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EP2 卵に潜む悪意7 二転三転
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指先が少しずつ温かくなってくる。眼球がぴくぴくと痙攣し、瞼がゆっくりと開く。
身体が大きく勝手に跳ね、耳に様々な怒声、喧騒が飛び込んでくる。
「ラテアは連れて行かせない!何故ラテアを狙うんだ!」
「夏輝君、冷静に。捕まえて尋問する方が早いよ」
聞こえてくるのは夏輝の声と……後は、月夜?ぼやける視界を少しでもクリアにしようと目を擦りつつ、俺は飛び起きた。
目の前では夏輝となぜか月夜がウサギと狐の獣人と戦いを繰り広げていた。俺はといえば壁際に寝かされていた。怪我とかは特にない。
ウサギたちは夏輝と月夜に駆逐されつくしたようだった。破れた着ぐるみの隙間からネズミの死骸が顔をのぞかせている。
しいて言うなら全身の体温が酷く冷たい。風邪とかで高熱を出したみたいだ。そして何より酷く寂しい、恐ろしい心地だ。未だ自我が薄まっているということなのかもしれない。
無性に夏輝と話したくて、触れたくて、でもそれをするにはあの黒狐が邪魔で。
そう思うと、身体が勝手に走り出していた。恐ろしいという感情に反比例して、身体はひどく軽やかだ。今までになく前進に力がみなぎっている。そんな気すらした。
黒狐は全身を様々な獣の部位へと変化させ、二人相手に大立ち回りを繰り広げていた。
そんな黒狐に向かって、俺は思いっきり力の限り腕を振り上げる。
「てめえ、さっきはよくもやってくれたな!」
手で黒狐の顔面を掴む。地球人よりかずっと鋭い爪が黒狐の顔に食い込み、ぷつりと皮膚を破る。血が爪と指の間に入り込むことも気にせず、そのまま地面へと黒狐の顔を叩きつける!
「ぎゃんっ!」
黒狐の悲鳴が耳に心地いい。さっきはマジで、よくも。周囲に倒れ伏しているウサギたちも心なしかドン引きしている気がする。
「ラテア!?っていうか、それ……え!?」
「君の猟犬、思っていたよりもずっとその、ワイルド、なんだね?」
夏輝と、そして月夜がぽかんとこちらを見ている。
「竜……?みたいな動き」
ぽつりと夏輝が呟く。夏輝の言葉でハっと気づく。そうだ。俺は竜のような動きをしているのだ。それも、動きだけでなくパワーも多少なり伴って。
全身の筋肉が躍動し、マナが満ちる。神経が研ぎ澄まされ、周囲の動きが手に取るようにわかる。夏輝から血を受け取ってもいないのに、普段の俺よりかは確実に強かった。
グリーゾスと会話したからか、あるいは魂を取り込んでいるからか。俺は今、竜直伝の格闘術を黒狐に叩き込んでいた。
「がるるるるるっ!」
地面へと倒れ伏した黒狐だったが、殺意と敵意は少しも衰えない。ただ、驚愕に満ちた顔はしていたが。
俺は間髪入れずに黒狐へと追撃を行う。鳩尾に抉るような一撃をお見舞いし、黒狐の軽い身体が吹き飛び校舎の壁へと叩きつけられた。
「っが、ぐ、きゅうに、つよく!?」
しかし、相手も一方的にやられているばかりではない。血反吐を吐きながらも体勢を立て直し、大きな光悦茶色と力強い翼を生やす。
「あ、逃げるな!」
追い縋ろうとするが、夏輝が後ろから抱き着き俺を止める。その間にあっという間に黒狐は姿をくらましてしまった。
抱き着かれたことでふわりと鼻腔に夏輝の優しい太陽のような香りが広がる。ささくれ立っていた俺の心がゆっくりと宥められる。
「ラテア、しっかりして!今のラテア、おかしいよ!」
「あ、うん、俺……?今、あれ?」
そこまで言われ、俺はようやく唸るのをやめて体の力を抜く。
「よかった、ラテア……飛び起きたと思ったら急にすごい気迫であいつに飛び掛かるからびっくりしちゃった……」
「駆け付けたときに倒れていたから不味いかと思ったけど、怪我とかはしてなかったみたいだね」
月夜もワンテンポ遅れてこちらへとやってくる。
「変な煙を吸ったら気絶しちまった。っていうか何で月夜がここに……?」
ぐるる、と月夜に向かって再び唸る。でも、さっきみたいな全身にみなぎる力は夏輝に声をかけられ、抱き着かれた瞬間どこかへと消え失せてしまった。
その代わりと言っては何だが、酷く不安な気分になる。自分が自分じゃない。自分の身体に酷い違和感を覚える。
夏輝が俺の無事を確認し離れようとするが、尻尾を足に巻き付かせそれを阻止する。
「本当は俺が瑞雪さんのところに行くのを足止めするつもりだったらしいんだけど、その前に俺達が襲われてたから目的は達成できてるって判断して助けてくれたんだ。ラテアが連れていかれなくてよかった。……本当によかった」
離れようとするのを止め、夏輝は俺の事をぎゅぅっと強く前進を使って抱きしめてくれる。
ああ、落ち着く。迷子が親に手を引かれている感覚、とでもいうのだろうか。
「そっか……。助かったよさんきゅ……じゃなくて!それって瑞雪が襲われてるってことだろ!急いでいかないと!」
「あっ」
すっかり頭から瑞雪の事が抜けていたらしい。夏輝は酷く間抜けな声を出した。俺は夏輝の手をがっちりと掴み、走り出す。
