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EP3 復讐の黄金比7 決死隊
決死隊
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夜。陽が沈み、カフェに再び全員が集まっていた。
瑞雪、トツカ、アレウ、ロセ、双子、そして夏輝。
夕方になるくらいから八潮は皆が摘まめるようにと軽食を作り、戻ってくるのを待っていたのだ。
「長い夜になるでしょうから。皆さん、どうかご無事で」
手早く食べて腹がある程度膨れた頃、八潮はそう言って皆を送り出した。
店の駐車場には大型のバン。支部の社用車だ。
月夜がここまで運転してきたらしい。
「……そういえば、朝陽さんは免許持ってるんです?」
ふと気になり、夏輝は月夜に声をかけた。
朝陽はまだ身支度にかかっているらしい。決して身だしなみとかではなく猟犬の準備らしい。
朝陽の名誉のために断言しておく。
「それなんだけど、最初は一緒に教習所に通ってたんだけどね……講習所の人に中学生みたいって言われて以来行かなくなっちゃったんだよね。ああ、これは兄さんには内緒ね」
口元に指をあて、目を細め笑う月夜。
夏輝は首をこくこくと縦に振った。
ここでそのことをぽろりと口から漏らそうものなら間違いなく朝陽の機嫌は悪くなるだろうから。
「瑞雪君、あとよろしくね。僕は兄さんと行くから」
「ああ」
月夜は瑞雪に車の鍵を渡す。
瑞雪はそれを受け取り、運転席へと乗り込んだ。
大型のバンだけあって車内は広く、トツカ、アレウが乗り込んでもまだ余裕がある。
「市内全体に結界が張り巡らされるから。遠呂師匠は街の方の防衛にあたるって。街中に魔物が放たれたときに対処してくれる手筈になってる」
「わかった。……市内全体か。嫌になるな。遠呂に任せておけば間違いはないだろうが」
「本当に、ね」
ため息が出そうになるのを寸前で呑み込み、瑞雪がボヤく。
月夜も同意し、そのまま朝陽が待っている店内へと戻っていく。彼らはこれから夏輝達とは別行動をとる。
夏輝達のバックアップを行いつつ、病院内へと入り地上階部分の制圧を試みるのだ。
「吸血鬼、淫魔。そろそろ出発するからさっさと車の中に入れ」
二人で身を寄せ合って夜空を眺めていたアレウとロセに瑞雪が声をかける。
「俺達も運転できるけど、お前がする?」
声をかけられると、唇が触れ合うだけのバードキスを見せつけるように一回だけし、バンの方へと向き直る。
二人は特段緊張する様子もなく、いつも通りのマイペースさが伺えた。
アレウの問いに瑞雪は頷く。
「運転は俺がする。……」
そしてしばし考えこむ。その視線の先にはロセ。
「なあに?」
「……竜の迎撃は吸血鬼にしかできないとみるべきだ。そして状況によっては俺も途中下車の可能性がある。淫魔、お前が助手席に座ってくれ」
あからさまに不本意そうに、けれど苦渋の決断とでもいうように瑞雪は渋い顔をしつつそうロセに告げた。
ロセはそんな瑞雪の顔を見て、にこりと可愛らしい笑顔を浮かべた。
「ロセ」
「……?」
「瑞雪ちゃん、私の名前は淫魔じゃなくってロセだよ。これから一緒に戦うんだから、名前くらいちゃんと呼んでくれないと。失礼じゃない?」
時間もあまりなく、瑞雪に選択肢はなかった。
じとりと睨みつけつつ、震える唇を開く。
「ロセ、助手席に乗ってくれ」
「わかった♪」
名前を呼ぶと、満足したのかロセは助手席へと乗り込む。
「トツカ、夏輝、アレウという順番に後部座席に乗り込め。夏輝、お前は目的地まで必ず行くから真ん中だ。途中で十中八九襲われる。わかっていると思うが、お前は病院まで出るな。車が走れるところまで走るからその間は中でトロンと大人しくしてろ」
釘をさす瑞雪に夏輝は神妙な面持ちで頷く。
先程から手汗が滲み、心臓がばくばくと音を立てていた。
気ばかりが急く。
「夏輝、大丈夫か?」
「トツカ……」
意外にも、トツカが声をかけてくる。
夏輝の隣に乗り込み、定位置につく。しっかりとした造りのバンだったが、鋼の肉体を持つトツカが乗り込めば当然のように深く沈みこみ、揺れる。
「普段の瑞雪をさらに悪くしたような顔をしていた」
「……」
運転席の方から圧が飛んでくる。が、トツカは気づいていないのでないのと同じだ。
「そのたとえどうなのさ」
「変なことを言ったか?」
思わず夏輝は小さく吹きだす。
