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剣を持たない騎士。

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「何か気になる事でも?」

馬車に戻ったシルヴィーにダドリーが声を掛けた。
ダドリーからは相変わらず甘い香りがする。

「ちょっとね。ダドリー、調べて欲しいことがあるの」
「喜んで」

シルヴィーはついさっき感じた違和感を話し、ダドリーに調べさせた。

たった数日でダドリーは、シルヴィーが満足する結果を調べ上げ、報告して来た。

「やはりね。手筈はどう?」
「既に整えております」
「ありがとう。後はタイミングが合えば問題はないようね」

静かに目を伏せてからニコッと笑うシルヴィーをダドリーは真っ直ぐ見詰めていた。

漸く、本格的に学園での生活が始まった。

実際は既に一月ほど前から始まってはいるが、シルヴィーは様々な問題に対応する為、ほぼ学園内に居ない日々であったので、必須教科さえ真面目に授業を受けていない。

それでも入学と同時に卒業認定を受けている為、何の問題もない。
本来なら出席日数も卒業には必要だが、其処も免除されているらしい。

高度魔法学の授業を受けてから、入学してからの不在を謝罪をする為、義姉であるナタリア・ガーネット先生の元を訪ねた。

「これだけ欠席すれば、普通なら教師に説教されてもおかしくないんですが」
「ロードライト伯爵令嬢は在学しているだけで価値がありますから」

ガーネット先生の言葉にシルヴィーは首を傾げた。

「居るだけで価値が?」
「はい。ロードライト伯爵令嬢は……」
「シルヴィーと呼んでください。ナタリア先生」
「そうですか。では、改めて。シルヴィー嬢は学園の生徒達の良き見本となります。努力すればシルヴィー嬢に匹敵する実力が付く、と」

誇張も嘘もない。実際シルヴィーは子供の頃から努力をしてきている。
付いた実力は規格外すぎるが、チートな裏技など欠片もない。

兄、ハロルドの婚約者となり、家族の1人としてシルヴィーを見てきたナタリアだからこそ、彼女のひたむきな努力を心から感心している。

「それに欠席した授業のレポート課題、感銘を受けました。緻密な組み立てに裏付けられた画期的なアイデア。他の教師達が挙って書き写してましたから」

欠席した授業の補填も兼ねて、レベル50の生徒でも発動できる魔法陣を提出していた。

「隠された物が見つかる、とか失くした物が出てくると色々楽でしょ」
「忘れ物が届く、ではないのがさらに良いです」

ナタリア先生がコロコロ笑った。

「おや、何の話ですか?」

騎士科の教師であるアーロン・ベリルが、楽しげに笑っている2人のところに来た。
太陽のような黄色い髪に同じ色の黄色の瞳をした、優しげな顔。一応ベリル子爵家の三男で貴族だが、継げる家の無い男子は騎士か教師になって独立することになっているようだ。

「ベリル先生。あっ、初回の授業、欠席して申し訳ありません」

シルヴィーが慌てて欠席の謝罪をすると、柔和な笑みで頷いた。

「大丈夫ですよ。自己紹介くらいでしたから」
ベリルは騎士科の教師であるが、腰に剣を帯刀していない。

「そうだ。ベリル先生もシルヴィー嬢が作った魔法陣を見ますか?」

ナタリアがシルヴィーが提出した魔法陣をベリルに見せる。

「見た事がない魔法陣ですね」
「こちらは、隠された物や無くした物が出てくるようになる魔法陣です」
「物が出てくるんですか?」
「いえ、厳密に言うと、それを見ていた者や隠した者へ作用する魔法陣です」

ベリルは目を丸くしてシルヴィーが言っている意味を理解しようと頭を働かせていたが、ナタリアは何度か頷いただけで、驚く事はなかった。

「ベリル先生、検証の為、先生に発動していただけると嬉しいです」
「検証?」
「本当に使えるかどうか試してないので」

ベリルが苦笑しながら魔法陣を手に取った。

「どうやって?」
「見つけたい物を思い浮かべながら、魔力を注ぎ込み、発動して下さい。早ければ1週間以内に見つけられる予定なんです」

シルヴィーがワクワクした顔で、ベリルを見ている。

「見つけたい物が壊されたり、国外にある時はどうなるんです?」
「うーん、それが次の課題ですかね?」
「ならば次の授業を欠席したら、壊された物を再生することが出来る魔法陣構築をレポートで出して下さいね」

考え込むシルヴィーを揶揄うようなナタリアの言葉に、ベリルは笑いながら魔法陣に手をかざした。

魔法陣が白い光を放ち、水面に広がる波紋のように光はゆったりと広がり、空気に溶けて行った。

「ベリル先生。来週の実技の授業では先生がパートナーになって下さいませんか?」
「僕が?」
「ベリル先生、かなりの使い手と見ました。生徒相手だと私、かなり手加減しなければならないので……」

シルヴィーはベリルの手を見ながらお願いをする。
剣だこで硬くなった手は、ベリルの実力を示す物。シルヴィーの剣の腕を考えれば、誤魔化しなど通用しない。
ベリルは自分の手のひらを見ながら頷いた。
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