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EP1 狐と新緑4 白と赤
同じ釜の飯を食えど
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程なくしてテーブルに大量の料理が運ばれてくる。
たっぷりとデミグラスソースがかけられたハンバーグ、ぷりぷりのアサリが眩しいトマトパスタ、チキンソテーにととにかく量が多い。どれもシェア前提に作られているように感じる。
「それじゃあ冷めないうちに喰おうぜ。なあ、ロセ」
「そうだねアレウ」
紅茶やコーヒーがカップに注がれ、アレウたちに促され俺たちは食事に手をつけ始める。
「いただきます」
夏輝と瑞雪が手を合わせる。アレウとロセは特にはせず、俺はそもそも箸を持つのが難しい。
「ラテア、無理せずフォーク使いなよ」
「ん」
もたついていると夏輝からフォークを差し出されたので素直に受け取る。
「ラテア君はどれ食べたい?」
何故夏輝もロセも俺に構うのだ。食事くらい自分一人でとれるし食べられる。
「別に自分の好きなもの勝手にとるからお前らも好きに食べろよ」
お節介が過ぎると牽制しても、夏輝もロセも何故だか楽し気なまま。
なんとなく居心地が悪いと感じつつ取り皿に山盛りポテトを盛る。狐は雑食だから何でも食べられるのだ。まあ、辛いものは苦手なんだけども。
テーブルの端っこで異彩を放つ真っ赤な料理。唐辛子がたっぷりで近づけられただけで目が痛くなりそうだった。唐辛子で肉が煮込まれている料理みたいだ。
俺の故郷も辛いものが多かったのだが、どうしても獣人である俺には合わなかったのだ。
「つれないなあ。寂しいよねえ、夏輝君」
そんな真っ赤な料理をロセは皿に盛っていく。躊躇なく、だ。
「ロセは辛い物が好きなんだ」
まじまじとロセを見ていた俺を察したのか、アレウが口を開く。アレウの皿には肉ばかりが盛られていた。
「お前は偏食なんだな」
「そうなの。アレウは未だにお子様みたいなところがあるからね」
俺がそう指摘すると返事をしたのはロセだ。
ロセはあっという間にアレウの皿にサラダや魚を盛っていく。
夏輝はまんべんなくどれもちゃんと食べているようだった。好き嫌いがあまりないのだろう。
(そういえばポニテ男は?)
不意に瑞雪のことが気になり俺はそちらを向く。瑞雪の前にある皿にはボロネーゼのパスタが盛られていた。一応ちゃんと食べるらしい。
しかし、成人男性の量にしてはあまりにも少ない。暫く観察していると、食べるスピードも遅く、あまり箸が進んでいないようだった。
「お口に合いませんでしたか?」
瑞雪に対し八潮が声をかける。
「好みのものがあったら教えていただければ作りますよ」
笑顔の八潮は多分善意で言っているのだろう。しかし、その言葉に瑞雪は少しバツが悪そうな顔をした。
「……別に口に合わなかったわけじゃない」
そう言って再びもそもそとパスタを食べだす瑞雪。それを見てアレウが面白そうに目を細めた。
「坊ちゃんには食べなれてないモンだったか?育ちがよさそうだもんなぁ。でもここは庶民的なところがいいところでもあるんだぜ」
「坊ちゃんと呼ぶのを辞めろ。別に俺は坊ちゃんでもなんでもない」
苛ついたようにぴしゃりと返す瑞雪の言葉には確実に棘が含まれいたが、その程度何とも思わない吸血鬼は楽し気に笑いつつ自身の皿に盛られた料理をつつくばかりだ。
確かに見ている限り、夏輝もちゃんと行儀よく食べているとは思うのだが、瑞雪はきっちりしているというか上品な食べ方って表現が正しい気がした。
俺?行儀悪いって程じゃないと思う。多分、うん。アレウは豪快で、ロセはいちいちなんかいやらしい。と思う。
「私たちからしてみれば君は年下だし、育ちが良さそうに見えるから言っているだけで別に君のことを貶めてるわけじゃないよ?それとも何か呼ばれるのが嫌な理由でもあるのかい?」
