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第二部 獣人武闘祭
第379話
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開いた口が、ふさがらなかった。
魔王軍が使うような洗脳装置を用いて、そんなことをしているなんて。
「任期は一年。もちろん、一年たてば、人格は元に戻りますし、特別手当も支給されます。選抜されても、どうしてもいやだと言うなら、拒否も出来ますしね。なんといっても、我がレガリオは、人道的先進国家ですから」
パトリックは、誇らしげに胸を張る。
「このアミリも、成績不振かつ素行不良で退学となるところを選抜したので、喜んで引き受けてくれましたよ。それにしても、意識上書き装置は大したものです。貧民街出身のアミリが、完璧なテーブルマナーまで身につけたのですから」
私は、喫茶店での優雅なノエルの仕草を思い出した。
「アミリは、これまでのおともだちがかりのなかで、もっともタマラに好かれました。でも、本人は、奔放なタマラの相手をするのがストレスだったのでしょうねえ。次第に刷り込んだ人格にエラーが起こるようになり、一回戦の後、完全にフリーズしてしまいました」
「フリーズ……」
「それで、本国から新しいノエルを送ってもらうつもりだったのですが、少し考えて、やめました。アミリはタマラのお気に入りですからね、急ごしらえのおともだちがかりより、アミリに応急処置をして、大会終了まで使い続けるほうが良いと思ったのです。結局、上書きが完了する前に、タマラの優勝で大会は幕を閉じましたけどね」
ノエルを一瞬だけ見て、パトリックは話を続ける。
「さて、今はディーナさんがいるので、もう『おともだちがかり』は不要ですね。『新しいノエル』も必要ありません。この装置も、外してあげましょう。かわいそうですからね」
パトリックは、タマラの見ている前で、ノエル――いや、アミリにつけられた装置の端末を操作し、人格をアミリ本人のものに戻しているようだった。
そして、装置が外される。
私は、驚いた。
寝ている状態でも、ハッキリと分かる。
眉、瞼、耳、鼻、唇、輪郭。
すべてノエルと同じだが、顔立ちが全く違う。
なんだか、すごく意地が悪くて、キツそうな顔だ。
「凄いでしょう? 人格が顔に出るって、こういうことなんですね。これで、あと一日ゆっくり眠れば、完全にアミリとして、目を覚ますでしょう。ふふ、もっとも、ノエルのままでいた方が、この娘は多くの人に愛されたでしょうけどね」
私は、困惑していた。
ノエルという人間が実は存在していなかったこともそうだが、そんな事実を、タマラの前で堂々としゃべるパトリックが、不思議でならなかった。
魔王軍が使うような洗脳装置を用いて、そんなことをしているなんて。
「任期は一年。もちろん、一年たてば、人格は元に戻りますし、特別手当も支給されます。選抜されても、どうしてもいやだと言うなら、拒否も出来ますしね。なんといっても、我がレガリオは、人道的先進国家ですから」
パトリックは、誇らしげに胸を張る。
「このアミリも、成績不振かつ素行不良で退学となるところを選抜したので、喜んで引き受けてくれましたよ。それにしても、意識上書き装置は大したものです。貧民街出身のアミリが、完璧なテーブルマナーまで身につけたのですから」
私は、喫茶店での優雅なノエルの仕草を思い出した。
「アミリは、これまでのおともだちがかりのなかで、もっともタマラに好かれました。でも、本人は、奔放なタマラの相手をするのがストレスだったのでしょうねえ。次第に刷り込んだ人格にエラーが起こるようになり、一回戦の後、完全にフリーズしてしまいました」
「フリーズ……」
「それで、本国から新しいノエルを送ってもらうつもりだったのですが、少し考えて、やめました。アミリはタマラのお気に入りですからね、急ごしらえのおともだちがかりより、アミリに応急処置をして、大会終了まで使い続けるほうが良いと思ったのです。結局、上書きが完了する前に、タマラの優勝で大会は幕を閉じましたけどね」
ノエルを一瞬だけ見て、パトリックは話を続ける。
「さて、今はディーナさんがいるので、もう『おともだちがかり』は不要ですね。『新しいノエル』も必要ありません。この装置も、外してあげましょう。かわいそうですからね」
パトリックは、タマラの見ている前で、ノエル――いや、アミリにつけられた装置の端末を操作し、人格をアミリ本人のものに戻しているようだった。
そして、装置が外される。
私は、驚いた。
寝ている状態でも、ハッキリと分かる。
眉、瞼、耳、鼻、唇、輪郭。
すべてノエルと同じだが、顔立ちが全く違う。
なんだか、すごく意地が悪くて、キツそうな顔だ。
「凄いでしょう? 人格が顔に出るって、こういうことなんですね。これで、あと一日ゆっくり眠れば、完全にアミリとして、目を覚ますでしょう。ふふ、もっとも、ノエルのままでいた方が、この娘は多くの人に愛されたでしょうけどね」
私は、困惑していた。
ノエルという人間が実は存在していなかったこともそうだが、そんな事実を、タマラの前で堂々としゃべるパトリックが、不思議でならなかった。
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