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2022年ハロウィン短編(R18/夏ラテ・トツミズ・アレロセ)
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※夏輝とラテアは本編でまだくっついていませんが、くっついた後の話です。本編でくっついた後読みたいという方はこちらのページは飛ばしてください
「とりっくおあとりーと!」
ハロウィン。それはなんか、仮装してとりっくおあとりーとと相手に詰め寄るだけで様々な菓子類が貰える夢のようなイベント……らしい。
少なくとも俺は夏輝からそう聞いた。正しくはちゃあんとした起源があるらしいが、俺はエデン生まれなのでよく知らない。俺にとって大事なのはお菓子が貰える部分である。
そして今日という日はどうやら皆が仮装をする日だということで、珍しく耳と尻尾を外で隠さなくてもいい日ということだ。
「?」
昼下がりのカフェ『朱鷺』。今日は土曜日で夏輝も学校がなくカフェでバイト中だ。俺もそれについてきていた。
で、今日はハロウィンなわけだ。店内は十月に入りハロウィンが近づいてからそれっぽい装飾がされている。
俺はふさふさの自慢の尻尾と耳を揺らめかせ、俺は店にやってきた瑞雪に向けて例の呪文を唱え迫っていた。
瑞雪は何が何だかさっぱりといった様子で頭にはてなマークを浮かべている。隣に座ってモンブランを食べているトツカも然りである。
「とりっくおあとりーと!今日はハロウィンなんだろ!悪戯されたくなかったら菓子をよこせ!はよ!」
ばんばんばん!と机を行儀悪くたたく……訳はなく、俺は手をずいと瑞雪の前に差し出した。だってカフェの机だし。備品だし。机の上にはトツカの前にケーキセットがあるし、瑞雪の前にはなみなみと注がれたコーヒーカップがある。叩いたら零れたりしちゃうじゃん。
そこまで言ってやっと合点がいったのか、瑞雪はああ、と小さく言葉を漏らした。
「これしかないが。よかったな、最後の一枚だぞ」
ポケットから取り出したのはガムだった。それも黒い紙に包まれた所謂眠気覚ましのガムである。
「まずいやつじゃん!俺これ知ってるし!こんなんじゃダメだっての!俺これ嫌い!」
「そもそもハロウィンはガキのイベントだろうが……!普段は自分は子供じゃないって言ってるのにこんな時だけガキ扱いを要求するとかおかしいだろう」
俺の言葉に瑞雪は大きくため息をつき取り出したガムを再び仕舞う。だってこれ辛いしまずいんだ。すーすーするし。
「はろうぃん?」
不思議そうにするトツカに対し、俺は懇切丁寧に説明してやる。瑞雪から菓子を奪う同志が増えればいい。
「なるほど……」
トツカは何か深く考え込むようなしぐさを見せる。何を考えているんだろう。謎である。瑞雪はなんか嫌そうな顔をしていたが無視することにする。だってお菓子くれないし。
「なんなら別に、今ここで俺にパフェを奢ってくれてもいいんだぜ?悪戯されたくないだろ?」
ふふん、と笑う俺に対し瑞雪は呆れたような顔をする。
「どうせお前に出来る悪戯なんてたかが知れてる」
鼻で笑い返す瑞雪。ムっとしたところで客の出入りが落ち着いたのかさっきまで忙しくしていた夏輝がやってくる。
「どうしたんですか?」
夏輝自身もラテアの耳と尻尾とは少し異なる狼の耳と尻尾をつけていた。勿論作りものなのでラテアのもののように感情によって揺れたり動いたりはしないけれど。
「お前も仮装してるのか」
「はい。休憩室に八潮さんが色々衣装を用意してくれてるんです。瑞雪さんもどうですか?」
