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EP2 卵に潜む悪意10 誕生祭の死闘
災厄ウサギ
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目を細め、ちろちろと舌を出しながら蛇がにぃっと笑った。いや、正確には笑っている雰囲気に思えた。
「とき?え!?っぅお!」
夏輝が困惑した顔をするが、巨大なウサギの腕が夏輝に伸びてきたことで再び我に返る。
トキと言えば夏輝はどうだか知らないが、俺の知っているトキは一つしかない。
八潮の経営しているカフェ『朱鷺』だけだ。
「トキってカフェのこと?」
「わかんない、よっ!」
夏輝から血を貰い、炎のイオへと変換。広範囲にばらまく。
『マスター、ラテア!あの一番大きなウサギの着ぐるみの中から強いマナ反応を感知したわ!この反応は多分……結界に干渉するものだと思う!』
スマホがぴろぴろと鳴り、ずっと解析していたらしいトロンが現れ叫ぶ。
「つまり、あいつをぶっ倒せば結界のコントロールが解かれるってことか?」
『そう!』
自信満々に言い切るトロン。それならやることはたった一つしかない。脚力強化のみをかけつつ俺はネズミたちを踏みつぶしながら走る。
蛇が呪いを吸ってくれるのであればもう気にせず燃やし続ければいいだけ。異臭は相変わらず酷いが、呪いはすべて蛇が吸い込んでくれているため大分気分がいい。
夏輝の咳もいつの間にか収まっていて、少し安心した。
グリーゾスのような圧倒的な個ではない、物量による暴力。巨大着ぐるみもそうだが、体育館いっぱいに詰まっていたネズミが四方に散り散りになるのはなんとしてでも避けたい。
一度逃げられてしまえば根こそぎ全て駆除しつくすなんて絶対に無理だ!
「夏輝!」
俺はとにかく広範囲に攻撃可能な魔法を詠唱すべく走りながらイオを練り上げる。夏輝もまた同じく、風のイオを。
体育館を囲うようにイオを広げ、着火。夏輝の風が炎を煽りめらめらと強く激しく燃え上がる。
ぢぃぢぃとネズミたちが悲鳴を上げ、燃え尽きて死んでいく。そのたびに禍々しい色のマナが立ち上るが、それらすべてを蛇が急襲していく。
しかし。
「あっづ……!悪い!」
炎は俺たちをも燃やす。広範囲を重視したせいで俺は燃え盛る炎を完全にコントロールすることはできていなかった。
じりじりと俺たちの身体をも焦がすため、避けて走らなければならない。
「大丈夫、っぐ……!」
炎を避けて進む以上進行ルートはどうしても限られる。対してでかウサギはこの程度の炎ではうんともすんとも言わない。
でかウサギの手が地面に思いっきり叩きつけられ、マナによる衝撃波が生まれる。
夏輝はそれに吹き飛ばされ、そして炎も掻き消える。グリーゾスと同じく魔法は浸かってこないものの、巨体というだけで強いのだ。
ほんの少し掠っただけだというのに、骨が軋み肺から息が漏れる。俺も夏輝も吹き飛ばされ、瓦礫と共に放り出され、叩きつけられる。
「っげほ、……雑魚ネズミは倒せたとして、このデカブツどうすっか」
「っは、は……確かに……」
雑魚を焼き払ってから考えようとか思ってたけど、そんな暇はどうやらないらしい。ただウサギがでかくなっただけではない。ありゃウサギはウサギでも殺人ウサギだ!
ウサギがこちらへ向かって地響きを鳴らしながら突撃してくる。周囲の花壇に火が燃え広がり、デスマッチのリングが出来上がっていた。
白蛇だけが悠々とその場でとぐろを巻いて俺達を見つめている。本人の言った通り呪いを吸い取る以外に手を貸す気はないらしい。
「夏輝君!」
「がうぅっ!」
「っぐ……!」
月夜が俺達に気が付いて助けに来ようとするが、今度は黒狐に阻まれる。
背後から襲い掛かり、肩に噛みつく。そんな黒狐を月夜は頭を掴み地面に引き倒す。
月夜だけじゃない。瑞雪とトツカも、朝陽も皆それぞれ戦っている。この場は俺達だけで何とかしなければならない。
「こんのぉ!」
夏輝が脚力強化、腕力強化を発動しつつナイフを構え空へと飛びあがる。狙いはウサギの首だ。
俺はそれに合わせて炎のエンチャントの魔法を発動する。燃え上がる夏輝の短剣の刀身が伸び一メートルほどもある剣へと変貌。
振りかぶり、掛け声とともに一刀両断するべく振り下ろす。
「嘘でしょ、硬いんだけど!?」
刃はウサギの額から真っ二つにするはずだった。しかし、少しばかり炎の刃がめり込むだけでそれ以上進まない。
「っがぁ!?」
うざったそうにウサギの手が夏輝を叩き落す。瓦礫が飛び、濛々と土煙が立ち上る。
「夏輝っ!」
俺は走って夏輝の元へと駆け寄った。瓦礫によって全身擦り傷切り傷だらけだし、額からは血をだらだらと流している。
「ってて、だい、じょうぶ……。質量って言うのは厄介なんだなって改めて実感してる」
口から血の塊を吐きながら夏輝はよろりと立ち上がる。しかし、その目は全く屈していない。
俺たちは再びイオを練りながらでかウサギへと飛び掛かる。炎を、風を、光をありったけぶち込む。着ぐるみが破け、中からネズミがぼろぼろとあふれてくる。
いや、ネズミだけじゃない。呪いの濁流もまた流れ出てきた!
