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EP3 復讐の黄金比1 黄金週間の憂鬱
瑞雪の憂鬱
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(正直本気で行きたくねえ……)
御絡流の会K県支部。翌日からのT都への出向の事を考えるととにかく胃が重たくて仕方がない。
一日で帰ることが出来ればいいが、そんなわけもない。
解析を頼むにはまず國雪を通さなければならないわけで。
「悪いなー、瑞雪。ちょっと用事があってさ。デートの約束とか?」
「すみません。多分僕たちが行くと兄さんがとんでもないことをしでかすので……」
一応遠呂と月夜に頼んではみたものの、遠呂ははなから受ける気がなく、月夜は朝陽が問題行動を起こすから無理だと断られた。
遠呂、朝陽、瑞雪。この中ではどう考えても瑞雪が一番穏健派だった。
穏健派のつもりはないが、狂人になり切れないというか。
(あいつらみたいに振り切れねえよ……そっちの方が幸せなのはわかるんだが、どうしてもな)
小さく息をついたところで現実は変わらない。
なるべく楽しいことを考えようとするが、そもそも楽しいこととは何だ?となり頭を抱える。
(休みの日に寝ること?……ここ最近は一日寝るなんてことが贅沢になってるな)
大体休みの日の前夜はトツカにもみくちゃにされる。
というより尻を破壊される。
あのご褒美の夜に一回きりだとNOを突き付けられなかったのがそもそもの敗因なのかもしれない。
(……癪だが、気持ちいいことは気持ちいい。尻が破壊されるだけで……)
そんなことを考え顔をしかめていると、背後から声がかけられる。
「瑞雪、用意するものは?」
瑞雪の想いなどつゆ知らず、トツカはただ言われた通りに粛々と荷造りをしていたのである。
いつぶりか、というくらい使っていないキャリーバッグを引っ張り出してきた。
正直仕舞った場所をすっかり思いだせず、暫く探していたのは内緒だ。
「数日分の服くらいか。あとは免許証と、財布と……それくらいだな」
「わかった。用意しておこう。本部の宿泊施設に泊まるのか?それとも実家に?」
実家。瑞雪のもっとも聞きたくない単語の一つである。
しかし、別にトツカはそんなことを知らないわけで。
「ホテルに泊まる。絶対に、死んでも使わん」
やや不機嫌そうに眉根を潜め、瑞雪はぴしゃりと言い切った。
「むぅ。主も心配していると思うが」
「余計なお世話だ。心配なんてしていないし、実家に連れていかれたら今度こそ出てこれなくなるかもしれない。お前もお前の大好きな主様が俺を実家から出すなって言ったらそれに従うんだろう?」
嫌味たっぷりに瑞雪はじとりとトツカを睨みながら言葉を発する。
「当然だろう。主の命令であるならば」
「だろうな。だから絶対に行かない」
吐き捨てる。
わかってはいるが不愉快だ。
そう造られたから仕方ないとはいえ、それでもやはり虫唾が走る。
「あほらし。さっさと準備を終わらせよう」
わかり切っていることに腹を立てることほど不毛なことはない。
瑞雪の家はこの一か月ほどで相当様変わりしていた。綺麗に整理はされているものの、多くの物が増えた。
まず、空き部屋を一つトツカ用の部屋にした。ベッドの他、タンスとトツカが希望したトレーニング用品が置かれている。
(いつまでいるかもわからんのだがな)
國雪の気が変わればトツカは本部へと戻り、瑞雪はまた猟犬なしになるのだろう。
他にも夏輝やラテアがよく遊びに来るので彼らの歯ブラシやタオルなんかの日用品も用意されていた。
あとは、ラテアが勝手に持ち込んだものとか。
(ラテアは案外物を増やすタイプ。夏輝はそうでもない。増やさないわけじゃなくて、長く丁寧に使う)
冷蔵庫の中身もトツカが料理を作るようになり、野菜や肉、魚など未調理のものが入っている。
冷凍室にはラテアが置いたアイスなどもあるが。
準備はとんとん拍子に、というより荷物が少ないのもありあっという間に終わった。
シャワーで済ませようと思っていたところ、トツカが沸かしていたらしく湯船につかる。
(最近はすごく健康的な生活を送っている気がする……)
思えば今まで碌な生活をしていなかった。
食事はおざなり、休みの日はだらだらとずっと寝ている。
それが三食しっかりとり、休日もラテア達やらトツカやらに駆り出される。
(……まあ、半分くらいはベッドに沈む羽目になるんだが。あいつはいつ加減を覚えるんだ?)
