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EP3 復讐の黄金比1 黄金週間の憂鬱
傭兵たちの夜
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「レイ、なんか今日は病院、騒がしいね」
「本当にな。普段は地下の方には研究員どもしか来ねえのに」
勅使河原総合病院地下。一部の関係者以外は入れないその場所が今日は何故だか騒がしかった。
イースターの祭りの日以降勅使河原は研究室にこもりっぱなしだ。
それをいいことにレイはシイナを連れ出し、外の空気に触れさせ一般常識やごく普通の庶民的な幸せを感じられるように様々な手を講じた。
と言っても普通に過ごしたり、遊びに連れて行ったりと特別なことはしてないけども。
その成果か、シイナはすっかりレイに心を許し懐いていた。
(このまま勅使河原からトンズラして、エデンに連れ帰って普通に暮らさせるとか……無理かなあ)
シイナは厳密にはエデン人ではない。実験の末に生まれた生物だ。
地球と同じく、エデンにも多くの偏見や差別が存在する。それでも、ここよりはマシだと思うのだ。
で、久々に呼び出されたらこの騒がしさである。
(薬でも完成したのか?まさかな)
完成されるのは困る。だが、そもそもレイは最近スパイとしてはあまりにも何もしていなかった。それどころか、人探しも。
胸につけたペンダントを見る。母の形見のペンダント。指輪を鎖でペンダントにしたシンプルなもの。たった一つ、母からもらった大切なものだった。
「レイ、誰か来たみたい」
「……!おっと、悪いな。誰だろ」
「わかんない。知らない人、ぞろぞろいっぱい」
レイはシイナの手を引き、壁際の隅っこへと移動する。
シイナの言葉通り、ぞろぞろと見たことがない人間たちが地下へと入ってくる。日本人以外の人種もいるようだ。
人見知りが激しいシイナはレイへ身を寄せ、影に隠れるようにして訪問者たちを観察している。
「……カタギじゃなさそうだな。ガラの悪いやつ、強そうなやつ、色々だな」
ある程度観察しつつ、レイはシイナにそう述べる。
「よくわかるね、レイすごい」
そんなレイに対しシイナは楽し気に目を細め、ぐるぐると喉を鳴らしながら顔を擦りつけた。
もはやそれも慣れたもので、レイはシイナの頭やのど元を撫でたり擽ったりしてやる。
傍から見れば距離がちょっと近すぎるくらいの仲のいい友人、あるいは兄弟に見える。
「褒めても何も出ねえぞ。単に立ち振る舞いとかそういうのだよ。猟犬を連れてるやつもいるし。なんにせよあんまり関わりたくはないな」
「……怖い」
「人見知りだもんなあ、よしよし」
抱き着いて首元に顔を埋めてくるシイナを撫でつつ宥める。もうずいぶんと手馴れたものだ。
ふかふかの耳や尾っぽも初めは触れると逃げていったが、今ではむしろ触って撫でてとこちらに巻き付けてくる。
「あー、柔らけえ……」
「レイ、触るの好きだよね」
「もふもふは癒しなんだよ、大抵の人類にとってな」
そう力説するレイに対し、シイナは心底不思議そうな顔をしていた。
まあ、案外持っている本人はあることが当たり前すぎて気づかないものなのかもしれない。
「本日はよくぞ集まってくれた!呼びかけに応じてくれて感謝する!」
人間たちが入ってきた扉とは別の立ち入り禁止の研究室への扉が開き、そこから勅使河原が入ってくる。
脂ぎったぶよぶよの身体ににやにや笑い。相変わらず見ていて気分の悪くなる男だ。
「お前たち傭兵がわしの依頼を達成できればお前たちが満足できる額を払うことを約束しよう!」
広いはずの室内は今は人間たちに埋め尽くされている。
