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深夜、慈悲の女神は眠りにつく。
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漆黒の髪がはらり、と肩に溢れる。
「やっぱりエインだったのね。私、ゼオン様をって言った筈よ」
シルヴィーの目が座ったが、エインは琥珀色の瞳を細め、色っぽく笑った。
「最近、シルヴィーが俺の所に遊びに来てくれないから、遊びに来ただけだよ」
茶化した口調だが、シンシアの安全の為、エインが動いた事は理解できる。
「どうして、私の兄、と言う立場の人間はこうも無茶をするのでしょうか」
にこやかに笑うハロルドの姿に、シルヴィーは頭を抱えた。
「ラリマー宰相閣下はどうなさいました?」
「僕に仕事を押し付けて、ご帰宅、かな?」
「ハロルド兄様が宰相閣下のもとに居るのは知っておりましたが……」
シルヴィーは頭の中で駆け回っている、恐ろしい予測を否定出来る素材を探した。
「政治の表舞台なんて、欠片も興味がないね」
「それに、ハロルドがロードライト家を継いだら、俺がガーネット家を継ぐからね」
2人の話が解らない破落戸や黒づくめの男達は解らないなりに青褪めている。
「家の事情は後で話しましょう」
シルヴィーは諦めて、話を切り替えた。
シルヴィーが結界のドームに触れ、いくつかの魔法陣を描くと、魔法陣から青い光の粒が飛び、中の男達の額に小さな魔法陣を埋め込んだ。
「これで貴方達は真実以外語れなくなった。嘘や誤魔化しを口にすれば、死にます」
シルヴィーの宣言に男達は自分達の額に手を当て、シルヴィーを凝視する者、慌てふためく者、そして嘘だと思い、笑う者が居た。
「嘘だと思うのは構わないが、確実に死ぬよ」
ハロルドはニコニコ笑いながら、小さな水晶玉を取り出し、エインを見た。
「水晶玉に記憶させた物は消せないから、血生臭い映像は遠慮したいね」
カインが作った、映像を記録出来る水晶玉の存在を知らない男達は何の事だ、と騒ぐが2人は気にもせずシルヴィーに目を向けた。
「シンシア様は明日からの試験を、万全の体調で迎える為にも寮にお戻り下さい」
血生臭い物は見せたくない。そんなシルヴィーの配慮にシンシアは素直に頷いた。
「そうね。折角、シルヴィー様に特訓して頂いた成果を発揮しないと」
護衛の為に来ていたゼオン達と共に、シンシアはその場から出て行った。
「そして、シルヴィー、君も明日からの試験は受けなければならないのだろう」
「でも、ハロルド兄様、私は……」
「俺が立ち会う」
ダドリーがシルヴィーの肩に手を置き、甘く見詰めた。
こんな状況なのに、ときめいてしまうが、シルヴィーはちょっと口を尖らせて文句を言ってみた。
「そんなに私って、頼りない?」
「まさか。ただ、君の目に映る赤は、宝石や花の様に、美しい物だけにしたいだけだ」
凄惨な状況になる事は、彼らの中で決定している様だ。
「解りました。お兄様達も夜更かしはなさらないでくださいね」
ふぅ、と息を吐き、シルヴィーもこの場を後にした。
「さて、慈悲の女神はお前達に微笑まないから、覚悟しろよ」
ダドリーが右手を軽く振ると、漆黒の髪が白銀に変わり、瞳は妖しく輝く紫になった。
「クリスタル子爵か。適任者が居なかったからかなり長い間空席だったが、君なら適任だ」
エインが微笑み頷くと、破落戸達を冷ややかに見る。
「夜更かしはしたくないので、さっさと答えてもらおうか」
凶悪な魔物を前にした様な、異様な恐怖心にドームの中の男達は声なき悲鳴をあげた。
「やっぱりエインだったのね。私、ゼオン様をって言った筈よ」
シルヴィーの目が座ったが、エインは琥珀色の瞳を細め、色っぽく笑った。
「最近、シルヴィーが俺の所に遊びに来てくれないから、遊びに来ただけだよ」
茶化した口調だが、シンシアの安全の為、エインが動いた事は理解できる。
「どうして、私の兄、と言う立場の人間はこうも無茶をするのでしょうか」
にこやかに笑うハロルドの姿に、シルヴィーは頭を抱えた。
「ラリマー宰相閣下はどうなさいました?」
「僕に仕事を押し付けて、ご帰宅、かな?」
「ハロルド兄様が宰相閣下のもとに居るのは知っておりましたが……」
シルヴィーは頭の中で駆け回っている、恐ろしい予測を否定出来る素材を探した。
「政治の表舞台なんて、欠片も興味がないね」
「それに、ハロルドがロードライト家を継いだら、俺がガーネット家を継ぐからね」
2人の話が解らない破落戸や黒づくめの男達は解らないなりに青褪めている。
「家の事情は後で話しましょう」
シルヴィーは諦めて、話を切り替えた。
シルヴィーが結界のドームに触れ、いくつかの魔法陣を描くと、魔法陣から青い光の粒が飛び、中の男達の額に小さな魔法陣を埋め込んだ。
「これで貴方達は真実以外語れなくなった。嘘や誤魔化しを口にすれば、死にます」
シルヴィーの宣言に男達は自分達の額に手を当て、シルヴィーを凝視する者、慌てふためく者、そして嘘だと思い、笑う者が居た。
「嘘だと思うのは構わないが、確実に死ぬよ」
ハロルドはニコニコ笑いながら、小さな水晶玉を取り出し、エインを見た。
「水晶玉に記憶させた物は消せないから、血生臭い映像は遠慮したいね」
カインが作った、映像を記録出来る水晶玉の存在を知らない男達は何の事だ、と騒ぐが2人は気にもせずシルヴィーに目を向けた。
「シンシア様は明日からの試験を、万全の体調で迎える為にも寮にお戻り下さい」
血生臭い物は見せたくない。そんなシルヴィーの配慮にシンシアは素直に頷いた。
「そうね。折角、シルヴィー様に特訓して頂いた成果を発揮しないと」
護衛の為に来ていたゼオン達と共に、シンシアはその場から出て行った。
「そして、シルヴィー、君も明日からの試験は受けなければならないのだろう」
「でも、ハロルド兄様、私は……」
「俺が立ち会う」
ダドリーがシルヴィーの肩に手を置き、甘く見詰めた。
こんな状況なのに、ときめいてしまうが、シルヴィーはちょっと口を尖らせて文句を言ってみた。
「そんなに私って、頼りない?」
「まさか。ただ、君の目に映る赤は、宝石や花の様に、美しい物だけにしたいだけだ」
凄惨な状況になる事は、彼らの中で決定している様だ。
「解りました。お兄様達も夜更かしはなさらないでくださいね」
ふぅ、と息を吐き、シルヴィーもこの場を後にした。
「さて、慈悲の女神はお前達に微笑まないから、覚悟しろよ」
ダドリーが右手を軽く振ると、漆黒の髪が白銀に変わり、瞳は妖しく輝く紫になった。
「クリスタル子爵か。適任者が居なかったからかなり長い間空席だったが、君なら適任だ」
エインが微笑み頷くと、破落戸達を冷ややかに見る。
「夜更かしはしたくないので、さっさと答えてもらおうか」
凶悪な魔物を前にした様な、異様な恐怖心にドームの中の男達は声なき悲鳴をあげた。
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