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EP2 卵に潜む悪意11 それぞれの夜に
夏輝の異変
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一歩も動きたくないくらい疲れ果てた身体を必死に動かし何とかアパートにたどり着く。
部屋に入り、鍵を閉め、そのままフローリングの上に倒れる。
「も、もう一歩も動きたくない……疲れた」
外では隠していた耳と尻尾がぼふんと出てきてそのままへにゃりと情けなくも垂れ下がる。
目を瞑り、死に体の俺はそのままぴくりとも動かなくなる。
そうしているとふわりと身体が浮く感覚。
「え、え!?」
驚いて重い瞼を開くと状況を理解する。夏輝が俺の事を抱き上げていたのだ。
「ここで寝るのは駄目だよ。風邪引くし身体も痛くなるし」
「お、おう……」
なんだろ。いつもの夏輝と違うんだよな。普段の柔らかな優しい顔ではなく、どこか精悍な顔つき。
俺は目を白黒させつつそのまま夏輝の腕の中で大人しくなる。何故かはわからないが心臓がバクバクと音を立てる。
グリーゾスの力を借りたから、少し不安な気持ちが強かったけれどそれが全てドキドキにすげ変わってしまった。
(何でこんなにドキドキしてるんだ?肉食獣みたいに見えるから?まさか取って食われるわけもないのに!)
夏輝の匂いに包まれ、ふわふわした温かな心地となる。
まんじりともせず地蔵のように運ばれ、使い込まれたベッドの上に降ろされる。
昨日出かけたときのままの部屋は家主がいなかったからか少し寒々しい。
「この間みたいに不安定になったりしてない?大丈夫?」
寝かせた俺の顔を覗き込む夏輝。
(ん?)
そこで異変に気付く。
「俺は今お前の匂い嗅いだから大丈夫……それよりお前、顔火照ってない?夏輝こそ大丈夫かよ」
熟れたトマトみたいにってほどじゃないけど、ほんのり赤い。やっぱり普段よりも大人びた顔つきだ。
手を差し伸べ、そっと頬に触れる。やっぱり熱を帯びている。
「わからない……。なんだろ、体育館で戦った時から少しおかしいんだ。力が溢れてくるっていうか、溢れすぎて俺の中でぐるぐるしてて……。昂ってる、っていうのかな。すごく落ち着かなくて……発散したいけど、どうしていいかわからないんだ」
「あっ」
そう言うだけ言って夏輝は俺から離れていく。
そして少し離れたフローリングに座る。
「何で離れるんだよ」
身体を起こし、ベッドから降りて夏輝の方へ寄ろうとすると手を突き出し制止される。
「……駄目、今は駄目。戦ってるときはそっちに意識がいってたけど、力が有り余ってる今ラテアに近づいたら酷いことしちゃうかもしれない。ここまで本当は、結構我慢してたんだから……っ!」
ああ、そうか。ここで妙に納得する。夏輝の目は肉食獣のような目なんだ。ぎらぎらと欲で煮え滾る目は俺をじぃっと凝視している。
今の夏輝は俺より優位に立ち、いつでも喉笛に牙を突き立てることが出来る。そう感じさせられた。
「あの蛇の言ってた『トキの血』に関係してるの、かな……」
そう呟く夏輝の顔はどこか苦し気だった。夏輝からは感じるはずのないマナがぐるぐると渦巻いている。
トキの血が何なのかはわからないけれど、夏輝は普通の地球人とは違うのかもしれない。
「思えば、出会った時もさ。瑞雪の張った結界で普通の人間は気絶するはずなのに夏輝はしなかったよな」
まあ。
「だからってお前はお前に変わりないし、関係ないけどさ。……苦しいんだろ?」
俺を突き放す手を逆に掴む。
掴んだ手を俺の胸へと導く。ばくばくとさっきから恥ずかしいくらいに音を立てている心臓の上に。
「お、俺でいいなら好きにして、いいぞ。……受け止める、から」
情けないことに語尾はどんどんか細くなっていった。
だって、だって。
「酷いことしちゃうかも、乱暴なことしちゃうかもしれないんだよ。タガが外れちゃうかもしれない、怖がらせちゃうかもしれない。俺、ラテアの事大切にしたいよ……!」
「俺がいいって言ってんの!俺だって夏輝の役に立ちたいんだよ……!俺達、相棒だろ?猟犬と羊飼いで、コンビじゃねえか」
じっと睨むように夏輝を見れば、彼はさらに顔を真っ赤にした。まるっきり茹でダコか苺だ。
「この場合の発散の意味って、分かってる……?」
「前にシた時みたいなことだろ。俺だってそれくらいわかる」
「もっとシちゃうかも」
思い出すのも嫌な記憶だが、実験動物相手に『ソウイウコト』をされたこともある。どういうことをするかくらい、俺にだってわかる。
そのうえで。
「夏輝なら……いいって言ってんの。これ以上言わせるのか?お前が苦しそうなのは、俺も辛いよ。この間お前は俺を助けてくれたし、俺相手は嫌じゃないんだろ?」
俺は、夏輝にされるなら嫌じゃない。真っすぐ伝える。
でも、夏輝は。
「……駄目!」
頭をブンブンと横に振って、夏輝は俺を拒絶した。
「するなら、大切にしたい!したいから、今は駄目だ!ちょっと外散歩してくる、頭冷やしてくる……!」
そういうと夏輝はアパートの窓を開き、そこから飛び出す。
「おい、夏輝っ!」
ひゅう、と強い風が吹き込み、怯む。追いかけようと思ったが、既に夏輝は姿を晦ましていた。
でも、ちょうどよかったのかもしれない。だって俺の顔は真っ赤になっていただろうから。
「……今は駄目、ってそれって」
ちゃんと準備が出来てる時ならいいってことなのか?頬が熱い。全身がぽかぽか火照っている。
結局出遅れて追いかけることも出来ず、俺はただぼうっと空に浮かぶ二つの月を暫く見ていた。
部屋に入り、鍵を閉め、そのままフローリングの上に倒れる。
「も、もう一歩も動きたくない……疲れた」
外では隠していた耳と尻尾がぼふんと出てきてそのままへにゃりと情けなくも垂れ下がる。
目を瞑り、死に体の俺はそのままぴくりとも動かなくなる。
そうしているとふわりと身体が浮く感覚。
「え、え!?」
驚いて重い瞼を開くと状況を理解する。夏輝が俺の事を抱き上げていたのだ。
「ここで寝るのは駄目だよ。風邪引くし身体も痛くなるし」
「お、おう……」
なんだろ。いつもの夏輝と違うんだよな。普段の柔らかな優しい顔ではなく、どこか精悍な顔つき。
俺は目を白黒させつつそのまま夏輝の腕の中で大人しくなる。何故かはわからないが心臓がバクバクと音を立てる。
グリーゾスの力を借りたから、少し不安な気持ちが強かったけれどそれが全てドキドキにすげ変わってしまった。
(何でこんなにドキドキしてるんだ?肉食獣みたいに見えるから?まさか取って食われるわけもないのに!)
夏輝の匂いに包まれ、ふわふわした温かな心地となる。
まんじりともせず地蔵のように運ばれ、使い込まれたベッドの上に降ろされる。
昨日出かけたときのままの部屋は家主がいなかったからか少し寒々しい。
「この間みたいに不安定になったりしてない?大丈夫?」
寝かせた俺の顔を覗き込む夏輝。
(ん?)
