青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比5 復讐に駆られる者たち

予想外の襲撃

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(一体、何が……!?)

 道行く人々が皆ばたばたと倒れていく。
 勿論、結界が展開されたからだ。

「な、夏輝……っ。一体何が起こってるの!?」

「ノア……」

 すぐ後ろから聞き慣れた声。
 ノアも倒れたと思いきや、ぴんぴんしていた。
 ただ、周りの人間がバタバタと倒れたものだから不安そうにはしていたが。

(あれ?何でノアは倒れてないんだ?いや、それより誰が結界を張ったんだ?何が目的で!?)

 落ち着け、と自分自身に言い聞かせる。

「ちょっと説明してる暇はないかも……ノア、俺から離れないで」

 神経を研ぎ澄ませ、周囲を索敵する。
 カバンから短剣を取り出し、鞘から抜く。

「え、え!?わ、わかったけどそれ、本物!?」

 普通の一般人からしてみればノアの反応がどう考えたって正常だ。
 夏輝も自分が初めて瑞雪と出会ったときは似たような反応を示していた事をはっきりと覚えている。
 そもそもそこまで昔というわけでもないのだから。

「そうだね。本物だ、よっ!」

 背後に気配。
 同時に何かが飛来物が飛んでくるのを察知し、ノアの首根っこを掴み軌道から飛んで逃れる。
 刹那。

「っ……うっそ、銃弾!?」

 道路に銃弾が着弾する。着弾した箇所のコンクリートは軽く抉れていた。
 まるで映画か何かのよう。
 そもそも魔法攻撃ですらなく、夏輝は弾の飛んできた方向を見やる。

「あんがいすばやい」

 気の抜けた声。屋根の上に陣取る、アサルトライフルを構えた夜色の髪の男が視界に入る。
 季節外れのノースリーブにマフラー、ちぐはぐな格好だった。
 というより、服などどうでもいい。
 服なんかよりもよほど目を引くものを男は所持していたのだ。

「え、ライフル!?」

「なななななな夏輝、いったい何したの!?あれってヒットマンでしょ!?」

 ノアが悲鳴を上げる。
 とにかくこんな往来の真ん中では銃弾を防ぎようもない。
 夏輝はそのままノアを掴んだまま建物の影へと避難する。

「ヒットマンっていうか、敵だけど……!説明してる余裕はないから、後ででいい!?」

 一言話す間に銃弾が何発も飛んでくる。
 救いは大して狙いが定まっていないことだ。
 雑に弾をばらまいている、そう感じる。

「トロン、ラテアに連絡を!」

『わかったわ!』

 夏輝の言葉にトロンが頷き、ラテアに襲撃を受けたと連絡を送る。
 勿論、支部にラテアから連絡してもらえるように頼んで。
 
(ラテアは狙われてる、だから来ちゃだめだ。朝陽さんや月夜さんが応援に来てくれれば……!)

 瑞雪に来てもらうのは無理だ。
 故に夏輝の脳裏に真っ先に浮かんだのはあの双子の姿だった。

(それまで何とか持ちこたえなきゃ……!ノアも絶対に、守る!)

 アレウの言葉が本当なら、夏輝は今魔法を使えるはずだ。
 勿論、ラテアがいる時ほど使えるとは思えない。
 しかし、対抗手段があるのとないのではまるっきり違う。
 短剣を構え、目を閉じ、自らの中にあるマナを感じ取る。

(ある……!確かに、ある!荒れ狂う風のマナが……!)

 目をかっぴらき、夏輝は自ら開けた道路へと飛び出す。
 降り注ぐ銃弾の雨、と思いきや銃弾は降ってこない。代わりに。

「えへへ、後ろだよぉ」
「っ!?」

 一切の気配も動きも感じさせないまま、先程の男が背後へと回り夏輝の背中を蹴り飛ばす。
 凄まじい力に肺から空気が漏れ、背骨が軋む。
 勢いのままにコンクリートの地面に叩きつけられるも、風をクッション代わりに何とか受け身を取り距離を稼ぐ。

「やばい、そっちにはノアが……!」

「一般人に興味はないかも。だって、戦えないでしょ?反応がいいね、ふれっしゅだねえ」

 慌てかける夏輝に対し、男は楽し気に笑っている。
 
「俺はね、夜一って言うんだぁ。お前なら襲っていいし、反撃もしてくると思うって冬真が言ってたからさ、ね、遊んで?」

 一方的な自己中すぎる自己紹介。
 夜一と名乗った男はアサルトライフルを片手にそう宣った。
 
「日本で銃なんてどこから……」

 冷や汗がだらりと頬を伝い落ちる。
 夜一は銃口をこちらに向けず遊んでいる。
 しかし、あれで撃たれれば場所によってはいくら魔法使いだって死ぬだろう。

(まさか、銃なんて使ってくる相手がいると思っていなかった)

 ここは現代日本だというのに。
 幸いにも一般人に興味を持っていないのだけが救いだった。
 リーチ的に言えば圧倒的に夜一が有利だ。

(風をバリア代わりに距離を詰めるしかない……!銃を撃たせちゃだめだ!)

 夜一は夏輝からどうぞとでも笑みを浮かべたまま動かない。
 その様子は人らしさを感じず、不気味にすら思えた。
 そもそも何の魔法を使えるのか、猟犬はどこなのかすらわからない。

「夏輝、危ないよっ!銃相手にどうするつもりなんだよ!」

「いいから、流れ弾に当たらない位置にいてっ!」

 ノアが出てこようとするのを押しとどめ、夏輝は魔法を詠唱。
 荒れ狂う嵐を身にまとい、じぐざぐに走り狙いを定めさせない。
 夜一はそんな夏輝に対し、迷うことなく銃を地面へと投げ捨てた。

「えっ」

 目を見開く夏輝。
 一瞬動きに迷いが生じ、それを夜一は見逃さない。
 刹那、夏輝の腕に裂傷が走る。

(これ以上進んじゃ駄目だ!)

 野生の獣のような反応速度で飛びのき、夜一に向かって風の刃を複数飛ばす。
 夜一もまたそれに反応し、上空へ向かって飛び、屋根の上へと着地する。
 
「あら、ちょっぴりしか斬れなかったぁ」

「見えない、刃……?そもそも何で銃を」

 残念がる夜一の顔に焦りは見えない。
 何せ自分から銃をぶん投げたのだ。
 
「だって、俺銃好きじゃないも~ん。冬真から持たされたから使ってるけどさあ。それよりも」

 夜一は何も持っていない手で招き、夏輝を誘う。

(この人、別の人間の名前を言ってた……こいつらがラテアを狙ってる傭兵?だとしたら、ラテアも襲われてるのか!?)

 しかし、目の前の男は同にもつかみどころがない。
 まるで妖精のようにふわふわとしている。
 ただ、戦うことが好きということ、そしてどこからともなく見えない刃を飛ばしてくるという事しか情報がない。

「本気もっと出して?つまらないもん。俺つまらないよぉ」

「……ほかに仲間は?」

「勿論いるよぉ。君、えーっと、名前忘れた。名前忘れた君の相手をするのが俺の担当ってだけで」

 案外隠しもせず夜一は話してくれる。
 リーチを少しでも伸ばすべく、風のエンチャントを短剣に展開。
 しかし、そもそも。

(この人、接近戦が多分強い……!)

 夜一を観察すれば、トツカほどではないものの鍛え上げられた上腕や胸板が見える。
 先程のアサルトライフルも反動などものともせず片手で持って撃っていた。
 夏輝が同じことをすれば恐らく反動で取り落としたり、関節が外れていたに違いない。

(なら、距離を取って魔法攻撃をっ!)

 夜一から距離を取り、風ではなく光魔法、レーザーを乱射する。
 
「案外多彩かも。いいね」

 しかし、悲しいかな夏輝はノーコンで、彼もまた近接寄りの才能の持ち主なのだ。
 レーザーはネズミのような群体相手であれば適当に薙ぐだけで当たったが、対人は違う。
 器用にレーザーの隙間を避け、夜一はこちらに向かって接敵。
 
「ぱんちぱーんち」

「遊んでます、よねっ……!舐めてると痛い目見ますよっ……!」

 戯れる子猫のように殴り掛かってくる夜一。
 しかしそのパンチの速度と重みは子猫ではなく獅子の如く。
 身体強化魔法を展開し、夏輝は応戦する。
 
(……やっぱり、ラテアが一緒の時より出力は段違いで落ちてる。何とか、しないとじり貧だ……)

 相手の実力は未だ底知れない。
 大通りは既に倒れた人間を巻き込まない範囲で瓦礫の山になっている。
 
「さ、もっと楽しませてねえ~」

 夜一の笑みは三日月を描く。
 ただただ戦いを楽しむ無邪気な笑みだった。

(思えば学校でも似たようなことがあったな。あの時は月夜さんに助けて貰ったけど……自分一人でも切り抜ける力が、なきゃ!)

 戦いはどうやらまだ終わりそうにない。

 





 
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