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EP3 復讐の黄金比1 黄金週間の憂鬱
國雪の思惑
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「戻ったわよ」
「おかえり、簾翠。案外時間がかかったんだね」
「わかっている癖によく言うわね。相変わらず嫌味な男」
赤いビロードのカーペットで彩られた豪奢な聖堂。
入口に立つ漆黒の鎧は簾翠が入ってきたところで微動だにしない。
國雪もまた、簾翠に視線すら向けない。
「言われた事、やってきたわよ。薬品がほぼ完成するまでひと月近く待ったし、酷い目に遭ったわ。訴えてやりたい」
戻ってきてすぐに直行してきたため、簾翠は身体を清められていない。
いくら彼女が『液体に溶けられる』と言っても女性としては耐えがたいことなわけで。
しかし、それ以上に風呂に入ってさっぱりした後國雪に会いたくなかったのだ。
「まあまあ、そう言わずに。混ぜたもののサンプルは取ってきたかい?」
「ええ」
國雪の言葉に簾翠は頷く。
簾翠の言葉に國雪は満足げに口元を歪める。
「同じ聖痕を持つ者同士、どうして仲良くできないんだろうね。悲しいことだ。でも、仕方がないね。神の意志に反しているんだから」
(神だなんて、よく言うわね。本当に、心底そう思うわ)
眉根を潜め、口をへの字に曲げようと國雪には関係がない。
「それをそのまま完成されたら困るんだ。君にとってもそうだろう?簾翠」
「女心のわからない男ね。心を読まないで頂戴」
吐き捨てるように簾翠が言葉を発すると、像を熱心に見つめたまま國雪は笑った。
気持ちが悪い。ああ、気持ちが悪い。
「そんなに気持ちが悪いなら、心を閉ざせばいいじゃないか。君ほどの存在であれば出来るだろう?簾翠」
「あれはあれで疲れるのよ」
國雪はまたも嗤う。
彼の関心は像にしかないことを、否-正しくは『彼の言う』神にしかないことを簾翠はよくよく知っている。
國雪の全ての行動原理は神にある。
「目的が一緒、ね。よく言ったものだわ」
「君は神に用があり、私は神の望む世界にしたい。何もそう反しない願いじゃないか」
「そうね。そうじゃなかったら絶対貴方とは手を組まないわ」
吐き捨てる簾翠に國雪は笑う。
笑う、嗤う、哂う。
人の心を、運命を弄ぶ悪漢。
しかし、國雪に逆らえるものはそうはいない。
「ははは。そうかもしれないね。というわけでそれを研究室の方まで届けてくれたまえ。そうしたら暫く好きにしてもかまわないよ。と言っても近いうちに動いて貰うとは思うけど」
「まだ私に何かさせたいわけ?届ける以外に」
あからさまに、わざとらしく簾翠は形のいい艶やかな唇からため息を漏らす。
「薬が完成間近だと知れば、秋雨君はきっと掌を返して叩き潰しに行くだろう。あの薬を秋雨君はきっと欲するだろうからね」
「でも、もう穢したわ」
「そうだね。どちらの意味でも秋雨君は潰しに行かざるを得ない」
手に取るようにわかる。そう言わんばかりだ。
「そもそもなぜここまで手をこまねいていたのかしら。わざと動いていないように見えるのだけど」
「私が連れ戻す前までに瑞雪を育てるため……というわけでは理由が弱いね。秋雨君は何か私の知らないことを隠している。心当たりはないかい?」
この男でも知らないことがあるのだと、簾翠はほんの少し驚く。
秋雨については簾翠は殆ど知らない。
ただ、一つ知っているのは。
「いいえ」
心を閉ざし、簾翠は首を横に振る。
「そうか。それは残念だよ。それじゃあよろしく頼むよ、簾翠」
「仕方ないわね」
そのまま簾翠はカーペットに溶けて消える。
國雪は気配が焼失したことでそれを知る。