初対面でこの物言い。アレウもそうだけど、ロセも相当いい性格してるって。
そんなことを考えつつ、俺はなんかおしゃれな魚とお米の入った料理を取り皿に山盛り取った。
「なあ、これなんて言う料理なんだ?」
「ん?これはパエリアっていうんだよ。八潮さんの作ったパエリアはすっごく美味しいから食べてみて!」
すんすんと鼻を動かせば独特な香りが肺いっぱいに広がる。エビとか貝とかがたくさん入っていて美味そう。早速頂くことにする。
「馴れ馴れしいんだよ、初対面から」
「だから、私たちは君と仲良くしたいだけだってば。かしこまってちゃ仲良くなれるものもなれないじゃない?それともお友達の作り方を知らないのかな?」
一方ではロセと瑞雪がバチバチになんかにらみ合ってる。いや、ロセは笑顔で牽制してるだけなんだけど。瑞雪の視線がこっわい。
アレウは喋ることをロセに任せたらしく、その様子を眺めながら肉をお代わりしていた。
「別にお前と友人関係になりたいなんて一切思っちゃいないからな。俺に構うよりそっちの吸血鬼とイチャついてろよ淫魔」
何故人は仲良くできないのだろう。いや、地球人とエデン人が仲良くできるかなんてまあできないとは思うけどさ。
でもこれって別にエデン人と地球人だからじゃないよな、うん。
俺と夏輝はもうこの3人のことは無視することに決め、楽しく食事をしている。夏輝は元よりこの二人の知り合いだというし、瑞雪のことも大体この一週間くらいで把握したのだろう。
「ふふふ。淫魔だけど君にそういう意味で興味はないよ」
「あったら二度とここには来なかっただろうから助かったな」
まあ、一つはっきりしたことがある。ロセと瑞雪は水と油の関係らしい。
俺の故郷でもそういうやつらはいた。これはもはや他のやつが何か言ったり止めに入っても意味をなさないのだ。
「こらこら、それくらいにしておきなさい。他のお客さんに迷惑ですから。ほらトロン、ロセがデザインしてくれた服をデータ化してみました」
瑞雪とロセが言いあっているのを見ながら食事をつついていると不意にカウンターの方から八潮の声が聞こえる。
『ありがとう八潮のおじさま!』
八潮の言葉に俺と夏輝はスマホの画面の中を見る。さっきまで黒づくめの着物を着ていたトロンが可愛らしいデザインの着物に変わっていた。
トロンはくるくると振袖をなびかせながら見せびらかすように回る。
「似合ってるじゃん」
「うんうん、かわいいよトロン!」
俺と夏輝の言葉にトロンはさらに顔を綻ばせる。こういう時は素直に褒めとけって隣のおばさんが言っていた。
『マスターとラテアもありがと!』
ちょろい。褒められたトロンはくるりと回りながら楽し気にしている。まあ、悪い気はしない。
一方八潮に宥められた瑞雪とロセだが……。
「すみません八潮さん。迷惑をかけるつもりはなかったんです」
「……」
殊勝な態度をとるロセに対し、瑞雪はとにかく不満げだ。多分瑞雪の言い分としてはあっちが勝手に突っかかってきたと言いたいのだろう。
「瑞雪さん、ロセは優秀な情報屋でもありますから……。ここはひとつ矛を収めて、仲良くしておくのも瑞雪さんにとって悪くないとは思いますよ」
なんとなく見ていてロセは色々なことを器用に立ち回れる性分なんだろうと思った。瑞雪はその真逆だ。
秋雨の爺さんとのやり取りを見ていてもそう感じたし。もう少しだけ柔らかく接すればいいのにと思う。こんな態度では見た目はいいのに損ばかりだろう。
「仕事の依頼はいつでも大歓迎だよ。勿論対価は貰えるし安くはないけどね。隣の家の夕飯の献立から今君たちが敵対している相手までなんでもござれってね」
そういってロセはいつの間に準備していたのやら名刺を取り出した。どうやら名刺は二種類あるらしい。表向きのモデルと、情報屋か。
瑞雪を見ればすさまじい顔をしていて、嫌悪感が丸出しだった。これにはさすがに夏輝も俺も動きを止める。