ようするに、トツカは瑞雪みたいに夏輝がしかめっ面をしていたと言いたいのだろう。
瑞雪よりも酷いというのはなかなか重症だった。
「お前ら……」
地を這うような低い声音が運転席から飛んでくる。
額に青筋こそ立てていなかったものの、大きくため息をつく。
「俺達に任せておけば問題ない。お前をラテアの元まで送り届けよう」
「うん、ありがとうトツカ。君の口からそんな励ましが聞けると思ってなかったけど、嬉しいよ。瑞雪さんの教育がいいのかな」
「聞けば色々なことを教えてくれる」
ややズレた会話だったが、瑞雪の眉根がどんどん潜められていくのが手に取るようにわかった。
トツカがまた夏輝の知らないところで何かしたのかもしれない。
シートベルトを締め、夏輝はトツカとアレウの間に挟まる。
「瑞雪ちゃんの運転がどんなものかお手並み拝見といこうかな♡」
「別に普通だ。変なことはしない。事故っていいならトツカにぶっつけ本番で運転させるが?」
瑞雪の言葉にトツカがぴくりと反応を示す。
「命令とあらばやるが」
「うーん、今日は瑞雪ちゃんの運転が見たいなあ♡ほらほら、時間もないしさっさと行こうよ」
やる気満々のトツカに対し、ロセは露骨に話題を逸らす。
トツカが運転できるのかどうかは謎だが、したことがないことだけは確かだった。
そしてやったことのないことをトツカがすると、初見では基本的に悲惨なことが起こる。
マニュアルや指針があれば別だが。
トツカが瑞雪を見る。
「今度な。こいつらの車で運転させてもらおうか」
瑞雪とて事故らせるつもりは毛頭ないため、今度アレウたちの車で運転させてもらおうと言い放つ。
自分の車で運転させる気は……やはりなかった。
「おいおい、事故ったら弁償だぜ?弁償できるのか?坊ちゃんに」
「アレウさんの車、見たこともないくらい高そうなスポーツカーでした……」
そう、雲の上の金持ち。ここ数日で夏輝の二人に対する印象は変化していた。
元々裕福なんだろうなあとは思っていたが、次元が違う。
ラテアのメッセージにもたびたびそのことが書かれており、戦々恐々としていた。
「……予定は未定」
渋い顔をしつつ、瑞雪は車を急発進させた。
トツカがこのことを覚えていないことを瑞雪は祈るしかないのかもしれない。
自分の車で運転させた方が少なくともマシだ。覚えていたら瑞雪の車が犠牲になるのだろう。
瑞雪、トツカ、アレウ、ロセ、双子、そして夏輝。
夕方になるくらいから八潮は皆が摘まめるようにと軽食を作り、戻ってくるのを待っていたのだ。
「長い夜になるでしょうから。皆さん、どうかご無事で」
手早く食べて腹がある程度膨れた頃、八潮はそう言って皆を送り出した。
店の駐車場には大型のバン。支部の社用車だ。
月夜がここまで運転してきたらしい。
「……そういえば、朝陽さんは免許持ってるんです?」
ふと気になり、夏輝は月夜に声をかけた。
朝陽はまだ身支度にかかっているらしい。決して身だしなみとかではなく猟犬の準備らしい。
朝陽の名誉のために断言しておく。
「それなんだけど、最初は一緒に教習所に通ってたんだけどね……講習所の人に中学生みたいって言われて以来行かなくなっちゃったんだよね。ああ、これは兄さんには内緒ね」
口元に指をあて、目を細め笑う月夜。
夏輝は首をこくこくと縦に振った。
ここでそのことをぽろりと口から漏らそうものなら間違いなく朝陽の機嫌は悪くなるだろうから。
「瑞雪君、あとよろしくね。僕は兄さんと行くから」
「ああ」
月夜は瑞雪に車の鍵を渡す。
瑞雪はそれを受け取り、運転席へと乗り込んだ。
大型のバンだけあって車内は広く、トツカ、アレウが乗り込んでもまだ余裕がある。
「市内全体に結界が張り巡らされるから。遠呂師匠は街の方の防衛にあたるって。街中に魔物が放たれたときに対処してくれる手筈になってる」
「わかった。……市内全体か。嫌になるな。遠呂に任せておけば間違いはないだろうが」
「本当に、ね」
ため息が出そうになるのを寸前で呑み込み、瑞雪がボヤく。
月夜も同意し、そのまま朝陽が待っている店内へと戻っていく。彼らはこれから夏輝達とは別行動をとる。
夏輝達のバックアップを行いつつ、病院内へと入り地上階部分の制圧を試みるのだ。
「吸血鬼、淫魔。そろそろ出発するからさっさと車の中に入れ」
二人で身を寄せ合って夜空を眺めていたアレウとロセに瑞雪が声をかける。
「俺達も運転できるけど、お前がする?」
