青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比5 復讐に駆られる者たち

向かうものと阻むもの

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「朝早くから一体なんなんだよ~」

「フラグ回収早かったね、ラテア君」

 朝陽の駆る犬型の猟犬に跨り、二人は黒間市の空を駆けていた。
 犬は二人を軽々と乗せるほどの体躯をしている。
 非常に獰猛な猟犬だが、朝陽に対しては絶対服従を誓っている。勿論、月夜の事も決して傷つけず、守る。
 そう朝陽が躾けたからだ。
 目指すは件のカフェ。
 朝陽はイースターの一件で瑞雪の自宅は突き止めていたが、夏輝の家に関しては興味が一切なかったためノーマークだったのだ。
 
(だって、ただの新人だと思ってたし!住所は秋雨さんから教えてもらったけど、下調べはしてなかったんだよなあ。思ったよりもやるし、肝も据わってるやつだったけど)

 あれから気が付けばあれよあれよという間にひと月が経っていた。
 その間に何度も秋雨に勅使河原を始末しないのかと問うた。
 しかし、秋雨はいつものらりくらりとかわしてばかりだ。
 遠呂に聞いても面倒くさそうに秋雨に聞けの一点張り。

(どうにもノリ気じゃないみたいなんだよなあ。いつもあの二人で色々企んでるみたいだけど、俺にも月夜にも教えてくれないし!)

 別に朝陽としてはどれだけ一般人に被害が出ようとどうでもいい。
 ただ、毎日毎日ウサギ狩りばかりで酷く退屈だ。

「ま、今日は楽しめそうだけど」

「何?兄さん」

「最近つまんなかったし、傭兵ってどのレベルかなあってちょっと考えてただけ。拍子抜けするくらい弱かったらヤだな~って」

 ラテアの事は秋雨に命じられたのもあるが、暇つぶしというのが本命だ。
 狐がどうなろうと知ったこっちゃない。
 月夜の方はそれなりには心配しているのだけれども。

「ん”-……?イオの反応があるな」

 朝陽の猟犬が反応を感知し、小さく唸る。
 結界も張られており、確実に羊飼いがいるだろう。
 
「イオ?」

 月夜が反応を返し、朝陽は首を縦に振った。
 場所はカフェから少し離れた場所だ。
 カフェで戦うべからずというのは、黒間市に住む羊飼いであれば暗黙の了承だった。
 
「どうする?兄さん」

「まあ、敵でも夏輝でもラテアでも誰でもいいよ。敵ならぶちのめしてストレス発散できるし、そうじゃないなら回収して支部まで連れて行けばいいし。ってわけで行け!」

 腹を蹴ると犬が軽く呻き声を上げる。
 しかし、すぐにイオの反応があった方向へと空の上を走りだす。
 
「月夜、このまま突っ込むから気を付けて。俺にしっかり捕まっててね!」

 速度を上げ、イオの反応があった場所へと突っ込む。
 あとほんの少し。しかし、上から見下ろす限り周囲に羊飼いや猟犬の姿はない。
 道端に倒れる一般人しかいないのだ。

「別に戦ってるとかじゃないな……」

 警戒しつつ、猟犬から降りる。
 朝陽は指揮棒を、月夜は籠手を構える。
 
「でも、明らかにおかしいね。この辺り、こんな鬱蒼と草木が生い茂ってなかったもの」

「んだね。ジャングルかってえの」

 植木だけでなく、コンクリートの地面を割って樹々や蔦が生えてきていた。
 どこからどう見ても明らかに異常だった。

「探れ」

 朝陽が指揮棒を軽く振る。
 刹那、影から無数の鴉型の猟犬が空へと飛び出す。
 この数で調べれば、ものの数分もせず周囲一帯の状況が明らかになるだろう。
 あるいは。

「月夜、来るよ」
「うん、兄さん」

 調べられる前に先手を打とうと焦って、出てくるか。
 互いに顔を合わせもせず、小さく呟くのとほぼ同時に無数の植物の蔦が二人に向かって無茶苦茶な軌道を描いて伸びていく。
 
「兄さんに手は出させないよ」

 月夜が朝陽の前へと即座に躍り出る。
 勿論、自身が蔦の標的になるために。
 無数の蔦が月夜の四肢、胴体をとらえ絡めとる。しかし、月夜の顔に焦りは一切ない。
 何故なら。

「やれ」

 短く、一切の熱を感じさせない冷淡な命令。
 朝陽の言葉に足元の影が揺らめき、首輪を慎められたエルフが姿を現した。
 影の中に猟犬達や物品を忍ばせておくのは朝陽が新たに習得した魔法だ。
 こうして大量の猟犬達を持ち運び可能。
 先日のイースターでは猟犬をあまり連れていなかった。
 朝陽の強みを生かしきれなかったため、こうして弱点を克服する魔法を習得したのだ。

(ま、俺にかかればこの程度の闇魔法を覚えるの、屁でもないからねっ)

 エルフに血を渡せば炎のイオ、魔法を練り上げる。

「草には炎ってね。月夜に火傷の一つでも負わせてみろ、お前は処分するからな♪」

 とんでもなく理不尽な命令にエルフの額に冷や汗が浮かぶ。
 死に物狂いで炎の魔法を即座に紡ぐ。周囲一帯を焼き払うだけの、けれど双子を決して傷つけぬ魔法を。
 
「あ”-っ!駄目ッス!炎は駄目ッスぅ!」

 炎の輪がエルフを中心に広がっていき、蔦を、樹を燃やしていく。
 
「っていうか一般人まで巻き込むじゃないッスか!これじゃ人質にもならないッスよぉ~!」

 木の陰から現れたのは緑髪のラテアと同じくらいと思しき少年だった。
 その首にはしっかりと首輪が慎められており、猟犬であることが一目でわかる。
 服のすそを焦がしながら、それでも炎の直撃は免れたらしい。
 
「なあんだ、がっかり。ハズレじゃん」

 出てきたのがただの子供であることに、朝陽は心底がっかりしたと肩を落とした。
 
 

 

 
 
 

 
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