上 下
38 / 41

[アリッサの奮闘記]やはり聞きたいと彼は言って来た

しおりを挟む
[アリッサの奮闘記]


「モルセラ、やはり知りたいのだが……」

夏の休みに入った頃、エリンジウムが意を決した顔でモルセラに内務省と魔法省の醜聞の詳細を話してくれ、と言って来た。

「私より適任者がいるので、声を掛けておきます」

やっぱりな、とモルセラの目が言っているが、エリンジウムとしては詳細を確認する事は悪い事では無い、と思っていた。


数日後、1人の青年がエリンジウムの前に現れた。
短いが見事な銀髪に眼鏡の奥に深い蒼の瞳をした、何処となくアリッサに似ている。

「エリンジウム王太子殿下。彼はアリッサ嬢の兄、クレスト・リスリム伯爵令息です」
「クレスト卿、無理を言ってすまない」

ソファに座り、アリッサに似ているクレストに声を掛けると、クレストはゆったりと臣下の礼をとった。

「モルセラ卿の話では、アリッサの話とお聞きしましたが」
「そう。あの醜聞の時の話を聞きたくて」
「お時間はありますか?」

クレストの言葉にエリンジウムが首を傾げた。

「詳細を話すとなると、短くて2週間程掛かりますが」

えっ?とエリンジウムが驚くと、背後に立っているモルセラが頷いている。

「何故それ程?」
「アリッサは計画の立案、実行全てに関わっておりますので」

クレストの言葉に、聞きたいがそんなに時間は取れないとエリンジウムは考え

「出来れば、ファルシオンとの絆を見せ付けた所を聞きたいのだが、どのくらい掛かる?」
「某伯爵家の馬鹿を捕らえた時だけでしたら、1時間くらいでしょう」

1時間で終わるか?と疑問に思うがこの後予定は無いのでエリンジウムは2人をソファに座らせ、話を聞くことを決めた。

「では、某伯爵の邸宅を取り囲んでいた防御魔法の解除からお話しします」

そう言ってクレストは話を始めた。



「やたら強固な防御壁、ですか?」

カーバンクルの密猟者を捕掴した後、アリッサはファルシオンと共に密猟者の上前を刎ねていた伯爵家に来ていた。

「魔法省お墨付きの面倒な奴だ」

クレストが苦虫を噛み潰したよう顔で防御壁を睨んでいる。

「強固、ですか?師匠」
「強固だが、やり方はある」

目の前にある半透明の防御壁は煉瓦で組み上げられた、強固な壁に見える。
ファルシオンが何かをアリッサに話すとアリッサはこくん、と頷き魔法使いの杖を取り出した。

「では、魔法省の方にお伝え下さい。強固な防御壁を作りたいなら、継ぎ目のない物に、と」

えっ?と周りの者達が驚き、アリッサの背中を見ると防御壁に杖を突き立てたと同時に行く手を阻んでいた防御壁がガラガラと崩れて行く。

「漆喰で固めていないレンガの壁と同じです」

いや、それでも……、と皆の顔が言ってるがファルシオンはうんうんと頷いている。

「壁を崩したら馬鹿が逃げるからアリッサ、君の魔力で今度こそ強固な防御壁を張っておきなさい」
「はい、師匠」

良い子のお返事ですね、なんて周りがほっこりしたのも束の間、アリッサが作った壁はガラスの様な継ぎ目の無い、美しくて強固な壁だ。

「これは助かる。馬鹿が逃げ出せない」

クレストの言葉に周りは、少しは驚け、と心の中で喚いているが、誰も表には見せなかった。



「なるほど。だから魔法省の研究員が泣きながら改良に励んでいたのか」

エリンジウムがクスッと笑う。

「報奨金まで貰った物が一瞬で壊れましたから、必死ですよ」
「その研究員は悪事に加担していなかった様ですから研究は継続してます」

笑ってしまいそうなほど気の抜けた会話で、泣きながら改良している研究員に同情してしまった。

「話が逸れましたが、お陰で伯爵家に入れました」

話を戻すクレストが、真面目な顔で続きを口にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】復讐に燃える帝国の悪役令嬢とそれに育てられた3人の王子と姫におまけ姫たちの恋愛物語<キャラ文芸筆休め自分用>