月夜は邪魔をする気は全く内容で、ほほえまし気に俺と夏輝を見つめていた。
身体が大きく勝手に跳ね、耳に様々な怒声、喧騒が飛び込んでくる。
「ラテアは連れて行かせない!何故ラテアを狙うんだ!」
「夏輝君、冷静に。捕まえて尋問する方が早いよ」
聞こえてくるのは夏輝の声と……後は、月夜?ぼやける視界を少しでもクリアにしようと目を擦りつつ、俺は飛び起きた。
目の前では夏輝となぜか月夜がウサギと狐の獣人と戦いを繰り広げていた。俺はといえば壁際に寝かされていた。怪我とかは特にない。
ウサギたちは夏輝と月夜に駆逐されつくしたようだった。破れた着ぐるみの隙間からネズミの死骸が顔をのぞかせている。
しいて言うなら全身の体温が酷く冷たい。風邪とかで高熱を出したみたいだ。そして何より酷く寂しい、恐ろしい心地だ。未だ自我が薄まっているということなのかもしれない。
無性に夏輝と話したくて、触れたくて、でもそれをするにはあの黒狐が邪魔で。
そう思うと、身体が勝手に走り出していた。恐ろしいという感情に反比例して、身体はひどく軽やかだ。今までになく前進に力がみなぎっている。そんな気すらした。
黒狐は全身を様々な獣の部位へと変化させ、二人相手に大立ち回りを繰り広げていた。
そんな黒狐に向かって、俺は思いっきり力の限り腕を振り上げる。
「てめえ、さっきはよくもやってくれたな!」
手で黒狐の顔面を掴む。地球人よりかずっと鋭い爪が黒狐の顔に食い込み、ぷつりと皮膚を破る。血が爪と指の間に入り込むことも気にせず、そのまま地面へと黒狐の顔を叩きつける!
「ぎゃんっ!」
黒狐の悲鳴が耳に心地いい。さっきはマジで、よくも。周囲に倒れ伏しているウサギたちも心なしかドン引きしている気がする。
「ラテア!?っていうか、それ……え!?」
「君の猟犬、思っていたよりもずっとその、ワイルド、なんだね?」
夏輝と、そして月夜がぽかんとこちらを見ている。
「竜……?みたいな動き」
ぽつりと夏輝が呟く。夏輝の言葉でハっと気づく。そうだ。俺は竜のような動きをしているのだ。それも、動きだけでなくパワーも多少なり伴って。
全身の筋肉が躍動し、マナが満ちる。神経が研ぎ澄まされ、周囲の動きが手に取るようにわかる。夏輝から血を受け取ってもいないのに、普段の俺よりかは確実に強かった。
グリーゾスと会話したからか、あるいは魂を取り込んでいるからか。俺は今、竜直伝の格闘術を黒狐に叩き込んでいた。
「がるるるるるっ!」
地面へと倒れ伏した黒狐だったが、殺意と敵意は少しも衰えない。ただ、驚愕に満ちた顔はしていたが。
俺は間髪入れずに黒狐へと追撃を行う。鳩尾に抉るような一撃をお見舞いし、黒狐の軽い身体が吹き飛び校舎の壁へと叩きつけられた。
「っが、ぐ、きゅうに、つよく!?」
しかし、相手も一方的にやられているばかりではない。血反吐を吐きながらも体勢を立て直し、大きな光悦茶色と力強い翼を生やす。
「あ、逃げるな!」
追い縋ろうとするが、夏輝が後ろから抱き着き俺を止める。その間にあっという間に黒狐は姿をくらましてしまった。
抱き着かれたことでふわりと鼻腔に夏輝の優しい太陽のような香りが広がる。ささくれ立っていた俺の心がゆっくりと宥められる。
「ラテア、しっかりして!今のラテア、おかしいよ!」
「あ、うん、俺……?今、あれ?」
そこまで言われ、俺はようやく唸るのをやめて体の力を抜く。
「よかった、ラテア……飛び起きたと思ったら急にすごい気迫であいつに飛び掛かるからびっくりしちゃった……」
「駆け付けたときに倒れていたから不味いかと思ったけど、怪我とかはしてなかったみたいだね」
月夜もワンテンポ遅れてこちらへとやってくる。
「変な煙を吸ったら気絶しちまった。っていうか何で月夜がここに……?」
ぐるる、と月夜に向かって再び唸る。でも、さっきみたいな全身にみなぎる力は夏輝に声をかけられ、抱き着かれた瞬間どこかへと消え失せてしまった。
その代わりと言っては何だが、酷く不安な気分になる。自分が自分じゃない。自分の身体に酷い違和感を覚える。
夏輝が俺の無事を確認し離れようとするが、尻尾を足に巻き付かせそれを阻止する。
「本当は俺が瑞雪さんのところに行くのを足止めするつもりだったらしいんだけど、その前に俺達が襲われてたから目的は達成できてるって判断して助けてくれたんだ。ラテアが連れていかれなくてよかった。……本当によかった」
離れようとするのを止め、夏輝は俺の事をぎゅぅっと強く前進を使って抱きしめてくれる。
ああ、落ち着く。迷子が親に手を引かれている感覚、とでもいうのだろうか。
「そっか……。助かったよさんきゅ……じゃなくて!それって瑞雪が襲われてるってことだろ!急いでいかないと!」
「あっ」
すっかり頭から瑞雪の事が抜けていたらしい。夏輝は酷く間抜けな声を出した。俺は夏輝の手をがっちりと掴み、走り出す。
月夜は邪魔をする気は全く内容で、ほほえまし気に俺と夏輝を見つめていた。
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