93 / 114
夜の闇に紛れて。
しおりを挟む
試験が始まる前日の夜。一台の馬車が慌ただしく学園の裏門から走り出した。
数人の護衛が付いた馬車は見送るものも無く、夜の闇に紛れ、何処かへと向かった。
馬車が王都を出て、森が広がる寂しい山路に差し掛かった所で、怪しい一団が馬車を取り囲む。
身なりはまちまちだが、ただの盗賊とは思えない殺気に護衛達は剣に手を掛け、馬車を取り囲む破落戸達を見据えた。
「中の大事なお嬢さんに怪我、させたく無かったらついて来い」
破落戸の男が御者にナイフを押し付けながら、ニヤニヤ笑った。
まだ山路には入っていない為、比較的見通しも効くが、囲まれては逃げる事は出来ない。
御者は震えながら、護衛達を見て頷いた。
馬車が破落戸達の誘導に従って走り出そうとした時、山路の方から別の黒づくめの男達が現れた。
「なんだてめーら」
自分達の仲間では無い、見るからに正規の訓練を受けた黒づくめの男達に破落戸達は剣やナイフを抜いた。
「そのお方は我々の主人の花嫁になる方。無礼は許さん」
黒づくめの男達の言葉に、破落戸達は口汚く罵り始めた。
「てめーら、後からのこのこ出て来て偉そうな事言うんじゃねーよ。俺たちゃ、中の女の首、持ってきゃたんまり金が貰えるんだ。邪魔すんじゃねー」
御者席に居た男が飛び降り、ナイフをチラつかせる。
「お前達の事情など、関係ない。死にたくなければ、今すぐ消えろ」
黒づくめの男達は破落戸の威嚇などまるで気にもしていない。
「ふざけんなぁ、こんな奴ら……」
破落戸達が黒づくめの男達に襲い掛かろうとした時、馬車の扉が開いた。
すっぽりと黒いベールを被る、華奢な少女に男達は息を呑む。
顔だけで無く、上半身の殆どが見えないのに、立ち姿だけで、高貴な身分と解る。
「何を騒いでいるのかと思えば……。私は一刻も早くバロスの父上のもとに行かねばならないのです」
「シンシア王女様」
全身鎧で固めた護衛達が馬車に駆け寄った。
「へっ、あんたを誘き出す嘘だって、気が付かなかったのかよ」
破落戸達がゲラゲラと笑い出し、黒づくめの男達はダンマリを決め込んだようだ。
「嘘、ですか」
「そうさ、学園内じゃあんたを殺せねーからよ」
ギラリ、と切れ味の悪そうな剣を突き付けた。
が、怒るそぶりも慌てるそぶりも見せず、ベールの少女はすんなりとした姿勢で破落戸達を見ていた。
「依頼主は?」
「へっ、誰が喋るかってんだよ」
「私を殺せば金が貰えるんだ、と言っていた様ですが、愚かですね」
「なんだと、俺達を馬鹿にしてんのか」
「一国の王位継承権を持つ者を殺して無事ですむなど、何故思えるのです。お前達の依頼主はお前達に罪を着せ、処分するでしょう」
普通に考えても、人を殺して無事で済む筈がない。
まして王位継承権を持つ者へ剣を向けるのは、自分の首に剣を押し付けているのと同じだ。
「嘘だ。あの女は褒美にたんまりの金と、爵位をくれる、と言った」
心なしか、破落戸のリーダーらしき男が焦っている。首謀者の話を本気で信じていた様だ。
「爵位を?お前、筋金入りの馬鹿だ」
護衛の1人が、心底呆れた様に言う。
「陛下が承認しない爵位なんて、無いと同じです」
シンシアの声に破落戸達の眉が吊り上がる。
「シンシア王女様、このままでは埒があかないので、場所を変えます」
「そうね。逃げられては面倒ですから、拘束結界」
魔法陣を描かずに、シンシアは護衛の者達以外、全てをドーム状の結界に閉じ込めた。
数人の護衛が付いた馬車は見送るものも無く、夜の闇に紛れ、何処かへと向かった。
馬車が王都を出て、森が広がる寂しい山路に差し掛かった所で、怪しい一団が馬車を取り囲む。
身なりはまちまちだが、ただの盗賊とは思えない殺気に護衛達は剣に手を掛け、馬車を取り囲む破落戸達を見据えた。
「中の大事なお嬢さんに怪我、させたく無かったらついて来い」
破落戸の男が御者にナイフを押し付けながら、ニヤニヤ笑った。
まだ山路には入っていない為、比較的見通しも効くが、囲まれては逃げる事は出来ない。
御者は震えながら、護衛達を見て頷いた。
馬車が破落戸達の誘導に従って走り出そうとした時、山路の方から別の黒づくめの男達が現れた。
「なんだてめーら」
自分達の仲間では無い、見るからに正規の訓練を受けた黒づくめの男達に破落戸達は剣やナイフを抜いた。
「そのお方は我々の主人の花嫁になる方。無礼は許さん」
黒づくめの男達の言葉に、破落戸達は口汚く罵り始めた。
「てめーら、後からのこのこ出て来て偉そうな事言うんじゃねーよ。俺たちゃ、中の女の首、持ってきゃたんまり金が貰えるんだ。邪魔すんじゃねー」
御者席に居た男が飛び降り、ナイフをチラつかせる。
「お前達の事情など、関係ない。死にたくなければ、今すぐ消えろ」
黒づくめの男達は破落戸の威嚇などまるで気にもしていない。
「ふざけんなぁ、こんな奴ら……」
