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EP2 卵に潜む悪意10 誕生祭の死闘
懐かしい匂い
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「がるるるるっ!」
ハヤブサの羽、蛇の尻尾、ゴリラの腕。それ以外にも様々な動物の器官に身体を変化させ、苛烈な肉弾戦を仕掛けてくる。
月夜が前面に出てそれを受け止め、俺と夏輝で援護する。
月夜は身体強化の魔法を使っているわけではないみたいだ。けれど、全身の筋肉は普段よりもずっと逞しく隆起していた。トツカの使うような身体強化魔法と同じ効果だろう。
何故魔法ではないってわかるかといえば、マナの流れが月夜の装備している籠手に集中し、そこから月夜の全身に流れて行っているから。イオを使っていないのだ。
「夏輝君、ラテア君!君たちは体育館の中に!」
「させないっ!」
月夜の言葉に俺と夏輝は頷くが、それを黒狐が阻止すべく月夜を飛び越え狙おうとする。しかしそれを月夜は許さない。
空高く飛びあがる相手を阻止する手段は月夜にないかと思えた。しかし月夜は周囲に散らばった瓦礫の中でもひときわ大きなものを選び、それを黒狐へと投げつけた。
「ぎゃぅんっ!」
予想だにしないダイナミックな攻撃に避けそこね、黒狐は情けない声をあげながら地面へと叩きつけられた。
月夜一人で大丈夫かと心配になったが、どうやら杞憂のようだ。
「行こう、ラテア!」
「おう!」
俺たちはそのまま体育館へと突入する。一歩中へ入るとぶわりと肌が粟立ち毛が逆立つ。横の夏輝を見ても顔を真っ青にしていた。
「何これ……すごく、気持ちが悪い」
一歩踏み入れた瞬間、俺達を見舞ったのは呪いの嵐ともいうべきマナの奔流。
吐き気すら感じるほどの悍ましいものだった。
「ここにネズミが集まってきてるのかな……」
中からはうぞうぞと何かが蠢く音が耐えずしている。まるで耳を犯されているようだ。
「だろうな。中から何かが蠢く音がする。マジで気持ちわりぃ……」
しかし、入り口で立ちすくむわけにもいかない。外で月夜が止めてくれているのだからさっさと俺たちは中に入ってネズミたちを駆逐しなければならない。
外からは轟音が耐えず聞こえている。派手に月夜と黒狐がドンパチやっているようだった。
互いに顔を見合わせ、頷く。俺たちは体育館のフロアに続く扉を開く。
中に入るとまず感じたのは鼻が曲がるほどの異臭。そしてカーテンは開けられているはずなのに真っ暗なこと。
「ぉぇっ……」
夜目が効く分
広々とした体育館のフロアは本来ならスポーツをするのに十分すぎる広さを有している。そのフロアを足の踏み場もないほどのネズミがうじゃうじゃと蠢いていた。
そしてその半分ほどを占拠する巨大なウサギのぬいぐるみ。だらりと力なく座っているウサギは動く気配はなかったが、時折でこぼこと僅かに変形していた。
中にはきっとみっちり呪いのネズミたちが詰まっているのだろう。
「……こいつらを野に解き放ったらどれだけの規模の災害になるか。体育館ごと燃やすしかないか?」
「それ以外の手段があればそうしたいけど、一刻の猶予もない、よね」
夏輝が短剣を握りなおす。酷い顔だが、俺も同じくらいどうしようもない顔をしているに違いなかった。
この場の空気を吸うだけで吐き気がしてくる。
「こんな呪いが放たれたら、あの子だって無事では済まないと思うんだけどな」
小さく息をつく夏輝に俺も頷く。
「正直、こんなところに送り込まれてくるやつは捨て駒だと思うぜ。あいつも、それに多分この場にいる清水君だっけ?あの子もだ」
すくみそうになる足を叱咤し無理やり一歩を踏み出す。
ネズミたちの目がぎらぎらと一斉にこちらを見る。巨大なウサギの着ぐるみの、本来なら人間の視界確保用の穴からも無数の小さな光が漏れていた。
俺達が体育館に踏み入れた瞬間、地響き。通常サイズのウサギの着ぐるみ、そして取り巻きのネズミたちが一斉に動き出す。
デカい方は空気の入っていないビニールのぬいぐるみみたいだ。しかし、侵入者を感知したからかすぐにウサギはパンパンに膨らみ、ぐらぐらと体育館全体を揺らしながら動き出そうとしている。
「ここ、瑞雪が適任だった気もするなア」
「仕方ない。わかるわけない。俺達でやらないと」
「だな……!」
足手まといにはなりたくない。
「光よ!」
夏輝が光のイオを練り上げ、周囲を照らす。俺の火で照らすよりも効率がいい。
「本当に光魔法使えるようになったんだな……」
「うん。なんか使えるように。まだ簡単なのしか使えないけど、手が増えていい感じかも」
ただの光のはずなのに、周囲がぱあっと照らされるとほんの少しだけ息苦しさが和らいだ気がした。
それでも動くのもやっとなレベル。足元にネズミが殺到し、俺は炎で、夏輝は光を収束させたレーザーで焼き払う。そのたびにもうもうと濃密な呪いが立ち上り、俺達に向けて、そしていずこかへと流れていく。
体育館の天井をぶち破り、ウサギが立ち上がりながら俺達に向けて着ぐるみの手を伸ばす。
捕まったらどうなるかわかったもんじゃない。俺たちは左右に飛びのきふわふわの手を避ける。ネズミの波がさあっと割れ、ほんらいぴかぴかにワックスで磨き上げられているはずの床が砕かれる。
本来入ってくる日の光はなく、分厚い雲に覆われた空は赤い結界で覆われている。はらはらと舞い散る白い灰が俺達に降り注ぐ。
ネズミたちはさながら濁流だ。一匹一匹は大したことなくてもこれだけ集まれば最早災厄でしかない。何より。
「っげほ、がほ」
光がネズミを薙ぎ、一撃で何百も死ぬ。呪いのマナが爆散し、その場にとどまる。その中で激しく俺たちは飛んだり跳ねたり避けたりと動き回り、呪いを取り込む。
俺は恐らくこの呪い、というか薬品に強い。しかし夏輝は違う。いつしか殺すたびにせき込むようになっていた。これはまずい。俺は口を開き、叫ぶ。
「夏輝、札を破れ!どんどん呪いを取り込んでる!」
「う、うん!」
必死になっていたからこそ夏輝自身は自らの体調変化に気づかなかったのだろう。瑞雪と一緒で多分やせ我慢しまくるタイプだし。
俺の言葉にハっと我に返ったらしい夏輝は頷き、懐に手をやり一枚の札を取り出す。
「お願い、力を貸して!」
一思いにびりっと破くと札から爆発的なマナがあふれ出す。光り輝く美しいマナだ。と言っても派手ではなく、浄化されるようなそんな美しさを持っている。
光が収まると、そこにいたのはデカいウサギのぬいぐるみにも引けを取らない大蛇だった。
真っ白ですべらかな鱗を持ち、真っ赤な瞳を持っている。しゅるしゅると舌を出し、俺と夏輝を見下げている。
『懐かしい匂いがするね』
俺たちの脳みそに直接響く声。子供のような可愛らしい声だった。
蛇は確かに夏輝を見てそう言った。
「え?」
呆けた声を出す夏輝にウサギの着ぐるみたちが迫る。
『邪魔』
しかし、蛇の尻尾が全て薙ぎ払い一蹴する。吹き飛ばされ、散り散りになって飛んでいくネズミたち。体育館は既に全壊に近い。
外で月夜と黒狐が戦っているのが見えるくらいには。
月夜の前身は擦り傷切り傷だらけで軍服は破けている箇所がある始末。黒狐も腕が片方変な方向に曲がっており、肘から白い骨が見えて痛々しい。
泥臭い戦いを繰り広げ続けていた。
「懐かしい匂いって、知り合いか?」
「そんな!蛇の知り合いなんていないよ!」
俺の知らない知り合いばっかりだ。なんて一瞬ムっとするが夏輝は首をぶんぶんと横に振りたくった。
『ヒトって本当に愚かだね。馬鹿な言い争いをしていないで早くネズミたちを殺しなよ。呪いは僕が引き受けてあげるから。それ以外は何もしないよ』
そう言うなり蛇は周囲から呪いのマナを吸収し始める。当然、殺した分だけ。生きているネズミたちは体育館が破壊された事によりどっと外へあふれ出している。
