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第二部 獣人武闘祭
第279話
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再選考会があった体育館は、まさしく町のはずれだったので、全力で走ったのに、宿の前に戻った頃には5時を回っていた。
真っ赤な夕日が、私の背中をじんじんとつき刺す。
私は、宿の門をくぐった。
玄関にいた宿の主人に会釈すると、自室に向かう。
気が、重かった。
怒られても仕方ないと覚悟したものの、やはり、ミャオに蔑まれるのは辛かった。
いや、ここまで来て、何を情けないことを言っているのか。
私は、自室の戸を開けた。
ミャオは、窓際のソファに座り、夕日を眺めていた。
こちらに、顔を向ける。
夕日が眩しくて、その表情は伺い知ることができない。
私は、乾いた喉を唾で潤し、言った。
「た、ただいま……」
わずかの沈黙の後、ミャオが口を開く。
「おかえりなさいニャ」
その一言で、自分の心がこんなに安心するなんて、夢にも思っていなかった。
ミャオの声には、怒りも軽蔑も含まれていなかった。
まるで、大きな罪を許されたような気分だ。
「あの、入ってもいい……?」
私は、ドアだけ開けて、いまだに部屋の外にいたので、ミャオのご機嫌を伺うように、問いかけた。
ミャオは、頷いた。
私は、いそいそと部屋に入ると、後ろ手でドアを閉める。
それから私は、頭を下げた。
「ミャオ、今日は本当にごめんなさい。試合前の、大事な時だっていうのに……」
私の言葉を、ミャオが遮った。
「先生が謝ることなんて、何もないニャ」
えっ。
意外な、言葉だった。
私は、なんと反応すればいいか分からず、ミャオの次の言葉を待つ。
「ネルロちゃんに言われたニャ。僕は甘えすぎだって。ゆっくり、一人になってその言葉の意味を考えてみたニャ。確かに、その通りニャ。僕は優しい先生に、ずっと甘えていたのニャ」
ネルロって、あのぬめぬめのネルロのこと? 彼女が、そんなことを言うなんて。というより、彼女とミャオが話をするなんて、いったい何があったのだろう。
ミャオは、話し続けた。
「僕、嬉しかったニャ。お父上様がいなくなった後、ずっと一人だった僕と、先生が一緒にいてくれて。なんだか、新しい家族ができたみたいで、本当に、嬉しかったニャ……」
「ミャオ……」
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再選考会があった体育館は、まさしく町のはずれだったので、全力で走ったのに、宿の前に戻った頃には5時を回っていた。
真っ赤な夕日が、私の背中をじんじんとつき刺す。
私は、宿の門をくぐった。
玄関にいた宿の主人に会釈すると、自室に向かう。
気が、重かった。
怒られても仕方ないと覚悟したものの、やはり、ミャオに蔑まれるのは辛かった。
いや、ここまで来て、何を情けないことを言っているのか。
私は、自室の戸を開けた。
ミャオは、窓際のソファに座り、夕日を眺めていた。
こちらに、顔を向ける。
夕日が眩しくて、その表情は伺い知ることができない。
私は、乾いた喉を唾で潤し、言った。
「た、ただいま……」
わずかの沈黙の後、ミャオが口を開く。
「おかえりなさいニャ」
その一言で、自分の心がこんなに安心するなんて、夢にも思っていなかった。
ミャオの声には、怒りも軽蔑も含まれていなかった。
まるで、大きな罪を許されたような気分だ。
「あの、入ってもいい……?」
私は、ドアだけ開けて、いまだに部屋の外にいたので、ミャオのご機嫌を伺うように、問いかけた。
ミャオは、頷いた。
私は、いそいそと部屋に入ると、後ろ手でドアを閉める。
それから私は、頭を下げた。
「ミャオ、今日は本当にごめんなさい。試合前の、大事な時だっていうのに……」
私の言葉を、ミャオが遮った。
「先生が謝ることなんて、何もないニャ」
えっ。
意外な、言葉だった。
私は、なんと反応すればいいか分からず、ミャオの次の言葉を待つ。
「ネルロちゃんに言われたニャ。僕は甘えすぎだって。ゆっくり、一人になってその言葉の意味を考えてみたニャ。確かに、その通りニャ。僕は優しい先生に、ずっと甘えていたのニャ」
ネルロって、あのぬめぬめのネルロのこと? 彼女が、そんなことを言うなんて。というより、彼女とミャオが話をするなんて、いったい何があったのだろう。
ミャオは、話し続けた。
「僕、嬉しかったニャ。お父上様がいなくなった後、ずっと一人だった僕と、先生が一緒にいてくれて。なんだか、新しい家族ができたみたいで、本当に、嬉しかったニャ……」
「ミャオ……」
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