その誰もが皆勅使河原に注目していた。
盛り上げるように声を張り上げる勅使河原。その場にいた地球人どもが沸き立つ。
金で雇われた傭兵。道理でどいつもこいつも殺気立ってぎらついた目をしているわけだ。
「ちょっと先輩、子供までいるけどどうなってるんスか?」
「お前も子供だと思うが」
どいつもこいつも金の事ばかり話している中、緑の髪の少年が声をあげた。
それに応えるのは褐色銀髪。何故か神父っぽい服を着用している。
男はスカした態度で壁際で腕を組み、背をもたれさせている。
「ガキって、俺たちの事?」
面倒くさそうなヤツ。
そう思いつつ聞かれたからにはレイは口を開いて聞き返す。
「そうだよ。なんでこんな血なまぐさいところにガキがいるんだって話っスよ!ガキは家に帰って菓子でも食ってろっての」
なんともまあ、失礼な輩だ。
(お前も十分ガキだろうが!そもそもエデン人に見た目で年齢を……って、シイナはともかく俺は返送してるんだった。そりゃガキだわ)
緑髪の子供は細身の首輪を着用していた。猟犬だろう。
噛みついてやろうと思ったが、ボロが出そうなので慌てて口を噤む。
白髪男はじぃ、とレイとシイナを見ていたが、小さく息をついてから視線を外す。
「ヴェルデ、お前そこらへんにしておかないと後悔するぞ」
「だってよぉ、エヴァン先輩!」
きゃんきゃんと吠えるさまはまるで子犬だ。
(銀髪褐色がエヴァンで、緑髪がヴェルデね)
レイはと言えば有意義とは言い難いかもしれないがひとまず名前くらいは覚えておくことにしたわけで。
「うるせえぞヴェルデ!」
「ぎゃいんっ!」
野太い男の声がして、次の瞬間ボキっと嫌な音がした。
ベルナルドと呼ばれた大男がヴェルデの頭を殴っていた。
歳は四十代半ばといったくらいか。筋骨隆々の大男だった。
不満そうなヴェルデに対し、ベルナルドはもう一度拳骨で思い切り殴る。
「クライアントの意向に口出しするなって何度言ったらわかるんだ?坊ちゃん」
「だってよぉ……!」
まだまだ気に入らないといった様子のヴェルデにベルナルドはため息をつく。
「だから言ったのに」
エヴァンはそんなヴェルデに対し、小さくため息をついた。
父親と、兄と、弟。
傭兵たちであるはずだったが、何故だかそんな風にレイの目には映った。
「貴様ら……」
一見すればほほえましい光景かもしれないが、この場にいる者にとっては勿論違う。
勅使河原はそれを冷ややかな目で見つめていた。
「見て見ろよ夜一。イギリスの羊飼いはクライアントにたてつくやべーやつららしいな」
「冬真。でも言ってることはまっとうな気が」
で、今度は別の方から声。
ヴェルデ達をしり目に二人の男が話をしていた。。
「しーっ!俺たちまで目をつけられたらどうするんだよ……!今月どころか常に赤字続きでピンチなんだぞ。仕方なくこんな糞貧乏くじ引かされそうな報酬だけいい依頼を受けたってのに」
一人は栗色の髪に亜麻色の瞳の男。もう一人は夜色の髪にアホ毛とマフラーが特徴的な男だった。
こちらはどちらも日本人らしい。
ヴェルデ達の事をとやかく言う割には冬真の口も相当悪かった。
「文句があるならひそひそ陰口をたたくんじゃなくて真っ向から言ったどうっスか?」
「おっと、躾のない犬に……いや、これはブーメランになるからやめとこ。陰口でもなんでもなく、純然たる事実なんだが?」
一瞬冬真が夜一に死ぬほど苦い顔をしつつ視線を向けたのをレイは見逃さなかった。
「なにを!?」
「どこの猟犬なんだか。お里が知れますわよおほほほ」
「いい加減黙らんか!貴様ら今すぐ追い出されたいのか?金が欲しくはないのか!」
