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第二部 獣人武闘祭

第295話

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 きっと、ミャオにお別れを言いに来たのだろう。戦いを終えた選手同士、そして友達同士として、二人でじっくり話をさせてあげた方がいい。私は、席を外すことにした。

「それじゃ、私、ちょっと出てくるから。話が終わったら、ゆっくりと体を休めるのよ」

「わかりましたニャ」

 私は、ネルロに小さく会釈をして、部屋を出た。少し行くと、通路を塞ぐような巨漢、ゴヘイに出会った。ミャオが彼の娘であるネルロを倒した手前、少し気まずかったが、挨拶をする。

「おはようございます、ゴヘイさん」

「やあ、ディーナさん! 昨日は良い試合でしたな!」

 相変わらず、快活な人だ。全身から陽光のような気が溢れている。
 ほんの少しでも気まずいなどと考えた自分が、馬鹿のように思えてくる。

「ええ、本当に。それにしても、ネルロさんがあんなに強いなんて、思いませんでした。本格的に格闘技をやったら、どこまで強くなるのか、想像もつきませんよ」

 お世辞ではない。正直な思いだった。

 彼女の体格と身体能力、そして、物理攻撃をほとんど無効にしてしまう特性は、格闘技において、これ以上ないアドバンテージである。何のトレーニングもしていなくてあれなのだ。一年かそこら、何かの武道に真剣に打ち込めば、あっという間にチャンピオンになってしまうのではないだろうか。

 しかしゴヘイは、左右に首を振った。

「あの子は、もともと人と争うことが嫌いな子ですからな! きっと、これ以上格闘技をやることはないでしょう! 何か、特別な目的があって出場したと、言っていましたから! ガハハ!」

「特別な目的?」

「どうやら、優勝賞金の一千万ゴールドで、『何か』したかったようなのですが、その『何か』を父であるこのワシにも話してくれんのですわ! いやまったく、寂しい限りですな! ガハハ!」

 豪快なゴヘイの瞳が、ほんの少し寂しそうに陰った気がした。

 言うまでもなく、一千万ゴールドは大金だ。土地だって買える。家だって買える。一般常識で考えるなら、少女が手にするには、あまりにも大きな金額である。

 ミャオと同年代であるネルロが、そんな大金を使ってまでしたいこととはなんなのだろうか。私はちらりと、今出てきたばかりの部屋を振り返った。
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