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EP2 卵に潜む悪意10 誕生祭の死闘
全力疾走
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「流石に本校舎の方ならすぐにわかるな。ったく瑞雪の奴、いつかリベンジするからな……」
月夜たちと別れ、朝陽は本校舎のイオの反応を追っていた。
当然自分の足で走るなんて面倒なことはせず、馬型の猟犬を足元の影から出しそれに乗っている。
(新たに猟犬は結界のハッキングを解除しなきゃ無理。手持ちの猟犬だけでなんとかやるしかないね)
ウサギ狩りに向かわせている有象無象の雑魚を除き、中堅以上の強さを持つ手持ちの猟犬は三体。
竜人の姿をした近接型魔族と援護を行う黒の目隠しをし、ローブを目深にかぶった人型ーバジリスク、攻撃魔法に特化した少女の姿をした炎の妖精だけ。
多数の猟犬を自由自在に召喚し、操る朝陽の戦闘スタイルとはとことん相性が悪い。
(ま、だからって負けるつもりはないケド。これくらいハンデだよねえ)
目を細め、何体か呼び戻した偵察型猟犬で周囲を警戒しながら本校舎の前へと移動する。ウサギたちは逆に大型のイオ反応の付近にはいないようだった。
あるいはレーダーの感知から逃れる何らかの手段があるかだ。馬から降り、影の中へと仕舞う。
朝陽は属性は闇のみの特化型の羊飼いだ。逆に言えば闇に類する魔法であれば、多くの魔法を行使することが可能だ。
攻撃魔法も勿論使えるが、どちらかと言えばユーティリティに富んだ魔法の方を得意とする。
「索敵してこい」
校舎の入り口、下駄箱が多数並んでいるが当然日曜日なので誰もいない。
(高校とか懐かしいな。もう七年前か)
別に感傷に浸れるほどの思い出などない。学校生活よりも羊飼いとしての生活の方がよほど濃かった。
「ゲギャア!ギャググル!」
程なくしてけたたましい偵察用猟犬達の鳴き声が聞こえてくる。
「やっぱいたか」
指揮棒を構え、振り下ろす。竜人が校舎へとまず突撃し、炎の妖精が続く。バジリスクだけは朝陽と共に足並みを揃える。
雨が降りそうな天気だからか、電気もついていない校舎の中は薄暗い。昔月夜と見た学校が舞台のホラー映画みたいだった。
中へと一歩足を踏み入れた瞬間、そこら中からウサギの着ぐるみが現れる。やはり感知から逃れる術を持っているらしい。
(科学って面倒だな。いつも相手が思っていそうなことだけど!)
竜人がウサギたちを切って捨てる。破れた着ぐるみから波のようにネズミが溢れ朝陽へと殺到する。
しかし、即座に炎の妖精が反応。宝石のように煌めく炎の袖をはためかせながら手を上から下へと振り下ろす。練り上げられた炎のイオの爆発。
校舎入口の窓ガラスと下駄箱を吹き飛ばしながらネズミたちが焼け落ちる。朝陽たちをも巻き込むような爆炎だったが、バジリスクが一歩前に出て朝陽を守る。
「仲間割ればっかしてるあほかと思ったけど、案外そんなことないんだ」
爆炎が収まったところで凛とした、声変わりしたての少年の声。灰色の髪に赤色のメッシュが入った、夏輝と同じか少し上くらいという年頃の少年だった。
「清水でも黒狐でもない。新手か。まあいいや。俺の相手はお前ってコトね」
瑞雪との戦いで溜まったストレスをぶつけていい相手らしい。朝陽はほくそ笑み、指揮棒を構えなおした。
「ラテア、月夜さん!こっち!」
「おう!」
「はいはい」
俺と夏輝、月夜は体育館の方を担当するべく全力疾走していた。そこかしこに出没するウサギども。
俺の炎と夏輝の風で蹴散らしつつ、ただ走る。月夜は接近してきたウサギを顔面をえぐり取り投げ飛ばす。なかなかに豪快な戦い方だった。
俺達が体育館、朝陽が現校舎、瑞雪が旧校舎。
何故そう言う分担になったかと言えば、朝陽は地の利がなく、瑞雪はうっかり破壊しても問題ない場所を求めたからだ。
瑞雪の本気の戦いを見た俺達にとっては納得だ。装備を更新してからは威力を抑えるのに苦心していたようだし。
「体育館なら蛇を出すのにも丁度いいはず。うちの学校の体育館すごく広くて立派だから」
所詮敷地内は敷地内。距離自体はそう遠くもないはずだったが、とにかくウサギたちの邪魔が入る。
(なんか……なんだ?違和感が)
現状倒しても呪い自体の影響はない。しかし、俺は何となく違和感を感じていた。
違和感というのはマナの流れだ。ネズミを殺すとマナが霧散している。
(呪いだろ?霧散してどっかにいっちまうのはおかしい。そりゃ俺達に現状影響がないに決まってる。不発になってるんだから)
相手側のミス……なわけはないだろ?前に倒したネズミの呪いは確かに効かなかったにせよ発動はしていたんだから。
しかし、今の違和感はあくまでもほんの少し。具体的に何かが決定的におかしいというわけではない。ただ霧散しているだけ。もっと何かピースが欲しい。
「着いた、体育館だよ!」
ウサギをあしらいながらやっとのことで体育館にたどり着く。少しの道のりが何でこんなに長く感じるんだか。
弱音を吐いている暇なんて当然ないんだけどさ。
「僕から突入するから二人は後ろからついてきてね」
言葉を口にするのとほぼ同時に月夜が単身乗り込んでいく。慌てて俺達も後に続く。続こうとする。けれど。
入った瞬間不意に何かがジェット機か何かを思わせる速度で突っ込んでくる。俺達三人全員が即座に反応。夏輝と俺は横へと飛びのくが、月夜は真正面から受け止める。
「うぉ!?月夜!?」
濛々と立ち上る土煙。土煙の中から黒狐が月夜に投げ飛ばされて体育館外へと吹っ飛ばされた。
「魔法とかは使えないけど、肉弾戦でそう簡単に僕を物理的な力でねじ伏せられると思わないで欲しいな」
やっと土煙が晴れ、視界が戻る。俺達に奇襲を仕掛けたのは予想通り黒狐だった。
「がるるるるるるっ!」
牙を剥き、唸る黒狐。俺も同じく身構え、牙を剥き出しにする。
「全員ここで死ね!」
相変わらずの殺意。しかし、今回は俺だけにではなく皆等しく向けられているようだった。
「ラテア、月夜さん!ウサギが奥から大量に沸いて出てきてます!」
黒狐に気を取られていると夏輝が異変に気付き、叫ぶ。体育館の入口へと視線を戻すとウサギがどこぞのゾンビ映画みたいにわらわらと溢れ出てきていた。
「一体あの中に何があるんだろうね」
「わかんねえけどぶっ倒していくしかなさそうじゃん?」
月夜の言葉に俺は小さく息をつく。どちらにせよウサギ一匹-否、ネズミ一匹この結界の外へと逃がすわけにはいかないのだ。
全員須らく倒さなければ一般人に被害が及ぶ可能性がある。夏輝を悲しませたくはないし、何の罪もない地球人が巻き込まれるのは俺だっていやだ。
魔物化した地球人と起こした共鳴反応。苦痛の記憶。あれを思い出し、口の中が酸っぱくなる。
「それじゃあいくよ、皆!」
「生意気。実力もないクセに」
夏輝の掛け声に黒狐が吐き捨て、こちらへと向かって突進してきた。
「ここが普段瑞雪が来ている場所か」
向かっているのは旧校舎。瑞雪は当然のように足を踏み入れたことはなかったが、場所だけは把握……。
『ぎゅい!』
していない。カマイタチがナビゲートしてくれていた。そう、瑞雪は方向音痴なのである。
スマホの画面をちらちらと見つつ、目的地へと向かう。
「そうだ。仕事場……まあ仕事場だな」
学びの場ではあるが、どちらかというと仕事場という表現の方が正しいだろう。と、そんなことを話しているとウサギが沸いて出てくる。
「こいつら一体一体を潰すのは苦手だ。瑞雪頼む」
「わか、った!?」
昨日戦っているのを見てよくよくわかったが、トツカは群れとの戦いをあまり得意としていない。強い個体、単体と戦うことに特化している。