「……いったいどんな隠し玉があるのかな、秋雨。楽しみだよ」
全く愉快層ではない口ぶりで、國雪はそう一人ごちた。
「おかえり、簾翠。案外時間がかかったんだね」
「わかっている癖によく言うわね。相変わらず嫌味な男」
赤いビロードのカーペットで彩られた豪奢な聖堂。
入口に立つ漆黒の鎧は簾翠が入ってきたところで微動だにしない。
國雪もまた、簾翠に視線すら向けない。
「言われた事、やってきたわよ。薬品がほぼ完成するまでひと月近く待ったし、酷い目に遭ったわ。訴えてやりたい」
戻ってきてすぐに直行してきたため、簾翠は身体を清められていない。
いくら彼女が『液体に溶けられる』と言っても女性としては耐えがたいことなわけで。
しかし、それ以上に風呂に入ってさっぱりした後國雪に会いたくなかったのだ。
「まあまあ、そう言わずに。混ぜたもののサンプルは取ってきたかい?」
「ええ」
國雪の言葉に簾翠は頷く。
簾翠の言葉に國雪は満足げに口元を歪める。
「同じ聖痕を持つ者同士、どうして仲良くできないんだろうね。悲しいことだ。でも、仕方がないね。神の意志に反しているんだから」
(神だなんて、よく言うわね。本当に、心底そう思うわ)
眉根を潜め、口をへの字に曲げようと國雪には関係がない。
「それをそのまま完成されたら困るんだ。君にとってもそうだろう?簾翠」
「女心のわからない男ね。心を読まないで頂戴」
吐き捨てるように簾翠が言葉を発すると、像を熱心に見つめたまま國雪は笑った。
気持ちが悪い。ああ、気持ちが悪い。
「そんなに気持ちが悪いなら、心を閉ざせばいいじゃないか。君ほどの存在であれば出来るだろう?簾翠」
「あれはあれで疲れるのよ」
國雪はまたも嗤う。
彼の関心は像にしかないことを、否-正しくは『彼の言う』神にしかないことを簾翠はよくよく知っている。
國雪の全ての行動原理は神にある。
「目的が一緒、ね。よく言ったものだわ」
「君は神に用があり、私は神の望む世界にしたい。何もそう反しない願いじゃないか」
「そうね。そうじゃなかったら絶対貴方とは手を組まないわ」
吐き捨てる簾翠に國雪は笑う。
笑う、嗤う、哂う。
人の心を、運命を弄ぶ悪漢。
しかし、國雪に逆らえるものはそうはいない。
「ははは。そうかもしれないね。というわけでそれを研究室の方まで届けてくれたまえ。そうしたら暫く好きにしてもかまわないよ。と言っても近いうちに動いて貰うとは思うけど」
「まだ私に何かさせたいわけ?届ける以外に」
あからさまに、わざとらしく簾翠は形のいい艶やかな唇からため息を漏らす。
「薬が完成間近だと知れば、秋雨君はきっと掌を返して叩き潰しに行くだろう。あの薬を秋雨君はきっと欲するだろうからね」
「でも、もう穢したわ」
「そうだね。どちらの意味でも秋雨君は潰しに行かざるを得ない」
手に取るようにわかる。そう言わんばかりだ。
「そもそもなぜここまで手をこまねいていたのかしら。わざと動いていないように見えるのだけど」
「私が連れ戻す前までに瑞雪を育てるため……というわけでは理由が弱いね。秋雨君は何か私の知らないことを隠している。心当たりはないかい?」
この男でも知らないことがあるのだと、簾翠はほんの少し驚く。
秋雨については簾翠は殆ど知らない。
ただ、一つ知っているのは。
「いいえ」
心を閉ざし、簾翠は首を横に振る。
「そうか。それは残念だよ。それじゃあよろしく頼むよ、簾翠」
「仕方ないわね」
そのまま簾翠はカーペットに溶けて消える。
國雪は気配が焼失したことでそれを知る。
「……いったいどんな隠し玉があるのかな、秋雨。楽しみだよ」
全く愉快層ではない口ぶりで、國雪はそう一人ごちた。
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