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EP3 復讐の黄金比4 秘されたモノ
再び御絡流の会本部へ
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(腰が……痛い、痛いが休めん)
ずきずきと鈍い痛みがずっと腰を中心に全身に広がっている。
あれから起きたのは昼前で、約束の時間ギリギリだった。
慌てて身なりを整え車に飛び乗り本部へと向かった瑞雪とトツカ。
車体に映った自分はひどく疲れて見える。
(……駄目だ、隠さないと死ぬ)
コンビニで栄養ドリンクを何本か買って飲む。
トツカはあまりいい顔をしなかったが、お前のせいで疲れが取れていないと脅すようにボヤけばそれ以上は何も言わなかった。
飲んで暫く運転席で休み、再び運転士本部の駐車場へと停める。
本部の受付に行けばまだ来たのか、なんて不躾な視線やら好機の視線やらを向けられる。
「待っていたよ瑞雪。よく来たね」
「……さっさと案内してくれ」
暫く待つと、わざわざ祖父がやってきた。
顔には相変わらずの気持ちの悪い人好きのする笑みをべったりと貼り付けている。
國雪とわざわざ会話を交わしたくもなく、用件だけを伝える。
「まあまあ、そう言わずに。地下の研究フロアの方に伝えておいたから瑞雪の名前を伝えれば会えるだろう。その間、トツカのメンテナンスをするから終わったら迎えにおいで」
「はぁ?聞いてないが」
いきなり一切聞いていなかったことを言いだされ、瑞雪は思わず低いドスの効いた声を喉の奥から吐き出す。
トツカを見る。何の疑いもなくそれを受け入れ頷く。
「生まれたばかりの人造猟犬だからね。一か月経過で戦闘も多々あった。メンテナンスを行うことは何もおかしいことじゃないだろう?」
「……」
祖父の言葉は普通に別の人間、例えば俵や権田、秋雨に言われれば瑞雪は素直に聞き入れただろう。
何も間違ってはいない。メンテナンスは確かに必要なのかもしれない。
だが。
(信用できない……俺がいない間に何かトツカにするんじゃないか?もしくは、吹雪を送り込むんじゃないか?)
後者に関しては恐らくはないと思いつつ、どうしても不安が拭えない。
かといって、祖父の申し出を断ることもできない。理由がない。
小さく息を吸い、吐く。
「わかった。終わり次第メンテナンスルームに迎えに行けばいいか?」
「ああ、それで構わないよ」
にこりと人好きの笑みを浮かべ、國雪が頷く。
「おいで、トツカ」
「わかった、主」
一つ頷き、トツカは國雪の隣へと移動する。
主。トツカは祖父をそう呼んだ。
(わかってはいたが、こいつの絶対的な主人は糞爺だ。わかっていたことだし、今更だ。こいつは命令されて俺の猟犬をやっているだけなんだから)
絆されてはいけない。
きっと祖父は何かを企んでいる。
そう心に刻む。
國雪に連れられ、トツカは瑞雪を振り返らずそのままエレベーターに乗り込む。
瑞雪もまた研究錬行きのエレベーターへと乗り込んだ。
鉄の扉に自分の顔が映る。
(相変わらず不景気な顔をしている)
瑞雪は心の中で自嘲した。
「トツカ、瑞雪とはうまくやれているかい?」
エレベーターの中、國雪はにこにこと愉し気にトツカに問う。
トツカは國雪の傍らに寄り添うように仁王立ちしたまま動かない。
「うまくやれている。問題はない」
「そうか、よかったよ。瑞雪は気難しいからね。この一か月の間に何があったか教えてくれるかい?」
「承知した」
鉄の箱がどんどん下へと降りていく。
僅かな重力を感じるのみで、静かな空間だ。
國雪の言葉にトツカは頷き、一か月の間に起こったことを全て報告する。
と言っても、その内容はトツカの主観のものでしかない。
それでも國雪は愉し気にその内容を聞いていた。
「へえ、瑞雪とセックスしたんだ、君は」
その中には勿論、瑞雪と身体をつなげたことも含まれている。
そのことを聞き、國雪は興味深そうに目を細めた。
「ふふふ、瑞雪は君を気に入ったようだ。いい子だね、トツカ。流石は優秀な猟犬だ。私も鼻が高いよ」
誉め言葉にトツカは誇らしげに胸を張った。
言葉の額面通りにしかトツカは受け取れない。
まだ生まれてひと月と少しの赤ん坊なのだから当然だった。
「……これなら計画通りにいきそうだ。トツカ、ちゃんと瑞雪を守ってあげるんだよ」
「?当たり前だ。俺は瑞雪の猟犬だ」
含みのある言葉にトツカは疑問を持たない。
首を傾げ、ただ当然だと口にする。
國雪の望む通りに。
地下へとたどり着く。國雪が外へ出ると、トツカもそれに続く。
扉が開いた先は無機質な機械で出来た通路だ。
「そうだね、実に頼もしいよ。それと」
釘をさすように、國雪は微笑みながらトツカを振り返る。
薄く不健康そうな色の悪い唇を開き、にたりと蛇のような捕食者の笑みを浮かべた。
