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EP3 復讐の黄金比5 復讐に駆られる者たち
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「アレウを置いてきて本当に大丈夫なのか?」
「んー、まあ大丈夫じゃない?強いし」
「いや、こっちの心配だけど」
結界内を疾走する俺とロセ。
駅と夏輝のアパートの中間地点付近まで俺たちは迫っていた。
「ああ、そっち?」
「俺もお前も戦闘得意じゃないじゃん」
俺の言葉にロセは肩をすくめるだけだ。
(ま、まあ何とかなるだろ……!)
駅までの道は段々とファーストフード店だとか、大きめのスーパーだとか人が多くなっていく。
そのあたり一帯も漏れなく結界が張られ、倒れ伏す地球人、壊れた建物、道からそれて事故った車。
不幸中の幸いなのは死人だけは見たところ出ていない点だろう。
遠くから聞こえる剣戟の音と感じられる大好きな人の匂い。
「合流するまで誰にも会わなきゃいいけど」
「そううまくいくかなあ」
応援に来てくれているはずなのに、どこかロセは他人事だ。
あるいは達観か。
聞いているとなんていうか、ムズムズする。
(そういえばロセって何の魔法を使うんだろう)
大通りは事故った車だらけで逆に進みづらい。
だから俺たちはわき道にそれつつ小道を走っていた。
アレウは火の魔法を使っているのを見たけど、ロセが魔法を使っているところを今のところ俺は一度も見ていない。
でかい瓦礫を避けながら進みつつ俺はちらりとロセの方を見る。
「どうしたの?ラテア君」
「なんでもねえよ」
ロセは人の気配に敏感だ。
多分、アレウよりも。
(ん?)
走っていると、進行方向から足音。
今現在結界内を突き進んでいるわけであり、動けるとしたら羊飼いか、あるいは猟犬か。
魔物という可能性もあるが、今は恐らく違うだろう。
「ロセ、前に誰かいる」
ぐるるっ。喉の奥から唸り声をあげつつ爪強化の魔法を展開。
ロセより一歩前を歩き、警戒を怠らない。
俺の五感はエデン人の中でも優れている。たとえ息を殺し、身を潜めていても察知できる。
「ん、わかったよ」
俺の言葉にロセは頷く。
警戒体制のまま、俺たちは狭い小道を進んでいった。
進むさ中、頭上にイオの反応。それと同時に真っ黒な影で覆われた。
上を見れば、巨大な悪趣味な鉄の像が俺たちの真上に出現し、今まさに落下してこようとしていた。
「うぉおおお!?」
思わず叫び、ロセの腕を掴んで全力で走りだす。
「んっ!?」
ロセは一瞬遅れて反応し、転びそうになりつつも何とか走り出した。
振り返らずただひたすら一直線に走る。
背後で凄まじい轟音と共に瓦礫が飛んでくる。
それなりの大きさの瓦礫が俺たちの身体を傷つけるが、かすり傷だ。気にするほどの事でもない。
小道から大通りに飛び出すと、そこには二人の人影が。
「ローズ、もうちょい優しくしろ。潰れたらどうすんだ」
「ちゃんと手加減してるわよ。ちょっと骨は折れるかもしれないけれど、即死はないわよ」
一人は昨日のエヴァンという男。もう一人は華奢なゴシック風の服に身を包み、髪もふわっふわに巻かれたツインテールの少女だった。
要するに見覚えがない。ついでにトロンが好きそうな感じのキラキラ女子だ。
キラキラ女子って言葉はちなみにテレビで覚えた。トロンがあんまりにも騒ぐからな。
ただ、その首には豪奢な首輪が慎められている。
「あの植物使いがこいつの猟犬じゃなかったのか!?」
「違うよ」
俺の問いに答えたのはエヴァンではなくロセだった。
「彼女-天族のローズがエヴァンの正式な猟犬だよ」
日差しに照らされる彼女の周囲には、確かにきらきらと光塵が舞っている。
天族の特徴ではあったが、俺の中の天族のイメージとローズはかけ離れていた。
「久しぶりね、ロセ。相変わらず綺麗ね。その美しさで男だなんて、女の子じゃないのが、本当に勿体ないわ」
「ローズ」
「わかってるわよエヴァン。ちょっとした挨拶じゃないの」
どうやらローズもロセの知り合いらしい。
エヴァンが知り合いなのだから当然と言えば当然か。
ローズに対し、エヴァンがやや苦いような、不機嫌そうなムスっとした顔つきになった。
そんなエヴァンにローズは軽く肩をすくめ、口を閉じた。
(あれ?ロセとこいつらが話してる間にこっそり離脱しても問題ないんじゃ?)
ちら、とロセの方を見ると先に行けと言わんばかりに視線で訴えかけられた。
「……お前ひとりで大丈夫?」
「大丈夫、こっちにも一応考えがあるから。さ、ラテア君は夏輝くんのもとに行ってあげて」
ひっそりと、小さく俺にしか伝わらないくらいの声量でロセは笑う。
(こいつらはともかくレイとシイナが心配だけど……でも、ここは言う通りにしよう。だって、夏輝が心配だ)
決して秤にかけているわけではない、と思いたい。
ただ、ロセがそう言っているから愚直に信じるだけだ。
そもそも俺はアレウとロセの真っ当な実力を知らない。
変な心配をするよりかはさっさとこの場を離れたほうがきっとロセにとってもいいのだろうと割り切る。
(早く……早く夏輝のとこに行かねえと)
すぐ傍まで剣戟の音は聞こえているのだ。
あと少し、ほんの少し走ればたどり着ける。
俺は再び走り出した。
「んー、まあ大丈夫じゃない?強いし」
「いや、こっちの心配だけど」
結界内を疾走する俺とロセ。
駅と夏輝のアパートの中間地点付近まで俺たちは迫っていた。
「ああ、そっち?」
「俺もお前も戦闘得意じゃないじゃん」
俺の言葉にロセは肩をすくめるだけだ。
(ま、まあ何とかなるだろ……!)