「どうせ身体でも使って得ている情報だろう」
「勿論。私の戦い方だしね」
睨みつける瑞雪に対してロセは終始余裕たっぷりの笑顔だ。不味いぞ瑞雪、多分そいつに舌戦では勝てない。
「あ、あの……アレウさん、止めなくていいんですか?あそこまでロセさんが挑発的なのも俺初めて見たんだけど……」
見かねたのか夏輝がこっそりとアレウに耳打ちする。
「俺は初めはちょっとからかうつもりくらいだったんだが……。坊ちゃんの態度がロセにとって気に食わなかったんだろうなあ。理由はわかるが」
アレウ自身はどうやら止める気はないようで、静観しているだけ。
アレウの言いたいこともわかる。瑞雪はエデン人は差別しないのになぜ淫魔にはこんなに偏見を持っているのだろうか。これではロセが瑞雪にいい感情を抱かないのは当たり前だ。
まあ、仕掛けてきたのはアレウとロセだけどさ。
「そんな情報買うつもりはねえよ。帰る」
きっちり皿に盛った量を食べきり、多めの金をテーブルにやや乱暴に置いて瑞雪は席を立つ。
「み、瑞雪?」
とうとう我慢できなくなり席を立った瑞雪に対し、俺は止めるべきかと迷いつつ声をかけた。
「何かあったら連絡しろ。それと大人しくしてろ。竜が襲ってくる条件がわからないんだからな」
瑞雪の脚は止まらない。ロセはそれを冷ややかな目で見つめていた。
「ちょっと待て!このままじゃまずいって、進展以前に竜と何とかやり合う方法を考え……!」
そう、本題はそこだ。こんな食事会をするために集まったわけじゃない。このまままたあの竜と遭遇しても俺たちは勝てない。何かしら対策を立てなきゃならないんだ!
俺の言葉に瑞雪の脚が止まる。
「対策か。それはそう」
「竜の情報だって依頼なら調べてあげるけど。どうする?み・ず・き・ちゃん」
くすくす。文字通り悪魔のような笑い声が響く。
瑞雪の言葉を遮るロセの言葉。一度は冷静になった瑞雪の額に青筋が浮かびあがる。
「何か進展があったら連絡する」
そのまま瑞雪は頭に血が上っているのか、俺の言葉に耳を貸すことなく出て行ってしまった。
「あ……」
思わず呆けた声を出す。余計なことを。ロセを軽く睨めば少しだけ肩をすくめて見せた。
「俺、追いかけてくる!ラテアは待ってて!」
咄嗟に動いたのは夏輝だった。そのままジャケットをもって走り出し、同じく店を飛び出して行ってしまった。
俺はそれをどうしていいかもわからず見送る。
「ロセ、失礼だからって少しばかりやりすぎだぜ」
カフェ中の人間たちがなんだなんだとこちらを見ていた。魔法がかかってなきゃエデンの情報や秘密は筒抜けだ。
この場の地球人たちには何かどうでもいい、くだらないことで喧嘩しているように見えるのだろうか。……いや、そもそも十分下らな過ぎた。
ロセは席に座ったまま、再びマイペースに食事を始める。そんなロセを見ながらアレウが口を開いた。
「何言ってるのアレウ。フェロモンもチャームも私は使っていないよ」
ロセは悪びれる様子もない。
「20過ぎたくらいのガキだろう、あいつ。そんな奴にムキになるなって。ムキになってるお前も好きだが」
まあ、確かに俺よりも年下だろうし。長く生きているだろう吸血鬼や淫魔からすればポニテ男は本当に赤ん坊みたいなもんかもしれない。
「……別に俺たちはこんな食事会しに来たわけじゃなかったんだけど。今後の対策を立てなきゃならなかったのに」
そう、こいつらが煽らなければ少しはあいつと建設的な話が出来たかもしれないのだ。
流石に俺だって思うところもあって、ぐちりと嫌味を口にする。
「まあ、確かに言いすぎたかもね。ラテア君と夏輝君には悪いことしたね。申し訳ないし、私達は君たちの現状をあまりよくわかっているわけでもないけど多少なりこうかな?って思ったことは伝えられるかな」
「思ったこと?」