……夏輝、勇気あるな。瑞雪は夏輝の誘いに鼻頭に皺をよせあからさまに嫌そうな顔をした。まあ、そうだろうな。つまんねえの。
「っていうかラテア、あんまり瑞雪さんに我儘言っちゃだめだよ。それにお客さんから既にたくさんお菓子を貰ってるじゃない」
「俺は瑞雪からも徴収したいんだ!」
大した悪戯が出来ないとか言われて俺はむぅと頬を膨らませる。
「貰ってるじゃねえか……」
はぁー、と大仰にわざとらしく聞こえるようにため息をつく瑞雪。
『ほら、あそこのカウンターの脇にあるバケツあるでしょ?あの中にたんまりと確保してるのよ!』
「あ、こらチクるなトロン!」
追撃とばかりにトロンは瑞雪に俺の菓子類の隠し場所を教えてしまう。
「ラテア、カフェの名物だからねえ。可愛がられてるから」
夏輝はと言えばほほえまし気にこちらを見ている。ぐぬぬ。と、そんな風にやいのやいのと騒いでいると、騒ぎを聞きつけて吸血鬼と淫魔がやってくる。
二人は既に仮装をしてきていた。えーと、アレウは海賊でロセはシスター。ハロウィン的には割と定番だろうか。テレビでハロウィン仮装ランキングとかいうのをやっていたから俺は詳しいんだ。
「何々?コスプレ????」
「お、夏輝少年はラテア君とおそろいっぽくていいな」
瑞雪の背後からにょきりと顔を出すロセに瑞雪はさっきよりもさらに嫌そうな顔をして顔を背ける。相変わらずこいつらは仲が悪い。ロセもわざとやってるしさ。
アレウはアレウで夏輝の仮装をほめていた。二人して似たような仮装してどうなの?と俺が言ったところ夏輝は
『ラテアの同族っぽく見えるかなって。故郷には帰れない分少しでも仲間っぽく見えたらいいなって』
なあんて可愛いことを言ってくれちゃって。それならとお揃いで今日は売っている。カフェの客達にもウケがよく、こうしてお菓子ががっぽがっぽというわけだ。
で、それはそうとして。
「アレウはともかくとしてロセはちょっと……いや、かなりきわどくない?」
俺は思わず指摘する。アレウは羽飾りとか、生地の質からして上等なものとわかるくらいだが、ロセがヤバい。
一見すると上半身を覆う布はまあシスター服と言って差し支えないのだが、下半身が大問題だ。
白いうっすいすけすけのオーバーニーソックスに歩くことも困難そうなピンヒール、それと。
「前……かけ?」
スカート部分が前掛けになっていて、横から見ると尻及び太もものラインが丸見えなのである。
「不潔な淫魔め」
これには瑞雪も思わず口汚く罵った。
「ここはイメクラじゃねえんだよ」
「こら、未成年のいるところでイメクラなんて言葉使っちゃいけないでしょ?」
むっちりとした肉付きのいい尻は明らかにこんな真昼のカフェで見えていていい代物ではない。瑞雪の言葉にロセは上げ足を取るように揶揄う。
瑞雪とロセが小競り合いをする中、トツカは何か考え込みつつどんどん追加でケーキを注文していく。結構高くつきそうだけどまあいいか。
「……最初はもっとヤバかったんだけどな。流石に止めたんだよ。俺の前でしか見せて欲しくないし」
ぼそっと呟くアレウ。俺の素晴らしい聴覚を持つ耳には一言一句間違わずに入ってくる。もっとやばかったのか、と少し引く。
「というか、瑞雪の坊ちゃんとトツカはコスプレ……ごほん、仮装はしないのか?」
席に適当についたアレウがその様子を眺めつつ言葉を発する。
「しないが。そもそも仮装衣装なんて持ってねえよ」
「いやいやいや、さっき聞いたよ!八潮さんが色々衣装を休憩室に用意してあるって。瑞雪ちゃんも仮装しよ♡」
そう言って半ば強引にロセは瑞雪の腕を掴む。
