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フットワークの軽いおじ様。

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「金曜日かぁ。その日は、ジルコン公爵様に呼ばれているの」

生徒会室で今後の対応を決めてから数日後、学園内のカフェで偶然会ったリリーが、シルヴィーの予定を聞いてきた。

ジルコン公爵の訪問を受けた後、リリーが以前、お礼を兼ねた本気の手合わせをしたい、と言ってきたが、生徒会で決めた事やロードライト家絡みの仕事の為、シルヴィーは冬の試験までかなりハードな日程が組まれている。

「そうですか」

項垂れるリリーも騎士団の仕事が忙しく、やっと取れた半日の休みらしい。

「ならば、リリー嬢もジルコン家に一緒にいらしたらいかがですか?」

主任教師となったベリルが、にこやかに話に加わった。

「えっと、私達は遊びに行くのではなく、本気の手合わせをするつもりなので……」

流石にジルコン家で、本気の手合わせをするのは無理だ。

「問題はないですよ。公爵自身、イーリスの所持者ですし、シルヴィー様の実力を知りたがっておりますから」
「ですが……」

リリーも気後れしているのか、モゴモゴと歯切れが悪い。

「それに、リリー嬢のお父上が公爵を深く尊敬している、と話したところ満足そうにしてましたから」

何故だろう、ベリルがリリーをジルコン公爵に会わせたがっている様に感じる。

「おや、シルヴィー嬢。丁度いい所に。君に聞きたいことがあるのだが、いいかな?」

突然、背後からジルコン公爵本人が声をかけてきた。

「ジルコン公爵様。聞きたい事ですか?」

突然の出現に驚いたが、椅子から立ち上がると、カーテシーをしようと制服のスカートを摘むシルヴィーの肩をポンッと叩いた。

「挨拶は大事だが、堅苦しいのは好かんよ」

社交会では偏屈で有名だけど、実際の本人はとても気さくな方。

「閣下。用事でしたら私が承りますのに」

ベリルが、呆れたようにジルコン公爵を見ている。

「そう言われても、思い付いたのがさっきだからな」

快活に笑う公爵様は、気さくな上フットワークも軽い様だ。

「ご用件はなんでしょうか?お答え出来れば良いのですが」

ジルコン公爵に座ってもらうと、目でウエイターにコーヒーを頼みながら、さり気なく話の続きを促した。

「シルヴィー嬢は剣の設えは、何処で揃えている?」

意外な質問にシルヴィーはちょっと首を傾げた。

「剣の設えですか。街の中心から少し離れた工房です。リーリウムと言う方が店主で、品揃えが良い所だと、当家の執事が話しております」

嬉しそうなシルヴィーの答えに、リリーがアワアワし始めた。

「リリー?あっ、紹介が遅れましたが、公爵様、彼女は第二騎士団所属の、リリーです」

シルヴィーから紹介されたリリーはさっ、と騎士の挨拶をして、ジルコン公爵に頭を下げた。

「ほう、その若さで第二騎士団所属とは、優秀だな。わしはユーリファス・ジルコンだ」

蜂蜜のような黄金の瞳が、優しくリリーを見ている。

「それで、さっき慌ててたけど、どうしたの?」

シルヴィーが不思議そうにリリーに声を掛けた。

「はい。先程お話になりました、リーリウムですが……。私の父親なんです」
「えっ!」
「ほぅ」

2人の目が丸くなる。

「御要りような物が有りますなら、明日にでも商品を揃え、公爵家に伺いますが……」
「いや、今行こう。わしのイーリスが不機嫌になって、難儀しているので」

フットワークが本当に軽い。
コーヒーを頼んだウエイターが困っている。
流石にベリルも、呆れたように肩を竦める。

「では、そのようにしましょう。私も午後の授業は無いので、護衛としてお供します。シルヴィー嬢、良いね?」
「私も午後の授業は無いので……」

授業は無いが、用事なら山の様にあるが、1人にしないで、と目で訴えるリリーを見捨てることは出来なかった。

公爵家の馬車でリリーの実家に向かった。
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