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EP2 卵に潜む悪意11 それぞれの夜に
祭りの後始末2
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「おかえり簾翠」
他の支部とは比べ物にならないほどに豪華な聖堂。真っ赤なビロードの絨毯の上に設置されたチャーチチェア。
祭壇のある場所には二メートルは優に超える大きな像が設置されている。
カトリックの聖母像に似ているようで似ていない顔のない女の像。腰よりも長い髪に顔の抉られた像というのはいつ見てもアンバランスで不気味だと簾翠は感じている。
その像の前に國雪は跪き、熱心に手を組み祈りを捧げていた。祈りの様式はカトリックそのもの。
入口にはやはり黒い鎧がおり、静かに佇んでいる。まるで置物のようだ。
「貴方におかえりなんて言ってほしくないわ」
國雪に声を掛けられ、簾翠は酷く嫌そうな顔をする。眉間にしわがより、唇がへの字になる。
「悲しいことを言わないでおくれよ。それで首尾の方はどうだい?」
美女にそんな顔をされても國雪は少しも気にしない。それどころかくつくつと喉の奥で笑っていた。
「邪魔が入ったわ。勅使河原ではなく、ね」
「それですごすご逃げ帰ってきたのかい?」
國雪は言葉こそ交わすものの、決して像から目を反らさない。じぃっと熱のこもっためで像を見つめ続けている。
自分で命じておいて、少しも興味がないらしい。その癖失礼な言葉は吐く。最低野郎だった。
「失礼ね。相手の思う通りにもさせなかったわよ」
鼻を鳴らし、簾翠は不快そうに吐き捨てる。
「君が邪魔されるということは相当に厄介な相手なんだろうね。誰だったんだい?」
「昔の知り合いよ」
簾翠の言葉に國雪はようやっと立ち上がり、簾翠の顔を見やる。
昔の知り合い。その言葉に國雪は興味を持ったらしい。
「殺せないのかい?」
「私は彼を殺せないし、彼は私を殺せないわ。お互いに千日手ね」
「そうかい」
目が細められる。その目には剣呑な光が灯っていた。
「彼女の邪魔になりそうだね。対策を考えなければね」
そう言って再び國雪は像を見る。愛おし気に、そして恐れ多いとでもいうように。
「まあ、彼に関しては無理だけど邪魔に関してはもう一度行ってくるわよ。彼を動かす必要はないわ。相手も私がいることがわかったもの。そうそう手を出してはこれないわ」
彼。それは入り口にずっと佇んだままの黒い鎧のことだ。
國雪は暫しの間押し黙る。何を考えているにしても、どうせろくでもないことだ。
「それなら君に頼もうかな」
暫くして、國雪が頷く。
「わかった。それじゃあまた終わったら戻るわね」
簾翠は再び地面に溶け、消える。ビロードの上に残った染みを冷たい双眸で見つめる國雪。
「さてさて始まりは近そうだ。秋雨、君は何かを企んでいるようだけど少しくらいは楽しませてくれるだろうか。舞台は大きければ大きいほどいい。私もちゃんと彼女の為に準備をしなくては、ね」
國雪の言葉はやはり誰にも届かない。届けるつもりもない。少なくとも人間には。
再び跪き、飽きることなくただただ祈り続ける。
他の支部とは比べ物にならないほどに豪華な聖堂。真っ赤なビロードの絨毯の上に設置されたチャーチチェア。
祭壇のある場所には二メートルは優に超える大きな像が設置されている。
カトリックの聖母像に似ているようで似ていない顔のない女の像。腰よりも長い髪に顔の抉られた像というのはいつ見てもアンバランスで不気味だと簾翠は感じている。
その像の前に國雪は跪き、熱心に手を組み祈りを捧げていた。祈りの様式はカトリックそのもの。
入口にはやはり黒い鎧がおり、静かに佇んでいる。まるで置物のようだ。
「貴方におかえりなんて言ってほしくないわ」
國雪に声を掛けられ、簾翠は酷く嫌そうな顔をする。眉間にしわがより、唇がへの字になる。
「悲しいことを言わないでおくれよ。それで首尾の方はどうだい?」
美女にそんな顔をされても國雪は少しも気にしない。それどころかくつくつと喉の奥で笑っていた。
「邪魔が入ったわ。勅使河原ではなく、ね」
「それですごすご逃げ帰ってきたのかい?」
國雪は言葉こそ交わすものの、決して像から目を反らさない。じぃっと熱のこもっためで像を見つめ続けている。
自分で命じておいて、少しも興味がないらしい。その癖失礼な言葉は吐く。最低野郎だった。
「失礼ね。相手の思う通りにもさせなかったわよ」
鼻を鳴らし、簾翠は不快そうに吐き捨てる。
「君が邪魔されるということは相当に厄介な相手なんだろうね。誰だったんだい?」
「昔の知り合いよ」
簾翠の言葉に國雪はようやっと立ち上がり、簾翠の顔を見やる。
昔の知り合い。その言葉に國雪は興味を持ったらしい。
「殺せないのかい?」
「私は彼を殺せないし、彼は私を殺せないわ。お互いに千日手ね」
「そうかい」
目が細められる。その目には剣呑な光が灯っていた。
「彼女の邪魔になりそうだね。対策を考えなければね」
そう言って再び國雪は像を見る。愛おし気に、そして恐れ多いとでもいうように。
「まあ、彼に関しては無理だけど邪魔に関してはもう一度行ってくるわよ。彼を動かす必要はないわ。相手も私がいることがわかったもの。そうそう手を出してはこれないわ」
彼。それは入り口にずっと佇んだままの黒い鎧のことだ。
國雪は暫しの間押し黙る。何を考えているにしても、どうせろくでもないことだ。
「それなら君に頼もうかな」
暫くして、國雪が頷く。
「わかった。それじゃあまた終わったら戻るわね」
簾翠は再び地面に溶け、消える。ビロードの上に残った染みを冷たい双眸で見つめる國雪。
「さてさて始まりは近そうだ。秋雨、君は何かを企んでいるようだけど少しくらいは楽しませてくれるだろうか。舞台は大きければ大きいほどいい。私もちゃんと彼女の為に準備をしなくては、ね」
國雪の言葉はやはり誰にも届かない。届けるつもりもない。少なくとも人間には。
再び跪き、飽きることなくただただ祈り続ける。
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