最近は背中の傷が痛むことも減った。
イースターの日以降は一切ない。
ぼうっと考え事をひとしきりしたところで湯船から上がり、髪を乾かす。
乾かしている最中でいい香りが鼻腔を擽る。
出るとトツカが夕飯の準備を丁度終えたようだった。
「今日は豚汁と鯖の塩焼き、ほうれん草のお浸し、白米だ。鯖は頭を取ってあるので問題ない」
「ああ……。ありがとう」
宣言通り家事をするようになったトツカだが、意外にも適性があったのかもしれない。
料理はちゃんとうまいし、掃除洗濯もしっかりする。部屋は常に綺麗な状態で保たれているし、アイロンがけやクリーニング屋に持っていくことも欠かさない。
初めのとんでもなさを考えたら、驚くほどの成長だ。まあ……。
「瑞雪、今夜は?」
「駄目だ。明日はそこそこの距離の車を運転する。というより家に戻るまで駄目だ」
で、これである。
まあ、普段は休みの前日なのだが、明日はそれなりの距離を運転する必要があるわけで。
それに外でする趣味はないし、もしもこの関係を祖父や兄にバレたらと思うと背筋が冷たくなる。
「むぅ……」
「ラテアも夏輝も我慢をするんだからお前も少しくらいは我慢しろ。……帰ったら一日くらいはいい、から」
「……!わかった」
何が楽しくて自分の身体を差し出す話をしなければならないのか。
あの日以降もトツカは休みの前の日に必ず瑞雪にセックスを求めるようになった。我慢しきれないときなんかはそれ以外も。
約束した日以外の瑞雪の勝率は……五割くらいだ。五割あれば上等だと思うか、躾が足りていないと考えるべきか。
「さっさと終わればいいんだが。早く戻ってこないといつ何が起こってもおかしくない」
「勅使河原の事か?」
「ああ。あの祭り以降音沙汰がない。どう考えても研究に没頭しているんだろう。病院が根城っていうのはなかなか面倒なもんだな……」
一般人を巻き込むことは支部の方針もそうだし、瑞雪達自身も望まない。
故に膠着状態だ。
放置すればするほど厄介なものになり果てることは容易に想像できたが、限られた手札では難しく、現状を打破できていない。
「となると、次に動くのは研究が次の段階に行くときか?」
「もしくは本部が動くときだな。だが、本部の方も現状動く気配がない。秋雨さんが國雪にあの後直談判しに行ったが、まだ動くべき時ではないの一点張り。それどころかK県支部も一般市民の被害の拡大を抑えるため病院への侵攻は本部の指示を待てと抑え込まれた。無関心だと思ったらどうやらそうではないらしい」
「ふむ……主も何か考えあってのことかもしれない」
トツカの言葉に瑞雪は言葉を返さなかった。本当は即座に否定しそうになったが、寸前で飲み込んだのだ。
こいつは相変わらず祖父を慕っている。
言いたいことはいくらでもあるが、かといってトツカの考えを否定するのはいいわけもない。
「美味いか?」
「……美味い」
ほこほこと湯気を立てる豚汁を啜る。濃すぎない、ホっとする味。食事をすすめることで瑞雪はそれ以上トツカと祖父の話をする事を拒んだ。
御絡流の会K県支部。翌日からのT都への出向の事を考えるととにかく胃が重たくて仕方がない。
一日で帰ることが出来ればいいが、そんなわけもない。
解析を頼むにはまず國雪を通さなければならないわけで。
「悪いなー、瑞雪。ちょっと用事があってさ。デートの約束とか?」
「すみません。多分僕たちが行くと兄さんがとんでもないことをしでかすので……」
一応遠呂と月夜に頼んではみたものの、遠呂ははなから受ける気がなく、月夜は朝陽が問題行動を起こすから無理だと断られた。
遠呂、朝陽、瑞雪。この中ではどう考えても瑞雪が一番穏健派だった。
穏健派のつもりはないが、狂人になり切れないというか。
(あいつらみたいに振り切れねえよ……そっちの方が幸せなのはわかるんだが、どうしてもな)
小さく息をついたところで現実は変わらない。
なるべく楽しいことを考えようとするが、そもそも楽しいこととは何だ?となり頭を抱える。
(休みの日に寝ること?……ここ最近は一日寝るなんてことが贅沢になってるな)
大体休みの日の前夜はトツカにもみくちゃにされる。
というより尻を破壊される。
あのご褒美の夜に一回きりだとNOを突き付けられなかったのがそもそもの敗因なのかもしれない。
(……癪だが、気持ちいいことは気持ちいい。尻が破壊されるだけで……)
そんなことを考え顔をしかめていると、背後から声がかけられる。
「瑞雪、用意するものは?」
瑞雪の想いなどつゆ知らず、トツカはただ言われた通りに粛々と荷造りをしていたのである。
いつぶりか、というくらい使っていないキャリーバッグを引っ張り出してきた。
正直仕舞った場所をすっかり思いだせず、暫く探していたのは内緒だ。
「数日分の服くらいか。あとは免許証と、財布と……それくらいだな」
「わかった。用意しておこう。本部の宿泊施設に泊まるのか?それとも実家に?」
実家。瑞雪のもっとも聞きたくない単語の一つである。
しかし、別にトツカはそんなことを知らないわけで。
「ホテルに泊まる。絶対に、死んでも使わん」
やや不機嫌そうに眉根を潜め、瑞雪はぴしゃりと言い切った。
「むぅ。主も心配していると思うが」