これがまだ人型以上の群れであるならばいいがネズミのような小さな生物をまとめて吹き飛ばす場合は土魔法を使わなければならないだろう。
適任は自分。魔法を詠唱しつつ走ろうとしたところでふわりと何故だか浮遊感に見舞われる。
「おい!何抱えてるんだ!」
何故浮遊感に見舞われたかと言えば、トツカが瑞雪を小脇に抱えたからだ。
「この方が早い。道はどうせそれを見ているだろう」
ぐぅの音も出ないとはまさにこのことである。瑞雪は押し黙る。そのまま運ばれるよりほかない。
心なしかスマホの画面上に映っているカマイタチが憐みの視線を向けている気がした。
揺られながら弓を構え進行方向のウサギに向けて氷の矢を打ち込む。雷でなく氷なのはむやみやたらと構造物を破壊しないためだ。ウサギの着ぐるみが凍てつき氷の彫像と化す。
「ああ、これなら壊しやすい」
やや愉快そうに、トツカが言葉を発する。
瑞雪が創り上げた氷のオブジェたちをすれ違いざまにトツカが片手で軽々と持った刀で粉々に粉砕していく。
非常に瑞雪にとっては不服な情けない格好だが、これが一番効率的だった。
旧校舎への道は鬱蒼と生い茂った樹々に阻まれている。普段は生徒たちは滅多に来ない。瑞雪だって初めてだ。そもそも立ち入り禁止区域なのだから。
曇天ということもあり、夜かと思うくらいに周囲は薄暗い。瑞雪もトツカもラテアのように夜目は効かない。
だからこそ、警戒を強めていた。
「トツカ!」
「わかっている」
背の高い樹々の合間、影から多数の職種のような腕が生えてくる。瑞雪が短く叫ぶとトツカが頷き、全てすんばらりと横なぎ。たったの一太刀で影の腕を切り落とした。
「……先生」
木の陰からぬるりと現れる人影。陰鬱な目をさらに濁らせた子供-清水奏太だった。
月夜たちと別れ、朝陽は本校舎のイオの反応を追っていた。
当然自分の足で走るなんて面倒なことはせず、馬型の猟犬を足元の影から出しそれに乗っている。
(新たに猟犬は結界のハッキングを解除しなきゃ無理。手持ちの猟犬だけでなんとかやるしかないね)
ウサギ狩りに向かわせている有象無象の雑魚を除き、中堅以上の強さを持つ手持ちの猟犬は三体。
竜人の姿をした近接型魔族と援護を行う黒の目隠しをし、ローブを目深にかぶった人型ーバジリスク、攻撃魔法に特化した少女の姿をした炎の妖精だけ。
多数の猟犬を自由自在に召喚し、操る朝陽の戦闘スタイルとはとことん相性が悪い。
(ま、だからって負けるつもりはないケド。これくらいハンデだよねえ)
目を細め、何体か呼び戻した偵察型猟犬で周囲を警戒しながら本校舎の前へと移動する。ウサギたちは逆に大型のイオ反応の付近にはいないようだった。
あるいはレーダーの感知から逃れる何らかの手段があるかだ。馬から降り、影の中へと仕舞う。
朝陽は属性は闇のみの特化型の羊飼いだ。逆に言えば闇に類する魔法であれば、多くの魔法を行使することが可能だ。
攻撃魔法も勿論使えるが、どちらかと言えばユーティリティに富んだ魔法の方を得意とする。
「索敵してこい」
校舎の入り口、下駄箱が多数並んでいるが当然日曜日なので誰もいない。
(高校とか懐かしいな。もう七年前か)
別に感傷に浸れるほどの思い出などない。学校生活よりも羊飼いとしての生活の方がよほど濃かった。
「ゲギャア!ギャググル!」
程なくしてけたたましい偵察用猟犬達の鳴き声が聞こえてくる。
「やっぱいたか」
指揮棒を構え、振り下ろす。竜人が校舎へとまず突撃し、炎の妖精が続く。バジリスクだけは朝陽と共に足並みを揃える。
雨が降りそうな天気だからか、電気もついていない校舎の中は薄暗い。昔月夜と見た学校が舞台のホラー映画みたいだった。
中へと一歩足を踏み入れた瞬間、そこら中からウサギの着ぐるみが現れる。やはり感知から逃れる術を持っているらしい。
(科学って面倒だな。いつも相手が思っていそうなことだけど!)
竜人がウサギたちを切って捨てる。破れた着ぐるみから波のようにネズミが溢れ朝陽へと殺到する。
しかし、即座に炎の妖精が反応。宝石のように煌めく炎の袖をはためかせながら手を上から下へと振り下ろす。練り上げられた炎のイオの爆発。
校舎入口の窓ガラスと下駄箱を吹き飛ばしながらネズミたちが焼け落ちる。朝陽たちをも巻き込むような爆炎だったが、バジリスクが一歩前に出て朝陽を守る。
「仲間割ればっかしてるあほかと思ったけど、案外そんなことないんだ」
爆炎が収まったところで凛とした、声変わりしたての少年の声。灰色の髪に赤色のメッシュが入った、夏輝と同じか少し上くらいという年頃の少年だった。
「清水でも黒狐でもない。新手か。まあいいや。俺の相手はお前ってコトね」
瑞雪との戦いで溜まったストレスをぶつけていい相手らしい。朝陽はほくそ笑み、指揮棒を構えなおした。
「ラテア、月夜さん!こっち!」
「おう!」
「はいはい」
俺と夏輝、月夜は体育館の方を担当するべく全力疾走していた。そこかしこに出没するウサギども。
俺の炎と夏輝の風で蹴散らしつつ、ただ走る。月夜は接近してきたウサギを顔面をえぐり取り投げ飛ばす。なかなかに豪快な戦い方だった。
俺達が体育館、朝陽が現校舎、瑞雪が旧校舎。
何故そう言う分担になったかと言えば、朝陽は地の利がなく、瑞雪はうっかり破壊しても問題ない場所を求めたからだ。
瑞雪の本気の戦いを見た俺達にとっては納得だ。装備を更新してからは威力を抑えるのに苦心していたようだし。
「体育館なら蛇を出すのにも丁度いいはず。うちの学校の体育館すごく広くて立派だから」
所詮敷地内は敷地内。距離自体はそう遠くもないはずだったが、とにかくウサギたちの邪魔が入る。
(なんか……なんだ?違和感が)
現状倒しても呪い自体の影響はない。しかし、俺は何となく違和感を感じていた。
違和感というのはマナの流れだ。ネズミを殺すとマナが霧散している。
(呪いだろ?霧散してどっかにいっちまうのはおかしい。そりゃ俺達に現状影響がないに決まってる。不発になってるんだから)
相手側のミス……なわけはないだろ?前に倒したネズミの呪いは確かに効かなかったにせよ発動はしていたんだから。
しかし、今の違和感はあくまでもほんの少し。具体的に何かが決定的におかしいというわけではない。ただ霧散しているだけ。もっと何かピースが欲しい。
「着いた、体育館だよ!」
ウサギをあしらいながらやっとのことで体育館にたどり着く。少しの道のりが何でこんなに長く感じるんだか。
弱音を吐いている暇なんて当然ないんだけどさ。
「僕から突入するから二人は後ろからついてきてね」
言葉を口にするのとほぼ同時に月夜が単身乗り込んでいく。慌てて俺達も後に続く。続こうとする。けれど。
入った瞬間不意に何かがジェット機か何かを思わせる速度で突っ込んでくる。俺達三人全員が即座に反応。夏輝と俺は横へと飛びのくが、月夜は真正面から受け止める。
「うぉ!?月夜!?」
濛々と立ち上る土煙。土煙の中から黒狐が月夜に投げ飛ばされて体育館外へと吹っ飛ばされた。
「魔法とかは使えないけど、肉弾戦でそう簡単に僕を物理的な力でねじ伏せられると思わないで欲しいな」
やっと土煙が晴れ、視界が戻る。俺達に奇襲を仕掛けたのは予想通り黒狐だった。
「がるるるるるるっ!」
牙を剥き、唸る黒狐。俺も同じく身構え、牙を剥き出しにする。
「全員ここで死ね!」
相変わらずの殺意。しかし、今回は俺だけにではなく皆等しく向けられているようだった。