「何があっても私の命令を一番に聞きなさい。瑞雪の命令よりも、ね。ああ、勿論この事は瑞雪には秘密だよ。今日私が聞いたことは一切口外してはいけない」
ずきずきと鈍い痛みがずっと腰を中心に全身に広がっている。
あれから起きたのは昼前で、約束の時間ギリギリだった。
慌てて身なりを整え車に飛び乗り本部へと向かった瑞雪とトツカ。
車体に映った自分はひどく疲れて見える。
(……駄目だ、隠さないと死ぬ)
コンビニで栄養ドリンクを何本か買って飲む。
トツカはあまりいい顔をしなかったが、お前のせいで疲れが取れていないと脅すようにボヤけばそれ以上は何も言わなかった。
飲んで暫く運転席で休み、再び運転士本部の駐車場へと停める。
本部の受付に行けばまだ来たのか、なんて不躾な視線やら好機の視線やらを向けられる。
「待っていたよ瑞雪。よく来たね」
「……さっさと案内してくれ」
暫く待つと、わざわざ祖父がやってきた。
顔には相変わらずの気持ちの悪い人好きのする笑みをべったりと貼り付けている。
國雪とわざわざ会話を交わしたくもなく、用件だけを伝える。
「まあまあ、そう言わずに。地下の研究フロアの方に伝えておいたから瑞雪の名前を伝えれば会えるだろう。その間、トツカのメンテナンスをするから終わったら迎えにおいで」
「はぁ?聞いてないが」
いきなり一切聞いていなかったことを言いだされ、瑞雪は思わず低いドスの効いた声を喉の奥から吐き出す。
トツカを見る。何の疑いもなくそれを受け入れ頷く。
「生まれたばかりの人造猟犬だからね。一か月経過で戦闘も多々あった。メンテナンスを行うことは何もおかしいことじゃないだろう?」
「……」
祖父の言葉は普通に別の人間、例えば俵や権田、秋雨に言われれば瑞雪は素直に聞き入れただろう。
何も間違ってはいない。メンテナンスは確かに必要なのかもしれない。
だが。
(信用できない……俺がいない間に何かトツカにするんじゃないか?もしくは、吹雪を送り込むんじゃないか?)
後者に関しては恐らくはないと思いつつ、どうしても不安が拭えない。
かといって、祖父の申し出を断ることもできない。理由がない。
小さく息を吸い、吐く。
「わかった。終わり次第メンテナンスルームに迎えに行けばいいか?」
「ああ、それで構わないよ」
にこりと人好きの笑みを浮かべ、國雪が頷く。
「おいで、トツカ」
「わかった、主」
一つ頷き、トツカは國雪の隣へと移動する。
主。トツカは祖父をそう呼んだ。
(わかってはいたが、こいつの絶対的な主人は糞爺だ。わかっていたことだし、今更だ。こいつは命令されて俺の猟犬をやっているだけなんだから)
絆されてはいけない。
きっと祖父は何かを企んでいる。
そう心に刻む。
國雪に連れられ、トツカは瑞雪を振り返らずそのままエレベーターに乗り込む。
瑞雪もまた研究錬行きのエレベーターへと乗り込んだ。
鉄の扉に自分の顔が映る。
(相変わらず不景気な顔をしている)
瑞雪は心の中で自嘲した。
「トツカ、瑞雪とはうまくやれているかい?」
エレベーターの中、國雪はにこにこと愉し気にトツカに問う。
トツカは國雪の傍らに寄り添うように仁王立ちしたまま動かない。
「うまくやれている。問題はない」
「そうか、よかったよ。瑞雪は気難しいからね。この一か月の間に何があったか教えてくれるかい?」
「承知した」
鉄の箱がどんどん下へと降りていく。
僅かな重力を感じるのみで、静かな空間だ。
國雪の言葉にトツカは頷き、一か月の間に起こったことを全て報告する。
と言っても、その内容はトツカの主観のものでしかない。
それでも國雪は愉し気にその内容を聞いていた。
「へえ、瑞雪とセックスしたんだ、君は」
その中には勿論、瑞雪と身体をつなげたことも含まれている。
そのことを聞き、國雪は興味深そうに目を細めた。
「ふふふ、瑞雪は君を気に入ったようだ。いい子だね、トツカ。流石は優秀な猟犬だ。私も鼻が高いよ」
誉め言葉にトツカは誇らしげに胸を張った。
言葉の額面通りにしかトツカは受け取れない。
まだ生まれてひと月と少しの赤ん坊なのだから当然だった。
「……これなら計画通りにいきそうだ。トツカ、ちゃんと瑞雪を守ってあげるんだよ」
「?当たり前だ。俺は瑞雪の猟犬だ」
含みのある言葉にトツカは疑問を持たない。
首を傾げ、ただ当然だと口にする。
國雪の望む通りに。
地下へとたどり着く。國雪が外へ出ると、トツカもそれに続く。
扉が開いた先は無機質な機械で出来た通路だ。
「そうだね、実に頼もしいよ。それと」
釘をさすように、國雪は微笑みながらトツカを振り返る。
薄く不健康そうな色の悪い唇を開き、にたりと蛇のような捕食者の笑みを浮かべた。
「何があっても私の命令を一番に聞きなさい。瑞雪の命令よりも、ね。ああ、勿論この事は瑞雪には秘密だよ。今日私が聞いたことは一切口外してはいけない」
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