青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP2 卵に潜む悪意10 誕生祭の死闘

遅延戦術

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 朝陽は正直なところ、傲慢でおごり高ぶるタイプである。まあ、これに関しては朝陽を知る人間皆が頷くこと。
 しかし、瑞雪に惜敗したことで少しばかり変化が起こっていた。

(窮鼠猫を噛むとはよく言ったもんだね……。全く嫌になるよ)

 やるなら徹底的に。舐めて弄ぶような真似をする必要はない。指揮棒を手で弄びつつバジリスクと炎の妖精からイオを奪い練り上げる。
 間髪入れずに発動。現校舎一帯が闇に包まれる。炎の妖精の炎すらもかき消す漆黒。この魔法の使用は魔人達にとって狩りの合図。息を潜め、音を殺す。
 逆にゴーレムというものはどうしたって音が発生するものだ。魔人達にとってもこの暗闇は見えない。唯一見えるのは術者である朝陽のみだ。
 しかし、それで十分だ。
 何フレーズか詠唱し、朝陽は指揮棒を軽く振る。途端闇が渦を巻き、真っ黒な揚羽の形となってレイに向かって殺到する。

「ぅお!?いきなりかよっ!」

 魔人と打ち合っているバプティズムは押されているのもあり、レイのフォローにまでは回れない。
 蝶は圧縮された闇のイオ。炎や雷のイオのような直接的な火力はないが、触れれば皮膚を焼き骨を溶かす。ある意味でそれらよりも余程厄介で悍ましい。
 幸いにもひらひらと舞い飛んでいるため追いかけてくる速度は大したことはない。レイは慌てて教室の中へとつんのめりつつ入り事なきを得る。と思いきや。

「悪いけどこれ貫通するんだよね♪」

 壁を無視して蝙蝠達はレイを執拗に追い続ける。どう見てもレイは狩られる側であり、朝陽こそが狩る側だった。

「それだけじゃないよ?俺に直接攻撃されるなんて光栄に思ってよね、まあすぐ死ぬんだけど♪」

 朝陽の言葉通り、脅威はそれだけではない。蝶に触れないように避けるレイの進行方向に真っ黒な六面体が出現。
 机や椅子の触れた箇所がすっぱりと断面となり焼失していた。

「……いやいやいや、無理だろこれ」

 レイの顔が青ざめ、口元が変に引き攣る。瑞雪の長所が火力なら、朝陽の長所は卓越した魔法のコントロールにあった。
 主に多数の猟犬達を同時に完璧にコントロールする事に使われている。直接火力の魔法は普段使っていないこともあり威力不足な面があった。
 瑞雪との戦いで使っていなかったのはそれよりも猟犬達を使ったほうが効果的だったからだ。
 しかし、明らかに戦い慣れていないレイを追いつめるには十分だった。

「絶対イヤだけど……流石にこのまま尻尾を巻いて逃げ出したらマズいよなあ」

 ぼそりとレイが掠りそうになるギリギリでブラックボックスを避けながら呟く。
 冷や汗が先程からだらだらと流れる。当たったら欠損、下手すれば死ぬ。

「お前が何の魔族かは知らないけど、大したことないねえ」

 くすくす。笑いつつ朝陽は箱と蝶の両方で追いつめる。

「ほんっとムカつく。人を煽ることに命でも賭けてんのか?チビの癖にさ」

 レイの身体からうっすらとマナが発される。しかし、魔法ではない。まるで空気のようにうっすらと広がっていっている。

(なんだ?あれ)

 相変わらず炎の妖精はウサギたちと遊んでいるし、魔人とバプティズムは乳繰り合っている。
 プルヴァーランスは時折隙を狙うように朝陽を狙って外壁を突き破って腕を伸ばすがバジリスクに阻まれている。
 嫌な予感がする。今すぐにどうにかしなければならないという類ではなく、真綿で首を締められるような。そんな心地だ。

(魔族なのはわかるけど、一体あいつはどれなんだ?弱すぎてわかんねえんだよっ!)

 手掛かりは薄く広がるマナのみ。いや、待て。

(甘い匂いがする。ほんのちょっぴり……香水みたいな匂いだ)

 甘い香り。この特徴に朝陽は心当たりがあった。

「いん、まっ!?」

 言葉を発しようとして、裏返る。なぜなら壁を突き破ってくる鉄の拳にバジリスクの対応が遅れたからだ。引き潰される寸前で転がりかわすものの、バジリスクは壁に叩きつけられ動かなくなる。
 舌打ちする。しくじった。
 朝陽自身の身体も強くではないが少し痺れており、動きがやや鈍っていた。気づくのが遅れたのは朝陽自身が動く必要がないくらいに戦闘を優位に進められていると思っていたからだ。

「ご明察。淫魔のフェロモンだよ。……本当は使いたくないんだけどね。まあ今回はいい方向に働いたみたいだね。弱すぎて気づかれなかったから。俺は淫魔としては出来損ないでな」

 別に死ぬとか、そういう危険はない。ただ。

「というわけでこのまま時間を稼がせてもらうよ。あんたにとっては今回の戦場、天敵だったな」
「……それはどうかな?お前こそ俺の魔法から頑張って逃げ続けるんだな」

 低く唸るような声音と共に箱がさらにもう一つ現れる。マジかよ、なんて呟きつつレイはほんの少し足をすくませる。
 レイの目論見通りになるわけにはいかない。炎の妖精は徹底的にウサギの処理をしてもらい、朝陽は本体を叩き潰す事のみにすることに決めた。




 
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