と、冬真がヴェルデを揶揄っているととうとう勅使河原が大声を張り上げキレた。
「うう、煩い……」
びりびりと空間が震え、鼓膜が破れそうなほどの怒号にシイナは耳を抑え塞いでいた。
「本当にな。普段は地下の方には研究員どもしか来ねえのに」
勅使河原総合病院地下。一部の関係者以外は入れないその場所が今日は何故だか騒がしかった。
イースターの祭りの日以降勅使河原は研究室にこもりっぱなしだ。
それをいいことにレイはシイナを連れ出し、外の空気に触れさせ一般常識やごく普通の庶民的な幸せを感じられるように様々な手を講じた。
と言っても普通に過ごしたり、遊びに連れて行ったりと特別なことはしてないけども。
その成果か、シイナはすっかりレイに心を許し懐いていた。
(このまま勅使河原からトンズラして、エデンに連れ帰って普通に暮らさせるとか……無理かなあ)
シイナは厳密にはエデン人ではない。実験の末に生まれた生物だ。
地球と同じく、エデンにも多くの偏見や差別が存在する。それでも、ここよりはマシだと思うのだ。
で、久々に呼び出されたらこの騒がしさである。
(薬でも完成したのか?まさかな)
完成されるのは困る。だが、そもそもレイは最近スパイとしてはあまりにも何もしていなかった。それどころか、人探しも。
胸につけたペンダントを見る。母の形見のペンダント。指輪を鎖でペンダントにしたシンプルなもの。たった一つ、母からもらった大切なものだった。
「レイ、誰か来たみたい」
「……!おっと、悪いな。誰だろ」
「わかんない。知らない人、ぞろぞろいっぱい」
レイはシイナの手を引き、壁際の隅っこへと移動する。
シイナの言葉通り、ぞろぞろと見たことがない人間たちが地下へと入ってくる。日本人以外の人種もいるようだ。
人見知りが激しいシイナはレイへ身を寄せ、影に隠れるようにして訪問者たちを観察している。
「……カタギじゃなさそうだな。ガラの悪いやつ、強そうなやつ、色々だな」
ある程度観察しつつ、レイはシイナにそう述べる。
「よくわかるね、レイすごい」
そんなレイに対しシイナは楽し気に目を細め、ぐるぐると喉を鳴らしながら顔を擦りつけた。
もはやそれも慣れたもので、レイはシイナの頭やのど元を撫でたり擽ったりしてやる。
傍から見れば距離がちょっと近すぎるくらいの仲のいい友人、あるいは兄弟に見える。
「褒めても何も出ねえぞ。単に立ち振る舞いとかそういうのだよ。猟犬を連れてるやつもいるし。なんにせよあんまり関わりたくはないな」
「……怖い」
「人見知りだもんなあ、よしよし」
抱き着いて首元に顔を埋めてくるシイナを撫でつつ宥める。もうずいぶんと手馴れたものだ。
ふかふかの耳や尾っぽも初めは触れると逃げていったが、今ではむしろ触って撫でてとこちらに巻き付けてくる。
「あー、柔らけえ……」
「レイ、触るの好きだよね」
「もふもふは癒しなんだよ、大抵の人類にとってな」
そう力説するレイに対し、シイナは心底不思議そうな顔をしていた。
まあ、案外持っている本人はあることが当たり前すぎて気づかないものなのかもしれない。
「本日はよくぞ集まってくれた!呼びかけに応じてくれて感謝する!」
人間たちが入ってきた扉とは別の立ち入り禁止の研究室への扉が開き、そこから勅使河原が入ってくる。
脂ぎったぶよぶよの身体ににやにや笑い。相変わらず見ていて気分の悪くなる男だ。
「お前たち傭兵がわしの依頼を達成できればお前たちが満足できる額を払うことを約束しよう!」
広いはずの室内は今は人間たちに埋め尽くされている。
その誰もが皆勅使河原に注目していた。
盛り上げるように声を張り上げる勅使河原。その場にいた地球人どもが沸き立つ。
