295 / 389
第二部 獣人武闘祭
第295話
しおりを挟む
きっと、ミャオにお別れを言いに来たのだろう。戦いを終えた選手同士、そして友達同士として、二人でじっくり話をさせてあげた方がいい。私は、席を外すことにした。
「それじゃ、私、ちょっと出てくるから。話が終わったら、ゆっくりと体を休めるのよ」
「わかりましたニャ」
私は、ネルロに小さく会釈をして、部屋を出た。少し行くと、通路を塞ぐような巨漢、ゴヘイに出会った。ミャオが彼の娘であるネルロを倒した手前、少し気まずかったが、挨拶をする。
「おはようございます、ゴヘイさん」
「やあ、ディーナさん! 昨日は良い試合でしたな!」
相変わらず、快活な人だ。全身から陽光のような気が溢れている。
ほんの少しでも気まずいなどと考えた自分が、馬鹿のように思えてくる。
「ええ、本当に。それにしても、ネルロさんがあんなに強いなんて、思いませんでした。本格的に格闘技をやったら、どこまで強くなるのか、想像もつきませんよ」
お世辞ではない。正直な思いだった。
彼女の体格と身体能力、そして、物理攻撃をほとんど無効にしてしまう特性は、格闘技において、これ以上ないアドバンテージである。何のトレーニングもしていなくてあれなのだ。一年かそこら、何かの武道に真剣に打ち込めば、あっという間にチャンピオンになってしまうのではないだろうか。
しかしゴヘイは、左右に首を振った。
「あの子は、もともと人と争うことが嫌いな子ですからな! きっと、これ以上格闘技をやることはないでしょう! 何か、特別な目的があって出場したと、言っていましたから! ガハハ!」
「特別な目的?」
「どうやら、優勝賞金の一千万ゴールドで、『何か』したかったようなのですが、その『何か』を父であるこのワシにも話してくれんのですわ! いやまったく、寂しい限りですな! ガハハ!」
豪快なゴヘイの瞳が、ほんの少し寂しそうに陰った気がした。
言うまでもなく、一千万ゴールドは大金だ。土地だって買える。家だって買える。一般常識で考えるなら、少女が手にするには、あまりにも大きな金額である。
ミャオと同年代であるネルロが、そんな大金を使ってまでしたいこととはなんなのだろうか。私はちらりと、今出てきたばかりの部屋を振り返った。
「それじゃ、私、ちょっと出てくるから。話が終わったら、ゆっくりと体を休めるのよ」
「わかりましたニャ」
私は、ネルロに小さく会釈をして、部屋を出た。少し行くと、通路を塞ぐような巨漢、ゴヘイに出会った。ミャオが彼の娘であるネルロを倒した手前、少し気まずかったが、挨拶をする。
「おはようございます、ゴヘイさん」
「やあ、ディーナさん! 昨日は良い試合でしたな!」
相変わらず、快活な人だ。全身から陽光のような気が溢れている。
ほんの少しでも気まずいなどと考えた自分が、馬鹿のように思えてくる。
「ええ、本当に。それにしても、ネルロさんがあんなに強いなんて、思いませんでした。本格的に格闘技をやったら、どこまで強くなるのか、想像もつきませんよ」
お世辞ではない。正直な思いだった。
彼女の体格と身体能力、そして、物理攻撃をほとんど無効にしてしまう特性は、格闘技において、これ以上ないアドバンテージである。何のトレーニングもしていなくてあれなのだ。一年かそこら、何かの武道に真剣に打ち込めば、あっという間にチャンピオンになってしまうのではないだろうか。
しかしゴヘイは、左右に首を振った。
「あの子は、もともと人と争うことが嫌いな子ですからな! きっと、これ以上格闘技をやることはないでしょう! 何か、特別な目的があって出場したと、言っていましたから! ガハハ!」
「特別な目的?」
「どうやら、優勝賞金の一千万ゴールドで、『何か』したかったようなのですが、その『何か』を父であるこのワシにも話してくれんのですわ! いやまったく、寂しい限りですな! ガハハ!」
豪快なゴヘイの瞳が、ほんの少し寂しそうに陰った気がした。
言うまでもなく、一千万ゴールドは大金だ。土地だって買える。家だって買える。一般常識で考えるなら、少女が手にするには、あまりにも大きな金額である。
ミャオと同年代であるネルロが、そんな大金を使ってまでしたいこととはなんなのだろうか。私はちらりと、今出てきたばかりの部屋を振り返った。
0
お気に入りに追加
3,160
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。
TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ
桜井正宗
ファンタジー
帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。
ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる