙するアレウ。
「確かに、こいつはやると言ったらやるだろうな。羊飼いの中でこいつより強いやつをそうそう知らない程度には、この男は強い。何よりこいつは戦況の見極めがうまいし、引き時も見誤らないからな。厄介なほど粘られる可能性も高い。俺やロセの手の内は把握されてるんでな」
「そうだね……」
アレウの言葉にロセも頷く。
(……ロセの安全だけを考えるならここでそれなりに時間がかかっても倒すべきだ。ロセはレイとシイナに狙われてるんだ。だが、ここでラテアが死ぬ事だけはなんとしてでも避けなきゃならない……。おまけに竜もいる。明らかにこっちの戦力の数が足りていない。どうしたもんか)
アレウにとって、最も憂慮すべきはロセの身の安全だ。
ロセだって、そうやすやすと死ぬほど弱くはない。うまく逃げ果せる可能性の方が高いだろうし、夏輝だってロセを見捨てることはないだろう。
「アレウ」
「ん」
考えている間にも刻一刻と時間は過ぎ去っていく。それこそがベルナルドの望みでもある。
そんなアレウの思考に一石を投じたのはロセだった。
はっきりと彼の名前を呼び、現実へと引き戻す。
と言っても考え込んでいたのはほんの十秒程度だったけれど。
「私と夏輝君は先に行くから、ベルナルドを速攻で片付けて合流して。それはアレウにしかできないこと。いい?」
冷静に、ロセは落ち着かせるように言葉を発する。
「……そうだな」
「そんな心配そうな顔しないでよ。竜からは逃げるし、うまくやり過ごすから。私は人よりもしぶといしさ。ね、夏輝君」
それでもやはり心配だとありありと顔に浮かんでいるアレウ。
夏輝にウインクして見せるロセは普段通りに見えるが、多分……見えるだけなのだろう。
何となく夏輝はそう感じていた。
「……わかった」
ロセの信じて欲しいと言わんばかりの眼差しに、アレウは苦い顔をしつつも頷いた。
あの竜と戦ったアレウだからこそ、無傷で逃げ果せることの難しさは理解している。ロセは治癒魔法の使い手だ。
直接の戦闘力があまりないにせよ、大怪我をどちらかが負ってもすぐに回復させる手立てはある。
火傷だろうと、腕や足が捥げようと。
まあ、ちぎれた部分は回収なりなんなりしなければならないだろうが。
勿論、できる限りそんなリスクは避けたい。
しかし、全てをいいように思い通りに出来る現実などアレウであってもありはしないのだ。
「お熱いねえ。お前さんたちにとっては一つ朗報がある。エヴァンの奴は前回の狐君を捕まえた時点で契約終了してどっかに行っちまったよ。よかったな」
大手を広げ、困ったもんだとベルナルドは大きく誰にでも簡単に聞こえるくらいにため息をついた。
そんなベルナルドに対し、アレウは片眉を上げ見据える。
(何でわざわざ教えてくれるんだろう……)
夏輝がベルナルドの意図について考え始めたところで、ロセが夏輝の腕を掴み病院へ向かって走り出す。
「行こう、夏輝君」
「え、ええ……!」
後ろを振り返る。
アレウがこちらを見て、さっさと行けとジェスチャーしていた。
先程までと比べ、どこか余裕がありそうだった。
(と、とにかくラテアを助けないと……そうだ、俺自身の手でなんとかしなきゃ。皆に頼りっぱなしじゃダメだ)
我に返り、夏輝もまた自らの脚で走り出す。
病院はもうすぐそこなのだから。
涼しいはずの夜風は全力疾走で火照った身体を心地よく冷やしてくれる。
もう病院までは一キロもないだろう。
「瑞雪ちゃんのこと、気になる?」
「気にならないわけない……ロセさんも、レイの事気にならないんですか?」