金で雇われた傭兵。道理でどいつもこいつも殺気立ってぎらついた目をしているわけだ。
「ちょっと先輩、子供までいるけどどうなってるんスか?」
「お前も子供だと思うが」
どいつもこいつも金の事ばかり話している中、緑の髪の少年が声をあげた。
それに応えるのは褐色銀髪。何故か神父っぽい服を着用している。
男はスカした態度で壁際で腕を組み、背をもたれさせている。
「ガキって、俺たちの事?」
面倒くさそうなヤツ。
そう思いつつ聞かれたからにはレイは口を開いて聞き返す。
「そうだよ。なんでこんな血なまぐさいところにガキがいるんだって話っスよ!ガキは家に帰って菓子でも食ってろっての」
なんともまあ、失礼な輩だ。
(お前も十分ガキだろうが!そもそもエデン人に見た目で年齢を……って、シイナはともかく俺は返送してるんだった。そりゃガキだわ)
緑髪の子供は細身の首輪を着用していた。猟犬だろう。
噛みついてやろうと思ったが、ボロが出そうなので慌てて口を噤む。
白髪男はじぃ、とレイとシイナを見ていたが、小さく息をついてから視線を外す。
「ヴェルデ、お前そこらへんにしておかないと後悔するぞ」
「だってよぉ、エヴァン先輩!」
きゃんきゃんと吠えるさまはまるで子犬だ。
(銀髪褐色がエヴァンで、緑髪がヴェルデね)
レイはと言えば有意義とは言い難いかもしれないがひとまず名前くらいは覚えておくことにしたわけで。
「うるせえぞヴェルデ!」
「ぎゃいんっ!」
野太い男の声がして、次の瞬間ボキっと嫌な音がした。
ベルナルドと呼ばれた大男がヴェルデの頭を殴っていた。
歳は四十代半ばといったくらいか。筋骨隆々の大男だった。
不満そうなヴェルデに対し、ベルナルドはもう一度拳骨で思い切り殴る。
「クライアントの意向に口出しするなって何度言ったらわかるんだ?坊ちゃん」
「だってよぉ……!」
まだまだ気に入らないといった様子のヴェルデにベルナルドはため息をつく。
「だから言ったのに」
エヴァンはそんなヴェルデに対し、小さくため息をついた。
父親と、兄と、弟。
傭兵たちであるはずだったが、何故だかそんな風にレイの目には映った。
「貴様ら……」
一見すればほほえましい光景かもしれないが、この場にいる者にとっては勿論違う。
勅使河原はそれを冷ややかな目で見つめていた。
「見て見ろよ夜一。イギリスの羊飼いはクライアントにたてつくやべーやつららしいな」
「冬真。でも言ってることはまっとうな気が」
で、今度は別の方から声。
ヴェルデ達をしり目に二人の男が話をしていた。。
「しーっ!俺たちまで目をつけられたらどうするんだよ……!今月どころか常に赤字続きでピンチなんだぞ。仕方なくこんな糞貧乏くじ引かされそうな報酬だけいい依頼を受けたってのに」
一人は栗色の髪に亜麻色の瞳の男。もう一人は夜色の髪にアホ毛とマフラーが特徴的な男だった。
こちらはどちらも日本人らしい。
ヴェルデ達の事をとやかく言う割には冬真の口も相当悪かった。
「文句があるならひそひそ陰口をたたくんじゃなくて真っ向から言ったどうっスか?」
「おっと、躾のない犬に……いや、これはブーメランになるからやめとこ。陰口でもなんでもなく、純然たる事実なんだが?」
一瞬冬真が夜一に死ぬほど苦い顔をしつつ視線を向けたのをレイは見逃さなかった。
「なにを!?」
「どこの猟犬なんだか。お里が知れますわよおほほほ」
「いい加減黙らんか!貴様ら今すぐ追い出されたいのか?金が欲しくはないのか!」
と、冬真がヴェルデを揶揄っているととうとう勅使河原が大声を張り上げキレた。
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