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第二部 獣人武闘祭

第223話(マリエールの追憶)

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 おじさまの道場に住み込んで修行するようになってから、半年が経ちました。

 わたくしは、意を決して、久方ぶりにカリクラ家へ帰りました。

 父も母も、もうわたくしのことなどに関心はないでしょうが、それでも、今どこで何をしているかくらいは伝えるのが、娘の義務だと思ったのです。

 驚いたことに、カリクラ邸は、荒れ果てていました。

 わたくしが家を出て数ヶ月後、労働者たちの大暴動があったそうです。

 それを皮切りに、世界中で労働者の権利を守ろうとする運動がおこり、カリクラ家は悪しき搾取者の象徴として、裁判にかけられました。そして、獣人労働者たちへの賠償金として、ほぼすべての財産を没収されたのです。残ったのは、虚栄の象徴のような大きな家と、天まで積みあがるほどの悪名だけ。

 父と母は、寝室で首をつっていました。
 急激な凋落に、精神が耐えられなかったのでしょうか。

 二人の遺体を見上げるようにして座り込んでいる弟に、わたくしは声を掛けました。その喉には、ナイフが突き刺さっていました。未来に絶望し、自分で果てたのでしょうか。

 わたくしを疎んだ父、母、弟。一時は、わたくしも彼らを恨みましたが、こうも無残な最期を遂げては、哀れでなりませんでした。

 ただその一方で、なるべくして、こうなった、とも思いました。

 カリクラ家が人々に対して働いた、悪しき『業』が、より大きな『業』となって返ってきたのです。カリクラ家の一員であるこのわたくしも、その『業』からは逃れられないでしょう。いずれ、『罰』が下るに違いありません。

 ただ、父、母、弟と共に、わたくしが死ななかったということは、きっとまだ、しなければならないことがあるということなのでしょう。『罰』が訪れるその時までは、精いっぱい、人として正しく生きなければいけません。

 わたくしは、家族の遺体を弔うと、大邸宅を売却し、その資金を元手に、労働問題専門の法律事務所を設立しました。父の事業を継ぐための勉強をしていた時、法務についてもかなり学びましたから、弁護士資格を取るのにさほど苦労はしませんでした。

 カリクラ家の生き残りが作った事務所ということで、世間様からの評判はすこぶる悪かったのですが、わたくしはどう蔑まれても、真剣に、誠意をもって、仕事に取り組みました。
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