「トツカ、止めろ!」
「アレウ」
「はいはい」
瑞雪はトツカに止めるように求めるが、トツカは首を傾げている。
「止めるって、何をだ?」
別に命の危機は瑞雪に迫っていないため、トツカには止めて欲しい事柄がわからなかったようだ。うーんばぶちゃん。
そしてそんな返答をしている間にもアレウが立ち上がりロセが右側、アレウが左側でがっちりと瑞雪の逃げ場を塞ぎつつ腕を掴み休憩室の方へと引きずっていく。
「八潮、いいのか?」
「ええ。人数は多ければ多いほど楽しいでしょうから。トツカ君も着替えてくるといいですよ。今は客の入りも落ち着きましたし、休憩がてら夏輝とラテア君も手伝ってきて上げてください」
勝手に従業員でもないやつらが裏の休憩室へ入っていったわけで。俺が八潮に尋ねると、柔和な笑みを浮かべ言葉を紡ぐ。
『休憩室が火事にならないといいけど』
スマホの画面の中からトロンが心配そうな声を出す。ちなみにトロンには八潮がわざわざデータの衣装を用意してくれていた。俺と夏輝とお揃いの獣耳に巫女服とかいうやつ。
八潮は常々思うがまめな男である。そういうところが夏輝も結構似ているかも。
「着替える?ハロウィンの仮装というやつか?」
「そ。お前ガタイがいいから結構怖くなりそうだなあ」
トツカを引き連れ、戦利品の菓子類をもって休憩室に俺たちも少し遅れて入る。中では休憩室のソファに瑞雪が行儀悪く座り腕を組みそっぽを向いている。
ロセとアレウの手には様々な衣装がかけられたハンガーが。それこそ吸血鬼とか、幽霊とか、魔女とか色々だ。
「……やめろ。俺はしないと言っているだろう」
低く唸るように威嚇をする瑞雪。しかしロセとアレウはもうにっこにこだ。あれはもう瑞雪を絶対にコスプレさせるぞという強い気概を感じる。
こうなっては瑞雪はただの玩具だった。
「あれも駄目、これも嫌、どうするつもり?こんな時くらい協調性持ちなって。それともそんなに服が嫌ならこのカボチャとか頭にかぶせとく?」
休憩室も八潮とバイトたちの手によって凝ったハロウィンの装飾が飾られている。俺とトツカは店内と休憩室の飾りつけの手伝いをしていたりする。暇だったからな!
まあ、トツカは物を運んだりっていうのが大半だったが俺はそうじゃない。かぼちゃをくりぬいたり色々したのである。
ドワーフの故郷生まれのこの俺、手先はとてもとても器用だった。
我ながら俺の彫ったかぼちゃたちの表情は生き生きとしていて恐ろしい。そのうちの一番出来がいいと自負しているジャックオーランタン、かぼちゃ太郎君をロセが見初めた。
「これとかいいんじゃない?」
そう言ってロセは瑞雪の頭にかぼちゃ太郎君の頭をドッキングしようとする。瑞雪が逃げようとするがアレウがそれをがっちりと逃げられないように押さえつけている。
哀れな瑞雪はトツカに目を向けるが、トツカは首を傾げている。瑞雪は助けてと言えない男であるし、トツカはまだばぶちゃんなので言葉にしないと通じないことが大半なのである。
「……わかった、わかったからかぼちゃを被せるのを辞めろ!」
結局瑞雪が折れ、ロセとアレウがにっこにこの満面の笑みを浮かべた。
「俺が選ぶ……!お前らに選ばせないからな」
「ついでにトツカ君の衣装も選んであげなよ」
そこまで言うとアレウがやっと瑞雪を解放する。瑞雪は大きくため息をつき、肩をがっくりと落とし疲れた様子を見せる。
しかし、ここで逃げようとしてもアレウとロセに確実に阻まれるしそもそもまだトツカが食べたケーキの会計が済んでいないのである。
「元気出せよ瑞雪。チョコいる?」
「いらん」