ロセの問いに答えつつも、夏輝も思っていたことをロセに対して返す。
夏輝の言葉にロセはまっすぐ前を見据え、決して彼の顔を見ない。
「気にする資格もないしね。それに……ラテア君を助けるためにレイが立ちはだかって殺すしかないなら殺すでしょう?」
「ごほん。なんにせよ今話す話題じゃねえな?それよかほら。そんなこと言ってると」
アレウが話題を変えるように、あるいは咎めるように咳ばらいを一つする。
それとほぼ同時に空から雨が降り始める。
空は美しい雲一つない月夜だというのにだ。
「通り雨……じゃないですよね」
「だろうね」
夏輝の言葉にロセは頷く。
雨粒はどんどん激しく、大粒になっていく。
やがてうねりを上げ、巨大な水竜の姿を取り走り去ろうとする夏輝達を後ろから追いかけてくる。
「双子が抜けるとどう考えてもこっちの数が足りないんだよ、なっ!」
アレウが足を止め、夏輝達に背を向け魔法を詠唱。
親指を噛み切り、血で宙に魔法陣を描く。
「現れろ、炎の獅子」
魔法陣の中から現れたのは巨大な炎の獅子だった。
まるで生きているかのように力強く地面を燃え上がらせ、飛び上がる。
水竜が大きく口を開き牙を剥き、獅子に相対し巨大な蛇腹で押しつぶさんとするが、獅子は水竜後と燃え上がらせんと真正面からぶつかっていった。
二体のぶつかり合いはまるで小さなころにノアと見た怪獣映画みたいで。
圧巻の一言に尽きる。
「ッ」
そんな二体の影から銃弾が寸分の狂いもなくアレウの脳天に向けて発射される。
弾倉全てを撃ち尽くす激しい銃撃にアレウは咄嗟に反応。
右手ですべての弾丸を受け止める。
「アレウさんっ!」
突然の銃撃に夏輝が叫ぶ。
今までは魔法での殴り合いはあっても銃撃戦なんていう地球人らしい戦いは起こりやしなかった。
それが余計に夏輝を焦らせていた。
「大丈夫だ、脳みそが飛ばされなきゃ即死はないし動ける!……吸血鬼の弱点を狙ってきやがって。こいつは……」
ぼとぼととアレウの手から銃弾が落ちる。
それと同じく、血と肉片も。
水竜と炎獅子がぶつかり合い、じゅうじゅうと音を立てて蒸発する。
高熱の水煙が濛々と周辺に立ち込め、夏輝が風を操り慌てて自分たちを巻き込まないようにと吹き飛ばした。
アレウはともかくとして、夏輝やロセが水煙に包まれれば軽い火傷では済まないだろう。
「そりゃそうだ。化け物の相手するのに真正面から殴り合う間抜けは普通はいないだろうよ。それこそ同じクラスの相手じゃなきゃなあ」
水煙が晴れ、現れたのは壮年の外国人の男だった。
背も高く、肩幅も広い。筋骨隆々の男である。身の丈ほどもある大剣を背負い、両手にはそれぞれ銃。
普通に打てば反動で手が折れるだろうが、魔法を使えばその限りではないのだろう。
「そっちの黒髪の少年は初めましてだな?俺はベルナルド。そいつらとはまあ……こいつらの年齢で考えれば大した付き合いでもないだろうがイギリス時代の腐れ縁さ。主にエヴァンのせいで巻き込まれてるだけだが」
余裕たっぷりに、ベルナルドは夏輝にウインクをしてみせる。
「……竜はまだ襲ってきていないし、エヴァンもいやがるし。ここは全員でこいつをタコ殴りにするのが一番か」
「おいおい。おっそろしいことを言うな、アレウ。おっさんだってただやられるだけじゃないぜ?お前たち三人を足止めして死なないことくらいなら出来るかもしれないだろ?」
アレウの言葉にベルナルドが肩をすくめる。
焦りや恐れは一切ない。
「今回の依頼人からの依頼は足止めだからな」
どうするべきか。このベルナルドという男の事をろくに知らない自分より、知り合いらしいアレウの判断を仰いだほうが賢明だろう。