そこで異変に気付く。
「俺は今お前の匂い嗅いだから大丈夫……それよりお前、顔火照ってない?夏輝こそ大丈夫かよ」
熟れたトマトみたいにってほどじゃないけど、ほんのり赤い。やっぱり普段よりも大人びた顔つきだ。
手を差し伸べ、そっと頬に触れる。やっぱり熱を帯びている。
「わからない……。なんだろ、体育館で戦った時から少しおかしいんだ。力が溢れてくるっていうか、溢れすぎて俺の中でぐるぐるしてて……。昂ってる、っていうのかな。すごく落ち着かなくて……発散したいけど、どうしていいかわからないんだ」
「あっ」
そう言うだけ言って夏輝は俺から離れていく。
そして少し離れたフローリングに座る。
「何で離れるんだよ」
身体を起こし、ベッドから降りて夏輝の方へ寄ろうとすると手を突き出し制止される。
「……駄目、今は駄目。戦ってるときはそっちに意識がいってたけど、力が有り余ってる今ラテアに近づいたら酷いことしちゃうかもしれない。ここまで本当は、結構我慢してたんだから……っ!」
ああ、そうか。ここで妙に納得する。夏輝の目は肉食獣のような目なんだ。ぎらぎらと欲で煮え滾る目は俺をじぃっと凝視している。
今の夏輝は俺より優位に立ち、いつでも喉笛に牙を突き立てることが出来る。そう感じさせられた。
「あの蛇の言ってた『トキの血』に関係してるの、かな……」
そう呟く夏輝の顔はどこか苦し気だった。夏輝からは感じるはずのないマナがぐるぐると渦巻いている。
トキの血が何なのかはわからないけれど、夏輝は普通の地球人とは違うのかもしれない。
「思えば、出会った時もさ。瑞雪の張った結界で普通の人間は気絶するはずなのに夏輝はしなかったよな」
まあ。
「だからってお前はお前に変わりないし、関係ないけどさ。……苦しいんだろ?」
俺を突き放す手を逆に掴む。
掴んだ手を俺の胸へと導く。ばくばくとさっきから恥ずかしいくらいに音を立てている心臓の上に。
「お、俺でいいなら好きにして、いいぞ。……受け止める、から」
情けないことに語尾はどんどんか細くなっていった。
だって、だって。
「酷いことしちゃうかも、乱暴なことしちゃうかもしれないんだよ。タガが外れちゃうかもしれない、怖がらせちゃうかもしれない。俺、ラテアの事大切にしたいよ……!」
「俺がいいって言ってんの!俺だって夏輝の役に立ちたいんだよ……!俺達、相棒だろ?猟犬と羊飼いで、コンビじゃねえか」
じっと睨むように夏輝を見れば、彼はさらに顔を真っ赤にした。まるっきり茹でダコか苺だ。
「この場合の発散の意味って、分かってる……?」
「前にシた時みたいなことだろ。俺だってそれくらいわかる」
「もっとシちゃうかも」
思い出すのも嫌な記憶だが、実験動物相手に『ソウイウコト』をされたこともある。どういうことをするかくらい、俺にだってわかる。
そのうえで。
「夏輝なら……いいって言ってんの。これ以上言わせるのか?お前が苦しそうなのは、俺も辛いよ。この間お前は俺を助けてくれたし、俺相手は嫌じゃないんだろ?」
俺は、夏輝にされるなら嫌じゃない。真っすぐ伝える。
でも、夏輝は。
「……駄目!」
頭をブンブンと横に振って、夏輝は俺を拒絶した。
「するなら、大切にしたい!したいから、今は駄目だ!ちょっと外散歩してくる、頭冷やしてくる……!」
そういうと夏輝はアパートの窓を開き、そこから飛び出す。
「おい、夏輝っ!」
ひゅう、と強い風が吹き込み、怯む。追いかけようと思ったが、既に夏輝は姿を晦ましていた。
でも、ちょうどよかったのかもしれない。だって俺の顔は真っ赤になっていただろうから。
「……今は駄目、ってそれって」
ちゃんと準備が出来てる時ならいいってことなのか?頬が熱い。全身がぽかぽか火照っている。
結局出遅れて追いかけることも出来ず、俺はただぼうっと空に浮かぶ二つの月を暫く見ていた。
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