声をかけられると、唇が触れ合うだけのバードキスを見せつけるように一回だけし、バンの方へと向き直る。
二人は特段緊張する様子もなく、いつも通りのマイペースさが伺えた。
アレウの問いに瑞雪は頷く。
「運転は俺がする。……」
そしてしばし考えこむ。その視線の先にはロセ。
「なあに?」
「……竜の迎撃は吸血鬼にしかできないとみるべきだ。そして状況によっては俺も途中下車の可能性がある。淫魔、お前が助手席に座ってくれ」
あからさまに不本意そうに、けれど苦渋の決断とでもいうように瑞雪は渋い顔をしつつそうロセに告げた。
ロセはそんな瑞雪の顔を見て、にこりと可愛らしい笑顔を浮かべた。
「ロセ」
「……?」
「瑞雪ちゃん、私の名前は淫魔じゃなくってロセだよ。これから一緒に戦うんだから、名前くらいちゃんと呼んでくれないと。失礼じゃない?」
時間もあまりなく、瑞雪に選択肢はなかった。
じとりと睨みつけつつ、震える唇を開く。
「ロセ、助手席に乗ってくれ」
「わかった♪」
名前を呼ぶと、満足したのかロセは助手席へと乗り込む。
「トツカ、夏輝、アレウという順番に後部座席に乗り込め。夏輝、お前は目的地まで必ず行くから真ん中だ。途中で十中八九襲われる。わかっていると思うが、お前は病院まで出るな。車が走れるところまで走るからその間は中でトロンと大人しくしてろ」
釘をさす瑞雪に夏輝は神妙な面持ちで頷く。
先程から手汗が滲み、心臓がばくばくと音を立てていた。
気ばかりが急く。
「夏輝、大丈夫か?」
「トツカ……」
意外にも、トツカが声をかけてくる。
夏輝の隣に乗り込み、定位置につく。しっかりとした造りのバンだったが、鋼の肉体を持つトツカが乗り込めば当然のように深く沈みこみ、揺れる。
「普段の瑞雪をさらに悪くしたような顔をしていた」
「……」
運転席の方から圧が飛んでくる。が、トツカは気づいていないのでないのと同じだ。
「そのたとえどうなのさ」
「変なことを言ったか?」
思わず夏輝は小さく吹きだす。
ようするに、トツカは瑞雪みたいに夏輝がしかめっ面をしていたと言いたいのだろう。
瑞雪よりも酷いというのはなかなか重症だった。
「お前ら……」
地を這うような低い声音が運転席から飛んでくる。
額に青筋こそ立てていなかったものの、大きくため息をつく。
「俺達に任せておけば問題ない。お前をラテアの元まで送り届けよう」
「うん、ありがとうトツカ。君の口からそんな励ましが聞けると思ってなかったけど、嬉しいよ。瑞雪さんの教育がいいのかな」
「聞けば色々なことを教えてくれる」
ややズレた会話だったが、瑞雪の眉根がどんどん潜められていくのが手に取るようにわかった。
トツカがまた夏輝の知らないところで何かしたのかもしれない。
シートベルトを締め、夏輝はトツカとアレウの間に挟まる。
「瑞雪ちゃんの運転がどんなものかお手並み拝見といこうかな♡」
「別に普通だ。変なことはしない。事故っていいならトツカにぶっつけ本番で運転させるが?」
瑞雪の言葉にトツカがぴくりと反応を示す。
「命令とあらばやるが」
「うーん、今日は瑞雪ちゃんの運転が見たいなあ♡ほらほら、時間もないしさっさと行こうよ」
やる気満々のトツカに対し、ロセは露骨に話題を逸らす。
トツカが運転できるのかどうかは謎だが、したことがないことだけは確かだった。
そしてやったことのないことをトツカがすると、初見では基本的に悲惨なことが起こる。
マニュアルや指針があれば別だが。
トツカが瑞雪を見る。
「今度な。こいつらの車で運転させてもらおうか」
瑞雪とて事故らせるつもりは毛頭ないため、今度アレウたちの車で運転させてもらおうと言い放つ。
自分の車で運転させる気は……やはりなかった。
「おいおい、事故ったら弁償だぜ?弁償できるのか?坊ちゃんに」
「アレウさんの車、見たこともないくらい高そうなスポーツカーでした……」
そう、雲の上の金持ち。ここ数日で夏輝の二人に対する印象は変化していた。
元々裕福なんだろうなあとは思っていたが、次元が違う。
ラテアのメッセージにもたびたびそのことが書かれており、戦々恐々としていた。
「……予定は未定」
渋い顔をしつつ、瑞雪は車を急発進させた。
トツカがこのことを覚えていないことを瑞雪は祈るしかないのかもしれない。
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