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気が付いたほのかな思い。

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いくつかの疑問の答えを求め、シルヴィーはダドリーの元に向かった。

「お帰りなさいませ、今日はシルヴィー様のお好きなチョレートケーキをご用意しました」

目当ての人物は特別棟の厨房に居た。
機嫌がいいのか悪いのか判らないが、ダドリーがお茶を用意していた。

お茶菓子だけで無く、シルヴィーが口にする物は、いつも厳選された最高の物がいつも用意されている。

「ダドリー、あのお花畑さんには……」

珍しくシルヴィーが言葉を濁す。

「あの阿婆擦れがどうかしましたか?」

一瞬にして、ダドリーの目が鋭くなる。
まだ何かに戸惑っているが、キュッと唇を噛んでから、真っ直ぐダドリーを見たシルヴィーの目が少し泣きそうだ。

「ダドリー、貴方はあのお花畑さんの事、好きなの?」
「えっ?」

どうしたらそんな結論が出てんだ?と、ダドリーは思ったが、シルヴィーの話を聞く方が先だ、と言わんばかりに作業の手を止め姿勢を正し、真っ直ぐシルヴィーを見詰めた。

「お花畑さんには、手作りのクッキーを渡しているんでしょ」

例え、爆発的に太る物でも、手作りの物を渡すなんて、好意がなければしない、とシルヴィーは思っていた。

それよりも、容姿が残念になれば狙う者が居なくなり、ダドリーの手を取る様になる、とさえ思っている。

ダドリーが、大きなため息でも吐きそうな顔でシルヴィーを見詰めた。

「……まず、誤解を招く行為をした事をお詫びします。あれは、昔の仲間に作らせた物で、私が作った物ではありません」

ダドリーのきっぱりした否定に、泣きそうだった目に少し光が戻ってきた。

「手作りじゃないのね」
「はい。私が手作りするは、シルヴィー様が口にする物だけです。むしろ、私が作った物以外、シルヴィー様に召し上がって欲しくありません」

ダドリーの要求に、光が戻ってきた目が、次第にオロオロし始める。

「えっと……、ダドリーはお花畑さんには何も作ってないの?」
「水一杯すら、与えた事などありません」
「もしかして……お茶の時のお菓子って……」
「シルヴィー様が召し上がる物は、全て私が作っております」

段々、シルヴィーの顔が赤くなって行く。

「ごめんなさい。凄く誤解していたみたい。いつも用意してくれるお菓子が、綺麗で美味しかったから、てっきり何処かで売っている物だと思ってたの」
「いえ、私も今迄、手作りだとお伝えしておりませんでしたので」

真っ赤になったシルヴィーは、何処か、恋する少女の様な、ふわふわした空気を醸し出している。

「では、誤解が解けた様なので、お茶をご用意しますね」
「……お願いします」

照れ臭いのか、バツが悪いのか、フラフラと厨房を後にする挙動不審なシルヴィーに笑みを向け、洗練された手付きでお茶を入れ始めた。
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