青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比3 すれ違いと思春期

無計画な奴ら

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「……失念していた、この時期に外に泊まりに出るなんてこと今までなかったんだよ」

『ぎゅ、ぎゅぃ……』

 本部の駐車場。
 あの後スマホを確認すると祖父から明日の昼頃おいで、会わせてあげるよというメッセージが入っていた。
 吹雪と一触即発の事態になる羽目になったが、それでも成果はあった。
 まあ、最悪な気分になりかけたが。
 で、次なる問題が浮上したのである。

「そうだ、GWだった……」

 GW中にT都内でホテルを当日取ろうなんてあまりにも無計画すぎた。
 どこのホテルも満室で、先程から片っ端から電話をかけまくっているが成果はない。
 フクもサイトを確認してくれているが駄目なようだった。
 ひとまず吹雪がまた来るかもわからない。
 本部からは離れようと車を発進させた。

「どうしたんだ?」

「ホテルが取れない。言っておくが実家には戻らないし本部の宿泊施設は使わない」

 どうしても嫌なものは嫌だ。
 先回りして瑞雪はやや不機嫌にぴしゃりと言ってのける。

「お前が兄と仲が悪いのはよくわかった。無理強いはしない」

「……理解できたのか」

「それくらいは可能だ」

 瑞雪の声音は心底驚いたという声だった。
 トツカはまあいつも通りの無表情でありながら胸を張っている。

「まあ、その……さっきは助かったよ。本当にな。お前があっち側についたら今頃俺は実家に連れ戻されて下手すりゃ二度とK県に戻れないところだった」

 信じ切れなかったことやらなにやら、ほんの少しの罪悪感と感謝が胸の中に渦巻き、それを吐露する。
 ごまかすことも出来たが、それは違うと何かが叫んだのだ。

「二度と……そこまで仲が悪いのか?主に相談すれば……」

「それはできないんだよ」

 トツカも悪気があるわけではない。
 最も高い優先順位、そして信頼を置いている相手が祖父というだけだ。
 だから、努めて穏やかな声音で瑞雪はトツカに返答を返した。

「まあ、そういうわけだからネカフェか、最悪車中泊だ」

 座席を倒せば何とか寝れるだろう。

「しかし、今日だけならともかく数日規模なら瑞雪も疲れてしまうのではないか?」

「そこは仕方ない。泊まるよりマシだ」

 オフィス街を離れ繁華街の道を通る。
 ぎらぎらと輝くネオンはK県の物よりも派手でどぎつく感じる。
 何故わざわざこの道を通っているのかと言えば、吹雪が嫌って通らなさそうな道だからに他ならない。

「瑞雪」

「なんだ?」

「あそこにもホテルと書いてある。問い合わせたのか?」

 こんな場所にホテルなんてあっただろうか?
 トツカの言葉に瑞雪は彼の見ている方に視線を向ける。
 そこにあったのはぎらぎらとどぎついピンク色のネオン看板。
 ようするに。

(ラブホじゃねえか……!)

 心の中で叫ぶ。
 思わず変な方向にハンドルを切りそうになったがギリギリ踏みとどまる。
 こんなことで事故ったら笑えない。

「っは、はあ……くそっ」

「どうした?瑞雪」

 泊まりたくない。
 泊まりたくはないが……。

「……お前はホテルに泊まりたいのか?」

 今日はトツカに助けて貰った手前、トツカの意見も聞くべきであるとそう判断した。
 してしまった。
 暗い車内の中、フクだけが画面上で心配そうにあわあわとトツカと瑞雪を見比べていた。

「瑞雪にはできる限りちゃんとしたベッドで休んで欲しい。今日も首を絞められかけていた。心配だ」

 一番断りにくい理由を述べてきたトツカに思わず渋い顔になる。
 
(まあ、どういう場所か話さなければ問題はないか。ないはず……ないだろ?そもそも今日はGW出しここも満室だろう。カップルだらけだろ?こういう時って)

 ラブホなんて行ったことも、行こうと思ったことも一度とてないからわからない。
 結局駄目だと断じるもっともらしい理由なんて思い浮かばず、小さく息をついてから頷く。

「わかった」

「よかった。空いているといいな、瑞雪」

「……」

 空いていないほうがいいなんて言えない。
 そのままホテルの駐車場に停め、フロントに向かう。
 誰ともすれ違わなかった事だけが救いかもしれない。

「一番高い部屋なら一部屋丁度空いておりますが」

 表の看板こそ目立ったものの、内装は極めてモダンで清潔感のある印象だ。
 待合室に人が溢れている……なんてことはなく、受付の若い男が一人いるだけだ。
 受付は営業スマイルで愛想よくそう伝えてきた。

「大変ですよね、GW中ですからどこも埋まっていたでしょ?そういうお客さんも今日は多いんですよ」

「そう……ですね。ええと、では……一部屋借ります。休憩じゃなくて泊まりで」

「ありがとうございます!連泊も可能ですので気軽にお申し付けください」

 背後からの無言の圧。
 瑞雪はその圧に屈した。そもそも助けて貰った恩を忘れてやっぱり借りないなんて言えるほど瑞雪は人でなしではなかった。
 予算がどうたらこうたらと理由を述べればトツカは引き下がったかもしれないが、緊張の

「よかったな、瑞雪。泊まれるぞ」

「そうだな。うん。早く部屋に入って休もう……」

 さっさと寝たい。祖父と兄に会ったことで肉体的にも精神的にも思えばギリギリだ
 
「お前はそういえば夕飯は?」

「そういえば食べていないが、食べなくても問題はない。俺は刀だからな」

「そうだったな。まあでも俺も腹が減ってきたから何か食うか……」

 料亭で食べたものなど全く味もしなかったし食べた気がしなかった。
 鍵を渡され部屋に入る。
 中はとにかく広く豪華だ。そして当然。

(わかってたがベッドが一つしかない……)

 キングサイズのダブルベッドがでえんと一つ。
 天蓋付きのようなメルヒェン仕様ではないのがまだ救いがあったが、それでもキツいものはキツい。
 出費はこの際どうでもいいが、視覚的なエグさがキツかった。
 
「瑞雪、見たことがない位ベッドが大きいぞ」

「……そうだな。俺はソファで寝るからお前が寝ていいぞ」

「?これだけ大きいのだから一緒に寝ればいいだろう」

 心なしかトツカの声がうきうきしている気がする。
 部屋に入り、探索に歩き出す。
 上着を脱ぎ、ハンガーにかけ、ベッドに腰掛ける。
 自宅のベッドよりも数倍柔らかく、跳ねそうになる。
 シャツの前を開け一息つく。

(何日滞在する羽目になるかもわからないからコインランドリーでシャツと下着だけは洗わないと)

 スマホで明日以降空いているビジネスホテルを検索する。
 が、まあどこも駄目で。
 フクが心配そうに瑞雪の顔を覗き込んでくる。

「……大丈夫だ、ベッドがでかくて風呂が広いただの部屋だから」

 この時、フクの目からは完全に瑞雪の目がすわって見えていたのだが、瑞雪がそれを知る由もない。

「瑞雪、これは何に使うんだ?」

 さてルームサービスのメニューでも見ようと手を伸ばしたところで部屋を探索しに行ったトツカが戻ってきた。
 目ざとく見つけたのは部屋の隅っこにある所謂大人の玩具の自販機だった。
 瑞雪は当然のように頭を抱える羽目になったのは言うまでもない。
 
 
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