そう夏輝は考え、アレウを横目で見る。
「……」
眉間にしわを寄せ暫し沈黙するアレウ。
「確かに、こいつはやると言ったらやるだろうな。羊飼いの中でこいつより強いやつをそうそう知らない程度には、この男は強い。何よりこいつは戦況の見極めがうまいし、引き時も見誤らないからな。厄介なほど粘られる可能性も高い。俺やロセの手の内は把握されてるんでな」
「そうだね……」
アレウの言葉にロセも頷く。
(……ロセの安全だけを考えるならここでそれなりに時間がかかっても倒すべきだ。ロセはレイとシイナに狙われてるんだ。だが、ここでラテアが死ぬ事だけはなんとしてでも避けなきゃならない……。おまけに竜もいる。明らかにこっちの戦力の数が足りていない。どうしたもんか)
アレウにとって、最も憂慮すべきはロセの身の安全だ。
ロセだって、そうやすやすと死ぬほど弱くはない。うまく逃げ果せる可能性の方が高いだろうし、夏輝だってロセを見捨てることはないだろう。
「アレウ」
「ん」
考えている間にも刻一刻と時間は過ぎ去っていく。それこそがベルナルドの望みでもある。
そんなアレウの思考に一石を投じたのはロセだった。
はっきりと彼の名前を呼び、現実へと引き戻す。
と言っても考え込んでいたのはほんの十秒程度だったけれど。
「私と夏輝君は先に行くから、ベルナルドを速攻で片付けて合流して。それはアレウにしかできないこと。いい?」
冷静に、ロセは落ち着かせるように言葉を発する。
「……そうだな」
「そんな心配そうな顔しないでよ。竜からは逃げるし、うまくやり過ごすから。私は人よりもしぶといしさ。ね、夏輝君」
それでもやはり心配だとありありと顔に浮かんでいるアレウ。
夏輝にウインクして見せるロセは普段通りに見えるが、多分……見えるだけなのだろう。
何となく夏輝はそう感じていた。
「……わかった」
ロセの信じて欲しいと言わんばかりの眼差しに、アレウは苦い顔をしつつも頷いた。
あの竜と戦ったアレウだからこそ、無傷で逃げ果せることの難しさは理解している。ロセは治癒魔法の使い手だ。
直接の戦闘力があまりないにせよ、大怪我をどちらかが負ってもすぐに回復させる手立てはある。
火傷だろうと、腕や足が捥げようと。
まあ、ちぎれた部分は回収なりなんなりしなければならないだろうが。
勿論、できる限りそんなリスクは避けたい。
しかし、全てをいいように思い通りに出来る現実などアレウであってもありはしないのだ。
「お熱いねえ。お前さんたちにとっては一つ朗報がある。エヴァンの奴は前回の狐君を捕まえた時点で契約終了してどっかに行っちまったよ。よかったな」
大手を広げ、困ったもんだとベルナルドは大きく誰にでも簡単に聞こえるくらいにため息をついた。
そんなベルナルドに対し、アレウは片眉を上げ見据える。
(何でわざわざ教えてくれるんだろう……)
夏輝がベルナルドの意図について考え始めたところで、ロセが夏輝の腕を掴み病院へ向かって走り出す。
「行こう、夏輝君」
「え、ええ……!」
後ろを振り返る。
アレウがこちらを見て、さっさと行けとジェスチャーしていた。
先程までと比べ、どこか余裕がありそうだった。
(と、とにかくラテアを助けないと……そうだ、俺自身の手でなんとかしなきゃ。皆に頼りっぱなしじゃダメだ)
我に返り、夏輝もまた自らの脚で走り出す。
病院はもうすぐそこなのだから。
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