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EP3 復讐の黄金比2 ラテア包囲網
借りてきた狐
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「……外もすごけりゃ中まですげえや」
とにかく広い。玄関からして広い。
靴箱の中にはロセの物と思しき様々なおしゃれな靴が綺麗に整頓されて収められている。
中にはどう考えてもこれ履いて歩けないだろ!なんて形状をしたものまで様々あった。
二人の事情を聴いて少しだけ落ち着いてきていた精神がまたも乱される。
「自分の家だと思って寛いでね。こっちがダイニング兼キッチン兼リビング。私はお茶とお菓子用意してくるから」
「お、お構いなく……」
そう言ったところでロセは聞かず、廊下を進んでいく。
奥には広々としていそうなダイニングとキッチン、リビングがある。ここからでも見えるくらい。
多分、一番広い部屋なんだろう。
どうにも居心地が悪い。
とりあえず周りの目を気にしないで済む場所ではあるので耳と尾っぽを出して少しでもリラックスを試みる。
(うーん、無理っ!テレビの中でしか見たことないってこんなの!)
緊張もしているが、何より物珍しいため俺はきょろきょろとおのぼりさんのようにあたりを見回す。
(廊下ひっろ、部屋いくつあるんだ!?内装もなんかすごく洒落てる、八潮のカフェもオシャレだったけどもっとなんかハイソな感じ……?絵とか彫刻とかなんか色々あるし。とりあえずわかるのは絶対どれも高そうってこと!)
もしも壊したら……と思うとぶるぶる震えるしかない。
二人は物に執着はあんまりしなさそうだけど。
夏輝の気持ちが今なら痛いほどによくわかる。
「そんな怖がらなくていいって。もしもぶつけたり壊してもまた買い直せばいいんだから」
「マジの金持ちってそういう事言うんだなあ、一つ勉強になった……でもやっぱり怖いもんは怖いんだよっ!」
廊下にかけられている姿見を見ると、俺の耳はすっかりぺたんと力なく垂れていた。
尻尾も股に挟まり情けないことこの上ない。
とにかく廊下で突っ立っていてもどうしようもないので、リビングまで進む。
「ま、そのうち慣れるさ。光栄に思いたまえよ、この家には基本誰も入れないんだからな」
フローリングには高そうな何かの毛皮のカーペットが敷かれているし、テレビはとんでもなくデカい。
広々としたリビングには見たことないくらい大きなテレビだとか、バーカウンター、ふかふかのソファなどなど。
映画とかドラマの金持ちの家で見たような設備が揃っていた。
「こんなに広いのにお手伝いさんとかは雇ってないのか?」
窓も大きく、一面ガラス張りだ。
スケスケで見られそうで落ち着かないが、そもそも下から上を見てもこの高さなら豆粒以下だろう。
「あんまり他人を俺たちの愛の巣に入れたくはないからなあ」
(じゃあ何で俺はいいんだよ)
別に何か特別仲良くなった覚えはない。
夏輝ならまだしもさ。
それとも夏輝のためにか?
(狙われてるし、ありそうな気がしてきた)
でかいソファにとりあえず触ってみる。
ふっかふかだ。手触りも最高。
「……ちょっとだけ」
座ってみるとなんとまあ座り心地のいいこと。
(すっごい尻にフィットする。お高いソファっていうのはこういうものなのか?ここで寝たら気持ちよさそう……)
ぼふぼふと何度も尻尾でその弾力を確かめていると、ロセが戻ってくる。
お盆にはなんか高そうなティーセットと茶菓子。
薔薇の形をしたクッキーだ。
テレビで見た映え、というやつかもしれない。
「あは、ラテア君ってばほんと借りてきた猫みたいになってる。ラテア君なら猫じゃなくって狐か」
ロセが撫でようとしてくるのをするりとかわす。
少し驚いた顔をしたが寧ろ面白がっていた。
「しっかし坊ちゃんも大変だな。まさかあんなUMAみたいに狙われるなんて。結構前にUMAブームってのがあってな、そういうのは大体エデン人がうっかり魔法とかを使ってバレて見つかったってわけなんだがそりゃあもう捕まえようって躍起になる奴らがいっぱいいてな」
ロセは慣れた様子で紅茶を淹れる。
ほこほこと立つ湯気、鼻腔に入ってくる香りは嗅ぎ慣れた八潮のカフェのものだ。
三人分のティーカップがコーヒーテーブルに置かれ、アレウは気の毒そうな目で俺を見た。
「冬真と夜一だっけか。勅使河原に雇われたんだろうけど、あいつら以外にもたくさんいたしなあ。俺みたいな雑魚猟犬一匹の為に大層金をかけるこった。冬真はなんか金がないだのなんだの喚いてたし。そもそもああいう傭兵って御絡流の会の下請けじゃないのか?」
カフェには夜に行く機会はほとんどないが、偶に行くとガラの悪いやつらが酒を飲んでいたりする。
思えば、カフェにいた奴らもあの有象無象の傭兵たちの中に混ざっていたような。
結局ぐぅと鳴った腹に負け、俺は茶菓子のクッキーに手を伸ばした。
薔薇のクッキーの中にはミルクチョコとホワイトチョコが花びらのように入っており、異なる味わいだ。
美味い……お上品だけど美味い。
「組織の下請けへの締め付けはきついからね。羊飼いの特権を与える代わりに報酬面はかなり絞ってるんだよね。税金なんかも取ってるし、ぶっちゃけ普通の仕事に就いたほうがよっぽどいい生活を送れると思うよ」
「それなのに何で傭兵なんてやる奴がいるんだ?」
ロセの解説に俺は当然の疑問を口にする。
うまくもないのに何でやるのか俺には全く理解できなかったからだ。
「御絡流の会のリーダー、冬城國雪はあえてわざとエデンの情報を外部に漏らしてるって言われてる。だからね、非合法の仕事ならいくらでもあるんだ。組織からの依頼は最小限にしてそちらで生計を立てている人が多いんじゃないかな」
「何でそんなわざと?利権を独占しているって思ってたんだけど」
組織が全てを管理し、美味しいところは全部持っていく。
そう思ってたけど、民間の羊飼いの話は結構出てたしそんなもんか。
「独占はしているよ。だから組織や彼の事を目の敵にしている地球人は多い。勿論エデン人達も憎んでいるものが大半だろうね。彼は完全に管理されたディストピアではなく、火種を多く残している。わざととしか思えないくらいにね」
「確かに、一度会っただけだけど……そこまで馬鹿なタイプには見えなかったな」
小さく息をつく。
あの男の目を見るとなんだか鳥肌が立つ。
顔は瑞雪と似ているはずなのに、どうしてこうも違うのか。
「謎の多い人だよ。私でも情報を取るのは難しい」
「まあ、どうせろくでもないやつだよ」
「ふふ……それはそうに違いないね。そういえば」
ロセの瞳が悪戯っぽく輝く。
こういう時の顔は大抵ろくでもないことを考えているときの顔だ。
「私たちに相談したいことって何?」
「そういえばそうだったな。俺達でいいならなんだって相談に乗るぜ?人生の先輩としてな」
そうだった。
襲撃のせいでうやむやになっていたが、そもそも俺は二人に夏輝の事について相談したかったのだ。
とにかく広い。玄関からして広い。
靴箱の中にはロセの物と思しき様々なおしゃれな靴が綺麗に整頓されて収められている。
中にはどう考えてもこれ履いて歩けないだろ!なんて形状をしたものまで様々あった。
二人の事情を聴いて少しだけ落ち着いてきていた精神がまたも乱される。
「自分の家だと思って寛いでね。こっちがダイニング兼キッチン兼リビング。私はお茶とお菓子用意してくるから」
「お、お構いなく……」
そう言ったところでロセは聞かず、廊下を進んでいく。
奥には広々としていそうなダイニングとキッチン、リビングがある。ここからでも見えるくらい。
多分、一番広い部屋なんだろう。
どうにも居心地が悪い。
とりあえず周りの目を気にしないで済む場所ではあるので耳と尾っぽを出して少しでもリラックスを試みる。
(うーん、無理っ!テレビの中でしか見たことないってこんなの!)
緊張もしているが、何より物珍しいため俺はきょろきょろとおのぼりさんのようにあたりを見回す。
(廊下ひっろ、部屋いくつあるんだ!?内装もなんかすごく洒落てる、八潮のカフェもオシャレだったけどもっとなんかハイソな感じ……?絵とか彫刻とかなんか色々あるし。とりあえずわかるのは絶対どれも高そうってこと!)
もしも壊したら……と思うとぶるぶる震えるしかない。
二人は物に執着はあんまりしなさそうだけど。
夏輝の気持ちが今なら痛いほどによくわかる。
「そんな怖がらなくていいって。もしもぶつけたり壊してもまた買い直せばいいんだから」
「マジの金持ちってそういう事言うんだなあ、一つ勉強になった……でもやっぱり怖いもんは怖いんだよっ!」
廊下にかけられている姿見を見ると、俺の耳はすっかりぺたんと力なく垂れていた。
尻尾も股に挟まり情けないことこの上ない。
とにかく廊下で突っ立っていてもどうしようもないので、リビングまで進む。
「ま、そのうち慣れるさ。光栄に思いたまえよ、この家には基本誰も入れないんだからな」
フローリングには高そうな何かの毛皮のカーペットが敷かれているし、テレビはとんでもなくデカい。
広々としたリビングには見たことないくらい大きなテレビだとか、バーカウンター、ふかふかのソファなどなど。
映画とかドラマの金持ちの家で見たような設備が揃っていた。
「こんなに広いのにお手伝いさんとかは雇ってないのか?」
窓も大きく、一面ガラス張りだ。
スケスケで見られそうで落ち着かないが、そもそも下から上を見てもこの高さなら豆粒以下だろう。
「あんまり他人を俺たちの愛の巣に入れたくはないからなあ」
(じゃあ何で俺はいいんだよ)
別に何か特別仲良くなった覚えはない。
夏輝ならまだしもさ。
それとも夏輝のためにか?