破落戸達が黒づくめの男達に襲い掛かろうとした時、馬車の扉が開いた。
すっぽりと黒いベールを被る、華奢な少女に男達は息を呑む。
顔だけで無く、上半身の殆どが見えないのに、立ち姿だけで、高貴な身分と解る。
「何を騒いでいるのかと思えば……。私は一刻も早くバロスの父上のもとに行かねばならないのです」
「シンシア王女様」
全身鎧で固めた護衛達が馬車に駆け寄った。
「へっ、あんたを誘き出す嘘だって、気が付かなかったのかよ」
破落戸達がゲラゲラと笑い出し、黒づくめの男達はダンマリを決め込んだようだ。
「嘘、ですか」
「そうさ、学園内じゃあんたを殺せねーからよ」
ギラリ、と切れ味の悪そうな剣を突き付けた。
が、怒るそぶりも慌てるそぶりも見せず、ベールの少女はすんなりとした姿勢で破落戸達を見ていた。
「依頼主は?」
「へっ、誰が喋るかってんだよ」
「私を殺せば金が貰えるんだ、と言っていた様ですが、愚かですね」
「なんだと、俺達を馬鹿にしてんのか」
「一国の王位継承権を持つ者を殺して無事ですむなど、何故思えるのです。お前達の依頼主はお前達に罪を着せ、処分するでしょう」
普通に考えても、人を殺して無事で済む筈がない。
まして王位継承権を持つ者へ剣を向けるのは、自分の首に剣を押し付けているのと同じだ。
「嘘だ。あの女は褒美にたんまりの金と、爵位をくれる、と言った」
心なしか、破落戸のリーダーらしき男が焦っている。首謀者の話を本気で信じていた様だ。
「爵位を?お前、筋金入りの馬鹿だ」
護衛の1人が、心底呆れた様に言う。
「陛下が承認しない爵位なんて、無いと同じです」
シンシアの声に破落戸達の眉が吊り上がる。
「シンシア王女様、このままでは埒があかないので、場所を変えます」
「そうね。逃げられては面倒ですから、拘束結界」
魔法陣を描かずに、シンシアは護衛の者達以外、全てをドーム状の結界に閉じ込めた。
50
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?
三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。
そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される
未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】
ミシェラは生贄として育てられている。
彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。
生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。
繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。
そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。
生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。
ハッピーエンドです!
※※※
他サイト様にものせてます
俺もクズだが悪いのはお前らだ!
レオナール D
ファンタジー
辺境伯家の跡継ぎであるディンギル・マクスウェル。
隣国との戦争ではいくつも手柄を上げ、内政にも明るく、寄子の貴族からの人望もある。
そんな順風満帆な人生を送る彼に、一つの転機が訪れた。
「ディンギル・マクスウェル! 貴様とセレナとの婚約を破棄させてもらう!」
円満だと思っていた婚約者が、実は王太子と浮気をしていた。
おまけにその馬鹿王子はマクスウェル家のことをさんざん侮辱してきて・・・
よし、いいだろう。受けて立ってやる。
自分が誰にケンカを売ったか教えてやる!
「俺もクズだが、悪いのはお前らだ!!」
婚約破棄から始まった大騒動。それは、やがて王国の根幹を揺るがす大事件へと発展していき、隣国までも巻き込んでいく!
クズがクズを打ち倒す、婚約破棄から始まる英雄譚!
転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました
みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。
日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。
引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。
そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。
香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる