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荒れる舞踏会。

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つつがなく、新年の舞踏会が開かれる日になった。

伯爵以上の貴族達が一同に集まる舞踏会。
この舞踏会でデビューをする、令嬢令息達は準備に忙しいだろうが、浮かれているだろう。

「この舞踏会でデビューする方達のトラウマにならなければ良いのですが」

自分の準備を終えたシルヴィーが、今日の事を考えてぽつり、と呟いた。

「早くから貴族は、己の欲を優先すれば痛い目を見ることが知れて良かったと思うぞ」

アーネストの言葉に肯定している自分に、そっとため息を洩らした。
綺麗事ばかりでは国が滅びる。だが、綺麗なものがあるから人は頑張れるのも事実。

「少しくらいは夢を見る時間があれば良いのですが」
「欲に溺れなければ、平民以上の煌びやかな世界を見ていられるのも事実だ」

最も底辺に近い場所で生きてきたアーネスト、いやこの場合はファーストの偽らざる本音だろう。

「それに気が付いて頂ければ良いですね」

時間になったとメイド長が呼びに来た。

「気付かねば、愚か者として冷遇されるだけだ」

今回の舞踏会は、貴族達の資質を見る試験でもある様だ。

「荒れますね」
「荒れるだろうな」

2人は頷きながら馬車に乗った。


新年の舞踏会が開かれる王宮は、いつも以上の煌びやかさで、多くの着飾った貴族達がひしめき合う様に大広間に居る。

「ユーリファスお爺様」

王宮の広間でシルヴィーがすでに到着しているジルコン公爵家が集まっている場所に、笑顔で歩み寄った。

「シルヴィー、アーネスト。今日は、めでたい日だ」

鷹揚な笑顔で2人を出迎えるジルコン公爵とリーリウム家族は、シルヴィー達を家族の様に受け入れる。

「国王陛下ならびに王妃殿下、ウィリアム王太子殿下、パトリック殿下のご入場です」

舞踏会の開催宣言をされる陛下と共に、王家の方々が婚約者を伴い、会場である大広間に入って来た。

頭を下げながら、国王一家が入場した時感じたい違和感の意味が判った。
シルヴィーはちゃんと見た事がなかったが、王妃を差し置いて派手なドレスを纏い、陛下の横に並ぶ側妃の姿が見えなかった。

春の舞踏会では、体調が良くなかった為欠席したと聞いていたが、どうやらウィリアムが出席を拒否したらしい。

「皆、頭を上げよ」

陛下の言葉で下げていた頭を上げると、陛下達がいる段の下に側妃らしい女が居た。
余りの異様な姿に会場のもの達が一瞬ざわつく。

綺麗に結われていたであろう髪は振り乱したかの様にざんばらで、見事なドレスだった物は破れたり穴が開いて、見るも無惨だ。

宝飾品は一切無く、立っているのがやっとなほど青褪めて、縄で縛られてはいないが衛兵達に囲まれている。

「新年の舞踏会を始める前に、パトリックの身分が改められた事を皆に告げる」

陛下がチラッとラリマー宰相を見ると、恭しく宰相が頭を下げて、書類を広げ読み上げた。

側妃の子供と言われていたパトリックは、正式には王妃の子であり、ウィリアムの双子の弟である、との宣言があった。

「愚かな迷信を信じる者達から、小さく弱々しかったパトリック殿下のお命を守るため、偽の身分で側妃になった女の子供として誕生を発表されましたが、成人されバロスのシンシア王女との婚約を期に本来の身分へ戻ることになりました」

ラリマー宰相の声が喜びに溢れている。
そうだろう。ラリマー宰相は無駄な贅沢を好み、国庫を圧迫していた側妃を排除しようとしていたのだから。

ラリマー宰相の宣言で、側妃と呼ばれていた女は身分詐称で投獄される事が決定している様だ。

名前ではなく側妃、と呼ばれていた女が救いを求める様、ジルコニア伯爵を見詰めていたが、ジルコニア伯爵は目を合わせようともしない。

その隣には、学園を退学させられたのにも関わらず尊大な態度のルーミアは側妃になど目も向けず、パトリックとシンシアを凝視している。

「パトリック殿下、シンシア王女殿下。ご婚約、おめでとうございます」

ラリマー宰相の祝辞に会場の貴族達は盛大な拍手で祝福した。
呆然としているジルコニア親子は、身動きもしない。
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