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夜の闇に紛れて。
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試験が始まる前日の夜。一台の馬車が慌ただしく学園の裏門から走り出した。
数人の護衛が付いた馬車は見送るものも無く、夜の闇に紛れ、何処かへと向かった。
馬車が王都を出て、森が広がる寂しい山路に差し掛かった所で、怪しい一団が馬車を取り囲む。
身なりはまちまちだが、ただの盗賊とは思えない殺気に護衛達は剣に手を掛け、馬車を取り囲む破落戸達を見据えた。
「中の大事なお嬢さんに怪我、させたく無かったらついて来い」
破落戸の男が御者にナイフを押し付けながら、ニヤニヤ笑った。
まだ山路には入っていない為、比較的見通しも効くが、囲まれては逃げる事は出来ない。
御者は震えながら、護衛達を見て頷いた。
馬車が破落戸達の誘導に従って走り出そうとした時、山路の方から別の黒づくめの男達が現れた。
「なんだてめーら」
自分達の仲間では無い、見るからに正規の訓練を受けた黒づくめの男達に破落戸達は剣やナイフを抜いた。
「そのお方は我々の主人の花嫁になる方。無礼は許さん」
黒づくめの男達の言葉に、破落戸達は口汚く罵り始めた。
「てめーら、後からのこのこ出て来て偉そうな事言うんじゃねーよ。俺たちゃ、中の女の首、持ってきゃたんまり金が貰えるんだ。邪魔すんじゃねー」
御者席に居た男が飛び降り、ナイフをチラつかせる。
「お前達の事情など、関係ない。死にたくなければ、今すぐ消えろ」
黒づくめの男達は破落戸の威嚇などまるで気にもしていない。
「ふざけんなぁ、こんな奴ら……」
破落戸達が黒づくめの男達に襲い掛かろうとした時、馬車の扉が開いた。
すっぽりと黒いベールを被る、華奢な少女に男達は息を呑む。
顔だけで無く、上半身の殆どが見えないのに、立ち姿だけで、高貴な身分と解る。
「何を騒いでいるのかと思えば……。私は一刻も早くバロスの父上のもとに行かねばならないのです」
「シンシア王女様」
全身鎧で固めた護衛達が馬車に駆け寄った。
「へっ、あんたを誘き出す嘘だって、気が付かなかったのかよ」
破落戸達がゲラゲラと笑い出し、黒づくめの男達はダンマリを決め込んだようだ。
「嘘、ですか」
「そうさ、学園内じゃあんたを殺せねーからよ」
ギラリ、と切れ味の悪そうな剣を突き付けた。
が、怒るそぶりも慌てるそぶりも見せず、ベールの少女はすんなりとした姿勢で破落戸達を見ていた。
「依頼主は?」
「へっ、誰が喋るかってんだよ」
「私を殺せば金が貰えるんだ、と言っていた様ですが、愚かですね」
「なんだと、俺達を馬鹿にしてんのか」
「一国の王位継承権を持つ者を殺して無事ですむなど、何故思えるのです。お前達の依頼主はお前達に罪を着せ、処分するでしょう」
普通に考えても、人を殺して無事で済む筈がない。
まして王位継承権を持つ者へ剣を向けるのは、自分の首に剣を押し付けているのと同じだ。
「嘘だ。あの女は褒美にたんまりの金と、爵位をくれる、と言った」
心なしか、破落戸のリーダーらしき男が焦っている。首謀者の話を本気で信じていた様だ。
「爵位を?お前、筋金入りの馬鹿だ」
護衛の1人が、心底呆れた様に言う。
「陛下が承認しない爵位なんて、無いと同じです」
シンシアの声に破落戸達の眉が吊り上がる。
「シンシア王女様、このままでは埒があかないので、場所を変えます」
「そうね。逃げられては面倒ですから、拘束結界」
魔法陣を描かずに、シンシアは護衛の者達以外、全てをドーム状の結界に閉じ込めた。
数人の護衛が付いた馬車は見送るものも無く、夜の闇に紛れ、何処かへと向かった。
馬車が王都を出て、森が広がる寂しい山路に差し掛かった所で、怪しい一団が馬車を取り囲む。
身なりはまちまちだが、ただの盗賊とは思えない殺気に護衛達は剣に手を掛け、馬車を取り囲む破落戸達を見据えた。
「中の大事なお嬢さんに怪我、させたく無かったらついて来い」
破落戸の男が御者にナイフを押し付けながら、ニヤニヤ笑った。
まだ山路には入っていない為、比較的見通しも効くが、囲まれては逃げる事は出来ない。
御者は震えながら、護衛達を見て頷いた。
馬車が破落戸達の誘導に従って走り出そうとした時、山路の方から別の黒づくめの男達が現れた。
「なんだてめーら」
自分達の仲間では無い、見るからに正規の訓練を受けた黒づくめの男達に破落戸達は剣やナイフを抜いた。
「そのお方は我々の主人の花嫁になる方。無礼は許さん」
黒づくめの男達の言葉に、破落戸達は口汚く罵り始めた。
「てめーら、後からのこのこ出て来て偉そうな事言うんじゃねーよ。俺たちゃ、中の女の首、持ってきゃたんまり金が貰えるんだ。邪魔すんじゃねー」
御者席に居た男が飛び降り、ナイフをチラつかせる。
「お前達の事情など、関係ない。死にたくなければ、今すぐ消えろ」
黒づくめの男達は破落戸の威嚇などまるで気にもしていない。
「ふざけんなぁ、こんな奴ら……」
破落戸達が黒づくめの男達に襲い掛かろうとした時、馬車の扉が開いた。
すっぽりと黒いベールを被る、華奢な少女に男達は息を呑む。
顔だけで無く、上半身の殆どが見えないのに、立ち姿だけで、高貴な身分と解る。
「何を騒いでいるのかと思えば……。私は一刻も早くバロスの父上のもとに行かねばならないのです」
「シンシア王女様」
全身鎧で固めた護衛達が馬車に駆け寄った。
「へっ、あんたを誘き出す嘘だって、気が付かなかったのかよ」
破落戸達がゲラゲラと笑い出し、黒づくめの男達はダンマリを決め込んだようだ。
「嘘、ですか」
「そうさ、学園内じゃあんたを殺せねーからよ」
ギラリ、と切れ味の悪そうな剣を突き付けた。
が、怒るそぶりも慌てるそぶりも見せず、ベールの少女はすんなりとした姿勢で破落戸達を見ていた。
「依頼主は?」
「へっ、誰が喋るかってんだよ」
「私を殺せば金が貰えるんだ、と言っていた様ですが、愚かですね」
「なんだと、俺達を馬鹿にしてんのか」
「一国の王位継承権を持つ者を殺して無事ですむなど、何故思えるのです。お前達の依頼主はお前達に罪を着せ、処分するでしょう」
普通に考えても、人を殺して無事で済む筈がない。
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「嘘だ。あの女は褒美にたんまりの金と、爵位をくれる、と言った」
心なしか、破落戸のリーダーらしき男が焦っている。首謀者の話を本気で信じていた様だ。
「爵位を?お前、筋金入りの馬鹿だ」
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「陛下が承認しない爵位なんて、無いと同じです」
シンシアの声に破落戸達の眉が吊り上がる。
「シンシア王女様、このままでは埒があかないので、場所を変えます」
「そうね。逃げられては面倒ですから、拘束結界」
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