「ラテア、月夜さん!ウサギが奥から大量に沸いて出てきてます!」
黒狐に気を取られていると夏輝が異変に気付き、叫ぶ。体育館の入口へと視線を戻すとウサギがどこぞのゾンビ映画みたいにわらわらと溢れ出てきていた。
「一体あの中に何があるんだろうね」
「わかんねえけどぶっ倒していくしかなさそうじゃん?」
月夜の言葉に俺は小さく息をつく。どちらにせよウサギ一匹-否、ネズミ一匹この結界の外へと逃がすわけにはいかないのだ。
全員須らく倒さなければ一般人に被害が及ぶ可能性がある。夏輝を悲しませたくはないし、何の罪もない地球人が巻き込まれるのは俺だっていやだ。
魔物化した地球人と起こした共鳴反応。苦痛の記憶。あれを思い出し、口の中が酸っぱくなる。
「それじゃあいくよ、皆!」
「生意気。実力もないクセに」
夏輝の掛け声に黒狐が吐き捨て、こちらへと向かって突進してきた。
「ここが普段瑞雪が来ている場所か」
向かっているのは旧校舎。瑞雪は当然のように足を踏み入れたことはなかったが、場所だけは把握……。
『ぎゅい!』
していない。カマイタチがナビゲートしてくれていた。そう、瑞雪は方向音痴なのである。
スマホの画面をちらちらと見つつ、目的地へと向かう。
「そうだ。仕事場……まあ仕事場だな」
学びの場ではあるが、どちらかというと仕事場という表現の方が正しいだろう。と、そんなことを話しているとウサギが沸いて出てくる。
「こいつら一体一体を潰すのは苦手だ。瑞雪頼む」
「わか、った!?」
昨日戦っているのを見てよくよくわかったが、トツカは群れとの戦いをあまり得意としていない。強い個体、単体と戦うことに特化している。
これがまだ人型以上の群れであるならばいいがネズミのような小さな生物をまとめて吹き飛ばす場合は土魔法を使わなければならないだろう。
適任は自分。魔法を詠唱しつつ走ろうとしたところでふわりと何故だか浮遊感に見舞われる。
「おい!何抱えてるんだ!」
何故浮遊感に見舞われたかと言えば、トツカが瑞雪を小脇に抱えたからだ。
「この方が早い。道はどうせそれを見ているだろう」
ぐぅの音も出ないとはまさにこのことである。瑞雪は押し黙る。そのまま運ばれるよりほかない。
心なしかスマホの画面上に映っているカマイタチが憐みの視線を向けている気がした。
揺られながら弓を構え進行方向のウサギに向けて氷の矢を打ち込む。雷でなく氷なのはむやみやたらと構造物を破壊しないためだ。ウサギの着ぐるみが凍てつき氷の彫像と化す。
「ああ、これなら壊しやすい」
やや愉快そうに、トツカが言葉を発する。
瑞雪が創り上げた氷のオブジェたちをすれ違いざまにトツカが片手で軽々と持った刀で粉々に粉砕していく。
非常に瑞雪にとっては不服な情けない格好だが、これが一番効率的だった。
旧校舎への道は鬱蒼と生い茂った樹々に阻まれている。普段は生徒たちは滅多に来ない。瑞雪だって初めてだ。そもそも立ち入り禁止区域なのだから。
曇天ということもあり、夜かと思うくらいに周囲は薄暗い。瑞雪もトツカもラテアのように夜目は効かない。
だからこそ、警戒を強めていた。
「トツカ!」
「わかっている」
背の高い樹々の合間、影から多数の職種のような腕が生えてくる。瑞雪が短く叫ぶとトツカが頷き、全てすんばらりと横なぎ。たったの一太刀で影の腕を切り落とした。
「……先生」
木の陰からぬるりと現れる人影。陰鬱な目をさらに濁らせた子供-清水奏太だった。
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