青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP3 復讐の黄金比2 ラテア包囲網

等価交換?

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「おかえりラテア君♡大丈夫だった?怪我はない?」

 何とかカフェに帰り着く。
 ゴブリンたち以外の傭兵も皆ぶっ倒れており、結界は無事解除。
 傭兵たちは皆ギリギリ致命傷ではない様子。
 とはいえ戦闘不能。暫く療養しないと動けないだろう。
 全員派手に斬られていたからこれも夜一がやったらしい。

(俺としてはラッキーだけど、いいのか?同士討ちって)

(同士討ちをちゅうちょするほどの戦力ではなかったのでしょうね)

(なるほど)

(ラテアさんが心配なので、暫くはちょこちょこお話し相手になりますわね♪)

 また事件に巻き込まれたからか、グリーゾスが気を使って出てきたらしい。
 心なしか語気がふわふわと楽しそうだった。

(久しぶりに人と話せるのは楽しいのですよ)

(別にいつでも出てきていいんだけどな)

 グリーゾスはいいやつだ。
 あんなことがあって、俺達に殺されても責めるどころか味方になってくれている。
 彼女の為に何かできることはないんだろうか、なんて偶に思う。
 思っていた。が。

(その、えっちなことをしているときに出るのとかは不味いと思いますので……!)

「っぶぅ!?」

 思わず吹き出す。
 だ、だって!だって!
 でも、考えてみればそりゃそうだ。
 グリーゾスは俺を通して世界を見ているんだから。

「え、どうしたのいきなり」

「な、何でもないぜ吸血鬼……」

「とりあえずカフェの入り口だと邪魔になるし。ロセの居る席に行こうぜ」

 確かに周囲を見れば俺の大声に周りの客やらバイトやらはみーんな俺を見ていた。
 あまりに気まずく、アレウの影にコソコソ隠れつつロセの席まで移動する。

「助かったけど、子ども扱いするなっての。……助かったのは本当。ありがと。ゴブリンとか雑魚っぽい奴らはどうにでもなったけど、あの茶髪と戦闘狂は俺一人じゃどうにもならなかったと思う」

 素直な礼に二人は目をぱちくりとさせつつ顔を見合わせる。
 なんだその顔。
 俺は席につきつつ眉間にしわを寄せ、牙を剥き出しぐるると唸りを上げる。
 
「……その顔見てるとムカつくから撤回したくなるんだけど」

「うそうそ!そんなことないよ!子ども扱いもしてないから!」

「そうだぜラテア少年!素直な子は俺達大好きだぜ!」

 二人が慌てて取り繕う。
 注文していたケーキやら軽食やらをラテアに押し付けてくる。
 
「なんだよ……気持ち悪いな」

「まあまあ。落ち込んでるみたいだったし少しでも元気を出してほしくってさ」
 
 穏やかな声音。二人の顔には明らかに俺を案じている様子が浮かんでいた。
 そこまで俺の顔は今苦渋に満ちているのだろうか。小さく息をつく。

(やっぱり勅使河原の事がちゃんと全て片付かない限り、俺に本当の意味での平穏はやってこないんだな……)

 どうにも不幸、あるいは不運って言うものは重なるもんだ。
 口の中にもらったケーキを放り込む。
 ベリータルトはみずみずしく甘酸っぱいし、タルト生地はサクサクだ。

(こんな状況でも美味いもんは美味い。元気になれる。偉大だ)

 紅茶を飲み、ケーキを食べ、ほんの少し元気になる。

「そんなにしょげないでよ。まあ色々大変だとは思うけど。なかなか人生ってうまくいかないものだよね」

「別にそこまでしょげてねえし」

 俺自身がもっと強ければなあ、とかは思うけど。さっきの襲撃を難なく一人でいなす力があればまた変わったのだろうか?
 そんなことを考えたところでだ。今必要なのはこれからどうするかだ。

「ただ、瑞雪は暫く帰ってこないし、夏輝の勉強の邪魔もしたくない。ここにいるとカフェが戦場になっちまうかもしれないし、八潮やバイトたちを巻き込むかも。……どうしようかなって」

「それならさ、私たちの家においでよ」

「え?お前たちの家に……?」

 思ってもみない提案に今度は俺が目をぱちぱちと瞬かせる。
 二人はただ笑顔で俺を見ている。

「そ。使ったことはないけどお客さん用の部屋もあるし、アレウ程のボディーガードはいないよ?私たちは仕事的にも時間の融通が利くし、悪くないと思うんだけど」

「でも、お前たちには何の得もなくね?」

 訝しむように俺は二人を見る。
 俺の返しは予想の範囲内だったのだろう。
 特に気にした様子もなく、ロセが口開き言葉を続ける。

「そんなことないない。ラテア君達と一緒に居たら刺激的な体験が出来そうだし……って言うのは冗談で。私がモデルの仕事をやってることはラテア君も知ってるよね?」

「知ってるよ。初めて会った時に夏輝が確か言ってたし」

 ロセの言葉に俺は頷く。
 たまにカフェに来る客が置き忘れた雑誌の表紙なんかにロセが載っているのを何度か見たことがある。
 ま、俺には関係のない世界だけど。

(よくもまあ、エデン人だってのにモデルなんてやるもんだ。バレて羊飼いやら組織に目をつけられたら大変だってのに)

 心の中でそんなことを想う。
 しっとりとした食感のチョコクッキーを口の中に放り込む。

「実はね。今度私がよく出ている雑誌でモデルの卵を発掘っていう企画をするんだけど、それに出てくれない?可愛い系の男の子を探してたんだよね。ラテア君は顔立ちは整ってるし、髪の色も珍しい色だから結構いい線行ってると思うんだ」

「も、もでるぅ?」

 喉の奥から唸りと共に言葉を漏らす。
 別に意味を知らないわけじゃない。ただ、俺とかけ離れた世界、存在ってだけ。
 だって、俺はぶっちゃけうん、おしゃれとかそういうのとはまーったく無縁だし。
 夏輝もそう。

「そうだよ♡」

 素っ頓狂な声をあげた俺に対し、ロセはうんうんと頷いた。

「……俺、エデン人なんだけど」

「私だってエデン人だよ。そこは別に関係ないよ。私の知り合いだからちょっと変わった人間くらいにしか思われないから大丈夫」

 しばしの沈黙。考えて考えて、でも結局今はこの二人の助けを借りる以外の選択肢は思い浮かばなかった。
 ただ助けられるのも嫌だし、それならモデルとやらにチャレンジしてみても悪くはないのかもしれない。

(夏輝の家に戻るのもちょっと気まずいし……真面目な話、襲撃にノアが巻き込まれたりしたら俺も夏輝もずっと後悔する。一般人は巻き込まない。うん、これは徹底するべきだ)

 血の気の多い傭兵たち。
 冬真と夜一もあれで諦めるとは思えない。
 他にもきっと傭兵はいるし、アパートにいれば間違いなくそこに襲撃が来る。
 それなら上位種族の根城にいたほうが百パーセント安全ってもんだ。

「わかった。モデルの手伝いをする代わりにこの部屋に置いておいてくれ。初めてだからな、優しくしろよ!」

 俺の言葉にアレウもロセも満足げに目を細めた。

「それってちょっとえっちに聞こえるね、ラテア君♡は・じ・め・てって。ラテア君の始めてもらっちゃおー」
 
 軽口をたたくロセを軽く睨むが、悪びれる様子はない。

「思い切りのいい奴は好きだぜ、ラテア坊ちゃん。そんじゃあ交渉成立ってことで。八潮にも説明して、早速俺たちの愛の巣に向かおうか」

 

 
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