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 外門を一台の馬車が通りすぎる。門兵はそれを敬礼して見送っていた。二頭立ての、装飾がされた立派な馬車だ。横にはペルンデリア帝国の国章が描かれている。三本脚の竜を象った国章。
 御者台で馬を操っているのはカークウッドだ。
 馬車は巨大な館の前で止まる。ここは帝都の中心であり、帝国の中枢でもある王宮だ。
 カークウッドは御者台から降りると、小さな台を取り出して、馬車の入り口の下に置いた。そして扉を開くと中からオフィーリアが出てくる。

 普段着ているものよりも少し派手なドレスを身に纏い、亜麻色の髪は三つ編みにして王冠のように頭に巻いていた。傷跡は消えていなかったが、顔にもしっかりとした化粧が施されている。
 オフィーリアは差し出されたカークウッドの手を取り、馬車を降りた。その立ち振る舞いは優雅で堂々としている。

「皇女殿下。ようこそおいで下さいました」

 オフィーリアを出迎えたのは体格の良い、中年の男性だった。詰め襟のジャケットは紺色で、両肩にはシンプルなデザインの肩章がついている。男が着ているのは近衛騎士団の制服だ。腰には鞘に入った剣があった。
 騎士と言えば鎧を着込んだ重装兵だが、平時は制服を着て王宮の警護に当たっている。

「近衛騎士団団長のメイナード・フェランです」

 メイナードは垂らした右手のひらを見せてから、サッと左肩へ当てる。それと同時に右足を踏み鳴らした。近衛騎士団式の敬礼だ。

「あた……こちらこそ無理を言って申し訳ありません」

 「あたし」と言いかけて、オフィーリアは慌てたように言い直す。その横で控えていたカークウッドが軽くため息をついた。彼女はそれを横目で睨み付ける。

「先日捕らえた賊に会いたい……ということでしたね」

 メイナードを先頭に三人は館の中へと入って行く。

「ええ。衛兵に引き渡した後、こちらに送られたと聞いたので」
「賊は皇女殿下を狙ったとのことでしたので、近衛騎士団で預かることにしました」

 オフィーリアの問いにメイナードは歩きながら答える。
 三人は巨大な館の一階から、さらに地下へと入っていった。薄暗い石の通路の先に牢獄と尋問をするための部屋がある。
 尋問部屋の前にはメイナードと同じタイプの制服を着た男が一人、立っていた。

「皇女殿下をお連れした。入るぞ」
「はっ」

 扉を開けて三人が部屋へと入る。石造りの狭い部屋だった。壁に据えられたランタンが室内を照らしているが、明るさが十分とはいえない。明かり取りの窓もなく、室内にいるだけで圧迫感を感じてしまう。
 部屋の奥には男が一人座っていた。先日オフィーリアを襲った庭師だ。庭師は手足を縛られた状態だった。その横には大きな水瓶が置かれており、水が入っているのが見えた。

「知らない……俺は何も知らないんだ。本当だ」

 庭師はうな垂れた状態でぶつぶつ呟いている。声は掠れ、憔悴しきっているのがオフィーリアにも分かった。

「昨日も尋問を行ったのですがずっとこの調子でして。何も覚えていないと繰り返すのみなのです」
「話を聞いても?」
「それは構いませんが……では尋問官を連れてきましょう」
「いえ、尋問の方は私が」側で控えていたカークウッドが言った。「申し遅れました。私、オフィーリア様専属の執事をしております、カークウッド・マルロと申します」

 カークウッドは丁寧な態度で名乗る。それをメイナードは訝しげな表情で見ている。

「執事が……尋問を?」
「カークウッドは賊からあた……わたしを助けてくれたのです」オフィーリアが慌てて説明をする。「賊を取り押さえた手並みは鮮やかでした」

 メイナードはじっと執事を見つめている。カークウッドは表情を変えることなく黙って頭を下げた。

「……まあ、よろしいでしょう」

 そう言ってメイナードは道を空けた。カークウッドを通そうというのだ。

「あの……」オフィーリアがメイナードに向かって口を開く。「できれば席を外していただけないかしら?」
「それは私が邪魔……ということですか?」

 メイナードの視線が鋭いものへと変わる。カークウッドも皇女の言葉に驚いているようだった。

「そういう訳ではないのだけど、命を狙われた身としては隠しておきたい手札……というものもあるの」
 オフィーリアは挑むような視線でメイナードを見る。それに怯むことなくメイナードも彼女を見返す。しばし沈黙が続いた後、メイナードが折れた。

「分かりました。但し、私はすぐ外におります。それでよろしいですか?」
「十分よ、ありがとう」

 メイナードが尋問部屋を出て行く。扉越しに外の近衛騎士と何か話しているのが聞こえる。だが石壁は厚く、木の扉も厚みがあるためにその内容までは聞き取れない。メイナードが扉の向こうから動く気配がないのが分かるのみだ。
 それを確認するとカークウッドが口を開いた。
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