223 / 389
第二部 獣人武闘祭
第223話(マリエールの追憶)
しおりを挟む
おじさまの道場に住み込んで修行するようになってから、半年が経ちました。
わたくしは、意を決して、久方ぶりにカリクラ家へ帰りました。
父も母も、もうわたくしのことなどに関心はないでしょうが、それでも、今どこで何をしているかくらいは伝えるのが、娘の義務だと思ったのです。
驚いたことに、カリクラ邸は、荒れ果てていました。
わたくしが家を出て数ヶ月後、労働者たちの大暴動があったそうです。
それを皮切りに、世界中で労働者の権利を守ろうとする運動がおこり、カリクラ家は悪しき搾取者の象徴として、裁判にかけられました。そして、獣人労働者たちへの賠償金として、ほぼすべての財産を没収されたのです。残ったのは、虚栄の象徴のような大きな家と、天まで積みあがるほどの悪名だけ。
父と母は、寝室で首をつっていました。
急激な凋落に、精神が耐えられなかったのでしょうか。
二人の遺体を見上げるようにして座り込んでいる弟に、わたくしは声を掛けました。その喉には、ナイフが突き刺さっていました。未来に絶望し、自分で果てたのでしょうか。
わたくしを疎んだ父、母、弟。一時は、わたくしも彼らを恨みましたが、こうも無残な最期を遂げては、哀れでなりませんでした。
ただその一方で、なるべくして、こうなった、とも思いました。
カリクラ家が人々に対して働いた、悪しき『業』が、より大きな『業』となって返ってきたのです。カリクラ家の一員であるこのわたくしも、その『業』からは逃れられないでしょう。いずれ、『罰』が下るに違いありません。
ただ、父、母、弟と共に、わたくしが死ななかったということは、きっとまだ、しなければならないことがあるということなのでしょう。『罰』が訪れるその時までは、精いっぱい、人として正しく生きなければいけません。
わたくしは、家族の遺体を弔うと、大邸宅を売却し、その資金を元手に、労働問題専門の法律事務所を設立しました。父の事業を継ぐための勉強をしていた時、法務についてもかなり学びましたから、弁護士資格を取るのにさほど苦労はしませんでした。
カリクラ家の生き残りが作った事務所ということで、世間様からの評判はすこぶる悪かったのですが、わたくしはどう蔑まれても、真剣に、誠意をもって、仕事に取り組みました。
わたくしは、意を決して、久方ぶりにカリクラ家へ帰りました。
父も母も、もうわたくしのことなどに関心はないでしょうが、それでも、今どこで何をしているかくらいは伝えるのが、娘の義務だと思ったのです。
驚いたことに、カリクラ邸は、荒れ果てていました。
わたくしが家を出て数ヶ月後、労働者たちの大暴動があったそうです。
それを皮切りに、世界中で労働者の権利を守ろうとする運動がおこり、カリクラ家は悪しき搾取者の象徴として、裁判にかけられました。そして、獣人労働者たちへの賠償金として、ほぼすべての財産を没収されたのです。残ったのは、虚栄の象徴のような大きな家と、天まで積みあがるほどの悪名だけ。
父と母は、寝室で首をつっていました。
急激な凋落に、精神が耐えられなかったのでしょうか。
二人の遺体を見上げるようにして座り込んでいる弟に、わたくしは声を掛けました。その喉には、ナイフが突き刺さっていました。未来に絶望し、自分で果てたのでしょうか。
わたくしを疎んだ父、母、弟。一時は、わたくしも彼らを恨みましたが、こうも無残な最期を遂げては、哀れでなりませんでした。
ただその一方で、なるべくして、こうなった、とも思いました。
カリクラ家が人々に対して働いた、悪しき『業』が、より大きな『業』となって返ってきたのです。カリクラ家の一員であるこのわたくしも、その『業』からは逃れられないでしょう。いずれ、『罰』が下るに違いありません。
ただ、父、母、弟と共に、わたくしが死ななかったということは、きっとまだ、しなければならないことがあるということなのでしょう。『罰』が訪れるその時までは、精いっぱい、人として正しく生きなければいけません。
わたくしは、家族の遺体を弔うと、大邸宅を売却し、その資金を元手に、労働問題専門の法律事務所を設立しました。父の事業を継ぐための勉強をしていた時、法務についてもかなり学びましたから、弁護士資格を取るのにさほど苦労はしませんでした。
カリクラ家の生き残りが作った事務所ということで、世間様からの評判はすこぶる悪かったのですが、わたくしはどう蔑まれても、真剣に、誠意をもって、仕事に取り組みました。
1
お気に入りに追加
3,160
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。
TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。
無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ
桜井正宗
ファンタジー
帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。
ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる