青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP2 卵に潜む悪夢1 本部からの呼び出し

絶賛成長中

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「ちょ、っとっ!地響きヤバいんだけ、どっ!」

 トロンのナビゲートで巨大なマナの反応がある地点へとやってきたわけで。
 近づくにつれごごごご、と地鳴りが酷くなる。

「こんな町中にあのでっかい蚯蚓が現れるってどういうことなんだろう」

 相手は地中を縦横無尽に暴れまわり、俺たちを付け狙う。一網打尽にならないよう、俺と夏輝はある程度の距離をあけながら疾走していた。

『エデンへの一番大きなゲートは御絡流の会本部にあるんだけど、小さなゲートがちょこちょこまだあるみたいなのよね。しかもエデン側にあって、こちらへアクセスするときだけ開くらしいの。ゲートの位置はある程度指向性を持たせることができるらしいし。定期的にエデンへ行って調査してるみたいなんだけど、未だに全貌は不明ね。エデンの上位種族が所有してるとかいろいろ噂はあるけれどどれが本当なんだか』

 スマホから呑気にトロンが解説。俺達には知識がないから、瑞雪以外だとほぼトロン頼みなのである。
 マナを流し、イオを受け取り炎のエンチャント魔法を発動。夏輝もほぼ同時に風のエンチャント魔法を詠唱する。夏輝の短剣に炎と風のイオが絡み合い、作用し大きく燃え上がった。
 同時に脚力強化、腕力強化も発動。敵からの攻撃に備える。

「夏輝!左方向からお前に向かって全速力で突進してきてる!気をつけろっ!」

 俺の耳は夏輝のものよりずっといい。大気中や地面のわずかな振動も逃さない。俺の叫びに夏輝が即座に反応。風を纏いながらじぐざぐと捉えさせないような不規則な動きで走る。
 俺たちでは、地面に潜る蚯蚓に効果的な攻撃手段を持たない。出てくるのを待つしかないのだ。

「それにしても、竜の時もそうだったけどさ。崩壊した建物っていつの間にか直ってるけどこれも魔法で直してる、のっ?」

 辛抱たまらなくなったのだろう。夏輝に追いつけず、蚯蚓が地面を隆起させ、ビルを破壊しながら地上へと出てくる。

『建物の修復も記憶の改変と同様に専用の部隊が存在しているわ。彼らの力で世界はいまだにエデンの存在を知らず、平和なものだと思えているのよ』

 出てきたところを逃すわけもない。夏輝が大きく短剣を振りかぶり、のっぺりとした桃色のどてっぱらに力いっぱい突き刺した。
 風と炎のイオが荒れ狂い、大きく燃え上がって蚯蚓の肉を焦がす。じゅぅじゅぅと焼けた肉の匂いと泥臭さが鼻腔いっぱいに広がる。

「ぶった切れ夏輝っ!」
「ああ!」

 苦しみからか蚯蚓は巨体を振り回しがむしゃらに暴れようとする。ぷりっぷりの弾力のある肉質はなかなか短剣では貫けない。鋭さとかの問題ではなく、相性の問題だ。
 俺が爪と牙で応戦しても大して効きはしないだろう。なら、方向性を変えなければならない。暴れまわる範囲から逃れつつ俺は魔法の詠唱を開始する。

「顕現し 切り捨てろ 炎の刃(マニフェ アブシデウム イグニス)」

 夏輝のもう片手に巨大な炎の剣を出現させる。鋼は効果が薄くとも、刃そのものが炎であるなら話は別だ。
 あれから俺は自分でも習得できそうな魔法をいくつか覚えた。エデンにいたときなら絶対に考えなかったことだった。
 短剣を鞘に納め、両手で剣を持ち直し飛び掛かる。本能的に危険を察知した蚯蚓は再び地面に潜り距離を取ろうとする。しかし。

「逃がさないっ!」

 予想していた夏輝は瞬時に脚力強化を重ね掛けして発動。もぐりこむ前に頭部を炎の剣によって一刀両断してみせる。すぱんっとあまりにも綺麗な断面。断面からは大量の黄血があふれ思いっきり頭から夏輝がそれをひっかぶってしまう。
 地面に落ちる前半身と後半身。びちびちと地面をぶった切ってなおはねている。

「よしっ!」

 確かな手ごたえ。夏輝はガッツポーズを決める。

「まだ終わってない!後ろはもうほっといていいけど前はまだ再生するから復活できないくらい輪切りにしろ!」

 そう、今回の魔物は蚯蚓タイプなのだ。蚯蚓は生命力が強く、縦ならともかく横に真っ二つではまだ生きている。夏輝は慌てて炎の剣を構えなおし、見事に前半身を四等分にしてみせた。
 今度こそ蚯蚓は動かなくなる。こちらの被害もない。完璧な勝利だった。確かな手ごたえ、俺達が前より強くなったことを感じる。

『うわあ……マスターってばべっとべと、蚯蚓気持ち悪い……』

 しかし、満足げな夏輝や俺と裏腹にトロンは蚯蚓のグロさに顔をしかめていた。

「家に帰ってシャワー浴びないと……。サクッと勝てたのはよかったけど思いっきり汚れちゃったや。……カフェの制服だからしっかり洗わないとマズいな」

 着ているポロシャツをまくり、顔に近づけすんすんと匂いを嗅ぐ夏輝。直後顔がしかめられる。まあ、こっちまでひどい匂いが漂ってくるしな……。

「っと、遊んでる場合じゃなかった。瑞雪たちのほうに行かねえと」
「てっきりあっちのが早く終わると思ってたけど……どうなってるんだろう」

 互いに顔を見合わせる。……嫌な予感がする。

「トロン、瑞雪さんたちの位置までナビゲートお願い!」
『合点承知、トロンちゃんに任せなさい!』

 超攻撃型の瑞雪と自称優秀な猟犬であるトツカがいるあっちが早く終わらないほうがどう考えてもおかしいのだ。
 瑞雪の性格的にあっちが早く終わったら絶対にこっちにさっさと加勢に来るはずだし。
 一応、この蚯蚓より格上の魔物って可能性もあるけど、特に秋雨からそういった情報は出ていなかったからそれも多分ないだろう。
 つまり、それが何を意味するかというと……。

(絶対トラブルが起きてるってことだろ!こんな雑魚相手に苦戦するわけないんだからさ!)

 トロンのナビゲートに従い走り出す。まあ、死ぬことはないだろう。けれど、何かしら起こっていることはほぼ間違いないのだ。無事でいてくれ……と思うような相手ではないが、それでもそう思わずにはいられなかった。









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