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EP2 卵に潜む悪意7 二転三転
けれど屈することはなく
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「遠呂師匠……!?」
朝陽が驚いた顔をし、大きな声を上げる。先程まで瑞雪に向けていた憎しみに満ちた声ではない。瑞雪はちらりと視線だけ声のした方へと向ける。
そこにはへらへら笑いの黒髪の糸目の男が立っていた。胡散臭い京都弁。そんな知り合いは一人しかいない。まあ、もとより朝陽がいの一番に反応したが。
「朝陽、殺すな」
「えっ、でも遠呂師匠が気に入らないなら力でねじ伏せろって」
朝陽と遠呂のやり取りに頭が痛くなる。朝陽をたきつけた黒幕は遠呂だったのだろう。
睨んで、すぐにやめる。睨む力も残っちゃいなかった。
「殺していいとは一言も言ってへんやろ。お前、完全に殺そうとしたやろ?秋雨から止めろと言われてなぁ」
咎めるような遠呂の言葉に朝陽はさすがにバツの悪そうな顔をした。
「せやけど……場合によってはうちも考えを変えてもええと思っちょる」
遠呂がくつくつと喉の奥で笑う。ああ、ろくでもないことを考えているときだ。この手の糞野郎は大体そうだ。
瑞雪は命の危機は未だ去っていないのだと、倒れ伏すトツカの前に這って移動する。
「おっと、朝陽お前は動くな」
「っ……」
遠呂は余裕たっぷりに朝陽を見る。その表情をうかがい知ることはできないが、朝陽が一瞬青ざめたのを見て大体察する。
朝陽が動かなくなったのを確認してから遠呂は再び瑞雪へと向き直った。
かつ、かつん。ぴちゃ。コンクリートは気が付けば猟犬達の血で真っ赤に濡れていた。そんな中、靴が汚れるのもいとわず、むしろその水音を楽しんでいるかのように遠呂はゆっくりと瑞雪へと近づいてくる。
「瑞雪はんも相変わらず態度が最悪みたいですなぁ。もうちょっと可愛らしくおねだりしてみりゃどうです?ほら、土下座して靴でも舐めて見ぃ。そうしたら助けてやらんでもないで?このまま朝陽の事を見逃したって本当はいいやが?」
動けない瑞雪の口元に血でぬれた靴先を差し出す。
「弱ぇくせに吠えてばかりの駄犬め。ほら、どうです?あんさんの可愛い猟犬も死ぬんちゃいます?」
「っくく、くく」
遠呂の言葉に思わず瑞雪は笑う。
「断る。死ね!」
瑞雪はそう叫びながら、トツカの腕を掴む。そして戦いが始まったときからずっと紡ぎ続けていた魔法を展開する。
「瞬き 転移せよ 雷光よ(ブリーク メティストス トニトルス)」
瑞雪とトツカの足元に複雑な文様の魔法陣が展開する。刹那、眩い閃光がその場にいた全員の視界を焼く。
朝陽と遠呂は咄嗟に腕で視界を遮り、視覚がやられることを防ぐ。視界がようやくもとに戻るころには、瑞雪もトツカも消え失せていた。
「転移の魔法……」
「ずっと紡いでいたみたいやなぁ。してやられましたな?朝陽くん。お前もまだまだやな」
遠呂は愉快そうに笑う。朝陽はおっかなびっくり、恐る恐る遠呂を見ていた。
「お、怒ってます?師匠」
その声は今までになく怯えた、自信のないものだった。
「怒ってへんけど、情けへんなぁ…と。もっとやるならうまくやれへんの。いつも思うとるけどお前は感情のコントロールがあまりにもなってへん。ま、次は頑張りなはれ。どうせ瑞雪は支部に転移したんやろ、さっさと戻るで。秋雨から呼ばれてるんやお前ら。ほな、さっさと支部にダッシュせな。猟犬に乗って帰ったらあかんよ。たまには自分の足で走らんかいー」
「わ、わかりました」
急かす遠呂の言葉に朝陽は頷き、律儀に走っていく。それを見届けてから遠呂は目を細め、口元を歪める。その視線の先は今はもう消えた魔法陣だった。
「ぶっ放してたら大義名分もあったし殺してたんだけどなあ……」
ぽつりと呟いた剣呑な言葉は誰の耳にも届かない。
朝陽が驚いた顔をし、大きな声を上げる。先程まで瑞雪に向けていた憎しみに満ちた声ではない。瑞雪はちらりと視線だけ声のした方へと向ける。
そこにはへらへら笑いの黒髪の糸目の男が立っていた。胡散臭い京都弁。そんな知り合いは一人しかいない。まあ、もとより朝陽がいの一番に反応したが。
「朝陽、殺すな」
「えっ、でも遠呂師匠が気に入らないなら力でねじ伏せろって」
朝陽と遠呂のやり取りに頭が痛くなる。朝陽をたきつけた黒幕は遠呂だったのだろう。
睨んで、すぐにやめる。睨む力も残っちゃいなかった。
「殺していいとは一言も言ってへんやろ。お前、完全に殺そうとしたやろ?秋雨から止めろと言われてなぁ」
咎めるような遠呂の言葉に朝陽はさすがにバツの悪そうな顔をした。
「せやけど……場合によってはうちも考えを変えてもええと思っちょる」
遠呂がくつくつと喉の奥で笑う。ああ、ろくでもないことを考えているときだ。この手の糞野郎は大体そうだ。
瑞雪は命の危機は未だ去っていないのだと、倒れ伏すトツカの前に這って移動する。
「おっと、朝陽お前は動くな」
「っ……」
遠呂は余裕たっぷりに朝陽を見る。その表情をうかがい知ることはできないが、朝陽が一瞬青ざめたのを見て大体察する。
朝陽が動かなくなったのを確認してから遠呂は再び瑞雪へと向き直った。
かつ、かつん。ぴちゃ。コンクリートは気が付けば猟犬達の血で真っ赤に濡れていた。そんな中、靴が汚れるのもいとわず、むしろその水音を楽しんでいるかのように遠呂はゆっくりと瑞雪へと近づいてくる。
「瑞雪はんも相変わらず態度が最悪みたいですなぁ。もうちょっと可愛らしくおねだりしてみりゃどうです?ほら、土下座して靴でも舐めて見ぃ。そうしたら助けてやらんでもないで?このまま朝陽の事を見逃したって本当はいいやが?」
動けない瑞雪の口元に血でぬれた靴先を差し出す。
「弱ぇくせに吠えてばかりの駄犬め。ほら、どうです?あんさんの可愛い猟犬も死ぬんちゃいます?」
「っくく、くく」
遠呂の言葉に思わず瑞雪は笑う。
「断る。死ね!」
瑞雪はそう叫びながら、トツカの腕を掴む。そして戦いが始まったときからずっと紡ぎ続けていた魔法を展開する。
「瞬き 転移せよ 雷光よ(ブリーク メティストス トニトルス)」
瑞雪とトツカの足元に複雑な文様の魔法陣が展開する。刹那、眩い閃光がその場にいた全員の視界を焼く。
朝陽と遠呂は咄嗟に腕で視界を遮り、視覚がやられることを防ぐ。視界がようやくもとに戻るころには、瑞雪もトツカも消え失せていた。
「転移の魔法……」
「ずっと紡いでいたみたいやなぁ。してやられましたな?朝陽くん。お前もまだまだやな」
遠呂は愉快そうに笑う。朝陽はおっかなびっくり、恐る恐る遠呂を見ていた。
「お、怒ってます?師匠」
その声は今までになく怯えた、自信のないものだった。
「怒ってへんけど、情けへんなぁ…と。もっとやるならうまくやれへんの。いつも思うとるけどお前は感情のコントロールがあまりにもなってへん。ま、次は頑張りなはれ。どうせ瑞雪は支部に転移したんやろ、さっさと戻るで。秋雨から呼ばれてるんやお前ら。ほな、さっさと支部にダッシュせな。猟犬に乗って帰ったらあかんよ。たまには自分の足で走らんかいー」
「わ、わかりました」
急かす遠呂の言葉に朝陽は頷き、律儀に走っていく。それを見届けてから遠呂は目を細め、口元を歪める。その視線の先は今はもう消えた魔法陣だった。
「ぶっ放してたら大義名分もあったし殺してたんだけどなあ……」
ぽつりと呟いた剣呑な言葉は誰の耳にも届かない。
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