別に現場を見てるわけでも、今絶賛竜を何とかしなきゃいけないなんてこともこいつらは知らないはず。それなのに一体何を思ったというのか。
「私とアレウはね、お互いにお互いを支えあっているんだ。まあ、今回の場合で言えば戦闘もね。私はアレウの支援をしたりとか。まあようするに1つのチームってところかな。君たちはどうなんだろうって思ってね」
チームか。まあ正直と言うか、当然こんな即席チームだし、夏輝はド素人、俺は弱いエデン人、んでもって頼みの瑞雪は装備が貧弱かつ間違いなく他人と戦うことに慣れていなかった。
「……協力して戦えているか、互いに互いの欠点を補いあえているかって言えばNOだな。夏輝は素人、俺はただの獣人。んでもって瑞雪は多分他人と戦うことに全く慣れてない」
瑞雪がちゃんと攻撃に専念出来れば勝機はある……と、思いたい。少なくとも相手は狂ってる壊れかけの竜なのだ。
今のところ魔法もブレスも使っているのは見たことないし、飛んでもいない。全力の瑞雪の攻撃魔法がどれくらいの威力なのかはわからないが。
「なるほどな。まあ確かに坊ちゃんは他人と肩を並べてとかそういうタイプじゃなさそうだしな。互いを補い合いつつ自分の長所を出していけるのがベストだな。いかんせんふわっとしたアドバイスで悪いんだが、とりあえずチームとして動けるように訓練するべきだと思うぜ」
そりゃそうだ。時間も経験も足りていない俺たちが出来ることと言えば最低限そこだろう。アレウとロセは案外真っ当なアドバイスをしてくれ驚いたのもあったが、俺は素直に頭を縦に振っていた。
「やれるかどうかはともかくとして、俺なりに少し考えてみる」
考えることを辞めてはならない。
吸血鬼を見ているとそう思う。俺は弱い分考え続けなきゃならないし、あがき続けなければならないのだろう。
というわけで、ポニテ男のことは夏輝に任せてテーブルに残った料理を片付けることにする。腹が減っては戦は出来ぬとよくいうしな。
たっぷりとデミグラスソースがかけられたハンバーグ、ぷりぷりのアサリが眩しいトマトパスタ、チキンソテーにととにかく量が多い。どれもシェア前提に作られているように感じる。
「それじゃあ冷めないうちに喰おうぜ。なあ、ロセ」
「そうだねアレウ」
紅茶やコーヒーがカップに注がれ、アレウたちに促され俺たちは食事に手をつけ始める。
「いただきます」
夏輝と瑞雪が手を合わせる。アレウとロセは特にはせず、俺はそもそも箸を持つのが難しい。
「ラテア、無理せずフォーク使いなよ」
「ん」
もたついていると夏輝からフォークを差し出されたので素直に受け取る。
「ラテア君はどれ食べたい?」
何故夏輝もロセも俺に構うのだ。食事くらい自分一人でとれるし食べられる。
「別に自分の好きなもの勝手にとるからお前らも好きに食べろよ」
お節介が過ぎると牽制しても、夏輝もロセも何故だか楽し気なまま。
なんとなく居心地が悪いと感じつつ取り皿に山盛りポテトを盛る。狐は雑食だから何でも食べられるのだ。まあ、辛いものは苦手なんだけども。
テーブルの端っこで異彩を放つ真っ赤な料理。唐辛子がたっぷりで近づけられただけで目が痛くなりそうだった。唐辛子で肉が煮込まれている料理みたいだ。
俺の故郷も辛いものが多かったのだが、どうしても獣人である俺には合わなかったのだ。
「つれないなあ。寂しいよねえ、夏輝君」
そんな真っ赤な料理をロセは皿に盛っていく。躊躇なく、だ。
「ロセは辛い物が好きなんだ」
まじまじとロセを見ていた俺を察したのか、アレウが口を開く。アレウの皿には肉ばかりが盛られていた。
「お前は偏食なんだな」
「そうなの。アレウは未だにお子様みたいなところがあるからね」
俺がそう指摘すると返事をしたのはロセだ。
ロセはあっという間にアレウの皿にサラダや魚を盛っていく。
夏輝はまんべんなくどれもちゃんと食べているようだった。好き嫌いがあまりないのだろう。
(そういえばポニテ男は?)
