青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP2 卵に潜む悪意7 二転三転

7-1

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「っぐ、ぅ”……」

 全身が軋み、じくじくと侵食する痛みに悲鳴を上げていた。震源地は間違いなく尻の穴で、背中の傷も酷く痛む。

「最悪の、目覚めだ……」

 夢見はここ最近で一番最悪だった。こんなに目を覚ませなかったのは実家にいた頃ぶりだ。夢だとわかっているのに目覚めないのは本当に気分が悪い。
 声はガラガラで枯れており、乾いていることもあり酷く痛む。水を飲もうと上半身を起こし、サイドテーブルに置いてある水差しに手を伸ばす。
 グラスに注ぐのも面倒で、直接水差しに口をつける。どうせ自分しか飲まないのだ。
 シーツに滴る水滴に視線を向けると、シーツの上が真っ赤に染まっている事に気が付いた。決して尻が裂けてこれだけ血が出た訳ではない。断じて。
 出血元は背中の十字の傷だ。夢を見ると大抵この傷が痛む。痛むが、出血するのは久しぶりだった。

「っげほ、げほ」

 急に喉が潤ったからか酷くむせる。口元からぽたぽたと水が零れ落ちるが、それを気にする元気が今の瑞雪には存在しなかった。
 痛い。少しずつ痛みは引いているものの、未だ走る背中の激痛、そして尻の鈍痛に歯を食いしばる。

「起きたのか、瑞雪」
「っ……」

 ドアの方から声がして、思わず大きくびくりと身体を跳ねさせる。
 当然、今この場にいる瑞雪以外の人間なんて一人しかいない。トツカだ。

「……何の用だ。起きるから出て行け」

 今一番見たくない顔が出てきて瑞雪は思わず鋭く睨む。トツカはどこか普段の雰囲気とは異なり、瑞雪の様子を伺うような、案じているように思えた。
 今更なんだ。これだけズタボロになっている自分にまだ何かあるのか。

「すまない」

 ぽつりとトツカが言葉を発する。飛び出してくるとは思っていなかった言葉に瑞雪は思わずその顔をまじまじと見やる。
 
「今更なんだ……?」
「魘されていた。全く動かなくて、死んだかと思った。……お前の事を何も見ていなかった。こんなことになるとは、思っていなかった」

 顔つきこそ変わらないものの、普段よりも幾分か低く落ち込んだような声で語るトツカ。
 
「……」

 大きくため息をつく。こいつの前で隠すなんて馬鹿げているし、そもそも瑞雪が遠慮してため息を隠すなんて今の状況でする必要などない。
 怒りはふつふつと煮え滾っているし、顔なんて見たくもない。けれど、その声音が捨てられた子供のようだったというただ一点で瑞雪はギリギリ怒りを抑えることが出来た。

「俺は……俺は瑞雪に喜んでもらいたい、褒めてもらいたい。だが、一向にお前は嬉しそうにしない。それどころか弱ってしまった」

 絶賛絶不調である。ひどい頭痛がする中、瑞雪はサイドテーブルの引き出しの中に入っている頭痛薬を取り出す。それと、痛み止めも。
 腹に何も入っていないが、空腹など微塵も感じていない。無理やり薬を飲む。というか腹も痛い。これは絶対にナカに出されたせいに違いない。

「……それで?お前は俺に何を望んでいるんだ……」

 力なく覇気のない声音で呟き、じぃっとトツカを見つめる。
 入口で突っ立ったままのトツカに苛立つ。苛立つより疲れの方が酷いが、時計を見ればそこまで時間がない。支部の方に行って、それから大学……は、行かなくていいか。一日くらいサボっても問題はない。
 金曜日はレポート提出の日であり、教育実習がないことが不幸中の幸いだった。けれど、結局奏太はどうなったのだろうか。学校には……きっと来ないだろう。
 疲れと痛みから思考がうまく纏まらない。こめかみを揉みつつ、瑞雪はトツカに問う。

「俺は……どうしたらいいんだ?」

 どうしたらいい。そんなの俺が聞きたい。瑞雪は頭を抱える。

(褒めてもらいたい、ガキかよ……いや、そもそもこいつは精神だけは生まれたてのガキだったな……)

 何か言ってやらなければ。子供と思えばほんの少しだけ苛立ちや怒りが和らいだ。

(性欲猿のゼロ歳児とか最悪すぎるが……)

 一から教育しなければならない、それはわかっている。少し怒りが和らいだからと言って、腸が煮えくり返る想い事態は変わらない。
 もしも瑞雪が今身体が自由に動くほど元気だったら、間違いなく一発どころか何発も顔面をぶん殴っているだろう。
 話すにしても、怒りも体調不良もマシになってからでなければきっと感情的になってトツカに対して酷い物言いをするだろう。せっかくトツカがどうしたらいい、と聞いてきたのだから冷静に話せるときに話すべきだと判断する。

「……今は体調がすこぶる悪い。これが治ったら話す。支部から呼び出しも受けている」
「わかった」

 トツカは素直に首を縦に振った。

「色々始末するから、お前は適当にテレビでも見ていろ」
「手伝う」
「……一人でいい。触るな」

 冷たい言い方になってしまった。しかし、今はどうしても手伝われたくないし、放っておいてほしかった。
 どれだけ惨めでも自分のナカから精液を掻き出さなければならないし、他にも色々準備をしなければならないのだ。

「……わかった」

 トツカの声が沈む。言いすぎたかもしれない。でも、やったことがやったことだ。これくらい言って何が悪い。そう開き直る。
 重苦しい空気になるが、無視してよろよろとベッドから起き上がる。ああ、早く準備をしなければ。瑞雪は仕方なく動き出した。
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