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第二部 獣人武闘祭

第214話(マリエールの追憶)

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 いつものことです。

 覚悟はしていたので、ため息も涙も出ません。
 わたくしはある意味、あきらめの境地に達していました。

 それに、おじさまの道場の門下生たちは、わたくしの存在を快く思ってはいなくても、決してつまはじきにしたりすることはなく、一緒に稽古をしてくれました。これまで、どこに行っても、嫌がらせをされたり、激しく罵られてきたわたくしにとっては、十分すぎるほどの、友好的対応でした。

 わたくしは、すべてを忘れるように、ネコカラテの修行に没頭しました。

 家には帰らず、連絡もしませんでした。
 何もかも、忘れたかったのです。

 おじさまの指導は厳しく、まさに『嫌なことを考える暇もないくらい』という言葉通りでした。わたくしは朝早くから夜遅くまで、生活のすべてをネコカラテに捧げました。

 何も考えず、何も憂えず、ひたすらに、目の前のサンドバッグを叩きました。サンドバッグというものは、思った以上に硬いもので、最初のうちは拳の皮膚がよくめくれましたが、今まで感じてきた心の痛みに比べれば、どうということはありませんでした。

 日々、無心で一つのことに励み、自分の成長を実感する喜びは、何ものにも代えがたく、わたくしは、ここ数年で最も充実した時を過ごしました。

 いつしか、わたくしの拳は頑強になり、サンドバッグを叩いても、皮膚がめくれなくなりました。滝のように汗を流して鍛え上げた足運びで、踊るがごとく、攻撃をかわすことができるようにもなりました。

 その頃、門下生たちのわたくしに対する態度に、変化が生じました。

「お前、凄いな。今のステップ、魔法みたいだ。俺にも教えてくれよ」

 初めにそう声をかけてくれたのは、わたくしより一つ年上の男の子です。
 その瞳には、真っすぐなほどの敬意と思慕の情が浮かんでいました。

 これまで、心にもないお世辞と、その裏に籠った悪意のみが蠢く目ばかり見てきたわたくしが、初めて受ける、純粋な好意の眼差しでした。なんだか恥ずかしくて、困ってしまって、わたくしは助け船を求めるように、おじさまの方を見ます。

 おじさまは、大きな口を開けて、笑いました。

「なっ、だから言っただろう? ちゃんとやってる奴を、こいつらは馬鹿にしないって。お前の技と努力が、認められたんだ。出自も名前も世間の評判も関係ねえ。真面目にやって、力をつけりゃ、それを見てくれる奴ってのは、必ずいるものよ」

 わたくしは、涙を流しました。
 最初におじさまと出会ったときの、悲しみの涙ではなく、喜びの涙を。

 道場の門下生たちと、本当の仲間になり、身も心も満ち足りた、幸福な日々を過ごしました。自分の居場所、そして、自分を認めてくれる仲間がいることで、カリクラ家に抱いていた憎悪が、なんだか抜け落ちていくような気分でした。
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