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ついに……?
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それからエドワードは何度もマリーの名前を呼ぼうと試みた。
だがどうしても彼女の前に出ると上手く言えなかった。
エドワードは本番に弱いタイプだったのだ。
「どうして君の名前はこんな名前なんだ!」
苛立ちから思いがけず言ってしまった言葉だった。
ハッと我に返ってももう遅かった。マリーは悲しみに暮れる表情で諦めた様に溜息をついた。
「もういいです……」
と、言葉を残しエドワードの前から立ち去った。
(愛する者の名前も言えない僕には、彼女と結婚する資格なんてない)
あの日以来、マリーと疎遠になっていたエドワードは、いつしかそんな事を考える様になっていた。
だけど、立場的にもマリーから婚約を破棄する事は出来ない。
(だから僕が、婚約破棄してあげないと。彼女の幸せの為に――彼女の夢を実現させてあげるためにも!)
「マリーパミュパミュジュディムピョミピャミアントワネット! 君との婚約を破棄する!」
その瞬間、会場内がシン……と静まり返った。
先程まで苛立ち、歯をギリギリとさせていた人達の顔から力が抜け、安堵した様な表情へと変わった。
中には涙ぐみ、よくやったと心の中でエドワードを褒め称える者もいる。
当のエドワード自身も、目を見開いたまま固まり、信じられないという様な表情を浮かべている。その口元が次第に緩みだした。
「やった! 言えた……言えたぞマリー! いや、マリーパミュパミュジュディムピョミピャミアントワネット! 君の名をついに呼ぶ事が出来た!」
エドワードが歓喜の表情でマリーの元へ駆け寄り、抱きしめようと手を伸ばした時、顔を上げたマリーの瞳からはポロポロと涙が溢れていた。
笑みを浮かべ、でも少し寂しそうな表情でエドワードを真っすぐ見つめた。
「ええ。初めて私の名前を呼んでくださったのですね。いつか、愛する人に名前を呼んでもらいたい――その夢を叶えて下さり本当にありがとうございます。この婚約破棄を受け入れま――」
「ちょっと待て! 違うんだ! 僕は君の名前をずっと呼んであげられなかった。だから、そんな僕が君と結婚する資格なんて無いと思っていたんだ。だから婚約破棄してあげようと……でも、僕はこうして君の名を呼べるようになった。だから――」
エドワードはその場に跪いてマリーを見上げた。
「マリーパミュパミュジュディムピョミピャミアントワネット。君を愛している。どうか僕と、結婚してくれませんか?」
ずっと言ってあげられなかったその言葉を、一年越しに言う事が出来た。
マリーの顔から悲しみは消え去り、涙は嬉し涙へと変わった。穏やかな笑みを浮かべたマリーはゆっくりと口を開いた。
「はい、私で良ければ」
なんじゃそりゃ。
というツッコミが会場にいる全員の喉元まででかかったが、皆必死に飲み込み耐え続けた。
涙を流しながら抱きしめ合う二人を、祝福する者などここにはいない。
置いてけぼりにされ、酷い裏切りを受けた人々は、湧き上がる怒りを抑えながら、シラケた眼差しを抱擁する二人に向けていた。
今までの時間は一体何だったのだろうか?
こんなものを見せられるくらいなら、蟻の行列を眺めている方がまだ有意義な時間を過ごせていたはずだ。
だが、相手はこれでも一国の王子。無礼な言動は不敬罪にあたる。
とにかく無性に何かを殴りたい。
そんな思いを胸に秘めた会場内の人間は、ただひたすら両手の拳を震える程硬く握りしめていた。
お気付きの方もいるだろうが、エドワードは最初から婚約破棄なんてする気はさらさらなかった。
名前を言えなくても婚約破棄が出来ないだけ。
名前を言えたら婚約破棄する必要が無くなり、そのままプロポーズへ持ち込めばいい。
この男はただの出来レースを一人で走り続けていただけだった。
そう、この男は本当にずる賢い。そういう男だ。
エドワードは悠々と立ち上がり、マリーの肩に手をかけた。
「さあ、行こうか。マリーパミュパミュジュディムピョミピャミアントワネッチュ」
その瞬間、カーン! と第2ラウンドのゴングが鳴った。
そう、この男は本当にすぐ調子に乗り、油断して肝心な所で恰好がつかない。そういう男なのだ。
会場内の人々は二人を残して無言で解散し始めた。
「っていうか、あの令嬢は絶対王子の事がめちゃくちゃ嫌いだよな?」と疑問を漏らす男性に、「嫌よ嫌よも好きのうちなのよ」と隣にいる女性が教えると「なんじゃそりゃ」とまた仰け反った。
その後エドワードとマリーはなんだかんだありながらも無事に結婚した。
二人の間に生まれた息子は、幸いにもマリーの血を色濃く受け継ぎ、立派に成長した。
新たな王となった彼は、この国の平和と繁栄に大きく貢献し、人々から賞賛され称えられた。
特に国民達の滑舌の良さは他国でも高く評価され、話題となった。
国民から愛され、親しまれた王の名は――もうお分かりいただけるだろう。
だがどうしても彼女の前に出ると上手く言えなかった。
エドワードは本番に弱いタイプだったのだ。
「どうして君の名前はこんな名前なんだ!」
苛立ちから思いがけず言ってしまった言葉だった。
ハッと我に返ってももう遅かった。マリーは悲しみに暮れる表情で諦めた様に溜息をついた。
「もういいです……」
と、言葉を残しエドワードの前から立ち去った。
(愛する者の名前も言えない僕には、彼女と結婚する資格なんてない)
あの日以来、マリーと疎遠になっていたエドワードは、いつしかそんな事を考える様になっていた。
だけど、立場的にもマリーから婚約を破棄する事は出来ない。
(だから僕が、婚約破棄してあげないと。彼女の幸せの為に――彼女の夢を実現させてあげるためにも!)
「マリーパミュパミュジュディムピョミピャミアントワネット! 君との婚約を破棄する!」
その瞬間、会場内がシン……と静まり返った。
先程まで苛立ち、歯をギリギリとさせていた人達の顔から力が抜け、安堵した様な表情へと変わった。
中には涙ぐみ、よくやったと心の中でエドワードを褒め称える者もいる。
当のエドワード自身も、目を見開いたまま固まり、信じられないという様な表情を浮かべている。その口元が次第に緩みだした。
「やった! 言えた……言えたぞマリー! いや、マリーパミュパミュジュディムピョミピャミアントワネット! 君の名をついに呼ぶ事が出来た!」
エドワードが歓喜の表情でマリーの元へ駆け寄り、抱きしめようと手を伸ばした時、顔を上げたマリーの瞳からはポロポロと涙が溢れていた。
笑みを浮かべ、でも少し寂しそうな表情でエドワードを真っすぐ見つめた。
「ええ。初めて私の名前を呼んでくださったのですね。いつか、愛する人に名前を呼んでもらいたい――その夢を叶えて下さり本当にありがとうございます。この婚約破棄を受け入れま――」
「ちょっと待て! 違うんだ! 僕は君の名前をずっと呼んであげられなかった。だから、そんな僕が君と結婚する資格なんて無いと思っていたんだ。だから婚約破棄してあげようと……でも、僕はこうして君の名を呼べるようになった。だから――」
エドワードはその場に跪いてマリーを見上げた。
「マリーパミュパミュジュディムピョミピャミアントワネット。君を愛している。どうか僕と、結婚してくれませんか?」
ずっと言ってあげられなかったその言葉を、一年越しに言う事が出来た。
マリーの顔から悲しみは消え去り、涙は嬉し涙へと変わった。穏やかな笑みを浮かべたマリーはゆっくりと口を開いた。
「はい、私で良ければ」
なんじゃそりゃ。
というツッコミが会場にいる全員の喉元まででかかったが、皆必死に飲み込み耐え続けた。
涙を流しながら抱きしめ合う二人を、祝福する者などここにはいない。
置いてけぼりにされ、酷い裏切りを受けた人々は、湧き上がる怒りを抑えながら、シラケた眼差しを抱擁する二人に向けていた。
今までの時間は一体何だったのだろうか?
こんなものを見せられるくらいなら、蟻の行列を眺めている方がまだ有意義な時間を過ごせていたはずだ。
だが、相手はこれでも一国の王子。無礼な言動は不敬罪にあたる。
とにかく無性に何かを殴りたい。
そんな思いを胸に秘めた会場内の人間は、ただひたすら両手の拳を震える程硬く握りしめていた。
お気付きの方もいるだろうが、エドワードは最初から婚約破棄なんてする気はさらさらなかった。
名前を言えなくても婚約破棄が出来ないだけ。
名前を言えたら婚約破棄する必要が無くなり、そのままプロポーズへ持ち込めばいい。
この男はただの出来レースを一人で走り続けていただけだった。
そう、この男は本当にずる賢い。そういう男だ。
エドワードは悠々と立ち上がり、マリーの肩に手をかけた。
「さあ、行こうか。マリーパミュパミュジュディムピョミピャミアントワネッチュ」
その瞬間、カーン! と第2ラウンドのゴングが鳴った。
そう、この男は本当にすぐ調子に乗り、油断して肝心な所で恰好がつかない。そういう男なのだ。
会場内の人々は二人を残して無言で解散し始めた。
「っていうか、あの令嬢は絶対王子の事がめちゃくちゃ嫌いだよな?」と疑問を漏らす男性に、「嫌よ嫌よも好きのうちなのよ」と隣にいる女性が教えると「なんじゃそりゃ」とまた仰け反った。
その後エドワードとマリーはなんだかんだありながらも無事に結婚した。
二人の間に生まれた息子は、幸いにもマリーの血を色濃く受け継ぎ、立派に成長した。
新たな王となった彼は、この国の平和と繁栄に大きく貢献し、人々から賞賛され称えられた。
特に国民達の滑舌の良さは他国でも高く評価され、話題となった。
国民から愛され、親しまれた王の名は――もうお分かりいただけるだろう。
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