「余計なお世話だ。心配なんてしていないし、実家に連れていかれたら今度こそ出てこれなくなるかもしれない。お前もお前の大好きな主様が俺を実家から出すなって言ったらそれに従うんだろう?」
嫌味たっぷりに瑞雪はじとりとトツカを睨みながら言葉を発する。
「当然だろう。主の命令であるならば」
「だろうな。だから絶対に行かない」
吐き捨てる。
わかってはいるが不愉快だ。
そう造られたから仕方ないとはいえ、それでもやはり虫唾が走る。
「あほらし。さっさと準備を終わらせよう」
わかり切っていることに腹を立てることほど不毛なことはない。
瑞雪の家はこの一か月ほどで相当様変わりしていた。綺麗に整理はされているものの、多くの物が増えた。
まず、空き部屋を一つトツカ用の部屋にした。ベッドの他、タンスとトツカが希望したトレーニング用品が置かれている。
(いつまでいるかもわからんのだがな)
國雪の気が変わればトツカは本部へと戻り、瑞雪はまた猟犬なしになるのだろう。
他にも夏輝やラテアがよく遊びに来るので彼らの歯ブラシやタオルなんかの日用品も用意されていた。
あとは、ラテアが勝手に持ち込んだものとか。
(ラテアは案外物を増やすタイプ。夏輝はそうでもない。増やさないわけじゃなくて、長く丁寧に使う)
冷蔵庫の中身もトツカが料理を作るようになり、野菜や肉、魚など未調理のものが入っている。
冷凍室にはラテアが置いたアイスなどもあるが。
準備はとんとん拍子に、というより荷物が少ないのもありあっという間に終わった。
シャワーで済ませようと思っていたところ、トツカが沸かしていたらしく湯船につかる。
(最近はすごく健康的な生活を送っている気がする……)
思えば今まで碌な生活をしていなかった。
食事はおざなり、休みの日はだらだらとずっと寝ている。
それが三食しっかりとり、休日もラテア達やらトツカやらに駆り出される。
(……まあ、半分くらいはベッドに沈む羽目になるんだが。あいつはいつ加減を覚えるんだ?)
最近は背中の傷が痛むことも減った。
イースターの日以降は一切ない。
ぼうっと考え事をひとしきりしたところで湯船から上がり、髪を乾かす。
乾かしている最中でいい香りが鼻腔を擽る。
出るとトツカが夕飯の準備を丁度終えたようだった。
「今日は豚汁と鯖の塩焼き、ほうれん草のお浸し、白米だ。鯖は頭を取ってあるので問題ない」
「ああ……。ありがとう」
宣言通り家事をするようになったトツカだが、意外にも適性があったのかもしれない。
料理はちゃんとうまいし、掃除洗濯もしっかりする。部屋は常に綺麗な状態で保たれているし、アイロンがけやクリーニング屋に持っていくことも欠かさない。
初めのとんでもなさを考えたら、驚くほどの成長だ。まあ……。
「瑞雪、今夜は?」
「駄目だ。明日はそこそこの距離の車を運転する。というより家に戻るまで駄目だ」
で、これである。
まあ、普段は休みの前日なのだが、明日はそれなりの距離を運転する必要があるわけで。
それに外でする趣味はないし、もしもこの関係を祖父や兄にバレたらと思うと背筋が冷たくなる。
「むぅ……」
「ラテアも夏輝も我慢をするんだからお前も少しくらいは我慢しろ。……帰ったら一日くらいはいい、から」
「……!わかった」
何が楽しくて自分の身体を差し出す話をしなければならないのか。
あの日以降もトツカは休みの前の日に必ず瑞雪にセックスを求めるようになった。我慢しきれないときなんかはそれ以外も。
約束した日以外の瑞雪の勝率は……五割くらいだ。五割あれば上等だと思うか、躾が足りていないと考えるべきか。
「さっさと終わればいいんだが。早く戻ってこないといつ何が起こってもおかしくない」
「勅使河原の事か?」
「ああ。あの祭り以降音沙汰がない。どう考えても研究に没頭しているんだろう。病院が根城っていうのはなかなか面倒なもんだな……」
一般人を巻き込むことは支部の方針もそうだし、瑞雪達自身も望まない。
故に膠着状態だ。
放置すればするほど厄介なものになり果てることは容易に想像できたが、限られた手札では難しく、現状を打破できていない。
「となると、次に動くのは研究が次の段階に行くときか?」
「もしくは本部が動くときだな。だが、本部の方も現状動く気配がない。秋雨さんが國雪にあの後直談判しに行ったが、まだ動くべき時ではないの一点張り。それどころかK県支部も一般市民の被害の拡大を抑えるため病院への侵攻は本部の指示を待てと抑え込まれた。無関心だと思ったらどうやらそうではないらしい」
「ふむ……主も何か考えあってのことかもしれない」
トツカの言葉に瑞雪は言葉を返さなかった。本当は即座に否定しそうになったが、寸前で飲み込んだのだ。
こいつは相変わらず祖父を慕っている。
言いたいことはいくらでもあるが、かといってトツカの考えを否定するのはいいわけもない。
「美味いか?」
「……美味い」
ほこほこと湯気を立てる豚汁を啜る。濃すぎない、ホっとする味。食事をすすめることで瑞雪はそれ以上トツカと祖父の話をする事を拒んだ。
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