不意に瑞雪のことが気になり俺はそちらを向く。瑞雪の前にある皿にはボロネーゼのパスタが盛られていた。一応ちゃんと食べるらしい。
しかし、成人男性の量にしてはあまりにも少ない。暫く観察していると、食べるスピードも遅く、あまり箸が進んでいないようだった。
「お口に合いませんでしたか?」
瑞雪に対し八潮が声をかける。
「好みのものがあったら教えていただければ作りますよ」
笑顔の八潮は多分善意で言っているのだろう。しかし、その言葉に瑞雪は少しバツが悪そうな顔をした。
「……別に口に合わなかったわけじゃない」
そう言って再びもそもそとパスタを食べだす瑞雪。それを見てアレウが面白そうに目を細めた。
「坊ちゃんには食べなれてないモンだったか?育ちがよさそうだもんなぁ。でもここは庶民的なところがいいところでもあるんだぜ」
「坊ちゃんと呼ぶのを辞めろ。別に俺は坊ちゃんでもなんでもない」
苛ついたようにぴしゃりと返す瑞雪の言葉には確実に棘が含まれいたが、その程度何とも思わない吸血鬼は楽し気に笑いつつ自身の皿に盛られた料理をつつくばかりだ。
確かに見ている限り、夏輝もちゃんと行儀よく食べているとは思うのだが、瑞雪はきっちりしているというか上品な食べ方って表現が正しい気がした。
俺?行儀悪いって程じゃないと思う。多分、うん。アレウは豪快で、ロセはいちいちなんかいやらしい。と思う。
「私たちからしてみれば君は年下だし、育ちが良さそうに見えるから言っているだけで別に君のことを貶めてるわけじゃないよ?それとも何か呼ばれるのが嫌な理由でもあるのかい?」
初対面でこの物言い。アレウもそうだけど、ロセも相当いい性格してるって。
そんなことを考えつつ、俺はなんかおしゃれな魚とお米の入った料理を取り皿に山盛り取った。
「なあ、これなんて言う料理なんだ?」
「ん?これはパエリアっていうんだよ。八潮さんの作ったパエリアはすっごく美味しいから食べてみて!」
すんすんと鼻を動かせば独特な香りが肺いっぱいに広がる。エビとか貝とかがたくさん入っていて美味そう。早速頂くことにする。
「馴れ馴れしいんだよ、初対面から」
「だから、私たちは君と仲良くしたいだけだってば。かしこまってちゃ仲良くなれるものもなれないじゃない?それともお友達の作り方を知らないのかな?」
一方ではロセと瑞雪がバチバチになんかにらみ合ってる。いや、ロセは笑顔で牽制してるだけなんだけど。瑞雪の視線がこっわい。
アレウは喋ることをロセに任せたらしく、その様子を眺めながら肉をお代わりしていた。
「別にお前と友人関係になりたいなんて一切思っちゃいないからな。俺に構うよりそっちの吸血鬼とイチャついてろよ淫魔」
何故人は仲良くできないのだろう。いや、地球人とエデン人が仲良くできるかなんてまあできないとは思うけどさ。
でもこれって別にエデン人と地球人だからじゃないよな、うん。
俺と夏輝はもうこの3人のことは無視することに決め、楽しく食事をしている。夏輝は元よりこの二人の知り合いだというし、瑞雪のことも大体この一週間くらいで把握したのだろう。
「ふふふ。淫魔だけど君にそういう意味で興味はないよ」
「あったら二度とここには来なかっただろうから助かったな」
まあ、一つはっきりしたことがある。ロセと瑞雪は水と油の関係らしい。
俺の故郷でもそういうやつらはいた。これはもはや他のやつが何か言ったり止めに入っても意味をなさないのだ。
「こらこら、それくらいにしておきなさい。他のお客さんに迷惑ですから。ほらトロン、ロセがデザインしてくれた服をデータ化してみました」