書くこと大好きな水銀党員
恋愛
 ミェースチ(旧名メアリー)はヒロインのシャルティアを苛め抜き。婚約者から婚約破棄と国外追放を言い渡され親族からも拷問を受けて捨てられる。  しかし、国外追放された地で悪運を味方につけて復讐だけを胸に皇帝寵愛を手に復活を遂げ。シャルティアに復讐するため活躍をする。狂気とまで言われる性格のそんな悪役令嬢の母親に育てられた王子たちと姫の恋愛物語。  病的なマザコン長男の薔薇騎士二番隊長ウリエル。  兄大好きっ子のブラコン好色次男の魔法砲撃一番隊長ラファエル。  緑髪の美少女で弟に異常な愛情を注ぐ病的なブラコンの長女、帝国姫ガブリエル。  赤い髪、赤い目と誰よりも胸に熱い思いを持ち。ウリエル、ラファエル、ガブリエル兄姉の背中を見て兄達で学び途中の若き唯一まともな王子ミカエル。  そんな彼らの弟の恋に悩んだり。女装したりと苦労しながらも息子たちは【悪役令嬢】ミェースチをなだめながら頑張っていく(??)狂気な日常のお話。 ~~~~~コンセプト~~~~~ ①【絶対悪役令嬢】+【復讐】+【家族】 ②【ブラコン×3】+【マザコン×5】 ③【恋愛過多】【修羅場】【胸糞】【コメディ色強め】  よくある悪役令嬢が悪役令嬢していない作品が多い中であえて毒者のままで居てもらおうと言うコメディ作品です。 くずのままの人が居ます注意してください。  完結しました。好みが分かれる作品なので毒吐きも歓迎します。  この番組〈復讐に燃える帝国の悪役令嬢とそれに育てられた3人の王子と姫とおまけ姫たちの恋愛物語【完結】〉は、明るい皆の党。水銀党と転プレ大好き委員会。ご覧のスポンサーでお送りしました。  次回のこの時間は!! ズーン………  帝国に一人男が過去を思い出す。彼は何事も……うまくいっておらずただただ運の悪い前世を思い出した。 「俺は……この力で世界を救う!! 邪魔をするな!!」  そう、彼は転生者。たった一つの能力を授かった転生者である。そんな彼の前に一人の少女のような姿が立ちはだかる。 「……あなたの力……浄化します」 「な、何!!」 「変身!!」  これは女神に頼まれたたった一人の物語である。 【魔法令嬢メアリー☆ヴァルキュリア】○月○日、日曜日夜9:30からスタート!!    

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

転生聖女のなりそこないは、全てを諦めのんびり生きていくことにした。

迎木尚
恋愛
「聖女にはどうせなれないんだし、私はのんびり暮らすわね〜」そう言う私に妹も従者も王子も、残念そうな顔をしている。でも私は前の人生で、自分は聖女になれないってことを知ってしまった。 どんなに努力しても最後には父親に殺されてしまう。だから私は無駄な努力をやめて、好きな人たちとただ平和にのんびり暮らすことを目標に生きることにしたのだ。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

婚約破棄してくださいませ、王子様

若目
恋愛
「婚約破棄してくださいませ」 某国の王子アルフレッドは、婚約者の令嬢アレキサンドリアから、突然こんなことを言われた なぜそんなことを言われるかわからないアルフレッドに、アレキサンドリアはあることを告げる

悪役令嬢がキレる時

リオール
恋愛
この世に悪がはびこるとき ざまぁしてみせましょ 悪役令嬢の名にかけて! ======== ※主人公(ヒロイン)は口が悪いです。 あらかじめご承知おき下さい 突発で書きました。 4話完結です。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

処理中です...