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人の欲望の犠牲になった子供達。

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「尾鰭や鱗がぼろぼろ」
「異様ですね。こんな小さい魔獣にこれ程厳重に鎖を掛けるなんて。しかもこの鎖、魅了魔法のアイテムで作られてます」

いくら力の強い魔獣や精霊の暴走を抑えるためとはいえ、魅了魔法も服従魔法も本来なら禁忌の魔法に近い為、暴走を阻止する為にアイテムを使うが、人はこれらの魔法を習得する事を禁じられている。

アイテムも魔獣や精霊の暴走阻止にのみ使う事が許された物だと決められていた筈なのにそれを破る者は後をたたない。

人の欲望の犠牲となった息も絶え絶えの小さな魔獣。
金魚の姿をしているなら水の中に入れてあげた方がいい、と判断しシルヴィーは水を集め、金魚を包み込んだ。

「エリクサーで包んだ方が良かったかな?」

シルヴィーが呟けば、金魚を包む水が僅かに青くなった。

「すごい。体が軽くなったもん」

突然幼い声がして、シルヴィーとダドリーはお互いの顔を見合わせ、ついっと視線を下げた。

2人の視線の先には青い水に包まれて鎖をものともせず気持ち良さげに泳ぐ紺色の金魚。

「話せるようになったの?」
「なったもん。お姉ちゃん、ありがとうだもん」

どうやら金魚の口癖なのか、語尾にもん、が必ず付く。

「ならば教えて。君以外にも捕まっている子達は居る?」
「居るもん。皆んな、鎖に繋がれて苦しんでるもん」

シルヴィーの予想通り、多くの精霊や魔獣達が捕まっているようだ。

「助けなきゃ。皆んな何処にいるの?」
「地下の檻の中だもん」

ダドリーの目眩しの魔法のおかげで此方の姿は見えないが、真っ当な仕事をしているようには見えない男達が、喚きながら地下から出てくるのが見える。

「檻の開錠に魅了魔法と服従魔法の解除。ついでに反鏡魔法も追加して、弱っているだろうから回復魔法も出して……こんなものかな?」

シルヴィーが路地の地面に、複雑な魔法陣をいくつも描き始めた。

「お嬢様、発動は私にお任せ下さい」
「そうね。ダドリーの方が効率的に魔法陣を行き渡らせてくれそうだもの」

シルヴィーは立ち上がると、金魚の居る水球を手にして一歩下がった。
鎖の重さに少し泣きそうに眉を寄せたが、ゆっくりとダドリーに頷いた。

「発動」

ダドリーの耳に心地よい声が静かに響く。が、魔力の発動はとてつもなく強い。
路地という路地全てを青い光が走り抜け、かなり遠くまで拡がっている。

「相変わらず凄い」

回数は少ないが、シルヴィーは何度かダドリーが魔法を使うところを見ている。

「お褒めの言葉、有り難く承ります」

ニコッと笑うとさすが美形。軽く意識が飛びそうになる。

「良かったもん。これで怨霊にならないですむもん」

手の中から聞き捨てならない言葉に、シルヴィーとダドリーは顔を鎖が無くなった金魚に向けた。

「それ、詳しく教えてくれる?」
「良いよー、お姉ちゃんは命の恩人だもん」

紺色の金魚の名前はラピスで、ラピスが怨霊達から聞いた話だと、勇者や冒険者に魅了魔法や服従魔法にかけられたまま死んだ魔獣や精霊がその怨みから怨霊になるのだと言う。

「暴走を止めて交渉したら必ず解除するのが規則なのに」
「無理だもん。そいつら、弱いくせしてアイテムの力だけでオレ達を抑え込んでんだもん。解除したら殺されちゃうもん」

頭痛物の言葉に、2人は頭を抱えてしまいそうだった。

「やらなければならない事が増えたみたいね」
「まずは、逃げ出せた子供達の保護が先のようです」

ダドリーの言葉に開けっ放しの扉を見れば、逃げ出して来た魔獣や精霊の子供達がオロオロと彼方此方をみている。

「ラピス、皆んなを説得して。取り敢えず安全な場所まで連れて行きたいから」

目眩しの魔法を解けば、子供達は一斉にシルヴィー達を見た。

「大丈夫だもん。皆んな、お姉ちゃん達は良い人だもん」

ラピスの言葉に、おずおずと朱色の鳥のような子がシルヴィーを見上げる。
シルヴィーは頷き、その場に膝をつくとそっと手を伸ばした。
優しい笑顔に安心したのか、朱色の鳥の子は泣きながらシルヴィーの腕の中に飛び込んできた。

「良く頑張ったね。聖霊王様に手紙を出して迎えを呼んでもらうから安心して」

パサパサの羽根を撫で、話し掛ければ目に一杯の涙を溜め、頷いた。

「あたしクース。怖かったよぉ~」
「クースって言うのね。私はシルヴィー、彼はダドリーって言って、私の執事」

クースが名乗った事で他の子供達も安心したのか、ワラワラとシルヴィーの元に集まって来た。

「一旦、学園に戻って聖霊王様や魔獣王様に連絡を入れて迎えに来ていただきましょう」
「そうね。あと、そこら辺に転がっている悪い奴らはどうするの?」
「王都警備隊に引き渡します」

子供達の事を鎖に繋いでいた悪そうな奴らは、反鏡魔法の効果で、かなり太くて長い鎖に雁字搦めになっているから少しくらい目を離しても逃げられないだろう。
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