二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ？

第二部 獣人武闘祭

第３４６話（ミャオ視点）

　勝った！

　プロレスのお姉さんが、片膝をついたのを見て、僕は、勝利を確信した。

　とどめニャ！

　苦しそうに俯く顔。
　その顎に、膝蹴りをぶち込む。

　これ以上ない、手ごたえ。
　プロレスのお姉さんは、僕に向かって倒れてくる。

　やったニャ！
　勝ったニャ！

　まっちゃん！
　ネルロちゃん！
　せんせぇ！

　僕が勝ったニャ！

　ぞくりとした。

　気を失っているはずのプロレスのお姉さんの瞳が、こっちを見ていたからだ。僕に寄りかかるような膝立ちの姿勢で、まともに立つこともできないのに、お姉さんの瞳からは、まだ闘志が消えていなかった。

　お姉さんは、寄りかかった僕の体をよじ登るようにして、体重をかけてくる。相当なダメージを受けているはずなのに、凄い力だ。僕は『どすん』という音と共に、リングに押し倒された。

　ぐえっ。
　苦しい。

　大きな体で、上に伸し掛かられたからじゃない。

　喉。
　喉に、お姉さんの腕が、押し当てられている。

　あっ、あっ、あっ。

　これ。
　なんていったっけ。

　まずい。
　まずいニャ。

　お姉さんはフラフラで、腕には１００％の力がこもってるわけじゃないけど、それでも体格差がある。簡単には押しのけれられない。

　うっ。
　ぐっ。
　がっ。

　息ができない。

　まずい。

　負ける。
　負ける。

　負けたくない。

　僕は、渾身の力で、お姉さんの腕を押しのける。

　押しのける。
　押しのける。

　お姉さんの腕が、少し浮いた。

　やった。

　もう少しニャ。

　頑張るニャ。

　負けてたまるかニャ。

　ここまで頑張ったのニャ。

　負けてたまるかニャ。

　ここまで頑張ったのニャ。

　負け



※※※※※【実況席】※※※※※



「あかんな。ゴリラのねーさんの太い腕とマットで、完全に首を挟まれとる。まるで、ギロチンみたいにな。これで、しまいや」

　シルヴァさんが言うと同時に、リング外から「勝負あり！」という声が轟いた。

「ミャオ選手の膝蹴りがその前に当たって、完全に終わったと思いましたが……」

「まあ、くーちゃんは素人やさかい、わからんでもしゃーないか。インパクトの瞬間、ゴリラのねーさん、顎の下に手のひらを挟んで、なんとか首の皮一枚でガードしたんや。それでも凄い衝撃やったやろけどな。実際、一瞬意識飛んだと思うで」

「それで、そのままミャオ選手に寄りかかったと」

「せや、あの時点で猫ちゃんがもう一発決めといたら、勝敗は逆やったやろな」