(狙われてるし、ありそうな気がしてきた)
でかいソファにとりあえず触ってみる。
ふっかふかだ。手触りも最高。
「……ちょっとだけ」
座ってみるとなんとまあ座り心地のいいこと。
(すっごい尻にフィットする。お高いソファっていうのはこういうものなのか?ここで寝たら気持ちよさそう……)
ぼふぼふと何度も尻尾でその弾力を確かめていると、ロセが戻ってくる。
お盆にはなんか高そうなティーセットと茶菓子。
薔薇の形をしたクッキーだ。
テレビで見た映え、というやつかもしれない。
「あは、ラテア君ってばほんと借りてきた猫みたいになってる。ラテア君なら猫じゃなくって狐か」
ロセが撫でようとしてくるのをするりとかわす。
少し驚いた顔をしたが寧ろ面白がっていた。
「しっかし坊ちゃんも大変だな。まさかあんなUMAみたいに狙われるなんて。結構前にUMAブームってのがあってな、そういうのは大体エデン人がうっかり魔法とかを使ってバレて見つかったってわけなんだがそりゃあもう捕まえようって躍起になる奴らがいっぱいいてな」
ロセは慣れた様子で紅茶を淹れる。
ほこほこと立つ湯気、鼻腔に入ってくる香りは嗅ぎ慣れた八潮のカフェのものだ。
三人分のティーカップがコーヒーテーブルに置かれ、アレウは気の毒そうな目で俺を見た。
「冬真と夜一だっけか。勅使河原に雇われたんだろうけど、あいつら以外にもたくさんいたしなあ。俺みたいな雑魚猟犬一匹の為に大層金をかけるこった。冬真はなんか金がないだのなんだの喚いてたし。そもそもああいう傭兵って御絡流の会の下請けじゃないのか?」
カフェには夜に行く機会はほとんどないが、偶に行くとガラの悪いやつらが酒を飲んでいたりする。
思えば、カフェにいた奴らもあの有象無象の傭兵たちの中に混ざっていたような。
結局ぐぅと鳴った腹に負け、俺は茶菓子のクッキーに手を伸ばした。
薔薇のクッキーの中にはミルクチョコとホワイトチョコが花びらのように入っており、異なる味わいだ。
美味い……お上品だけど美味い。
「組織の下請けへの締め付けはきついからね。羊飼いの特権を与える代わりに報酬面はかなり絞ってるんだよね。税金なんかも取ってるし、ぶっちゃけ普通の仕事に就いたほうがよっぽどいい生活を送れると思うよ」
「それなのに何で傭兵なんてやる奴がいるんだ?」
ロセの解説に俺は当然の疑問を口にする。
うまくもないのに何でやるのか俺には全く理解できなかったからだ。
「御絡流の会のリーダー、冬城國雪はあえてわざとエデンの情報を外部に漏らしてるって言われてる。だからね、非合法の仕事ならいくらでもあるんだ。組織からの依頼は最小限にしてそちらで生計を立てている人が多いんじゃないかな」
「何でそんなわざと?利権を独占しているって思ってたんだけど」
組織が全てを管理し、美味しいところは全部持っていく。
そう思ってたけど、民間の羊飼いの話は結構出てたしそんなもんか。
「独占はしているよ。だから組織や彼の事を目の敵にしている地球人は多い。勿論エデン人達も憎んでいるものが大半だろうね。彼は完全に管理されたディストピアではなく、火種を多く残している。わざととしか思えないくらいにね」
「確かに、一度会っただけだけど……そこまで馬鹿なタイプには見えなかったな」
小さく息をつく。
あの男の目を見るとなんだか鳥肌が立つ。
顔は瑞雪と似ているはずなのに、どうしてこうも違うのか。
「謎の多い人だよ。私でも情報を取るのは難しい」
「まあ、どうせろくでもないやつだよ」
「ふふ……それはそうに違いないね。そういえば」
ロセの瞳が悪戯っぽく輝く。
こういう時の顔は大抵ろくでもないことを考えているときの顔だ。
「私たちに相談したいことって何?」
「そういえばそうだったな。俺達でいいならなんだって相談に乗るぜ?人生の先輩としてな」
そうだった。
襲撃のせいでうやむやになっていたが、そもそも俺は二人に夏輝の事について相談したかったのだ。
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