瑞雪とロセが言いあっているのを見ながら食事をつついていると不意にカウンターの方から八潮の声が聞こえる。
『ありがとう八潮のおじさま!』
八潮の言葉に俺と夏輝はスマホの画面の中を見る。さっきまで黒づくめの着物を着ていたトロンが可愛らしいデザインの着物に変わっていた。
トロンはくるくると振袖をなびかせながら見せびらかすように回る。
「似合ってるじゃん」
「うんうん、かわいいよトロン!」
俺と夏輝の言葉にトロンはさらに顔を綻ばせる。こういう時は素直に褒めとけって隣のおばさんが言っていた。
『マスターとラテアもありがと!』
ちょろい。褒められたトロンはくるりと回りながら楽し気にしている。まあ、悪い気はしない。
一方八潮に宥められた瑞雪とロセだが……。
「すみません八潮さん。迷惑をかけるつもりはなかったんです」
「……」
殊勝な態度をとるロセに対し、瑞雪はとにかく不満げだ。多分瑞雪の言い分としてはあっちが勝手に突っかかってきたと言いたいのだろう。
「瑞雪さん、ロセは優秀な情報屋でもありますから……。ここはひとつ矛を収めて、仲良くしておくのも瑞雪さんにとって悪くないとは思いますよ」
なんとなく見ていてロセは色々なことを器用に立ち回れる性分なんだろうと思った。瑞雪はその真逆だ。
秋雨の爺さんとのやり取りを見ていてもそう感じたし。もう少しだけ柔らかく接すればいいのにと思う。こんな態度では見た目はいいのに損ばかりだろう。
「仕事の依頼はいつでも大歓迎だよ。勿論対価は貰えるし安くはないけどね。隣の家の夕飯の献立から今君たちが敵対している相手までなんでもござれってね」
そういってロセはいつの間に準備していたのやら名刺を取り出した。どうやら名刺は二種類あるらしい。表向きのモデルと、情報屋か。
瑞雪を見ればすさまじい顔をしていて、嫌悪感が丸出しだった。これにはさすがに夏輝も俺も動きを止める。
「どうせ身体でも使って得ている情報だろう」
「勿論。私の戦い方だしね」
睨みつける瑞雪に対してロセは終始余裕たっぷりの笑顔だ。不味いぞ瑞雪、多分そいつに舌戦では勝てない。
「あ、あの……アレウさん、止めなくていいんですか?あそこまでロセさんが挑発的なのも俺初めて見たんだけど……」
見かねたのか夏輝がこっそりとアレウに耳打ちする。
「俺は初めはちょっとからかうつもりくらいだったんだが……。坊ちゃんの態度がロセにとって気に食わなかったんだろうなあ。理由はわかるが」
アレウ自身はどうやら止める気はないようで、静観しているだけ。
アレウの言いたいこともわかる。瑞雪はエデン人は差別しないのになぜ淫魔にはこんなに偏見を持っているのだろうか。これではロセが瑞雪にいい感情を抱かないのは当たり前だ。
まあ、仕掛けてきたのはアレウとロセだけどさ。
「そんな情報買うつもりはねえよ。帰る」
きっちり皿に盛った量を食べきり、多めの金をテーブルにやや乱暴に置いて瑞雪は席を立つ。
「み、瑞雪?」
とうとう我慢できなくなり席を立った瑞雪に対し、俺は止めるべきかと迷いつつ声をかけた。
「何かあったら連絡しろ。それと大人しくしてろ。竜が襲ってくる条件がわからないんだからな」
瑞雪の脚は止まらない。ロセはそれを冷ややかな目で見つめていた。
「ちょっと待て!このままじゃまずいって、進展以前に竜と何とかやり合う方法を考え……!」
そう、本題はそこだ。こんな食事会をするために集まったわけじゃない。このまままたあの竜と遭遇しても俺たちは勝てない。何かしら対策を立てなきゃならないんだ!
