青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比3 すれ違いと思春期

竜と淫魔と獣と

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「……隠してないんスね」

 全く異質な存在であることを隠しもしない。
 堂々たる立ち振る舞いだった。

「何故隠す必要があるんだ?むしろこっちの方が目立って敵から来てくれるだろうがよ」

「なる、ほど?俺みたいな弱小種族からは考えられない派手な客寄せっすね。ちょっとこっちに。あんたは困らなくても俺たちは困るんで」

 声をかけてきた女の事をレイは知っている。
 彼女はカタマヴロスレイと同じくエデンから目的をもってやってきた竜だ。
 種族的にはレイとは正反対の上位種族。
 レイはスパイだ。
 故に情報収集の過程で彼女がどこに潜伏しているのかは把握していたが、まさかこんなところで偶然出会うとは。
 
「おう、そりゃ悪かったな」

 さして悪びれもせず、カタマヴロスはレイとシイナを見下ろす。
 レイもシイナもそこまで小柄な方ではなかったが、それ以上の彼女は背が高い。
 翼や尾、角はそんな彼女をさらに大きく見せる。

「えと、誰?」

「そっちこそ誰だよ」

 レイの背後にシイナが隠れ、半分ほど顔を出す。
 
「あー、俺が紹介する。カヴロの姉御、こいつはシイナ。俺の友達で人工的に創り出されたエデン人、って言ったらいいのかな。そんな感じ。んで、シイナ。この人はカタマヴロス、俺はカヴロの姉御って呼んでる。竜だ。あー、話せばえーと、うーん、長くなるんだけど」

 悩みつつも、シイナにはそろそろある程度打ち明けても問題ないのではなかろうかと、そう思う。
 というより、これ以上シイナに対して隠し事をすることが心苦しくなってきたのだ。
 全くもって、スパイ

「姉御、こいつにちょっと説明するから待っててもらえる?」

「ああ。構わないぜ」

 シイナの肩を抱き、ある程度の説明をする。
 レイが本当はエデン人であること、目的自体は本当で嘘偽りはないこと。
 それと一緒に地球の情報を集めていること。
 勅使河原に敵対するつもりは、今のところはないこと。
 それらを一つ一つシイナにもわかりやすいように噛み砕いて説明して見せる。

「ええと」

 シイナは少し困った顔をした。

「レイは俺に話してくれた、俺はレイの事好き。……ご主人様に敵対しないなら、内緒にしておく」

 それなりの長さの沈黙の後、シイナはそう結論を出した。
 じぃっとレイを見つめるシイナの瞳には一点の曇りもない。

「レイと一緒に居たいから」
 
「可愛いやつだな……!」

 弟がもしもいたとしたらこんな感じなのだろうか?
 ぐしぐしとシイナの頭をかき混ぜていると、カヴロはどこか遠い目をしていた。
 悼むような、懐かしむような。
 しまった、とレイは慌てて手を止める。

「ごめん姉御。俺は今は別のところで情報収集してて。ちなみにまだ叔父さんは見つかってない。そっちは?」

 レイは彼女の事情を知っている。
 彼女が妹を探しにここへ来たこと。
 そして勅使河原がその妹-グリーゾスを壊し、ラテア達に手をかけさせたこと。

「ああ。妹は……間に合わなかった。殺されてた。だから、アタシは今敵を討つために動いてるんだ。黒髪の子供と光に当たると虹色に輝く髪を持つ狐、ポニーテールの男。この三人だ」

 勿論、知っていますとも。
 その三人の事も、本当の仇の事も。

「心当たりとかないか?」

「んー……」

 シイナが馬鹿正直に話そうと口を開くのをさりげなく抱き込んで阻止する。
 驚いたからか耳と尾っぽが現れ、尻尾がぺしぺしとレイを叩く。
 
(……竜とあいつらが戦えばまあ確実に殺される。俺は別にあいつらに恨みはないし、流石にちょっと良心っぽいものが痛む。そもそも妹が死ぬ原因を作ったのはあいつらじゃない。だが、真犯人を教えると今度はシイナが死にかねない。……適当にはぐらかすしかないな)

 そう結論付け、レイは口を開き説明する。
 レイにも多少なりの人の心くらいは存在した。
 
「そうか……」

「もし何かわかったらすぐ教えるよ」

 明らかに肩を落としため息をつくカタマヴロス。
 彼女のたった一人の家族。
 自らの命よりも大切だっただろう。
 レイとて家族を探しているのだからよくよくわかる。

(結構あいつら目立つと思うんだけど……姉御、脳みそまで筋肉で出来てそうだからなあ)

 竜という種族に天敵がいないということもあり、基本的に竜をはじめ上位種族というものは傲慢だ。
 とはいえ彼女はその中でもかなり付き合いやすい方だろう。
 文字通り竜の逆鱗にさえ触れなければ。
 カヴロはそのまま空へ舞い飛んでいく。
 
(バレそうなもんだけど、意外にバレない……。無意識のうちに認識疎外の魔法を使ってるってんだから上位種族はやっぱこええよ)

 竜の姿が見えなくなったところでレイはシイナを解放した。

「っぷは!何するのレイ」

「わりぃわりぃ」

 頬を膨らませるシイナに対し、レイはごまかすように再び頭を撫でる。
 撫でられるとうっそりと目を細め、気持ちよさそうにする。
 その表情を見るのがレイは好きだった。

「まあ、いいけど。何で嘘ついたの?ラテアたちのことだって、俺でもわかる」

「だって、あいつらが姉御の妹を殺したんじゃないから。本当は、な。姉御は強い。濡れ衣の相手を教えるのはあんまりほら、好きじゃないんだ」

 レイの言葉にシイナは軽く目を見開く。
 尾がぱた、と一回だけ揺れる。

「本当の犯人、知ってるの?」

「……知ってる。勅使河原サンだよ」

 嘘をついても仕方がない。
 レイは小さな声でひそりと一度だけ真実を告げる。

「……やっぱり、そうなんだ」

 シイナの目には複雑そうな感情が浮かんでいた。
 耳と尾がへにゃりと垂れ下がる。
 シイナだって理解し始めている。勅使河原がいい人で、素晴らしい主人などではないことを。

「奏太の時と、同じ?」

「まあ、大体そうだな。俺も直接その現場を見た訳じゃないからわからないけど。実験したんだろうな」

「……そっか」

 それ以上シイナは追及することはなかった。
 ただ、見るからに元気が消え失せていた。
 どこか憂鬱そうで、悲しそうで。
 レイはそんな顔をシイナにさせたいわけではなかった。

「帰ろうぜ。ハンバーグ買ってさ」

「……うん」

「元気出せ。お前は何も悪くないからさ。ちゃんと食って、寝て、明日もまた元気に動くんだ。俺の目的、手伝ってくれるんだろ?」

「うん。手伝う」

 並んで帰路につく。
 すっかり陽が長くなり、この時間でもまだまだ明るい。
 もう少しすれば世界は美しいオレンジ色に染まるのだろう。
 
(一体いつまでこうしていられるんだろう)

 ふとした時に脳裏をよぎるそんな考え。

「どうせラテアはあの朱鷺とかいうカフェによく行ってる。あそこを張るのが一番だ」

「わかった」

 ゆるゆると頭を振り、弱気な考えを振り払う。
 レイはシイナの手を取りアーケード街を歩き出した。

 
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