駅までの道は段々とファーストフード店だとか、大きめのスーパーだとか人が多くなっていく。
そのあたり一帯も漏れなく結界が張られ、倒れ伏す地球人、壊れた建物、道からそれて事故った車。
不幸中の幸いなのは死人だけは見たところ出ていない点だろう。
遠くから聞こえる剣戟の音と感じられる大好きな人の匂い。
「合流するまで誰にも会わなきゃいいけど」
「そううまくいくかなあ」
応援に来てくれているはずなのに、どこかロセは他人事だ。
あるいは達観か。
聞いているとなんていうか、ムズムズする。
(そういえばロセって何の魔法を使うんだろう)
大通りは事故った車だらけで逆に進みづらい。
だから俺たちはわき道にそれつつ小道を走っていた。
アレウは火の魔法を使っているのを見たけど、ロセが魔法を使っているところを今のところ俺は一度も見ていない。
でかい瓦礫を避けながら進みつつ俺はちらりとロセの方を見る。
「どうしたの?ラテア君」
「なんでもねえよ」
ロセは人の気配に敏感だ。
多分、アレウよりも。
(ん?)
走っていると、進行方向から足音。
今現在結界内を突き進んでいるわけであり、動けるとしたら羊飼いか、あるいは猟犬か。
魔物という可能性もあるが、今は恐らく違うだろう。
「ロセ、前に誰かいる」
ぐるるっ。喉の奥から唸り声をあげつつ爪強化の魔法を展開。
ロセより一歩前を歩き、警戒を怠らない。
俺の五感はエデン人の中でも優れている。たとえ息を殺し、身を潜めていても察知できる。
「ん、わかったよ」
俺の言葉にロセは頷く。
警戒体制のまま、俺たちは狭い小道を進んでいった。
進むさ中、頭上にイオの反応。それと同時に真っ黒な影で覆われた。
上を見れば、巨大な悪趣味な鉄の像が俺たちの真上に出現し、今まさに落下してこようとしていた。
「うぉおおお!?」
思わず叫び、ロセの腕を掴んで全力で走りだす。
「んっ!?」
ロセは一瞬遅れて反応し、転びそうになりつつも何とか走り出した。
振り返らずただひたすら一直線に走る。
背後で凄まじい轟音と共に瓦礫が飛んでくる。
それなりの大きさの瓦礫が俺たちの身体を傷つけるが、かすり傷だ。気にするほどの事でもない。
小道から大通りに飛び出すと、そこには二人の人影が。
「ローズ、もうちょい優しくしろ。潰れたらどうすんだ」
「ちゃんと手加減してるわよ。ちょっと骨は折れるかもしれないけれど、即死はないわよ」
一人は昨日のエヴァンという男。もう一人は華奢なゴシック風の服に身を包み、髪もふわっふわに巻かれたツインテールの少女だった。
要するに見覚えがない。ついでにトロンが好きそうな感じのキラキラ女子だ。
キラキラ女子って言葉はちなみにテレビで覚えた。トロンがあんまりにも騒ぐからな。
ただ、その首には豪奢な首輪が慎められている。
「あの植物使いがこいつの猟犬じゃなかったのか!?」
「違うよ」
俺の問いに答えたのはエヴァンではなくロセだった。
「彼女-天族のローズがエヴァンの正式な猟犬だよ」
日差しに照らされる彼女の周囲には、確かにきらきらと光塵が舞っている。
天族の特徴ではあったが、俺の中の天族のイメージとローズはかけ離れていた。
「久しぶりね、ロセ。相変わらず綺麗ね。その美しさで男だなんて、女の子じゃないのが、本当に勿体ないわ」
「ローズ」
「わかってるわよエヴァン。ちょっとした挨拶じゃないの」
どうやらローズもロセの知り合いらしい。
エヴァンが知り合いなのだから当然と言えば当然か。
ローズに対し、エヴァンがやや苦いような、不機嫌そうなムスっとした顔つきになった。
そんなエヴァンにローズは軽く肩をすくめ、口を閉じた。
(あれ?ロセとこいつらが話してる間にこっそり離脱しても問題ないんじゃ?)
ちら、とロセの方を見ると先に行けと言わんばかりに視線で訴えかけられた。
「……お前ひとりで大丈夫?」
「大丈夫、こっちにも一応考えがあるから。さ、ラテア君は夏輝くんのもとに行ってあげて」
ひっそりと、小さく俺にしか伝わらないくらいの声量でロセは笑う。
(こいつらはともかくレイとシイナが心配だけど……でも、ここは言う通りにしよう。だって、夏輝が心配だ)
決して秤にかけているわけではない、と思いたい。
ただ、ロセがそう言っているから愚直に信じるだけだ。
そもそも俺はアレウとロセの真っ当な実力を知らない。
変な心配をするよりかはさっさとこの場を離れたほうがきっとロセにとってもいいのだろうと割り切る。
(早く……早く夏輝のとこに行かねえと)
すぐ傍まで剣戟の音は聞こえているのだ。
あと少し、ほんの少し走ればたどり着ける。
俺は再び走り出した。
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