俺の言葉に瑞雪の脚が止まる。
「対策か。それはそう」
「竜の情報だって依頼なら調べてあげるけど。どうする?み・ず・き・ちゃん」
くすくす。文字通り悪魔のような笑い声が響く。
瑞雪の言葉を遮るロセの言葉。一度は冷静になった瑞雪の額に青筋が浮かびあがる。
「何か進展があったら連絡する」
そのまま瑞雪は頭に血が上っているのか、俺の言葉に耳を貸すことなく出て行ってしまった。
「あ……」
思わず呆けた声を出す。余計なことを。ロセを軽く睨めば少しだけ肩をすくめて見せた。
「俺、追いかけてくる!ラテアは待ってて!」
咄嗟に動いたのは夏輝だった。そのままジャケットをもって走り出し、同じく店を飛び出して行ってしまった。
俺はそれをどうしていいかもわからず見送る。
「ロセ、失礼だからって少しばかりやりすぎだぜ」
カフェ中の人間たちがなんだなんだとこちらを見ていた。魔法がかかってなきゃエデンの情報や秘密は筒抜けだ。
この場の地球人たちには何かどうでもいい、くだらないことで喧嘩しているように見えるのだろうか。……いや、そもそも十分下らな過ぎた。
ロセは席に座ったまま、再びマイペースに食事を始める。そんなロセを見ながらアレウが口を開いた。
「何言ってるのアレウ。フェロモンもチャームも私は使っていないよ」
ロセは悪びれる様子もない。
「20過ぎたくらいのガキだろう、あいつ。そんな奴にムキになるなって。ムキになってるお前も好きだが」
まあ、確かに俺よりも年下だろうし。長く生きているだろう吸血鬼や淫魔からすればポニテ男は本当に赤ん坊みたいなもんかもしれない。
「……別に俺たちはこんな食事会しに来たわけじゃなかったんだけど。今後の対策を立てなきゃならなかったのに」
そう、こいつらが煽らなければ少しはあいつと建設的な話が出来たかもしれないのだ。
流石に俺だって思うところもあって、ぐちりと嫌味を口にする。
「まあ、確かに言いすぎたかもね。ラテア君と夏輝君には悪いことしたね。申し訳ないし、私達は君たちの現状をあまりよくわかっているわけでもないけど多少なりこうかな?って思ったことは伝えられるかな」
「思ったこと?」
別に現場を見てるわけでも、今絶賛竜を何とかしなきゃいけないなんてこともこいつらは知らないはず。それなのに一体何を思ったというのか。
「私とアレウはね、お互いにお互いを支えあっているんだ。まあ、今回の場合で言えば戦闘もね。私はアレウの支援をしたりとか。まあようするに1つのチームってところかな。君たちはどうなんだろうって思ってね」
チームか。まあ正直と言うか、当然こんな即席チームだし、夏輝はド素人、俺は弱いエデン人、んでもって頼みの瑞雪は装備が貧弱かつ間違いなく他人と戦うことに慣れていなかった。
「……協力して戦えているか、互いに互いの欠点を補いあえているかって言えばNOだな。夏輝は素人、俺はただの獣人。んでもって瑞雪は多分他人と戦うことに全く慣れてない」
瑞雪がちゃんと攻撃に専念出来れば勝機はある……と、思いたい。少なくとも相手は狂ってる壊れかけの竜なのだ。
今のところ魔法もブレスも使っているのは見たことないし、飛んでもいない。全力の瑞雪の攻撃魔法がどれくらいの威力なのかはわからないが。
「なるほどな。まあ確かに坊ちゃんは他人と肩を並べてとかそういうタイプじゃなさそうだしな。互いを補い合いつつ自分の長所を出していけるのがベストだな。いかんせんふわっとしたアドバイスで悪いんだが、とりあえずチームとして動けるように訓練するべきだと思うぜ」