『トキなら出来るよね』
ハヤブサの羽、蛇の尻尾、ゴリラの腕。それ以外にも様々な動物の器官に身体を変化させ、苛烈な肉弾戦を仕掛けてくる。
月夜が前面に出てそれを受け止め、俺と夏輝で援護する。
月夜は身体強化の魔法を使っているわけではないみたいだ。けれど、全身の筋肉は普段よりもずっと逞しく隆起していた。トツカの使うような身体強化魔法と同じ効果だろう。
何故魔法ではないってわかるかといえば、マナの流れが月夜の装備している籠手に集中し、そこから月夜の全身に流れて行っているから。イオを使っていないのだ。
「夏輝君、ラテア君!君たちは体育館の中に!」
「させないっ!」
月夜の言葉に俺と夏輝は頷くが、それを黒狐が阻止すべく月夜を飛び越え狙おうとする。しかしそれを月夜は許さない。
空高く飛びあがる相手を阻止する手段は月夜にないかと思えた。しかし月夜は周囲に散らばった瓦礫の中でもひときわ大きなものを選び、それを黒狐へと投げつけた。
「ぎゃぅんっ!」
予想だにしないダイナミックな攻撃に避けそこね、黒狐は情けない声をあげながら地面へと叩きつけられた。
月夜一人で大丈夫かと心配になったが、どうやら杞憂のようだ。
「行こう、ラテア!」
「おう!」
俺たちはそのまま体育館へと突入する。一歩中へ入るとぶわりと肌が粟立ち毛が逆立つ。横の夏輝を見ても顔を真っ青にしていた。
「何これ……すごく、気持ちが悪い」
一歩踏み入れた瞬間、俺達を見舞ったのは呪いの嵐ともいうべきマナの奔流。
吐き気すら感じるほどの悍ましいものだった。
「ここにネズミが集まってきてるのかな……」
中からはうぞうぞと何かが蠢く音が耐えずしている。まるで耳を犯されているようだ。
「だろうな。中から何かが蠢く音がする。マジで気持ちわりぃ……」
しかし、入り口で立ちすくむわけにもいかない。外で月夜が止めてくれているのだからさっさと俺たちは中に入ってネズミたちを駆逐しなければならない。
外からは轟音が耐えず聞こえている。派手に月夜と黒狐がドンパチやっているようだった。
互いに顔を見合わせ、頷く。俺たちは体育館のフロアに続く扉を開く。
中に入るとまず感じたのは鼻が曲がるほどの異臭。そしてカーテンは開けられているはずなのに真っ暗なこと。
「ぉぇっ……」
夜目が効く分
広々とした体育館のフロアは本来ならスポーツをするのに十分すぎる広さを有している。そのフロアを足の踏み場もないほどのネズミがうじゃうじゃと蠢いていた。
そしてその半分ほどを占拠する巨大なウサギのぬいぐるみ。だらりと力なく座っているウサギは動く気配はなかったが、時折でこぼこと僅かに変形していた。
中にはきっとみっちり呪いのネズミたちが詰まっているのだろう。
「……こいつらを野に解き放ったらどれだけの規模の災害になるか。体育館ごと燃やすしかないか?」
「それ以外の手段があればそうしたいけど、一刻の猶予もない、よね」
夏輝が短剣を握りなおす。酷い顔だが、俺も同じくらいどうしようもない顔をしているに違いなかった。
この場の空気を吸うだけで吐き気がしてくる。
「こんな呪いが放たれたら、あの子だって無事では済まないと思うんだけどな」
小さく息をつく夏輝に俺も頷く。
「正直、こんなところに送り込まれてくるやつは捨て駒だと思うぜ。あいつも、それに多分この場にいる清水君だっけ?あの子もだ」
すくみそうになる足を叱咤し無理やり一歩を踏み出す。
ネズミたちの目がぎらぎらと一斉にこちらを見る。巨大なウサギの着ぐるみの、本来なら人間の視界確保用の穴からも無数の小さな光が漏れていた。
俺達が体育館に踏み入れた瞬間、地響き。通常サイズのウサギの着ぐるみ、そして取り巻きのネズミたちが一斉に動き出す。
デカい方は空気の入っていないビニールのぬいぐるみみたいだ。しかし、侵入者を感知したからかすぐにウサギはパンパンに膨らみ、ぐらぐらと体育館全体を揺らしながら動き出そうとしている。
「ここ、瑞雪が適任だった気もするなア」
「仕方ない。わかるわけない。俺達でやらないと」
「だな……!」
足手まといにはなりたくない。
「光よ!」
夏輝が光のイオを練り上げ、周囲を照らす。俺の火で照らすよりも効率がいい。
「本当に光魔法使えるようになったんだな……」
「うん。なんか使えるように。まだ簡単なのしか使えないけど、手が増えていい感じかも」
ただの光のはずなのに、周囲がぱあっと照らされるとほんの少しだけ息苦しさが和らいだ気がした。
それでも動くのもやっとなレベル。足元にネズミが殺到し、俺は炎で、夏輝は光を収束させたレーザーで焼き払う。そのたびにもうもうと濃密な呪いが立ち上り、俺達に向けて、そしていずこかへと流れていく。
体育館の天井をぶち破り、ウサギが立ち上がりながら俺達に向けて着ぐるみの手を伸ばす。
捕まったらどうなるかわかったもんじゃない。俺たちは左右に飛びのきふわふわの手を避ける。ネズミの波がさあっと割れ、ほんらいぴかぴかにワックスで磨き上げられているはずの床が砕かれる。
本来入ってくる日の光はなく、分厚い雲に覆われた空は赤い結界で覆われている。はらはらと舞い散る白い灰が俺達に降り注ぐ。
ネズミたちはさながら濁流だ。一匹一匹は大したことなくてもこれだけ集まれば最早災厄でしかない。何より。
「っげほ、がほ」
光がネズミを薙ぎ、一撃で何百も死ぬ。呪いのマナが爆散し、その場にとどまる。その中で激しく俺たちは飛んだり跳ねたり避けたりと動き回り、呪いを取り込む。
俺は恐らくこの呪い、というか薬品に強い。しかし夏輝は違う。いつしか殺すたびにせき込むようになっていた。これはまずい。俺は口を開き、叫ぶ。
「夏輝、札を破れ!どんどん呪いを取り込んでる!」
「う、うん!」
必死になっていたからこそ夏輝自身は自らの体調変化に気づかなかったのだろう。瑞雪と一緒で多分やせ我慢しまくるタイプだし。
俺の言葉にハっと我に返ったらしい夏輝は頷き、懐に手をやり一枚の札を取り出す。
「お願い、力を貸して!」
一思いにびりっと破くと札から爆発的なマナがあふれ出す。光り輝く美しいマナだ。と言っても派手ではなく、浄化されるようなそんな美しさを持っている。
光が収まると、そこにいたのはデカいウサギのぬいぐるみにも引けを取らない大蛇だった。
真っ白ですべらかな鱗を持ち、真っ赤な瞳を持っている。しゅるしゅると舌を出し、俺と夏輝を見下げている。
『懐かしい匂いがするね』
俺たちの脳みそに直接響く声。子供のような可愛らしい声だった。
蛇は確かに夏輝を見てそう言った。
「え?」
呆けた声を出す夏輝にウサギの着ぐるみたちが迫る。
『邪魔』
しかし、蛇の尻尾が全て薙ぎ払い一蹴する。吹き飛ばされ、散り散りになって飛んでいくネズミたち。体育館は既に全壊に近い。
外で月夜と黒狐が戦っているのが見えるくらいには。
月夜の前身は擦り傷切り傷だらけで軍服は破けている箇所がある始末。黒狐も腕が片方変な方向に曲がっており、肘から白い骨が見えて痛々しい。
泥臭い戦いを繰り広げ続けていた。
「懐かしい匂いって、知り合いか?」
「そんな!蛇の知り合いなんていないよ!」
俺の知らない知り合いばっかりだ。なんて一瞬ムっとするが夏輝は首をぶんぶんと横に振りたくった。
『ヒトって本当に愚かだね。馬鹿な言い争いをしていないで早くネズミたちを殺しなよ。呪いは僕が引き受けてあげるから。それ以外は何もしないよ』
そう言うなり蛇は周囲から呪いのマナを吸収し始める。当然、殺した分だけ。生きているネズミたちは体育館が破壊された事によりどっと外へあふれ出している。
『トキなら出来るよね』
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