蛇に吸い込まれてはいくが、それにはタイムラグがある。あれに触れたらヤバいとガンガンと脳内で警鐘が鳴り響く。
「なんなんだよマジで化けもんじゃねえか……!何が生物の多様性だよ、進化だよ!こんなの死ぬわ!」
思わず悲鳴に似た叫びをあげる。勅使河原は生物を進化させるだの多様性だのほざいていたが、こんなの殺すための化け物にしか思えない。
『ウサギが歩いているところも、叩いたところも全部汚染されてるわ!蛇の除染が追いついてない!』
焼いても焼いても無限と思えるくらいにネズミは出てくる。今や俺たちは炎によるリングではなく呪いのリングに上がらされていた。
「あの!もう少し呪いを吸い込むの速くなりませんか!?」
『トキの血を引いているならもうちょっと頑張りなよ~』
夏輝が蛇に助けを求めるが、蛇はにへらと笑っただけだ。寧ろ楽し気だった。
「トキの血ってなに!うちの家族は皆平々凡々だって……!人間違いじゃないんですか!?」
『僕の鼻が嗅ぎ間違えるなんてことありえないよ』
蛇と夏輝が言い合っている。とりあえずこれ以上の事をする気がないことだけはわかった。
(ラテアさん)
打開するだけの手立て。何か、何かないか?あいつをぶっ潰せるだけの何か……!打ち身や呪い、炎でじりじりと追い詰められていく。
考えなければ、考えて、何か手段を……!
(ちょっと!あの!)
「は?」
不意に脳内に声が響き、俺は動きを一瞬鈍らせる。
「っぐぁ!」
「ラテア?!」
背中から踏みつけられ、内臓が飛び出そうになる。何とか転がりつつ体勢を立て直すが、何本か骨が折れた気がする。
それよりも。
(グリーゾスの声……?)
「とき?え!?っぅお!」
夏輝が困惑した顔をするが、巨大なウサギの腕が夏輝に伸びてきたことで再び我に返る。
トキと言えば夏輝はどうだか知らないが、俺の知っているトキは一つしかない。
八潮の経営しているカフェ『朱鷺』だけだ。
「トキってカフェのこと?」
「わかんない、よっ!」
夏輝から血を貰い、炎のイオへと変換。広範囲にばらまく。
『マスター、ラテア!あの一番大きなウサギの着ぐるみの中から強いマナ反応を感知したわ!この反応は多分……結界に干渉するものだと思う!』
スマホがぴろぴろと鳴り、ずっと解析していたらしいトロンが現れ叫ぶ。
「つまり、あいつをぶっ倒せば結界のコントロールが解かれるってことか?」
『そう!』
自信満々に言い切るトロン。それならやることはたった一つしかない。脚力強化のみをかけつつ俺はネズミたちを踏みつぶしながら走る。
蛇が呪いを吸ってくれるのであればもう気にせず燃やし続ければいいだけ。異臭は相変わらず酷いが、呪いはすべて蛇が吸い込んでくれているため大分気分がいい。
夏輝の咳もいつの間にか収まっていて、少し安心した。
グリーゾスのような圧倒的な個ではない、物量による暴力。巨大着ぐるみもそうだが、体育館いっぱいに詰まっていたネズミが四方に散り散りになるのはなんとしてでも避けたい。
一度逃げられてしまえば根こそぎ全て駆除しつくすなんて絶対に無理だ!
「夏輝!」
俺はとにかく広範囲に攻撃可能な魔法を詠唱すべく走りながらイオを練り上げる。夏輝もまた同じく、風のイオを。
体育館を囲うようにイオを広げ、着火。夏輝の風が炎を煽りめらめらと強く激しく燃え上がる。
ぢぃぢぃとネズミたちが悲鳴を上げ、燃え尽きて死んでいく。そのたびに禍々しい色のマナが立ち上るが、それらすべてを蛇が急襲していく。
しかし。
「あっづ……!悪い!」
炎は俺たちをも燃やす。広範囲を重視したせいで俺は燃え盛る炎を完全にコントロールすることはできていなかった。
じりじりと俺たちの身体をも焦がすため、避けて走らなければならない。
「大丈夫、っぐ……!」
炎を避けて進む以上進行ルートはどうしても限られる。対してでかウサギはこの程度の炎ではうんともすんとも言わない。
でかウサギの手が地面に思いっきり叩きつけられ、マナによる衝撃波が生まれる。
夏輝はそれに吹き飛ばされ、そして炎も掻き消える。グリーゾスと同じく魔法は浸かってこないものの、巨体というだけで強いのだ。
ほんの少し掠っただけだというのに、骨が軋み肺から息が漏れる。俺も夏輝も吹き飛ばされ、瓦礫と共に放り出され、叩きつけられる。
「っげほ、……雑魚ネズミは倒せたとして、このデカブツどうすっか」
「っは、は……確かに……」
雑魚を焼き払ってから考えようとか思ってたけど、そんな暇はどうやらないらしい。ただウサギがでかくなっただけではない。ありゃウサギはウサギでも殺人ウサギだ!
ウサギがこちらへ向かって地響きを鳴らしながら突撃してくる。周囲の花壇に火が燃え広がり、デスマッチのリングが出来上がっていた。
白蛇だけが悠々とその場でとぐろを巻いて俺達を見つめている。本人の言った通り呪いを吸い取る以外に手を貸す気はないらしい。
「夏輝君!」
「がうぅっ!」
「っぐ……!」
月夜が俺達に気が付いて助けに来ようとするが、今度は黒狐に阻まれる。
背後から襲い掛かり、肩に噛みつく。そんな黒狐を月夜は頭を掴み地面に引き倒す。
月夜だけじゃない。瑞雪とトツカも、朝陽も皆それぞれ戦っている。この場は俺達だけで何とかしなければならない。
「こんのぉ!」
夏輝が脚力強化、腕力強化を発動しつつナイフを構え空へと飛びあがる。狙いはウサギの首だ。
俺はそれに合わせて炎のエンチャントの魔法を発動する。燃え上がる夏輝の短剣の刀身が伸び一メートルほどもある剣へと変貌。
振りかぶり、掛け声とともに一刀両断するべく振り下ろす。
「嘘でしょ、硬いんだけど!?」
刃はウサギの額から真っ二つにするはずだった。しかし、少しばかり炎の刃がめり込むだけでそれ以上進まない。
「っがぁ!?」
うざったそうにウサギの手が夏輝を叩き落す。瓦礫が飛び、濛々と土煙が立ち上る。
「夏輝っ!」
俺は走って夏輝の元へと駆け寄った。瓦礫によって全身擦り傷切り傷だらけだし、額からは血をだらだらと流している。
「ってて、だい、じょうぶ……。質量って言うのは厄介なんだなって改めて実感してる」
口から血の塊を吐きながら夏輝はよろりと立ち上がる。しかし、その目は全く屈していない。
俺たちは再びイオを練りながらでかウサギへと飛び掛かる。炎を、風を、光をありったけぶち込む。着ぐるみが破け、中からネズミがぼろぼろとあふれてくる。
いや、ネズミだけじゃない。呪いの濁流もまた流れ出てきた!
蛇に吸い込まれてはいくが、それにはタイムラグがある。あれに触れたらヤバいとガンガンと脳内で警鐘が鳴り響く。
「なんなんだよマジで化けもんじゃねえか……!何が生物の多様性だよ、進化だよ!こんなの死ぬわ!」
思わず悲鳴に似た叫びをあげる。勅使河原は生物を進化させるだの多様性だのほざいていたが、こんなの殺すための化け物にしか思えない。
『ウサギが歩いているところも、叩いたところも全部汚染されてるわ!蛇の除染が追いついてない!』
焼いても焼いても無限と思えるくらいにネズミは出てくる。今や俺たちは炎によるリングではなく呪いのリングに上がらされていた。
「あの!もう少し呪いを吸い込むの速くなりませんか!?」
『トキの血を引いているならもうちょっと頑張りなよ~』
夏輝が蛇に助けを求めるが、蛇はにへらと笑っただけだ。寧ろ楽し気だった。
「トキの血ってなに!うちの家族は皆平々凡々だって……!人間違いじゃないんですか!?」
『僕の鼻が嗅ぎ間違えるなんてことありえないよ』
蛇と夏輝が言い合っている。とりあえずこれ以上の事をする気がないことだけはわかった。
(ラテアさん)
打開するだけの手立て。何か、何かないか?あいつをぶっ潰せるだけの何か……!打ち身や呪い、炎でじりじりと追い詰められていく。
考えなければ、考えて、何か手段を……!
(ちょっと!あの!)
「は?」
不意に脳内に声が響き、俺は動きを一瞬鈍らせる。
「っぐぁ!」
「ラテア?!」
背中から踏みつけられ、内臓が飛び出そうになる。何とか転がりつつ体勢を立て直すが、何本か骨が折れた気がする。
それよりも。
(グリーゾスの声……?)
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