そりゃそうだ。時間も経験も足りていない俺たちが出来ることと言えば最低限そこだろう。アレウとロセは案外真っ当なアドバイスをしてくれ驚いたのもあったが、俺は素直に頭を縦に振っていた。
「やれるかどうかはともかくとして、俺なりに少し考えてみる」
考えることを辞めてはならない。
吸血鬼を見ているとそう思う。俺は弱い分考え続けなきゃならないし、あがき続けなければならないのだろう。
というわけで、ポニテ男のことは夏輝に任せてテーブルに残った料理を片付けることにする。腹が減っては戦は出来ぬとよくいうしな。
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BL
これはそう遠くない近未来のお話し。
20××年。地球は人間型ロボットであるアンドロイドと人間が共存する世界となった。誰しも成人すれば希望のアンドロイドを作る事ができる世の中。そんな世の中に違和感を覚えていたカイルは成人しているが自身のアンドロイドを持ってはいない。当たり前のように人間の横にはアンドロイドがいて、アンドロイドを大切に扱う人間もいれば奴隷のように扱う人間もいる。そんな世の中が嫌になるとカイルは大好きな桜の木を眺める。そうすれば騒つく胸がすぅっとおさまり、まるで初恋をしたような気持ちになるから。そんなある日、カイルの知人であるジノがカイルに自身のアンドロイドを紹介する。ジノも反アンドロイド派だったが、ついにアンドロイドを購入してしまいアンドロイドの魅力にハマってしまっていた。そんなジノを見てカイルは呆れるがジノから大企業purple社のアンドロイド紹介割引券をもらい、アンドロイドと向き合ったこともないのに反対派でいるのもと考えたカイルはアンドロイド購入に踏む切る。そうして出会ったアンドロイドから不思議なことにどこか懐かしさを感じたカイル。一瞬にしてカイルの心を虜にし、夢中にさせるほど魅力的なアンドロイド。カイルはそのアンドロイドの名前をオンと名づける。アンドロイドとの生活にも慣れはじめたカイルはとあるスーパーで買い物をしていると自身のアンドロイド・オンにそっくりなテオンと出会ってしまう。自分のアンドロイドにそっくりなテオンと出会い驚くカイルと同時にテオンもこの時驚いていた。なぜならばカイルがテオンをオンだと見間違えて呼んだはずのオンという名前はテオンが幼い頃の初恋の相手であるイルから呼ばれていたあだ名だったから。2人は互いに何かを感じるもののその場を後にしてしまう。そして数日後、突然カイルのアンドロイド・オンはpurple社により自主回収され廃棄されてしまう。悲しみのどん底に落ちるカイル。なぜ自分のアンドロイドが回収されたのか?そう思っているとpurple社の社員がカイルを訪れ回収された原因を伝えようとするとpurple社によって埋め込まれたチップによりその社員は毒殺されてしまう。社員の残した言葉が気になるカイル。
日に日にアンドロイド・オンを失ったカイルの心には闇を落とし、始め極端な選択をしようとするが偶然…アンドロイド・オンと同じ顔を持つテオンと再会してしまい、カイルはテオンに惹かれていく。しかし、過去に沢山の心の傷を負ったテオンはカイルにキツく当たり、全く心を開こうとしないものの、カイルは諦めることなくテオンにアプローチし続けるが……?なぜカイルのアンドロイド・オンは回収され廃棄されたのか?テオンの心の傷とは?purple社とは……一体?すれ違いながらも心惹かれていく2人の結末はどうなるのか?
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