俺の言葉に瑞雪は忌々し気にこちらを睨んでくる。全く怖くない。夏輝は苦笑いをしつつもそれを止めない。もはや恒例行事、慣れたものだった。
暫くのろのろと瑞雪は衣装を物色し、最終的に一つの衣装を選んだ。勿論、トツカにもだ。そして男用の更衣室の方へとのそのそと入っていく。トツカもアレウに指示され瑞雪の後に続く。
「これで満足か?」
出てきた瑞雪はキョンシーの格好を、トツカはフランケンシュタインの格好をしていた。まあ、俺は知らなかったので夏輝が解説してくれただけだけど。
普段は頭頂部で括っている髪も帽子の邪魔になるからか珍しく解かれている。腰まで伸びた長い髪はきちんと手入れされているようで艶やかだった。所謂萌え袖というかキョンシーの代名詞であるぶかぶかの裾を鬱陶しそうにしている。
トツカはごっつい肩パッドとか額につけられた釘の装飾とかがなかなか合っている。
普段は露出のほぼないきっちりとした服を瑞雪に指定されているからか、ボロ服で露出が多いのが新鮮だ。合間合間から見える筋肉量が普段からいかに鍛えているかを物語っている。
「似合ってるじゃん瑞雪ちゃん♡に合うんだからどんどん積極的に着ればいいのに、恥ずかしがり屋?」
さっきからトツカが瑞雪をじぃっと見ている。瑞雪はそれに気づかず、忌々し気にロセとアレウを睨んでいた。
「瑞雪の坊ちゃんもせっかくだし今日はここで給仕のバイトでもしたらどうだ?別に街を練り歩いて仮装パーティに参加してもいいが」
「絶対に嫌だ……!」
相変わらず瑞雪は陰気である。祭りに参加する気は全くないようで、ロセとアレウから逃れるように立ち上がる。
「それなら給仕の手伝いをした方がましだ……!」
結局、その日俺たちはアレウとロセも含めて給仕やら何やらを手伝った。おかげで大いにカフェは普段よりも盛況であり、なかなかの売り上げを記録した。
八潮から夕飯をごちそうになり、俺たちはそのまま解散。それぞれの帰路についたのだった……。
続く
「とりっくおあとりーと!」
ハロウィン。それはなんか、仮装してとりっくおあとりーとと相手に詰め寄るだけで様々な菓子類が貰える夢のようなイベント……らしい。
少なくとも俺は夏輝からそう聞いた。正しくはちゃあんとした起源があるらしいが、俺はエデン生まれなのでよく知らない。俺にとって大事なのはお菓子が貰える部分である。
そして今日という日はどうやら皆が仮装をする日だということで、珍しく耳と尻尾を外で隠さなくてもいい日ということだ。
「?」
昼下がりのカフェ『朱鷺』。今日は土曜日で夏輝も学校がなくカフェでバイト中だ。俺もそれについてきていた。
で、今日はハロウィンなわけだ。店内は十月に入りハロウィンが近づいてからそれっぽい装飾がされている。
俺はふさふさの自慢の尻尾と耳を揺らめかせ、俺は店にやってきた瑞雪に向けて例の呪文を唱え迫っていた。
瑞雪は何が何だかさっぱりといった様子で頭にはてなマークを浮かべている。隣に座ってモンブランを食べているトツカも然りである。
「とりっくおあとりーと!今日はハロウィンなんだろ!悪戯されたくなかったら菓子をよこせ!はよ!」
ばんばんばん!と机を行儀悪くたたく……訳はなく、俺は手をずいと瑞雪の前に差し出した。だってカフェの机だし。備品だし。机の上にはトツカの前にケーキセットがあるし、瑞雪の前にはなみなみと注がれたコーヒーカップがある。叩いたら零れたりしちゃうじゃん。
そこまで言ってやっと合点がいったのか、瑞雪はああ、と小さく言葉を漏らした。
「これしかないが。よかったな、最後の一枚だぞ」
ポケットから取り出したのはガムだった。それも黒い紙に包まれた所謂眠気覚ましのガムである。
「まずいやつじゃん!俺これ知ってるし!こんなんじゃダメだっての!俺これ嫌い!」
「そもそもハロウィンはガキのイベントだろうが……!普段は自分は子供じゃないって言ってるのにこんな時だけガキ扱いを要求するとかおかしいだろう」
俺の言葉に瑞雪は大きくため息をつき取り出したガムを再び仕舞う。だってこれ辛いしまずいんだ。すーすーするし。
「はろうぃん?」
不思議そうにするトツカに対し、俺は懇切丁寧に説明してやる。瑞雪から菓子を奪う同志が増えればいい。
「なるほど……」
トツカは何か深く考え込むようなしぐさを見せる。何を考えているんだろう。謎である。瑞雪はなんか嫌そうな顔をしていたが無視することにする。だってお菓子くれないし。
「なんなら別に、今ここで俺にパフェを奢ってくれてもいいんだぜ?悪戯されたくないだろ?」
ふふん、と笑う俺に対し瑞雪は呆れたような顔をする。
「どうせお前に出来る悪戯なんてたかが知れてる」
鼻で笑い返す瑞雪。ムっとしたところで客の出入りが落ち着いたのかさっきまで忙しくしていた夏輝がやってくる。
「どうしたんですか?」
夏輝自身もラテアの耳と尻尾とは少し異なる狼の耳と尻尾をつけていた。勿論作りものなのでラテアのもののように感情によって揺れたり動いたりはしないけれど。
「お前も仮装してるのか」
「はい。休憩室に八潮さんが色々衣装を用意してくれてるんです。瑞雪さんもどうですか?」
……夏輝、勇気あるな。瑞雪は夏輝の誘いに鼻頭に皺をよせあからさまに嫌そうな顔をした。まあ、そうだろうな。つまんねえの。
「っていうかラテア、あんまり瑞雪さんに我儘言っちゃだめだよ。それにお客さんから既にたくさんお菓子を貰ってるじゃない」
「俺は瑞雪からも徴収したいんだ!」
大した悪戯が出来ないとか言われて俺はむぅと頬を膨らませる。
「貰ってるじゃねえか……」
はぁー、と大仰にわざとらしく聞こえるようにため息をつく瑞雪。
『ほら、あそこのカウンターの脇にあるバケツあるでしょ?あの中にたんまりと確保してるのよ!』
「あ、こらチクるなトロン!」
追撃とばかりにトロンは瑞雪に俺の菓子類の隠し場所を教えてしまう。
「ラテア、カフェの名物だからねえ。可愛がられてるから」
夏輝はと言えばほほえまし気にこちらを見ている。ぐぬぬ。と、そんな風にやいのやいのと騒いでいると、騒ぎを聞きつけて吸血鬼と淫魔がやってくる。
二人は既に仮装をしてきていた。えーと、アレウは海賊でロセはシスター。ハロウィン的には割と定番だろうか。テレビでハロウィン仮装ランキングとかいうのをやっていたから俺は詳しいんだ。
「何々?コスプレ????」
「お、夏輝少年はラテア君とおそろいっぽくていいな」
瑞雪の背後からにょきりと顔を出すロセに瑞雪はさっきよりもさらに嫌そうな顔をして顔を背ける。相変わらずこいつらは仲が悪い。ロセもわざとやってるしさ。
アレウはアレウで夏輝の仮装をほめていた。二人して似たような仮装してどうなの?と俺が言ったところ夏輝は
『ラテアの同族っぽく見えるかなって。故郷には帰れない分少しでも仲間っぽく見えたらいいなって』
なあんて可愛いことを言ってくれちゃって。それならとお揃いで今日は売っている。カフェの客達にもウケがよく、こうしてお菓子ががっぽがっぽというわけだ。
で、それはそうとして。
「アレウはともかくとしてロセはちょっと……いや、かなりきわどくない?」
俺は思わず指摘する。アレウは羽飾りとか、生地の質からして上等なものとわかるくらいだが、ロセがヤバい。
一見すると上半身を覆う布はまあシスター服と言って差し支えないのだが、下半身が大問題だ。
白いうっすいすけすけのオーバーニーソックスに歩くことも困難そうなピンヒール、それと。
「前……かけ?」
スカート部分が前掛けになっていて、横から見ると尻及び太もものラインが丸見えなのである。
「不潔な淫魔め」
これには瑞雪も思わず口汚く罵った。
「ここはイメクラじゃねえんだよ」
「こら、未成年のいるところでイメクラなんて言葉使っちゃいけないでしょ?」
むっちりとした肉付きのいい尻は明らかにこんな真昼のカフェで見えていていい代物ではない。瑞雪の言葉にロセは上げ足を取るように揶揄う。
瑞雪とロセが小競り合いをする中、トツカは何か考え込みつつどんどん追加でケーキを注文していく。結構高くつきそうだけどまあいいか。
「……最初はもっとヤバかったんだけどな。流石に止めたんだよ。俺の前でしか見せて欲しくないし」
ぼそっと呟くアレウ。俺の素晴らしい聴覚を持つ耳には一言一句間違わずに入ってくる。もっとやばかったのか、と少し引く。
「というか、瑞雪の坊ちゃんとトツカはコスプレ……ごほん、仮装はしないのか?」
席に適当についたアレウがその様子を眺めつつ言葉を発する。
「しないが。そもそも仮装衣装なんて持ってねえよ」
「いやいやいや、さっき聞いたよ!八潮さんが色々衣装を休憩室に用意してあるって。瑞雪ちゃんも仮装しよ♡」
そう言って半ば強引にロセは瑞雪の腕を掴む。
「トツカ、止めろ!」
「アレウ」
「はいはい」
瑞雪はトツカに止めるように求めるが、トツカは首を傾げている。
「止めるって、何をだ?」
別に命の危機は瑞雪に迫っていないため、トツカには止めて欲しい事柄がわからなかったようだ。うーんばぶちゃん。
そしてそんな返答をしている間にもアレウが立ち上がりロセが右側、アレウが左側でがっちりと瑞雪の逃げ場を塞ぎつつ腕を掴み休憩室の方へと引きずっていく。
「八潮、いいのか?」
「ええ。人数は多ければ多いほど楽しいでしょうから。トツカ君も着替えてくるといいですよ。今は客の入りも落ち着きましたし、休憩がてら夏輝とラテア君も手伝ってきて上げてください」
勝手に従業員でもないやつらが裏の休憩室へ入っていったわけで。俺が八潮に尋ねると、柔和な笑みを浮かべ言葉を紡ぐ。
『休憩室が火事にならないといいけど』
スマホの画面の中からトロンが心配そうな声を出す。ちなみにトロンには八潮がわざわざデータの衣装を用意してくれていた。俺と夏輝とお揃いの獣耳に巫女服とかいうやつ。
八潮は常々思うがまめな男である。そういうところが夏輝も結構似ているかも。
「着替える?ハロウィンの仮装というやつか?」
「そ。お前ガタイがいいから結構怖くなりそうだなあ」
トツカを引き連れ、戦利品の菓子類をもって休憩室に俺たちも少し遅れて入る。中では休憩室のソファに瑞雪が行儀悪く座り腕を組みそっぽを向いている。
ロセとアレウの手には様々な衣装がかけられたハンガーが。それこそ吸血鬼とか、幽霊とか、魔女とか色々だ。
「……やめろ。俺はしないと言っているだろう」
低く唸るように威嚇をする瑞雪。しかしロセとアレウはもうにっこにこだ。あれはもう瑞雪を絶対にコスプレさせるぞという強い気概を感じる。
こうなっては瑞雪はただの玩具だった。
「あれも駄目、これも嫌、どうするつもり?こんな時くらい協調性持ちなって。それともそんなに服が嫌ならこのカボチャとか頭にかぶせとく?」
休憩室も八潮とバイトたちの手によって凝ったハロウィンの装飾が飾られている。俺とトツカは店内と休憩室の飾りつけの手伝いをしていたりする。暇だったからな!
まあ、トツカは物を運んだりっていうのが大半だったが俺はそうじゃない。かぼちゃをくりぬいたり色々したのである。
ドワーフの故郷生まれのこの俺、手先はとてもとても器用だった。
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「これとかいいんじゃない?」
そう言ってロセは瑞雪の頭にかぼちゃ太郎君の頭をドッキングしようとする。瑞雪が逃げようとするがアレウがそれをがっちりと逃げられないように押さえつけている。
哀れな瑞雪はトツカに目を向けるが、トツカは首を傾げている。瑞雪は助けてと言えない男であるし、トツカはまだばぶちゃんなので言葉にしないと通じないことが大半なのである。
「……わかった、わかったからかぼちゃを被せるのを辞めろ!」
結局瑞雪が折れ、ロセとアレウがにっこにこの満面の笑みを浮かべた。
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「ついでにトツカ君の衣装も選んであげなよ」
そこまで言うとアレウがやっと瑞雪を解放する。瑞雪は大きくため息をつき、肩をがっくりと落とし疲れた様子を見せる。
しかし、ここで逃げようとしてもアレウとロセに確実に阻まれるしそもそもまだトツカが食べたケーキの会計が済んでいないのである。
「元気出せよ瑞雪。チョコいる?」
「いらん」
俺の言葉に瑞雪は忌々し気にこちらを睨んでくる。全く怖くない。夏輝は苦笑いをしつつもそれを止めない。もはや恒例行事、慣れたものだった。
暫くのろのろと瑞雪は衣装を物色し、最終的に一つの衣装を選んだ。勿論、トツカにもだ。そして男用の更衣室の方へとのそのそと入っていく。トツカもアレウに指示され瑞雪の後に続く。
「これで満足か?」
出てきた瑞雪はキョンシーの格好を、トツカはフランケンシュタインの格好をしていた。まあ、俺は知らなかったので夏輝が解説してくれただけだけど。
普段は頭頂部で括っている髪も帽子の邪魔になるからか珍しく解かれている。腰まで伸びた長い髪はきちんと手入れされているようで艶やかだった。所謂萌え袖というかキョンシーの代名詞であるぶかぶかの裾を鬱陶しそうにしている。
トツカはごっつい肩パッドとか額につけられた釘の装飾とかがなかなか合っている。
普段は露出のほぼないきっちりとした服を瑞雪に指定されているからか、ボロ服で露出が多いのが新鮮だ。合間合間から見える筋肉量が普段からいかに鍛えているかを物語っている。
「似合ってるじゃん瑞雪ちゃん♡に合うんだからどんどん積極的に着ればいいのに、恥ずかしがり屋?」
さっきからトツカが瑞雪をじぃっと見ている。瑞雪はそれに気づかず、忌々し気にロセとアレウを睨んでいた。
「瑞雪の坊ちゃんもせっかくだし今日はここで給仕のバイトでもしたらどうだ?別に街を練り歩いて仮装パーティに参加してもいいが」
「絶対に嫌だ……!」
相変わらず瑞雪は陰気である。祭りに参加する気は全くないようで、ロセとアレウから逃れるように立ち上がる。
「それなら給仕の手伝いをした方がましだ……!」
結局、その日俺たちはアレウとロセも含めて給仕やら何やらを手伝った。おかげで大いにカフェは普段よりも盛況であり、なかなかの売り上げを記録した。
八潮から夕飯をごちそうになり、俺たちはそのまま解散。それぞれの帰路についたのだった……。
続く
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